『白い肌に狂う鞭』(しろいはだにくるうむち、原題 La frusta e il corpo)は、1963年制作のイタリア=フランス合作ホラー映画である。監督はマリオ・バーヴァだが、クレジットは「ジョン・M・オールド」名義で出ている。海辺の伯爵家へ勘当された長男が戻り、弟の若い妻を鞭で折る。BDSM映画として見るなら、館の幽霊譚や殺人の謎より、白い肌に走る鞭の跡と、殺されたあとも夢のなかで続くその残像が本題だ。1960年代イタリア・ゴシックのなかでも、SMの鞭打ちを画面の中心に据えた一本として残る。
勘当された長男と、弟の妻ネヴェンカ
舞台は19世紀ヨーロッパの某国。メンリフ伯爵の一族が暮らす海辺の城館へ、ある日突然、一族の長男クルトが帰ってくる。放蕩癖と残虐な振舞いが原因で勘当されていた男なので、当然だれからも歓迎されない。唯一人、弟のクリスティアーノだけが彼に同情的だった。クルトはクリスティアーノの若くて美しい妻ネヴェンカに惹かれる。そしてある日、ついに彼女を襲い、鞭打つなど残忍な仕打ちを行った。弟の妻を打つという構図は、血統の内部でサドの欲望が破裂する話でもある。
その翌日、クルトは何者かに殺害される。だがネヴェンカはそれ以来、毎日のようにクルトの悪夢に悩まされるようになる。やがて一族に更なる惨劇が起きる。バーヴァはゴシック館の型を使いながら、鞭と白い肌の接触を画面の核に置いている。合意なき暴力の残響が、死んだ男の夢として戻ってくる。ジョン・M・オールドという偽名は、当時のイタリアホラーが監督の本名より残酷な絵面を売っていた事情を示している。原題 La frusta e il corpo は文字どおり「鞭と肉体」であり、邦題の白い肌は、その肉体を画面でどう見せるかを先に宣言している。
キャストと、鞭を握るクリストファー・リー
ネヴェンカをダリア・ラヴィ、クルトをクリストファー・リーが演じる。リーが鞭を握り、ラヴィの白い肌を打つ配役が、この作品をSM映画の棚に置く最大の理由である。クリスティアーノはトニー・ケンドール。カーチャはイズリ・オベロン、ジョルジアはハリエット・ホワイト。メンリフ伯爵はグスタヴォ・デ・ナルド、ロサートはルチアーノ・ピゴッツィ。伯爵家の血統、弟の妻、勘当された長男——役の配置そのものが、館のなかの権力と欲望を示している。リーのクルトは、歓迎されない帰還者であると同時に、鞭を持つ責め手として記憶される。
制作背景は Roberto Curti『Italian Gothic Horror Films, 1957-1969』(McFarland、2015年、ISBN 1476619891)がまとめている。1957年から1969年までのイタリア・ゴシックを通覧する本のなかに、この鞭の一本が収まっている。館と血統と鞭、殺された男が夢で戻ってくる構図は、いまのSM映像が繰り返す「傷が消えない」主題の先触れとして読める。1963年のイタリア=フランス合作として、ホラーの衣を着た鞭打ち映画の位置にある。










