SMクラブは、サドやマゾのSM嬢がSMサービスを提供する性風俗店である。客として想定されているのは主に男性だ。責める側は一般に女王様と呼ばれるサディスト役。受ける側はM嬢、M女性、M子などと呼ばれるマゾヒスト役。イメージクラブやファッションヘルスが「ごっこの空気」を売るのに対し、こちらは緊縛と打撃と羞恥を商品にする。性的ロールプレイの店として、カウンセリングからプレイが始まる。ピンクサロンやファッションヘルスが擬似的な性交を売るのに対し、SMクラブが売るのは縄と鞭と羞恥の時間である。
カウンセリングとNG
大多数の店では、プレイの前に客が店舗ないしSM嬢へ、希望するプレイと希望しないプレイ(NG)を伝える。口頭のカウンセリング、インタビュー、書面のいずれか、あるいはその組み合わせだ。プレイ時間は60分以上が基本で、準備・本番・後片付けを入れると数時間以上になることもある。基本メニューには、緊縛、鞭、低温ローソク、アナル責め、言葉責め、スパンキング、顔面騎乗、浣腸、手枷・足枷・ピンクローター・アナルバイブ・ペニスバンドなどのセックストイ、聖水、手コキ、足コキが並ぶ。いわゆる真性マゾヒストは、同意の形成過程を放棄してSM嬢に一任する。その場合、時間以外は嬢の裁量になる。希望とNGを先に渡す客と、すべてを女王に預ける客。どちらも店のカウンセリングの延長にある。プレイが60分で終わらず、準備と後片付けを入れて数時間になるのは、道具の着脱と緊縛の時間が本体だからだ。
風適法と店舗型の消滅
日本では一般に、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風適法)に定める無店舗型性風俗特殊営業の形態の一つに当たる。2005年の風適法改正で、プレイ用の設備と空間を店内に備えた店舗型性風俗特殊営業としてのSMクラブは、事実上消滅した。プレイ部屋を店内に置く形態が、店舗型の規制に引っかかったためだ。いま残っている商業の場は、出張や無店舗の枠で動く側が中心になる。法律上の箱は変わっても、女王様とM嬢とカウンセリングという中身は、同じ料金表の上にある。
商業コミュニティと主従
ジェンダーおよびサドマゾヒズムを専門とする福岡女子大学の河原梓水は、商業的なBDSMコミュニティであるSMクラブの興隆が、1970年以降にプライベートのBDSMコミュニティを衰退させる一因だったと指摘している。河原はまた、サディスト役の女王様とマゾヒストである顧客の関係が、取引関係であると同時に、BDSMの文脈における主従関係にもなりうると報告している。金を払って責められる客と、金を受け取って支配する女王。店の外の合意プレイとは別の、料金表の上の主従である。河原の論考「現代日本のSMクラブにおける「暴力的」な実践」(『臨床哲学ニューズレター』3、2021年)は、完全奴隷プレイをその具体例として扱っている。1970年代以降、私的なサークルより店の女王様の方が先に見えるようになった、という指摘は、日本のBDSMが商業のSMクラブを通じて広がった経緯と重なる。2005年改正で店舗型が消え、無店舗と出張へ移ったあとも、カウンセリング、NG、60分以上、真性マゾの一任という型は残っている。女王と客の主従は、料金を払ったあとに成立する。











