本文へ移動Skip to content跳到正文跳到正文
日本と世界のBDSM映像アーカイブThe BDSM video archive — Japan & beyond日本与全球 BDSM 影像资料库日本與全球 BDSM 影像資料庫
ブログBlog博客部落格

家畜人ヤプー:沼正三と奇譚クラブのSM帝国

『家畜人ヤプー』(かちくじんヤプー)は、1956年から『奇譚クラブ』に連載され、その後断続的に多誌へ発表された沼正三の長編SF・SM小説である。マゾヒズム、汚物愛好、人体改造を含むグロテスクな描写を抱えたまま、三島由紀夫、澁澤龍彦、寺山修司といった文学者が話題にし、右翼の出版妨害まで起こした。白人女性を神とし、旧日本人を「ヤプー」という知性ある家畜に落とす女権帝国——日本SM小説の極北として、いまも引用される。白人女性アンナ・テラスを天照大神とする記述が抗議の対象になったといわれ、都市出版社の単行本では右翼団体が出版妨害を行い、1名逮捕・2名指名手配という事件にまで発展した。

『奇譚クラブ』1956年12月号から1958年4月号までの連載は打ち切りで、物語は完結しなかった。都市出版(1970年)は全28章。角川文庫(1972年)も全28章。角川限定愛蔵版(1984年)は全31章。ミリオン出版(1991年)は第29〜49章。太田出版(1992年)が全49章を上・中・下でまとめ、幻冬舎アウトロー文庫はその内容を5巻に分冊した。28章までとそれ以降では文体や内容に差が多く、途中で執筆者が交代したとの説がある。Cパートのみは作者が分かっており、現在公式に沼正三を名乗る天野哲夫の手による。太田出版版は全体を天野が再構成したことが知られている。

三日で崩れる婚約

婚約中のカップル、日本人青年留学生の瀬部麟一郎とドイツ人女性クララは、ドイツの山中で、未来帝国EHS人ポーリーンが乗ったタイムマシンの墜落に巻き込まれ、未来帝国EHS(The Empire of Hundred Suns、百太陽帝国)へといざなわれる。白人女性で元貴族のクララは同胞として迎えられる。麟一郎は水浴中に裸で飛び出したためヤプーと誤認され、毒の牙で全身麻痺する。治療の名目でEHSへ向かい、皮膚強化や完全去勢などの改造を受け、クララの家畜に仕立てられる。ジャンセン家の別荘に着くころには、クララは麟一郎をヤプーとして拒み、恋心をウィリアムへ移していた。恋人としての仲は完全に破綻したが、麟一郎はクララを救いの女神として心の支えにする。地球を発ってからその間、わずか3日であった。苦痛と葛藤の末に自ら「無条件降伏」し、元の体に戻り地球へ帰るより、ヤプーとして仕えることを望む境地に至る。

EHSという差別の帝国

EHSは、白色人種の「人間」を頂点とし、白人に隷属する黒色人種の半人間「黒奴」と、旧日本人の家畜「ヤプー」の三色で構成される。日本人以外の黄色人種は核兵器と細菌兵器でほぼ絶滅している。「女権革命」以降、女が男を支配し、帝位は女系、男性は私有財産を持つことすら禁止される。SEXでも騎乗位が正常位とされる。ヤプーは品種改良と肉体改造を受け、肉便器「セッチン」などの生体家具、畜人馬、食用、愛玩として飼育される。白人女性の出産も子宮畜が代行する。日本民族がもともとアンナ・テラスにより日本列島に放たれたヤプーの末裔であること、日本神話を家畜人世界の物語として読み替える。

EHSは「便所の無い世界」とされる。人間の糞尿はすべてヤプーの肉便器セッチンに飲ませ食べさせる。人前での排便は「鼻をかむ」程度の軽い無作法である。人間の糞は錠剤・注射剤に加工されてヤプー用万能薬「ミクソ」になり、尿は黒奴酒(ネグタル)になる。宴席では満腹まで美食したあと反吐盆(ヤプー)に嘔吐して胃を空にし、吐瀉物は「ヘード」として黒奴の食用に払い下げられる。アンナ・テラスは前地球都督でEHS一の美女、天照大神の正体という設定。ヤプー宗教の根幹「慈畜主義」を提唱する。ポーリーンの妹ドリスは、麟一郎の妹を現代日本から誘拐して交配する計画を立てる——計画がある、とだけ記す。

漫画は石森章太郎監修・シュガー佐藤作画の劇画が都市出版社(1971年)から始まり、江川達也版は幻冬舎で途中打ち切り、2016年から三条友美『家畜人ヤプーREBOOT』が連載。舞台は月蝕歌劇団が2000年、2005年、2010年と三度上演した。映画化は何度も頓挫している。中島貞夫は康芳夫から原作権を200万円で取得し東映の岡田茂に持ち込んだが、右翼攻撃を恐れ「あかん」と言われた。長谷川和彦の監督第3作としても準備が進んだが、2009年に頓挫したと本人が述べている。小説としては読み継がれ、劇画と舞台にはなったが、映像の帝国はついに建たなかった。読むなら太田出版/幻冬舎の全49章を底本にしつつ、初期28章と天野再構成の差を頭に置いておくのが安全である。

BDSM → BDSM作品 → BDSM小説