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隷獣 · 第1部

隷獣 第1部 (1/7)
次の話

「郁美モノローグ版」の刊行にあたって

はじめに

山ガールにあこがれて

豹変した男

全裸の山行

浣腸登山

友の裏切り

しごき

苦悶の小屋

吊し打ち

ケモノ狂い

初めての絶頂

帰宅

揺れる気持ち

究極の選択

棒狂い

虫のエサ

虫取り改造

隷獣改造

熱いうちに打て

改造

使役されるケモノ

川床のエサ

穴の具合

ネズミ

串刺し

餌食

隷獣の素質

喉の調教

懲罰

湯治場

お披露目

帰る場所

インターミッション

キノコ狩り

ケモノの悦楽

獅子鼻

悪魔の乳首

ケモノの完成

終わりに

奥付

「郁美モノローグ版」の刊行にあたって

本書は、ブログ「荒縄工房」に掲載された「隷獣」を再編集したものです。もっとも大きな違いは、郁美による独白(モノローグ)となっている点です。

また、ブログでは掲載していない誕生日パーティー以降についても触れています。

本作品はすべてフィクションであり、実在する人物・地名・団体とは一切関係ありません。また、特定の個人、団体、宗教、人種、性別などを誹謗中傷する意図はありません。

あんぷらぐど

SM雑誌に「仲ゆうじ」名でSM小説を執筆して作家活動をスタート。その後、作家活動は休止し、編集の仕事に携わる。ネットでは「ふにゃふにゃ」「あんぷらぐど」名でSM小説を執筆。独自の自虐的SM、一人称による告白形式の作品、伝奇SM小説などを発表し続けている。東京在住。

はじめに

それに出会ったのは、二〇一〇年五月だった。ある山を登ったところ、山頂から望む深い森林に興味を持ち、地形図とコンパスを頼りに、通常の下山ルートを大きく外れて、獣道を下っていった。地形図では水源があり、そこから川が流れて麓の町に向かっていた。

またバス停のある峠にも近い。

等高線から見ても、それほど険しいわけでもなく、無謀なことだとは思えなかった。どれだけ迷っても、川沿いに下れば町に出るはずだから。

それでもやはり、日光をもさえぎる深い森の中で迷ってしまった。川を探して谷間を歩くうちに、見捨てられた古い温泉を見つけた。無人の小屋があり、河原に湯が出ていた。地元だけで知られている隠し湯のようだ。

そこに、郁

美

がいた。

鬼

丘

と名乗る男と一緒だった。

私は事情を知りたいと思った。鬼丘は積極的で「話を聞いてやってくれ」と言う。

「録音して、声を家族に届けてほしい」と。

私はその小屋に一泊して、携帯電話の録音機能を使い、約十時間、郁美の話を聞いた。

本書はそれに基づいて書き起こしたものである。読みやすい表現、必要な補足説明など、最小限、私が手を入れていることをお断りしておく。

山ガールにあこがれて

郁美と申します。二十一歳です。

そもそものことからお話します。

私は身長が百七十八センチで、大学生の頃は体重も八十キロほどありました。

学生の頃から身長が伸びはじめ、スポーツに誘われることが多くなりましたが、なにをやっても不器用でうまくいかず、「どんくさい」と罵られていました。

その頃、人気のあった女性芸人のネタから連想されて、「シロサイ」と呼ばれていました。

肌がきめ細かくて真っ白なのと、ブタ以上の迫力があったからでしょう。

でも、私だって女の子なのです。女の子らしい日常が欲しいだけでした。

大柄ですが、内面は夢見がちな少女のままでした。運動は苦手で、人と競うこともキライ。比較されることも好きではありません。

ただ外観と内面のギャップに悩んでいたのです。

大学に入っても見た目のコンプレックスがあって、うまく溶け込めずにいましたが、有希恵さんと出会ってから変わりました。

「ねえ、山に行こうよ」

彼女は大学でも目立つ美しい人で、裕福な家庭に育っているようでした。流行になっていた「山ガール」をやろうというのです。

「私たち、成人したんだから、その記念に、どう?」

二十一歳になった記念に、誘われるままに八人ぐらいで高尾山へ行きました。

学園以来、一番、楽しい出来事でした。

それから私は毎週、有希恵さんや一緒に高尾山へ行った仲間たちと、山へ行くようになりました。

これまでダイエットに何度も失敗していましたが、歩くことは苦ではなく自分に向いていました。

「もう、シロサイとは言わせない。せめて、動物なら白馬と呼ばれたいな」

そんな気持ちになっていました。

山へ行くようになって、十キロほどの減量に成功していました。体重は七十キロで、標準的な体重にかなり近くなっていました。

このままいけば、夢のようなプロポーションに近づけるかもしれません。

猫背が治り姿勢がよくなり、ほっそりしてきたこともあって、ナンパされたりモデルのスカウトに声をかけられたりもするようになりました。

でも、私は恥ずかしがり屋で内向的なので、そうした声には耳を貸しませんでした。

やっと変わることができる、と私はそれだけでうれしかったのです。

自然の中にいると、自分の体の大きさ、無口で内気なことなど、まったく気になりません。ただひたすら自然の中を歩くのが楽しいのです。

有希恵たちと山へ行くようになって、山好きな女性の友達も増えましたが、彼女たちはどんどん競って高い山を目指すようになっていました。

私は、そういう激しい登山には興味がないので、一緒に行く山行きが減っていきました。

内気なので、知らない人と山へ行くのは億劫ですし、ひとりでは怖くて行けません。

このままでは、元に戻ってしまいます。せっかく変われそうだったのに。

有希恵にそのことを率直に話したことがあります。

すると、「望月さんに聞いてみれば」と言ってくれました。

望月孝夫さんは、同じ大学の卒業生で自称「自然人」。何度か有希恵たちと一緒に登山をしていて、指導をしてくれました。

望月さんは、私と同じぐらい背が高く野性的で、都会の似合わない素朴な男性でした。ちょっと老けて見えるほど落ち着いています。

「ひとりでもいけるような、あまり高くない山とかで、楽しめるところってありませんか?」

「うん。あるね。でも、ひとりじゃマズイよ。いくら低い山でもね。一応、熊とか猪はいるからさ。そうだ。今度の月曜日なら一緒に行ってあげてもいいな。仕事も休みなんだよ」

うれしい話でした。

異性としての望月さんを意識してしまいます。

学生ですから郁美は、混雑した週末ではなく、平日に山へ入ることができます。社会人のはずの望月さんもそれに合わせてくれたのです。

その日、私は、駅前で登山口へ向かうバスを待っていました。

典型的な山ガールのファッションでした。保温性の高いレギンス、カラフルなブッシュスカート、鮮やかな緑の防水性も備えたフード付きブルゾン。小型のリュックを担いで、赤い帽子も被っていました。

望月さんとは、登山口で待ち合わせる予定でした。

ザザーと大きなタイヤの音、そしてディーゼルエンジンらしい野太い音を立てた4WD車がやってきて、私の前に停まりました。

窓をあけて「おはよう」と長髪で痩せた望月さんが顔を出しました。陽に焼けて精悍な目をしています。三十過ぎには見えません。

「おはようございます」

私はハキハキと答えます。鼓動が激しくなっているのを感じていました。

「面倒だからクルマで来ちゃったよ。ここはアプローチが長いからさ。バス待っているとあと三十分は来ないし、バスって遅いだろ。さ、乗って乗って」

「はい」

荷物を後部座席に入れます。広い荷台には山の道具らしきものが天井近くまで詰め込まれていました。殺風景なクルマでホコリっぽく、男くさいのです。

その助手席に乗り込みました。

「じゃ、行くよ」

山道に慣れているのか、ひどく荒っぽい運転です。カーブではザザーッと砂利をタイヤが弾き飛ばす音がし、遠心力で投げ出されそうな勢いでした。

シートベルトをしていても、体が前後左右に振り回されます。

望月さんは無口です。私もそのほうが助かります。

つづら折りをいっきに上っていきます。バスの通る舗装道ではなく、細い林道に入っていきました。

三十分もジェットコースターのような運転に舌を噛まないように必死に耐えて、ようやく登山口です。

私はクルマから降りると、ふらふらになっていました。

「どうしたんだ、真っ青だよ」

「すいません」

砂利の敷かれた広場は、バスがぐるっと回れるギリギリの広さで、登山道の入り口を示す看板と登山ルートの案内図があるほかは、工事現場にあるような仮設トイレが二つあるだけでした。

私は、そのトイレに向かおうとしたのですが、降りたその場で気持ちが悪くなって、いきなり吐いてしまいました。

朝食は果物と飲み物だけだったからか、すっかり食べたものを戻しても足りず、胃液まで吐いてしまいました。

苦しくて、その場にしゃがみ込んでしまいます。

望月さんが見ている……。恥ずかしさもこみあげてきます。

「どうしたのかな?」

やさしい声ではありません。冷徹な声です。

「すみません。ちょっと気分がよくなくて」

豹変した男

望月さんは細長い杖を手にしていました。

ヒッコリーのシャフトに、頭部にはピッケル風に先の尖った嘴上の金属が握り手としてついています。末端には金属の鋭い石突きもあります。いつも登山のときに持ち歩いていました。

その石突きが、私の吐いたものを示しています。

「それは、なんだ」

「すみません」としか言いようがありません。

「すみません? どう、すみません、なのかな」

「どうって……」

その杖が視野から消えました。

そしてビュッと風を切る音がしたかと思うと、私のお尻に激しい痛み。しゃがんでいたので、バランスを失い、手をついてしまいました。

「なんだ。わからないぞ」

二発目もすぐに飛んできました。動くことができず、尻で杖を受けます。ドスッと鈍い音がしました。

「私が、吐いたものです」

「そうだよな。これは、おまえが吐いたものだ。その結果、どうなったんだろう?」

「どうなった?」

三発目が尻を襲います。とうとう、耐えきれず、砂利に突っ伏してしまいました。

目の前に、自分の吐いたものがあります。

「いいか。おまえの汚いゲロで、自然を汚したんだぞ」

そして、望月さんの登山靴の先端が私の顎をぐいっと押し、嘔吐物に近づけようとします。

「やめて! やめてください」

「自然はおまえにやめてくれとは言えないんだよ」

望月さんの大きな手が私の帽子を取り、髪をつかみました。そして私の顔を持ち上げて少し引きずり、嘔吐物に押しつけました。

「ふえー」と声にならない悲鳴を上げるばかりです。

「いいか。覚悟しろ。おまえに本当に自然を愛する気持ちを叩き込んでやる」

「すいません、すいません」と謝るしかありません。

おそろしいことになりました。逃げなければ……。殺されてしまうかもしれないのです。

望月さんと二人きりなのです。ここに来ていることを知っている人はほかにいません。

「じゃあ、言うんだ。おれの言う通りに」

私は自分の嘔吐物に鼻を押しつけられたままで、言わされました。

「私は自然を汚した悪人です」

声が震えています。

でも、セリフはそれだけではないのです。こうも言わされました。

「自然を尊重する立派な人間にしていただくために、根本的に叩き直してください。そのためなら、どんなことでもいたします」

「よし」

ようやく許されました。

地面をころがるようにして、嘔吐物から逃れました。

そこにバスが入ってきました。のどかなホーンを鳴らし、二人の前に止まります。

これはチャンスです。このバスに乗って帰ればいいのです。

私は、あまりのことに力の入らない足をなんとか動かして、よろよろと立ち上がります。まだクルマ酔いとショックでふらついています。

バスが完全に停車し、ドアが開いたものの乗客はひとりもいません。

気持ちは駆け出していたのですが、ふらふらしながらバスへ近づきました。

「助けて」

運転手はこちらを見ています。でも、エンジンを完全に停止させました。

「私は自然を汚した悪人です」と自分の声が聞こえました。

振り向くと、望月が小型のレコーダーを手にしています。

「根本的に叩き直してください。そのためなら、どんなことでもいたします」

私の声が寂しいバス停に響きます。

運転手はそれを聞いて、笑っているのです。

「乗せてください」

「乗せるわけにはいかないな」

「助けてください」

「望月さんの言うとおりにしたほうがいいですよ。そうすれば、あなたも、もっとましな人になれますから」

「ウソでしょう」

「生意気だよね」と望月さんが私のすぐ背後に来て言うのです。

「ちょっと手を貸してくださいよ、忙しいところ、悪いけど」

「うん。しょうがないよね。最近の登山者の中には、目に余るやつがいるからね。これも教育だから」

運転手は立ち上がり、降りてくると、私をドンと突き飛ばします。

バランスを失って倒れてしまいました。

「大きな体をしているわりに、体が弱いねえ。それで山なんか登れるわけないよ」

「そう。だから鍛え直す」と望月。

「じゃあ、まずはその格好だよね。虫酸が走るよ。山ガールだっけか」

「ああ、まったくだ」

二人の男が見下ろします。彼らの手が伸びてきて、私からザックを奪います。

「さあ、自然に戻るんだ。裸になれ」

「いや!」

この二人は示し合わせて私を乱暴する気なのです。

這って逃げようとしました。

しかし、笑いながら運転手と望月に足をつかまれてしまいました。

「ほら、逃げろ。もっと逃げろ」

亀のようにじたばたして足を蹴ってみても、二人の男の力には及びません砂利で手が擦れ、血が滲みます。きれいに手入れした爪もボロボロです。

意地悪な二人は、体操の手押し車のように、手だけで逃げようとする私をからかうように前進させます。

ある程度進むと、無情にも引きずって戻すのです。

ざーっと砂利をする音がします。

しばらくその繰り返しでしたが、やがて、ブルゾンははだけ、その下のチェックのシャツも出てきてしまいます。

運転手がブッシュスカートを引き剥がしたので、下着とレギンスだけの下半身になってしまいました。

その下着に手がかかって、引き延ばされます。

「やめて」

逃げようと、前進する勢いを使って、パンツが股間から膝まで引きずり降ろされました。

剥き出しの尻に、冷たい山の風があたっています。

ショックで体が固まります。

「いや!」

「ほらほら、おとなしくしないと」

二人の男は、パンツを抜き取り、右足と左足をひとりずつ両手で抱えました。

トウモロコシの皮を剥くように、レギンスも引き抜かれてしまいます。

もう逃げることはできそうにありません。絶望的です。

「せーの」と二人はかけ声をかけて、足をすばやく持ち替えて、ひねりました。四つ這いでいられなくなって、ごろんと仰向けにさせられます。

真っ白な私の足を持っている二人の男は、ギラギラとした目で見下ろすのです。

「どうです。処女ですかね」と運転手。

「たぶんね」

「処女ってやったことないなあ」

「そうですか。じゃあ、試してみますか?」

「ぜひ」

抵抗しようにも力尽きていたのか、手にも足にも力が入りません。

多少、体が大きいとはいえ、運動能力は望月たちの方が上です。どうにもならないのです。

望月が足を持ち、運転手が私の後ろにまわって手を脇に入れてきました。そして、バスの中に引きずり込んだのです。

後部座席に投げ込むように落とされました。

運転手が制服のズボンを脱いでいます。その股間にはどす黒い逸物がそびえています。

はじめて、その男の部分を見せられて、パニックになっていました。

「いや、ダメ、やめてください!」

声もうまく出ません。

望月が足を持ち、大きく広げてしまいます。

そして運転手は、私の股間に体を密着させてきました。

硬いものが、ぐいっと入ってくるのがはっきりわかりました。

ゆっくりと、じわじわと運転手は私の中に押し入ってくるのです。

「ああ、ダメ。痛い!」

拳で近づいてきた運転手の肩を叩いたものの、彼はすぐ体をかわして笑っています。

そうやって彼が体をひねるたびに、ますます深く中に押し込まれてきます。

「おお、いいですね」と運転手。

「すごく締めてきますよ。大柄な女は、あそこも大味かと思ったけど、そうでもないかも」

「最初だけですよ。何度かやったら、ガバガバになっちゃいますよ」

「そうですか。さすが、望月さんはベテランですな」

そんな声の中で、さらに運転手は吐瀉物で汚れた私の顔を私のシャツでふくと、タバコ臭い口を押しつけてきました。

生まれてはじめてのセックス、そしてディープキスが、見ず知らずの男なのです。

「うっぷぅ、ひゃ、いや、イヤ!」

抵抗しても、それ以上のことをしてきます。

男の臭い唾が私の口に入り込みます。舌の先で歯や歯茎をまさぐっています。

あらがっている間に、ブルゾンとシャツを望月が脱がします。スポーツ用の吸湿性のいいアンダーシャツもずりあげられ、お腹も乳房も露わにされました。

「いいオッパイですな。こりゃ、ホルスタインだ」

運転手は、誰にも触らせたことのない乳首を次の攻撃目標にしたようです。べっとりとした口でしゃぶり、歯の先でコリコリと噛みます。

「ああ! そんなこと、しないでください。お願いですから」

泣いても叫んでもだめだとわかっていても、叫んでいました。

その口を、望月が私の服で塞ぎます。

「あわっ、うぐぅ」

殺されるかもしれない、と思いました。ここへ来ることは、望月しか知らないのです。

ひとり暮らしの女子大生が、いなくなったことを、誰が気づくでしょう。さして有名でもない地味な山に登ろうとしたことなど、わかるはずもないのです。

殺されて、山に放置されたら、何年も見つからないでしょう。

そう思うと涙が止まらなくなりました。自分はこのまま死ぬのです。

運転手は「いくよ」と言い、私の中に熱い射精をしました。

「がっう、うぐぐ」

嗚咽しても、彼らは容赦しません。

やっと運転手が私から離れたと思ったら、もう望月がそこにいました。

「ほら、これが欲しいだろ」

運転手は私の顔に押しつけられていた服をどけて、わざわざ望月の体を見せるのです。

それはさきほどのものよりも大きく、高い確度で突き上げていました。

「これから、たっぷりと教えてやるんだからな。ありがたいと思え」

望月が入ってきます。

「くぅう!」

それは、とても激しいピストンで、私の股間が引きちぎられるのではないかと思えるほどでした。

二度目の体験も、ただ苦痛なだけでした。

二人の、大量の精液を注ぎ込まれ、ぐったりしていると、残りの服もすっかり剥ぎ取られ、登山靴と靴下だけにされてしまいました。

望月は、太い首輪を手にしています。

「こいつをつけてやろうな」

私の首に巻き付け、喉が締まるほどきつく留めました。首輪には、長いチェーンがついています。

「じゃ、そろそろ行くから」と運転手。

「忙しいのに、手伝ってくれて悪かったな」と望月。

「いいさ。これも自然を守るためなんだから。じゃ、がんばって」

裸にされ、首輪をつけられ、引っ張られて、バスの外に引き出されました。

冷たい空気にさらされて、震えが止まりません。

バスはエンジンを始動すると、なにごともなかったかのようにドアを閉じ、下山していきます。

ホーンが悲しげに木霊しました。

「助けて。殺さないで」

私はそれだけを、呪文のように唱えていました。

全裸の山行

「さて、これからだな。荷物を点検するか」

バスが見えなくなると、望月はそう言って私のザックを勝手にあけて、中身をぶちまけました。

「食べ物と飲み物はいるよな。これは虫除けか。いまのうちにたっぷりつけてやるよ」

小さなスプレー式の虫除けを私にふりかけます。岩のような手で体中にまんべんなく広げていきます。

「虫除けはこれが最後だ。これからは、虫に刺されることにも慣れないといけない」

自分たちで犯した部分にまで、虫除けを撫で付けます。

逃げようとしてもグイッと首輪を引かれて、身動きできなくなります。

「着替えも持って来たんだな。帰りにはカラオケにでも寄るつもりか? だけどな。おまえに服なんていらないんだ」

剥ぎ取った私の服と着替えを一つにするとザックに押し込みます。腕時計も入れます。携帯電話はバッテリーを外してしまいます。

「自然を肌で感じるんだ」

「死んでしまう……」

「なんだって?」

「死んでしまいます」

「大丈夫。おれが死なせない。自然の大切さを骨身に染みるまで教えてやるからな」

殺されないかもしれない、という微かな希望にすがるしかありません。

「なんでもします。殺さないで」

「おいおい。ひと聞きが悪いな。おれがいつおまえを殺すって言った。おまえを立派な人間にしてやろうって言うんだよ。殺すなんてとんでもない。それに、なんでもすると、さっき誓ったばかりじゃないか。それは守ってもらうからな」

そしてチェーンをぐいっと引っ張るのです。

「返事は?」

「わかりました」

「最初に言っておくが、殺しはしないが、死にたくなるような目には遭わせてやるぞ。何度も殺してくれって、おまえが頼むかもしれないが、それでも、おれは殺さない。いいな」

また首輪が引っ張られる。

「わかりました」

「おまえがまともな人間になれることを証明しなくちゃいけない。もしそれがダメなら……」

望月は低く笑う。「そのときは、人間以下になってもらう」

意味がわかりません。望月は狂っているんだ、と思いました。

「このザック、軽すぎるな」

クルマまで連れて行かれました。一・五リットルの水の容器を二つ、ザックに入れました。

「足りないかな?」

さらに二つ。

「これだけで六キロか。そのほかを合わせると十キロぐらいだね」

それを背負わせるのです。

裸の上に重いザック。目の荒いナイロンを肌に感じます。

でも、それだけではありませんでした。

「こいつを前に背負うんだ」

望月のザックを前から抱えるように持たされます。乳房が押し潰されます。なにが入ってるのか、その重さは背中のザックの比ではありません。

ロープを出し、二つのザックをしっかりと落ちないように私の体に縛り付けていきます。しかも私の手を、頭の後ろで組ませて縛りあげました。

「ほら、ちゃんと立て」

疲れ果てたロバが無理やり荷物をのせられたように、よろよろと立ち上がります。手が使えないので、どこかにつかまるわけにもいきません。

犯されたばかりの股間から、血液や精液が流れ出しているようですが、それを気遣う余裕もありません。

「よし。じゃあ、出発だ」

前を歩かされます。

望月は、背後からチェーンと杖を持って、離れてついてきます。

登山道の入り口から、一歩、また一歩と足を前に進めます。最初のうちは、階段状になっていた道が、しだいに細くなっていきます。低い山なので、登りがあったかと思えば、散歩道のように平らに近い道もあります。

低山ならではの、鬱

蒼

と茂った森の中を進んでいきます。

いままでのように、景色や自然をながめている余裕はありません。

いつしか左手は、木々や藪の急峻な斜面になっていました。バランスを崩せば、谷へ転がり落ちてしまうでしょう。もしそこを落ちたら、自力で抜け出すことはできそうにありません。

飛び込んでしまおうか、と考えますが勇気がありません。それに、低い竹や木々もあるので、裸でそこに落ちるときっと私の体にグサグサと突き刺さり、むごたらしく、苦しみながら死ぬことになるでしょう。

しかたがなく必死に歩くのですが、とても遅く、道は果てしがないように感じます。

「はぁはぁ」

自分の荒い息ばかり聞こえます。

「ほら、ちゃんと歩け。一、二、一、二」と望月は言い、杖の石突きで、お尻を突きます。軽くやっているのでしょうが、ぐさっと刺さるような感覚に、思わず「ひーぃ」と悲鳴を上げてしまいます。

きっと真っ白なお尻に、石突きの赤い跡がついているでしょう。

お尻を突かれるのが怖くて、荷物なしでもきついぐらい、早いペースで歩いていましたが、しばらくすると息が切れてまた遅くなってしまいます。

すると、すかさず杖で突かれるのです。

「うひぃー」

涙を流しながら、三十分以上も、そうした状況が続きました。

何度目かのお尻の痛みに、私は耐えきれず、バランスを崩して、前のめりに倒れてしまいました。

抱えている荷物が幸いして、倒れても顔を打つようなことはありません。

全身から汗が流れ出ています。ザックを直接皮膚で受けているため、背中も胸も、擦り傷だらけになっています。

「はーはーはー」と激しく呼吸しますが、どれだけ呼吸しても、苦しみから逃れることはできないのです。

汗で顔に貼り付いた髪を、望月は石突きで、そっとかきあげました。

「なんだ。もうへばったのか。休憩してもいいが、おまえが休憩するときは、別のなにかをするときなんだぞ」

望月はザックから一・五リットルのボトルを一つ、取り出しました。

「どうだ、これを軽くするか?」

「はい、お願いします」

「だけどさ。軽くするというのは、ここに捨てるってことじゃないんだ。貴重な水だからね。おまえが飲むんだよ」

「はい」

喉はカラカラです。朝食はバス停で吐いてしまい胃も空っぽでした。それから暴行され、激しい運動を続けてきました。

なんとか自力で上体を起こし、裸であることも忘れ、地面にへたり込んだままボトルに口をつけます。望月がそれを傾けていきます。

ぐびぐびと飲むと、生ぬるくてもおいしく感じました。でも、とても一・五リットルは飲めません。半分以上、余りました。

「さて、残りをどうするかだ。なにかいい方法があるかな?」

「わかりません」

「あるんだよ。ケツから入れるんだ」

「ええ!」

「脱水症状も抑えられるぞ」

望月は自分のザックから、ゴムの管を取り出します。

「こいつをおまえのケツに入れる。そしてボトルにこれをセットすると、自動的に入っていく」

「歩きます。歩きますから、それは……」

「だめだ。なんでもすると言ったじゃないか」

もはや抵抗ができない私を、望月は簡単に蹴り倒します。うつ伏せになって、尻が高く持ち上がっています。

望月の指が、私の唇に触れます。

「おれの指を舐めろ。たっぷりとね。そうしないと痛いぞ」

「むっふぅぅぅ」

水を飲んだばかりの口で、無骨な人差し指を丁寧にしゃぶるのです。指先は容赦なく頬の裏側に、舌に、喉の奥にまで入ってきます。

「この指がおまえの尻に入るんだぜ」

そう言いながら、口の中を指でさんざんもてあそびます。

そして抜き取ります。

「でかいケツだな」と笑いながら、しばらく肛門の外側を指先でいじっています。マッサージするように触っていると、ひくひくとそこが反応します。

「やめてください。お願いですから」

怖ろしいことだと思います。そこを触られるだけではなく、私の口の中でやったように指で犯すというのです。

浣腸登山

「欲しいって言ってるな。ケツ穴も喉が渇くんじゃないか」

ゆっくり指先が、排泄器官を押し広げます。

「ううう」と声が漏れます。

悔しくて、悲しくて。なんで、こんな目に遭わなければならないのでしょう。

敏感な入り口の部分を、こじ開けるように、太い指が侵入してきました。

「ふぁぁあ」

思ったとおり、口の中でやったように、望月の指先が中で動き始めます。虫かなにかが入ってきたように奥へ進み、上へ下へ、左へ右へ。指がぐりぐりとそこを押し広げていきます。

「ふぇひー」

痛みだけではありません。気味が悪いのです。自分の体が汚されていくのを、これほどはっきり自覚させられるとは……。

「よし。少しは広がったかな。これもほら、しゃぶれ」

ゴム管が唇に触れます。

「いやか? もっとこうしてほしいのか?」

お尻の中の指がグイッと、私を持ち上げるように上に引き上げられます。お尻が壊されてしまう……。

仕方がなく、口を開き、ゴムの管にも唾をたっぷりつけました。

望月がゴム管を引き抜きました。「すぐ慣れるよ」

今度は指のかわりに、それが私の中に突っ込まれるのです。

ゴムの管が押し当てられ、指でぐいっと中まで入れられます。

「ぐぇっ」

指よりは細く、柔らかいのです。痛みはなく少しホッとしましたが、挿入はなかなか終わりません。どんどん、奥に入り込んでくるのです。

異物が体内に入るおそろしさに、私は震え上がります。

「やめてください。もうムリです」

かなりの長さでしょう。腸の中でうごめくゴム管の感触は初めてですから、自分の体が壊れていくようでした。下手に動けば、お腹の中が傷つくような気がして、身動きもできません。

「このぐらい、大したことないよ」

ゴムの末端にはペットボトルのふたと同じ形状のものがついていました。ペットボトルに取り付けて、望月が高く持ち上げるのです。

それだけでも、管を水が通り、私の中へ注がれてくるのです。

容器の底に、アーミーナイフで穴をあけると、さらに勢いよく腸内に注ぎ込まれていきました。

「がぁぁぁ」

あまりに異様すぎる感触です。水がぐいぐいと腸壁を広げていくのです。

「よおし。全部飲んだな。最初にしては上出来だ」

ずるずるとゴム管を抜かれる感触のせいか、鳥肌が立ってしまいます。ゴム管と空になったペットボトルをザックに戻すと、再び私を立たせます。

「ここは子どもでも三時間もあれば山頂に行けるんだ。わかってるだろうな」

「あと、どのぐらいですか?」

「さあね。とにかく急げ」

たっぷりの水を飲んだ腹部を意識しないわけにはいきません。

足を一歩、また一歩と先へ進めるたびに、お腹の中でチャポチャポと水が鳴っているような感じがするのです。

水分を補給したのがよかったのか、徐々にペースをつかみ、三十分ほど望月の要求する速いリズムで歩くことができました。

よほど体の水分が不足していたのか、上と下から注入された一・五リットルの水はどこかに消えていったようです。

「いいじゃないか。素質がある」

「もう、許してください。家に帰してください」

「まだ訓練は始めたばかりだぞ。そろそろ、水を補給しなくては」

「もう、ですか?」

「熱中症は、喉が渇いてからでは遅いんだ。定期的に一定の水分を補給すること」

「でも……」

たっぷり入った一・五リットルの水。それを今度はどれだけがんばっても、五百ミリリットルも飲めません。残りは一リットル以上です。

「さあ、どうする」

「ムリです」

「なにがムリなんだ」

「お尻からなんて、ムリです」

「ふーん。ムリかどうか、やってみなくちゃわからないだろう」

再びゴム管と底に穴が開けられたボトルが取り出されました。

「ダメです。お願いですから……」

立っている私のお尻に、ゴム管を近づけてきます。いくらかは水が漏れていたらしく、お尻のあたりが濡れそぼっていることに気づきました。

ゴム管の先端が、乱暴に肛門に突き刺さります。

「うぐっ」

軽い痛み。いつしか必死に肛門を締めていたのです。

そんな抵抗は痛いばかりで意味がなく、細い管は無遠慮に入り込んできます。奥の奥まで。

「ひぃぃぃ。お願い、助けて」

「助けてやってんだよ。お礼を言われたいぐらいだけどな」

望月は管につながったボトルの底をナイフで切り取って、そこに、ドボドボと水を注いでいきました。

強い圧力で水が中に押し入ってきます。前よりもお腹が苦しくなるのが早いのは、まだやっぱり前に入れられた水が腸内に残っているからではないでしょうか。

半分ほど入った頃、とうとう私は音を上げました。

「おトイレに行かせてください」

「どうして」

「漏れそうです」

「なにが」

「おしっこが……」

トイレをさせてもらえば、おしっこもなにも、同時にできると考えていました。

望月は意地悪でした。

「おしっこだけか?」

「お尻からも、です」

「漏れるのか?」

「はい」

「はしたないな」

「すみません」

「じゃあ、そこで垂れ流せ」

「え!」

「自然の中で垂れ流せ」

「そんな」

「こんな山にトイレがあるとでも思ったのか、バカだな」

もちろん、そこまでは思っていません。手を自由にしてもらい、草むらにいかせてもらえればいいのです。

「藪に入ると、虫やヘビがいる。危険すぎる。ここでやれ」

私は、体が疲れ切って、うまく動かすこともできません。荷物が重く手が使えないので、しゃがむこともできないまま、パンパンになった膀胱から小水が漏れだしていきました。

「おぉぉぉ、見ないでください……」

立ったまま、私はおしっこをしてしまいました。温かい汚水が足にかかります。そのあたりをびしゃびしゃにしていきます。

なかなか終わりません。

ようやく一段落しかけたとき、今度はお尻からも、じょぼじょぼっと水が漏れ出しました。

「は、恥ずかしい……」

まだゴム管が入ったままです。最初は水だけでした。

腸内の圧力でゴム管が押し出されてしまうと、それに腸が刺激されたのでしょう。水で柔らかくなった固形物も吹きだしていきます。

この頃、便秘がちでした。堰を切ったようにたっぷりの量の固形物がお尻からあふれ出して、ぼたぼたと地面に落ちていきました。

「立ったままやるとはな」

望月は笑います。

「やっていいと言ったが、そんなに出るのか」

「ううう」

屈辱で涙があふれます。

「やっぱり、体がでかいとウンコもデカいんだ」

「ごめんなさい。すみません。助けてください。許してください。お願いします。お願いします……」

恥ずかしさで身がすくみます。

望月は笑いながら、残りの水を尻に浴びせて洗い流しました。

「その汚いものを、こんなところに置いておくわけにはいかないから、片付けろ」

「片付けるって……」

石突きで示されているのは、黒々と光る自分の体内から出たものたち。それは数日分の量がありました。誰がどう見ても、登山道の真ん中に人糞が撒き散らされています。水に濡れて光っていますが、それもすぐ乾いていくことでしょう。

「せめて下の藪に落とせ」

「手を自由にしてください」

「だめだ」

「ムリです」

「ムリなものか。おまえには、便利な口があるじゃないか」

「ムリです。絶対にムリです。イヤです。そんなことできません」

望月は私の背中のザックを持ち、じわじわと力を加えていき、とうとう私を登山道にねじ伏せてしまいました。

そして足を蹴り、亀のように地面に伏せるのです。望月のザックに乗るような格好となりました。

こうなると、今度は自分の力だけでは立てそうにもありません。

目の前には、私のお腹から出たものが散らばっています。

絶対にできません。そんなことをしたら終わりです。

しかし望月は笑うばかりです。

「おまえがまっとうな人間になれるかどうか、その大切な境目だぞ。言われたことが、素直にできないようなら、畜生以下ってことだな」

「だって、そんなこと、できるわけがないじゃないですか。誰だって、そんなこと、しないです。手を、せめて手を自由にしてください」

「足を使うんじゃないぞ」と言って、足首を束ねて縛り、どこかの木に縛り付けたようです。

望月は、自分だけ道を戻って下山していくのです。

やがてカーブの向こうに望月は消えてしまいます。私は首を傾げて、それを見ていました。

このままで死んでしまうかもしれない、と思いました。

手が自由になれば、ザックの中に食糧も服もあります。

手を自由にしたい……。

五分、十分。虚しいあがきが続きましたが、手首と首を縛る縄は、かっちりと結ばれていてまったく緩みません。首輪を取ろうとしてもそのベルトも硬く、指先が少し触れてはみても、とても外せないのです。

絶望的でした。

森に日がさえぎられ薄暗く、鳥の声でしょうか。おそろしい獣のうなり声にも聞こえます。ときおり吹き抜ける風にハッとします。

下り方向を見ても、望月は戻ってきません。

この山の山頂へ行く道は、ここだけです。山の向こうからのルートもありますが、早朝出発した人でも山頂を越えてここまで来るには、まだ何時間もかかるでしょう。

どれぐらいそうしていたのでしょう。

遠くで微かに話し声がしました。

明るい声。若い女性のようです。私は希望を感じました。

隠れることはできません。恥ずかしい姿を見せることになります。でも、助けてくれるのならそんなことはどうでもいいのです。

どう事情を話せばいいのかはわかりませんが、とにかく自由にしてもらうのです。

カーブの向こうから、私と同じようなファッションの山ガールが現れました。どこかで見覚えがあります。

私を山に誘ってくれた、同級生の有希恵さんです。

助かった、と思ったとたん、その横に明るく笑っている望月がいることにも気づきました。

希望は消え失せました。残っているのは恐怖だけです。

有希恵さんが危ない!

望月はとんでもない男だったのです。彼女も同じような目に遭わされるのではないでしょうか。

その男に近づいてはいけないのです。

「ダメ。有希恵。その男から離れて!」

叫んでみましたが、聞こえないようです。

二人は早いペースで近づきます。もうすぐ私を見つけて、有希恵も気づくことでしょう。私はどうなってもいいので、せめて有希恵だけは助けたいと思っていました。

有希恵が私を視野に捉えました。目が合いました。

それなのに、有希恵は、私が見えないかのように、望月との談笑を続けています。

二人がどんどん近づいてきます。

「有希恵、その男、近づいちゃダメなの。私をこんな風に……」

私は、そう言いながら涙をこぼし、泣いてしまいました。

私の半分ほどしかないのではと思うほど小柄な有希恵。そして、望月が目の前にやってきました。

「助けて、有希恵……」

私はそう言うのが精一杯でした。

友の裏切り

「あらあら」と有希恵はあきれたように言い、「ははは」と甲高く笑ったのです。

「郁美さん。なにしてるの?」

「お願い、助けて、有希恵さん」

「あら、人間みたいなことを言うわね、コイツ」

「そうなんだ」と望月が言う。

「ダメな郁美のままなんだよ。せっかく叩き直してやろうと思っていたんだが、言うことを聞かないんだ」

「それはダメよねえ」

「有希恵さん、お願い、助けて」

「シロサイはシロサイよねえ」と有希恵は笑う。

「ほら、これを見ろよ。垂れ流しやがってさ」

「まあ。ホントに恥ずかしいわ。あ、でも人間じゃないんだものね。シロサイなんだから、大きなクソをしてもしょうがないか」

「そうなんだ。人間なら、これを山道に残すなんてことはできないはずだろう? どうしても片付けないのさ」

「で、どうするの?」

「さあ。ここに放置して、野垂れ死ぬか、獣のエサにでもなればいい。このあたりは熊もいるけど、それよりおそろしいのは野犬だね」

「まあ、怖い」

「野犬の群れにやられたブタを見たことがあるけど、それはむごたらしかったよ」

望月は、私の体のロープを解き、自分のザックから私を引き剥がしました。

彼は自分で担ぎ、有希恵と一緒に先へ向かおうとしています。

「お願い、助けてください」

裸で首輪をつけられた私を放置してしばらく歩いていた二人が、ふと、振り返りました。

遠くから見ているのです。もう少し離れたら、見えなくなってしまうでしょう。

いましかありません。

地面を這うようにして、自分の体内から出た黒い物体に顔をつけ、口と鼻と舌をつかって、転がし、藪の中へ落としていきます。

あきれるほどの量で、しかも飛び散っていたので、必死でヘビのようにのたうちながらその作業をやりました。

助けて、助けて、と心の中で叫びながら……。

ザッザッと音を立て、二人が戻ってきます。それが喜びに感じました。

もう、なにも考えてはいません。目の前の汚物を唇でくわえて、斜面に落としていくのです。

すっかり山道から、汚物はなくなっていました。

私は地面を這い回ったので、自分から流れ出た水や小水と泥を体中に塗りたくったようになっていました。

「やればできるじゃない」と有希恵は笑っています。

「よし。危ないところで踏みとどまったな」

「ねえ、記念に写真を撮っておかない?」

「いいね。郁美の危機脱出記念だ」

望月は自分のザックから三脚を出すと、そこにカメラをセットします。

有希恵が、私のザックを引っ張って上体を持ち上げたので、私は山道に膝をつくことができました。

その左右に有希恵と望月が立って撮影をしました。有希恵の発案で、私はニッコリと笑い、ピースサインをさせられました。自分の汚物や土がついた口や鼻のままで。

三脚やカメラの入ったハードケースをザックにしまい、それを再び私に負わせるのでしょう。

私のザックから服を出してきて、それで私の胸やお腹の汚れを拭き取って、またザックに戻します。

さらに、有希恵のザックまでも背中に結びつけ、ようやく足の縄を解いてくれました。

「持ち上げるのはムリだろう。四つん這いで歩くか?」

立とうとしても、手が使えないのでもがくばかりでした。

「お願いします」

四つん這いでいることを条件に、首の後ろで拘束されていた手がようやく解かれました。

逃げることはできるでしょうか。首輪からのチェーンは有希恵が持っています。

重い荷物が体に三つ、縛り付けられて、立つこともできません。

とてもムリです。

悲しいことですが、四つ這いになるしかないのです。

しかし、膝が地面に当たると痛いので浮かせると、頭がすごく下がるので、背中の荷物が前に移動してきてしまいます。

「苦しそうだわ、なんとかならない?」と有希恵。

「いい方法があるぜ」

自分のザックから細いロープを出した望月は、それを首の付け根まできている有希恵のザックに結びつけました。それを後方に引っ張り上げます。

私は少しラクになりましたが、もちろん、それだけで終わるわけではないのでした。

そのロープは私のザックについているストラップを通り、私のお尻に食い込んできました。

「滑り止めをしないと」

望月はロープに結び目によるコブを五つ作りました。

それを尻の割れ目にあてるのです。

「ああ、そんな」

そのコブが肛門や性器に食い込んでくるのです。

ロープを腹部に下がっている望月のザックにも通して、弛みがないようにかなり強く引っ張り上げます。

「いたーい!」

思わず叫びます。

「うるさいわね」と有希恵。

上の荷物と下の荷物が引っ張りあって、以前より密着度が高まり、バランスもよくなりました。

でも、これは地獄です。私は背中の二つの荷物とお腹の一つの荷物を、股間を頂点とした振り分けにしているようなものなのです。

歩き始めると体を動かすたびに、股間を通ったロープが強く股間を擦り上げます。

どのように歩いても、重い上と下の荷物によってピンと張られたロープは、反動でズレてしまい、そのたびにコブが敏感な粘膜に食い込み、えぐっていくのです。

「ひぎぃいいい」

「おかしな声、あげないでよ、びっくりするじゃない」

「そうだ。ほら、遅いぞ」

二人は、尻をくりくりと左右に揺すり、そのたびに秘部を自らロープでさいなみながら歩く私をながめ、楽しそうに山道を行くのです。

少しでも遅くなれば、石突きでお尻を突かれます。

「これから、どうするの?」

「うん。まあ、楽しみにしててくれよ」

「郁美、なんとかなるかしら?」

「体はいいと思う。丈夫そうだし、なんといっても大きいからね」

「まともな人間に戻れるかしら?」

「それは、努力しだいだな」

私の耳にも入ってきますが、その意味を考えるゆとりはありません。山道を歩くのに必死でした。

やがて、森から抜け出すと、風が通る草原に出ました。昼前です。人の気配もありません。

石突きで突かれた尻の皮膚は破け、ロープで擦れた粘膜も腫れ上がっていることでしょう。

重い荷物を動物のように運ばされ、地獄としか思えません。

ぐっしょり汗をかいた肌に、冷たい風が吹きつけ、体温を急激に奪います。

「もうすぐだぞ」

高原の中程を直登する道があり、頂上が見えました。そこに人影があるようです。もはや、私はまったく希望は持っていませんでした。

望月だけならまだしも、有希恵も参加しているのです。この二人から逃れるのは簡単ではないでしょう。

いまは、考えないで、言われたことをする。それだけに集中すれば、殺されないかもしれません。

その一心でした。

しごき

賑やかな声がして、上から人が降りてきます。子どもと大人の六人のグループ。山ではみんな元気に挨拶をするのがマナーでした。

「こんにちは」

有希恵と望月も軽快に答えます。

山では、登りが優先で、道が狭いときは、下る人たちは横にどいて道を譲ってくれます。

私は、ぜーぜー言いながら、彼らの足下を這うように上がっていきます。

「なにしてるの?」と子ども。

「このお姉さんはね。こういう風にして登るのが趣味なのよ」と有希恵。「怖がらなくていいのよ」

「裸だよ」

「ごめんね。許してね」と有希恵。

グループの男が望月に「大丈夫なんですか」と尋ねる。

「ええ。すみません。お恥ずかしいですが、この郁美という女は、こうやって登ることを自分に課しているのです。自分への挑戦ってやつで」

「はあ。でも、やっぱりどうなんでしょうか、その格好は」

「そうですね。申し訳ありません」

そんな会話も背後に、私は黙々と山頂を目指します。もう、他人に頼ってもダメなのです。有希恵が望月と一緒に行動している以上、この罠から脱出するのは簡単ではありません。

有希恵はすべてを知っていたのです。山に誘ったときから、すっかり計画されたことなのかもしれません。目的はわかりませんが、私が思っている以上に大きなことが起きているのかもしれません。

山頂に着くと、ようやく休憩が許されました。

剥き出しの土の上に、私はへたり込みます。上体を起こすと、股間をさいなむロープがようやく緩みました。

もしかしたら、ズル剥けになって血が出ているかもしれませんが、いまは見ないようにしました。

太陽を受けて温まっている地面が心地よく、鼓動が平常に落ち着くのを静かに待ちました。

木造のテーブルが三つあり、誰もいません。平日の月曜日にこの山に入っているのは、さきほどのグループと私たちだけなのでしょう。

「メシにしよう」

「お腹すいたわ」

有希恵は、私のザックから食べ物を出しました。自分のザックからも出しています。二人は、それを分け合って食べています。

有希恵は私が作ったおにぎりを食べています。

「おいしい」

そして半分ちぎって、地面に落としました。

「ほら、食べてごらん」

私は、それをしばらくながめていました。汗と涙が顔を伝っていく。

「食べないの? 食べないなら、こうなるわよ」

有希恵の登山靴が、地面のおにぎりを踏み潰そうとします。

「いただきます」

私はとっさに、そう言っていました。

「お礼は?」

「ありがとうございます」

隷獣 第1部 (1/7)
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