靴フェティシズム(くつフェティシズム)とは、靴および特定の靴を履いた対象に対して——とくに男性が女性の靴を対象として——著しい性的興奮をおぼえるフェティシズムの一種である。対象となる靴の種類としては、ハイヒール、ブーツ、スニーカー、サンダルなど多種多様である。略称として靴フェチとも呼ばれる。脚フェティシズムやブーツフェティシズムと隣り合うが、興奮の中心が足そのものではなく靴にある点が違う。
靴が性の対象になるとき
純粋に靴に性的興奮を覚える場合、フェティシズムに分類される。靴が性的な対象とされるので、本来異性に向けられるべき恋愛感情が、靴に向けられる。従って、通常の異性との性行為よりも、靴による自慰行為のほうがより興奮をすることが多い。靴フェティシズムを持つ者はほとんどの場合、恋人が居る場合でも理想の靴を追い求める。また、性的フェティシズムは固着した性衝動であるため、自身で抑制することが困難である。相手の足より、相手が脱いだあとの靴の形や臭いのほうが先に来る、という逆転が起きる。脚フェチが素足や靴下の線を追うのに対し、靴フェチは皮革、靴底、中の空間を追う。
典型的な行為
純粋な靴フェティシズムの場合、自慰行為とともに次のような行動をとることが多い。靴を手に取り観察する。靴を舐める、キスする、先端などを口内に含む。靴の内部の臭い(脂肪酸系の臭いや汗など)を嗅ぐ。靴を用いて自らの性器を刺激する。靴の外部や内部に射精する。見る、嗅ぐ、舐める、擦る、出す、が一つの対象に集約される。
具体的なシチュエーションとしては、彼女が寝静まったときに独り玄関にて彼女のブーツの臭いを嗅ぐ、友人や彼女を家に招いて玄関で靴を並べるふりをして臭いを嗅ぐ、ボウリング場など靴を履き替える必要のある施設を好む、彼女を酩酊させて土足のまま室内に上がらせる、学校の下駄箱などで友人などの靴を履いたりにおいを嗅いだりする、といったものが考えられる。靴フェティシズムの者はその事実を第三者に隠す傾向があるため、独りで行動することが多い。玄関と下駄箱は、他人の靴が無防備に並ぶ場所である。
興奮の分かれ方
同じ靴フェティシズムの者でも、好みはさまざまである。特定の銘柄、デザイン、素材の靴にのみ興奮する者もいれば、特定の汚れ方、臭いの靴にのみ興奮する者もいる。右または左、特定の方向の靴にのみ反応する例、中敷きの足型や穴、靴裏に反応する例もある。靴下や生足には興奮しない、という人もいる。蒸れて脱いだり履いたりする「靴遊び」をされたあとの靴、靴を虐待すること、新品の靴にのみ興奮すること、踵を潰して履いている靴、穴の開いた靴、靴裏に付着したゴミやほこり、土足厳禁の家屋内を土足で歩くこと、人形や玩具、植物などを靴で踏むこと、水に濡れたり水たまりの中を歩いたりすること、足袋や草履など和装の靴、汚れた靴底によってつけられた靴跡——対象は「女性のハイヒール」一種類には収まらない。
同性の靴
まれに男性が男性の靴に、女性が女性の靴に性的興奮を覚える場合がある。スニーカー、ブーツ、ハイヒールなど一般的な靴が多いが、男性同士の場合はトレッキングシューズやスパイクシューズ、ビジネスシューズといった特徴的な靴が好まれることがある。これらの靴を着用したうえで靴フェティシストの同性を踏むという行為も行なわれる。中には虐待される受け身行為そのものに興奮するため、ブーツやスパイクシューズで踏まれることを希望することもある。踏まれる側は苦痛に耐えるのが精一杯で、性的興奮を覚える余裕など無いこともある。この場合はサディズム、マゾヒズムの傾向が強く、靴はより苦痛を増すための小道具となる場合も少なくない。また同性の場合、自分が「かっこいい(イケメン)」と思う人の履いている靴や、スポーツマンが履いている靴にも興奮する場合がある。
窃盗と呼び止め
靴フェチそのものは趣味だが、他人の靴を盗む、無断で嗅ぐ行為は事件になる。二〇〇六年一月、東京都西東京市の文華女子高校で女子生徒の上履き七十七足が盗難された。同年十月、大阪府四條畷市の市立小学校で、二十四歳の警察官の男が五年生男児の上履き一足を窃盗した。同年十一月、愛知県の自営業の二十八歳の男が、倉庫に上履き約五千足を貯めていた。二〇〇七年八月、茨城県日立市の無職の三十五歳の男が、中学・高等学校計二十八校に進入し、女子生徒の上履きを約五十足窃盗した。同年十月、群馬県太田市の携帯電話販売店で、アルバイトの二十九歳の男が女性店員の靴十七足を窃盗した。二〇二一年四月、愛知県名古屋市中区の大須観音駅付近で、「パンプス調査員」を名乗る男性が撮影と称して呼び止めた通行人の足のにおいをかぐ、という事案があった。
ハイヒール、ピンヒール、ブーツ、スニーカー、上履き、スパイクシューズは、いずれも靴フェチの対象になりうる隣接項である。新品の箱入りを眺める興奮と、履き潰した中敷きの足型を嗅ぐ興奮は、同じ「靴フェチ」でも対象が違う。前者は商品としての形、後者は他人の足が残した痕跡である。靴を共有するプレイは、持ち主の同意と、盗まないこと、公共の下駄箱に手を出さないことが前提になる。下駄箱の上履きを集める行為はフェティシズムの延長ではなく、住居侵入と窃盗の側に落ちる。











