『悦楽の学園』(えつらくのがくえん)は、シーズウェアが製作したパソコン向け18禁美少女アドベンチャー、およびそれを原作とした小説である。略称は悦学。キャッチコピーは「欲望渦巻く、甘く危険な美少女たち」。1994年、PC-9801VM以降向けに出たのが初出。閉鎖された名門女子校へ潜入した諜報員が、失踪と人身売買と媚薬の裏側を暴く話で、アダルトシーンにはBDSMとレズビアンが多い。薬物依存と少女の斡旋がテーマに据えられており、単なる学園ものではない。
機種展開とコマンド総当たり
内容を原作のまま完全移植したPC-9821/FM TOWNS版(TOWNS版)、新たに音声を足してCD-ROMに収めたWindows 95版(Win95版)、そのWin95版をDVD-ROMに収めたEVE同梱版、音声を外したWin95版のダウンロード販売版(Win95DL版)が後から出た。約1年半後の1995年、『EVE burst error』で高い評価を得る剣乃ゆきひろ(当時)が手掛けた自身2作目にあたり、世界観が共通することから「EVEシリーズの静かなる序章」とも呼ばれる。EVE側への引き継ぎ——松乃や氷室の後年、再登場する『EVE rebirth terror』での同一人物扱い、声優が非公開でEVE本編とは別人だったこと——は、悦学そのものの筋よりシリーズ年表の注釈に近い。ここでは本編の学園と結末を先に置く。
進行はコマンド総当たり方式である。基本3〜4種類の選択肢を手当たり次第に読み進め、新しい文章や会話が出たら職員室へ戻って「考える」を実行する、といった手順で大抵のフラグは立つ。場所名がほぼ曲名になっているBGM(職員室、保健室など)が、会話のない背景シーンで流れる。メディアミックスとして夏井瑶子による小説化もあるが、設定も結末もゲームとは別物に近い。
JESと雨宮学園、催淫剤
舞台は私立雨宮学園。名門で男子禁制の花園だが、女子生徒の謎の失踪が相次いでいた。日本教育監視機構、通称JES(Japan Educational Superintendence-organization)は、閉鎖的な学校で起きる事件の早期解決のために発足した政府直属の諜報機関である。教育機関の被疑者は大抵未成年で、警察の介入が難しい。その問題を解くために専従捜査員を送り、教育委員会および警察と事件にあたる。エージェント佐久間裕一は、表向きは単なる家出とされていた真相を探るため、連絡が途絶えた同僚の女性捜査員の代わりとして、生物学の教諭を装い学園へ潜入する。
学園は郊外の丘陵地の広大な敷地に立つ中高一貫の私立名門女子校。制服は白いシャツ、赤系ネクタイ、紺系ブレザーとプリーツスカート。進学・就職率はトップクラスで、「厳粛と清澄」「すべてに高いグレードを」をモットーにする。ドーム屋根の屋外温水プールや複数の体育館(劇中は第1のみ)を持つ。裏の顔は、女生徒を「コンパニオン」と称して政財界の実力者へ「プレゼント」(斡旋)する、人身売買ともいえる闇業者の一つだった。エピローグではJESにも利用者がいたことが判明し、身内の腐敗と氷山の一角を匂わせる。
飯島静香が最高傑作と自負する催淫剤は、錠剤なら1粒、液体なら5立方センチで女性を狂わす快楽作用がある。男性には頭痛の副作用があり、連続投与はできない。裕一によれば麻薬や覚醒剤とは似て非なるもので、その方面からの摘発はできないと断念していた。JESが成分を99パーセント解析してからは解毒剤が開発される。静香や淑子にとっては、人並みの幸せで老いていくだけの将来に不満があった女生徒が自ら溺れただけで、しがらみから解放するためのきっかけに過ぎない、という主張だった。
佐久間裕一とJESの面々
佐久間裕一は主人公でJESのエージェント。生物学教諭を装って潜入する。推定24歳。捜査員らしからぬおっちょこちょいで失言が多く、松乃広美に一目ぼれしてからは会うたびに「いいなぁ、あれ」と呟き、淑子にスリーサイズを唐突に尋ねたりする。淫らな妄想に耽って我に返ることも多い。罠にはまり催淫剤を服用させられ静香と肉体関係を持ち、続けざまに淑子、陽子、小百合とも事に及んで術中に落ちる。典子、早由利、松乃の助言、由美、氷室、恵の協力で最終的に事件を解決する。結末を見届けたあと、松乃から正式に交際を申し込む内容と思しき手紙を渡され、次の任務へ向かう。設定上は丸レンズの伊達眼鏡と白衣。オールバックではない素顔が設定資料集で確認できる。
氷室恭子は高等科3年8組の女生徒として登場する。ポニーテール(エピローグでは赤いリボンを解いたロング)で、裕一曰く「可愛いというより冷たい美人で、17歳でも25歳でも納得できる」。正体は裕一より前から潜入していたJESエージェントで、2つ年上の推定26歳。裕一を囮とする上司の指示どおりに動いていたが、単独かつ秘密にしていたことが仇となり一時囚われ、静香の拷問でSMプレイを強要され、通常の10倍の媚薬による発狂を迫られる。松乃から真相を聞いた裕一に助けられる(傍観していなければもっと早く助けられたと知り、鼻血が出るほどのパンチを見舞いながら謝罪させた)。その後はコンビを組んで淑子を追い詰めるが、小百合の銃弾を浴びて負傷、一命はとりとめ、新たな任務のため恵と共に去る。
佐々木恵は裕一赴任前にいた教諭、推定24歳。正体は前任のJESエージェントで、連絡途絶により裕一が後任になる。すでに淑子らの罠で薬漬けの性奴隷にされており、一度は裕一を裏切るが、最終的には身を呈して助け、体調も戻り氷室と和解してスポーツカーで次の任務へ向かう。由美はJESの秘書兼連絡員。裕一とは恋人未満セックスフレンド以上の関係で、薬の分析結果を届けに来たさい、道路脇の車へ誘い情事に及ぶ。部長は二人の上司。美人で知られ、裕一は以前から深い関係になりたい下心があり、松乃と愛しあったあとも未練が残っていた。エピローグでは休暇をとり彼氏と婚前旅行に出掛けたらしい。
ヒロイン松乃と理事長母娘
松乃広美はヒロインで高等科2年、推定17歳。清楚で淑やかだが会話術に優れ自己主張もする。裕一はすぐに打ち解け一目ぼれする。水泳部で、身体つきはスポーティ。好きな場所は屋上。読書は嫌いではないが絵は下手。恵の失踪に深く関わっていた。淑子と静香の密談を盗み聞きしたところを小百合に見つかり、脅されて3回の売春を強要されたあと、恵を薬漬けにする計画を手伝わされた罪悪感から誰にも相談できなくなる。以降は陽子によるボンデージ責めや暴力のいじめを受けていた被害者だった。悩んだ末に心を許せる裕一と肉体関係になり、真相を話す決意を固めるが、小百合たちに囚われピアッシングなどの過酷なSMプレイを強要される。それでも裕一を助け、事件解決に導く。
雨宮淑子は第8代理事長で小百合の母親。一連の事件の黒幕。すべてを知った裕一を殺すよう小百合に射殺を命じるが、誤射で額を撃ち抜かれて死ぬ。雨宮小百合は高等科3年、淑子の娘。新体操部部長で生徒会長。おかっぱ(姫カット)、部活時は後ろ髪をシニヨン。陽子と行動を共にし、屋上での行為を盗み見た裕一は、指示していたことから小百合をS寄りだと思っていた。他人の行為で興奮する質で、海外留学時の性体験で仕込まれた肛虐を好み、母親とも前戯に及んでいた。示し合わせたかのように裕一の情事の現場に現れ、それをネタに陽子と自分との肉体関係を強要し、理事長のみならず実の娘にまで手を出したと責めて支配下に置こうとする。従順だったはずの松乃の機転で拘束を解かれた裕一は、典子から教えられていたマゾヒズムの本質を自覚させるため容赦のない平手打ちで反撃する。上下が逆転し、されるがまま処女喪失の相手ともなったことで心情が変わり、裕一に異性としての愛情を抱くようになる。真相が知られ淑子が追い詰められると、コルト・ガバメントM1911A1を持って現れ、母の射殺命令を拒否して裕一を助け仲間になるよう氷室を撃ってまで懇願する。最終的には淑子を誤って銃殺し、陽子ともども女子少年院へ送致される。松乃と共にボックスアートのイメージキャラで、デザインのやさまたしやみがお気に入り(とくにレオタード姿)と答えたキャラでもある。
静香、陽子、早由利、典子
飯島静香は、推定100センチにも達しそうな豊満なバストとグラマーな肢体の養護教諭。催淫剤の作り手であり、氷室へのSM拷問と大量投与を行う側でもある。河野陽子は屋上で小百合とペッティングに耽っていた高等科3年。茶髪のバンチェス、新体操部。具合が悪そうなところを保健室へ運ばれるが、戸棚の錠剤を貪り飲んでいたそれが催淫剤だと後に判明する。小百合から「裕一としなさい」と言われれば躊躇わず身体を任せる主従関係にあり、最終的には小百合ともども刑罰を受ける。松乃へのボンデージといじめの実行役でもあった。
水上早由利は高等科1年。裕一曰く「ボーイッシュで胸の大きな眼鏡っ娘」で、自分を「ボク」と呼ぶショートカット。自分の名を嫌っている。服装が男物なら少年と間違える中性的な雰囲気だが、身体つきは歳不相応にグラマーで推定90センチの巨乳がアンバランス。初対面から裕一に激しい敵意を向け、松乃との接触を止めるよう忠告する。理由は先輩・松乃に好意を抱くレズビアンだったためで、告白するも断られる。屋上で裕一と松乃が結ばれたことを知ると、夜の屋上でナイフを持ち別れを迫る。しかし二人のときの松乃の笑顔が答えだと自覚してもおり、愛情は倒錯して無理矢理裕一との情事に及ぶ。初めての男性ともなった裕一が優しく徹したことで気持ちは変わり、異性として好意を持てた彼に、松乃の力になってあげてと告げて送り出す。
振間典子は高等科1年3組、体育館でバレー部。裕一にとってはブルマーを連想させる少女。見た目どおり幼く無邪気で、平仮名にこだわり、自分を「のりこちゃん」、裕一を「せんせー」と呼ばせる。先輩の小百合たちが用具室の裏で淫らな行為をしていたことは分かっていたが、波風を立てまいと見て見ぬ振りをしていた。性欲はそれなりにあり、同級生にバカにされるのを嫌って初体験は済ませている。次の相手として裕一を気に入り、小百合に弱みを握られていたことをネタに迫り、見返りとして肉体関係を持つ。このとき教えた小百合の情報が、のちに裕一の大きな助けとなる。設定資料集付録の描き下ろしポスターのキャラにも選ばれている。Win95版では脇役含むほぼ全員に声が付いたが、配役は非公開で、後発のダウンロード版では音声が排除されている。
小説版と関連商品
夏井瑶子『メガ・ヴィーナスノベルズ 悦楽の学園』(コアマガジン、1995年10月20日、ISBN 4-87734-028-9)は、スローガンこそ「今、初めて明かされる 学園内の秘密の情事」だが、ゲームとは似て非なる別作品である。長野県中部の高原にある創立100年超のキリスト教主義全寮制女子校(生徒約1200人、独身教諭も含む)に書き換えられ、制服は青系ダブルブレザー、赤系蝶結びリボン、マゼンタ系タータンスカート。この表紙イラストがのちにWin95版のカバーアートに転用された。礼拝堂と屋内プールがあり、僧衣の修道女も通う。
裕一は化学の教諭、25歳、血液型B。囚われの身にもならず、淑子・小百合とは一線を越えない。小百合を改心させるきっかけは理事長室での1対1の尻叩き説教になる。肉体関係の流れは由美、オリジナルのシスター・クリスティナ(22歳)、典子、静香、陽子、松乃、早由利。保健室での陽子シーンは削除され、由美との情事は新宿の高層ビルが見える部屋の冒頭が足されている。氷室は2年生扱いで髪は赤、裕一からは「スケ番」と呼ばれ、殴るシーンも撃たれるシーンもない。恵は25歳で裏切らず薬漬けにもならず、性奴隷として送られた家々の男をいなして証拠を掴み、最後に合流する。典子は3年・水泳部で愛称のりピー、夜のプールで肉体関係を持ったあと淑子にナイフで刺殺される。
淑子は39歳、学園のオールドガールでT女子大英学部卒、代議士の夫とは別居中。21歳頃に見知らぬ男からの望まぬ結果と、敬虔なクリスチャンだった父の強制で松乃の母となった過去があり、男性不信のあと溺愛する小百合の貞操を守るため肛虐癖を仕込み、夜な夜な学長・岩藤剛三(54歳のマゾ)を調教していた。保身のための少女売買で典子を殺すが、最終的には逮捕される。松乃は17または18歳の3年で、淑子が望んでいなかった子、小百合の異父姉。叔母の家で育ち11歳頃に叔父に凌辱され、何人もの家に贈られて弄ばれた過去がある。自身すら呪い、雨宮の血族もろとも地獄へ送るべくスキャンダラスな存在をネタに母を脅し、少女売買を主導していた黒幕で、裕一の説得を断り「ありがとう」と言い遺して拳銃自殺する。小百合は2年で異父妹、折檻を受けたあと母を説得し「やり直させて」と逃亡の見逃しを懇願するのが最後で、事後は語られない。オリジナルとして風紀担当の老女教諭・佐藤、学長岩藤、シスターのクリスティナ、静香の夜の相手である数学教諭・佐々倉がいる。死亡者と結末がまったく違うため、事実上の続篇である『EVE burst error』との接点も消える。
関連商品は『禁断の血族/悦楽の学園 設定資料集 ―OFFICIAL ART BOOK―』(コンパス、1994年10月1日、ISBN 4-906407-23-4)と、上記小説。BDSMとレズと人身売買を、閉鎖学園のコマンド探しに埋め込んだ1994年の一本として、悦学はEVEの注釈である前に、まずこの筋で読むべき作品である。












