BDSMの一覧は、支配と服従、ロールプレイ、拘束、対人関係の力学を含む性的実践の地図である。当事者がBDSMだと名乗らずにやっている行為まで含めれば範囲は広い。コミュニティとサブカルチャーは、たいてい自認と共有された体験に依っている。関心の深さは、一度きりの体験からライフスタイルまで幅がある。以下は百科の索引ではなく、縄・役割・責具・用語を読むための棚である。載っているのは、現場で名前が呼ばれてきた実践と道具に限る。新しい項目を足さない。すでに呼ばれている名前を、部位と役割と場所で並べ直す。
ボンデージ——縛るものと、縛る場所
道具別では、緊縛、亀甲縛り、海老責、駿河問い、メタル・ボンデージ、手錠、バキュームベッドがある。和の縄と、金属と、真空の袋。身体部位別では、自縛、頭部のフェイスクラッチと鼻フック、首の首輪とさらし台、腕では手首の手錠、アームバインダー、さらし台、肘拘束。上半身は乳房縛りと拘束衣。下半身は股縄。頭、首、腕、胸、股。縛る場所が名前を決める。そのほかプリディカメント・ボンデージ、ポゼッションプレイ、マミフィケーション。縄と金属と真空が、動けなさの種類を分ける。自分で縛るか、家具にされるか、全身を巻かれるか。
ディシプリンとD/sのシナリオ
ディシプリン(BDSM)は躾と懲罰の側。ドミナンス・アンド・サブミッションはD&s、D/sとも書く。シナリオ別には、医療系プレイ、エイジプレイ(成人同士の赤ちゃんプレイ。アダルトベビー/ダイアパーラバー=ABDLも参照)、エッジプレイ、拡張プレイ、恐怖プレイ、逆レイプ、強姦プレイ、催眠フェティシズム、射精管理、羞恥プレイ、女性化、性欲喚起のための性的拒否、剃毛プレイ、寝取られ/寝取らせ、女斗美(女相撲などキャットファイトの嗜好)、引き回し、放置プレイ、ポゼッションプレイ(人間家具。パートナーを無生物の道具として扱う=性的対象化)、露出プレイ、CFNM(着衣の女と裸の男)、CMNF(着衣の男と裸の女)。病院、羞恥、家具、服の格差。場面の名前が、力の掛け方を示す。行為としてはイラマチオ、顔面騎乗、失禁、ルインドオーガズム。ロールは女性上位と男性上位。誰が上に立つかが、同じ行為の読みを変える。
サドマゾとロールプレイ
サドマゾヒズムの棚には、ロールプレイ——特定の役割を演じる——がある。エイジプレイは年齢差のある役割を成人が演じるもの。オークションプレイ。ヒューマン・アニマル・ロールプレイは、パートナーを人間以外として扱う総称で、ペットプレイ、ポゼッションプレイ、ポニープレイ、人間便器が並ぶ。動物、家具、便器。人間以外として扱う度合いが、ロールの名前を分ける。ボンデージとろうそくプレイもここに入る。縄と蝋は、役割の衣装と同じ棚に置かれることが多い。
責めの部位と器具
頭部では鼻責め、異端者のフォーク。尻・肛門では浣腸、スパンキング、ケイニング、膣鏡。胸部はニップルクランプと乳首ピアス。生殖器は亀頭責め、金玉潰し、コック・アンド・ボール・トーチャー(CBT)、電気あんま、木馬責め。そのほか石抱、ウィッピング、くすぐり責め、呼吸管理(制御)、窒息プレイ、吊り責め、パドリング、筆責め、水責め、鞭打ち。
衣服・装身具ではギャグ(口枷)の一群がある。開口具、猿轡、テープギャグ、バルーンギャグ、ペニスギャグ(ペッカーギャグ)、ビットギャグ(棒状。ポニープレイなど)、ファンネルギャグ(開口部が上を向いた漏斗)、ボールギャグ、マズルギャグ、OTM(Over-the-Mouth)ギャグ——バンダナなどで口の上から塞ぐもので、猿轡とは違う。ボンデージ・ハーネス、ペニスバンド、コック・ハーネス(コックリーシュ)、ヘッド・ハーネス。そのほか性器ピアス、貞操帯、ポスチャー・カラー(首、あるいは口も覆う拘束具)、異端者のフォーク。
拘束器具としては拘束台、三角木馬、全身拘束、ケツ掘りブランコ、バキュームベッド、磔、マミフィケーション。台に固定するか、馬に跨がせるか、全身を巻くか、真空に入れるか。動けなさの形が器具の名前になる。道具の鞭は一本鞭、ラバー鞭、編み上げ鞭、騎馬鞭、鞭(べん)。材質と長さで打撃が変わる。縄、性具、ハンブラー、ファッキングマシーン、ペニスバンドが続く。手で打つか、機械で突くか、バンドで置き換えるか。
フェティシズムと用語、場所
性的倒錯の棚には性的サディズム障害とサディズム。フェティシズムは部分性愛として胸、脚、尻。クロージング・フェティシズムとしておむつ、靴、制服、全身タイツ、ドレス、パンティストッキング、ブーツ、ラバー、レザー。スクビズム、変身願望、セルヴェリズム(奴隷願望)、幼児化倒錯、女装倒錯、畜化願望、物化願望。
用語の核はボンデージ、ディシプリン、サドマゾヒズム。役割はボトム、トップ、スイッチ、ドミナンス(Dom)、サブミッシブ(Sub)、マスター/スレイブ、フェムドム、ミストレス(ドミナトリクス、あるいはドミナ)。やる側、やられる側、両方できる側。女が責める側に立つときの名前が、フェムドムとミストレスだ。職業は緊縛師、ボンデージ・モデル、SM嬢、M男優。合意形成は交渉、契約、安全・健全・合意に基づく(SSC)、シーン、セーフワード、セッション、プレイ、リミット。関係性としての24/7。終わらせる言葉と、越えない線を、先に決める。場所はイメージクラブ、ダンジョン、SMクラブ、SMバー、M性感。店の種類が、軽い視線から本格調教までの温度を分ける。概念としてはフェティッシュ・アートと Damsel in distress(囚われの姫君)。
名前が残っている人たち
科学者ではリヒャルト・フォン・クラフト=エビング、アルフレッド・キンゼイ。画家・芸術家・漫画家では伊藤晴雨、笠間しろう、沙村広明、月岡芳年、田亀源五郎、春川ナミオ、ジョン・ウィリー、エリック・スタントン、ジーン・ビルブリュー、ロバート・メイプルソープ。文筆家では江戸川乱歩、谷崎潤一郎、団鬼六、沼正三、ドミニク・オーリー(ポーリーヌ・レアージュの本名)、マルキ・ド・サド、リチャード・フランシス・バートン、ジョン・ノーマン、レーオポルト・フォン・ザッハー=マゾッホ。モデル・俳優では谷ナオミ、ベティ・ペイジ、ディタ・フォン・ティース。緊縛師では明智伝鬼、神凪、小室芹奈、志摩紫光、Hajime Kinoko(別名義:一 鬼のこ)、芙羽忍、神浦匠、龍崎飛鳥。メディアの一般名詞としてはカストリ雑誌と実話誌。戦後日本のSM文化を辿るなら、SMペディアが周縁部まで扱っている。索引ではなく地図として読めば、縄と役割と責具は同じ部屋の家具である。











