貞操帯(ていそうたい、英語: Chastity Belt。形状によっては貞操器具、ていそうきぐ、英語: chastity device)は、狭義には被装着者の性交や自慰を防ぐ、施錠つきの下着である。妻・夫、恋人、愛人、性的パートナーの純潔を求め、性交渉を物理的に不可能にするために使われてきた。女性用が有名だが男性用もある。強制装着も自発装着もあり、通常、被装着者は自分の意思だけでは外せない。現代では専らSMプレイのグッズとして知られ、その用途で使われる。
中世の伝説と、検証されない起源
ルーツとしてよく語られるのは、中世ヨーロッパで十字軍に出る兵士が、妻や恋人の貞操を守るために装着させた、という話である。これは説であって、定かではない。外征する兵士が身持ちの悪い妻を管理した、とする読みと、女性が自身を暴漢から守るために着けた、とする読みがある。性交そのものを物理的に止める究極の避妊具、という位置づけも後から乗った説明だ。拷問や刑罰として使われた、という記述もあり、西洋の博物館には「実物」が残されている。近代の語りでは、鍵を親や夫、情夫が持ち、中世ヨーロッパの富裕層が用いたとされるが、真偽も詳細も不明な部分が多い。
当時の品は金属製だった、とされる。衛生上の問題に加え、「重い下着を着続けていられるわけがない」という理屈から、「妻の貞操を保護した」説は否定されている。排泄用の穴がある以上、好事家の排泄の「実用」や「観賞用」として作られた、という説の方が正しい、という声もある。要するに、十字軍の鉄のパンツは物語として流通しているが、BDSMの現場で使われる貞操帯の系譜を、そのまま中世の遺物に接続することはできない。伝説は伝説として置き、現代の器具は現代のプレイとして見る必要がある。
現代では主としてSM・BDSMの道具として販売・利用される。貞操を守るという建前を離れ、被装着者を辱めることが主目的になる場合も少なくない。一方で、夫婦やカップルが互いの愛を確かめるために使う例も多い。男女とも、強姦防止・性交抑制を目的に着けた場合、物理的な効果は大きい。
構造:下着ではなく施錠
貞操を守る目的のため、旧来から多くは金属製で、外部からの破壊に強い素材が選ばれたと考えられる。近年は軽量のステンレスや皮革、プラスチック系素材を使い、デザイン的にも薄くスタイリッシュなものが増えている。形状は通常、下着状、あるいはT字型で、脱衣を封じる施錠装置が付く。施錠は大型の南京錠を用いるものから専用の錠前を持つものまで多種にわたる。南京錠の切断を防ぐためにステンレスバーへ埋め込むように施錠するタイプもある。いったん着用して施錠すると、取り外しはもとより、陰茎やディルド等を女性器へ挿入することは不可能になり、被装着者の自慰や性交渉を厳重に防げる。ただし自慰防止板を装着しない場合は、性器に指等で触れることは可能である。すなわち施錠装置の鍵を所持する者のみが、被装着者に対して貞操帯を自由に着脱させ、自慰の自由や貞操管理を完全に支配することになる。本格仕様の金属製貞操帯は、バイブレータの振動をも性器に伝えない構造となっており、自慰をほぼ完全に防げる。
通常の下着との相違点は施錠装置と素材だけではない。長期間身につけることを想定して排泄用の小さい穴が開けられており、排泄は貞操帯を着用したまま可能である。穴の形状は品によって異なる。女性用の場合、小便用には数ミリサイズの縦長の穴が開いており、陰唇が穴から絞り出される構造になっている。適切な使用のためには着用後、小陰唇をこの穴から十分に引き出して露出させる必要がある。排尿の際に尿が内部へ侵入するのを防ぐためで、十分に引き出されていないと小便がスムーズにできないことがある。大便の場合、排泄を妨げないよう肛門が露出している構造のものが多いが、中には肛門への進入を防ぎつつ排泄が可能な貞操帯も存在する。被装着者が女性の場合、小便用の排泄孔に、異なる施錠系統もしくは同一の施錠系統で網状の板をかぶせる例が多い。この板は自慰防止板と別称され、排尿を妨げることなく被装着者の自慰のみならず、他者の指や口舌の進入をも防ぐ。自慰防止板は穴から1mm〜5mm程度浮いて装着、または施錠されるため、露出している女性器を傷つけることはない。男性用の貞操帯は陰茎を覆うための特殊な構造をもつ場合がある。
現代の製品と採寸
現代の貞操帯はアダルトグッズ店や貞操帯メーカーで販売されている。アダルトグッズとして売られているものは多くがゴム製、皮革製、またはプラスチック製である。精密な採寸の必要な金属製は、メーカーの受注生産でのみ扱われる場合が多い。金属製(ステンレス製)で名が挙がるのはTollyboy社、Neosteel社製で、価格は日本円に換算して10万円前後、日本国内からでも注文可能である。購入の際には身体のサイズを細かく採寸して送る必要があり、特定個人専用で本格仕様のオーダーメイド品となる。精密に採寸された貞操帯は完全に体に密着し、わきから指先を入れることすら困難である。日本人が購入を検討する場合には、欧米人との体格の差に注意する必要がある。
現代では貞操帯の需要は女性用よりも男性用が多いことから、メーカーは構造的に複雑になりやすい男性用貞操帯を競って開発し販売している。嗜好として用いられる現代では、堅牢性のみならず着心地や、長期間連続着用可能であることをアピールした製品が多い。事実、完全に体型にフィットした貞操帯を着用すると、着心地がよくなることのほかに性的快感が大幅に増すため、採寸は精密に行われることが望ましい。
衛生と皮膚
長時間着用が前提なので、着たまま入浴・排泄できる構造になっている。だが肛門周辺に部品がある場合、着たままの大便は清拭しにくい。自慰防止板があれば、尿が板の内側に残って不快になる。残滓は皮膚の爛れと性器周辺の雑菌繁殖を促すため、排泄後はシャワーなどで清潔を保つ必要がある。
皮膚に金属が直接当たる構造は、長時間で皮膚を傷め、入浴したままだとなおさらである。表皮を傷つけたまま着続ければ金属アレルギーの可能性がある。そのため現代品は、肌が直接金属に触れない構造が増えている。
貞操管理というプレイ
現代では、望まぬ性交から身を守る用途は稀である。被装着者が自分の意思で性交や自慰の自由を奪われ、鍵の持ち主に性器や性欲を管理・支配される被虐感を取る目的が多い。他者に無理矢理装着させるのは犯罪である。
一人で着て鍵を自分で持つ場合と、他人に鍵を渡して管理してもらう場合がある。互いが着て鍵を預け合うカップルもいる。SMで使うときは、排泄などの不都合から、自分で開錠できるよう鍵を渡している例もある。身持ちの固い女性が、酒場で酔った勢いで行きずりの男と一夜を共にする、といったトラブルへの対策として着ける、という一例も源は記している。
施錠は市販のシリンダー錠や南京錠が使われる。使い捨ての破壊鍵(プラスチックなど)による簡易施錠もある。プラスチックの鍵とプラスチックの貞操具を組み合わせると、空港などの金属探知機を通り、海外旅行中も装着を維持できる。破壊鍵には一意の番号が振ってあり、自分で開錠するともとに戻せず、開いたことが分かる。
男性用:射精管理としての管
現代の男性用貞操帯は、古来からの女性用とは若干異なる目的で装着される場合が多い。本来の機能である「被装着者の貞操を守る(性交の防止)」に加え、被装着者の自慰行為を防止する、いわゆる「射精管理」のための責め具としてである。男性用は、女性用のように単に性器を覆うだけではなく、男性器に合わせた特殊な構造を持つ。男性器を貞操帯全体で押さえつけ、外界から完全に隔離することで、被装着者の性交、勃起、自慰や射精の自由を封じる。男性は陰茎への刺激によって自慰を行い射精に至るため、物理的にこれを阻害する。装着中は性交と同時に自慰もできなくなり、任意に勃起も射精もできなくなる。ただし夢精、乳首や前立腺への刺激など陰茎への刺激を伴わない射精もあり、射精を完全に防ぐことは不可能である。
男性用貞操帯は、非勃起状態の陰茎の形・サイズに合わせて根元から下向きに曲がった管状パーツ(ペニスチューブ)と、T字型をしたベルト部から構成される。ペニスチューブの形状は、非勃起状態に合わせて根元から下向きに曲がった管状であることが一般的だ。サイズは、男性器の最大勃起時よりやや小型か、かなり小型で作られる場合が多い。チューブから性器を抜き取れなくするためであり、同時に勃起しようとした際に適度な拘束感と苦痛を装着者に与えることが狙いである。先端下方には排尿のためのスリット状の穴が空けられている。この構造ゆえに、排尿の際は陰茎先端の位置が体に対して固定され、立位で男性用小便器に正しく出すことが困難になり、小用の際には女性のように座位を強要される。装着中は排尿に制限を受けるとともに、完全な勃起も不可能になることも、責め具としての機能のひとつである。装着は陰茎が萎縮している状態で行う。全体をペニスチューブに挿入し、根元から下向きに折り曲げた状態で固定するスタイルが一般的で、施錠するとチューブから抜き取れなくなる。
簡易型は、陰嚢の根元を睾丸越しに、きつすぎず抜けない強さで締めるリングにペニスチューブを取り付けて施錠する。下着型より安価で、通販やアダルトグッズ店で手に入りやすい。プラスチック以外に金属もあり、取り外しを難しくしたり自慰を防ぐ目的で尿道プラグを併用したり、チューブ固定に性器ピアスを併用したりする物もある。
オプション:内側の張型と常時拡張
被装着者を辱める目的などで、男性器を模した張型を内側や外側に付ける場合がある。メーカーはそれをオプションとして売る。女性用の内側、装着時に女性器や肛門へ入る位置にディルドーやアナルプラグを付ける。男性用では、着たまま女性と性行為するための陰茎状のもの(ペニスバンド)を、本来ペニスがある位置に付ける。
前者をとくに肛門に使う場合、肛門からの自然排泄をすべて阻害することになり、便の排泄管理まで鍵管理者(キーホールダー)に委ねられる。管理者の命令次第では、数日間から数週間、便の排泄を強制的に阻止され、どんなに辛い排泄感があろうとも排泄できず我慢せざるを得ない苦しみと、長期間の強制的な便秘による腹部膨満感——便が詰まった状態——を与えられ続ける。後者を使う場合は、BDSMのフェムドム・射精管理の要素が強く、男側は勃起も射精もできないまま女性側に「奉仕」することを強いられる。Neo Steel等の一部メーカーでは、膣や肛門用ディルドーのカスタマイズ製作を別途受注しており、通常の陰茎並の大きさだけでなく、直径6cmから8cmを超える巨大なサイズのディルドーをオプションで付けることができる。
通常の股縄等の丁字帯でアナルプラグやディルドを固定する場合、鍵等を取り付けられないため、監視の無い所では被装着者の意志でそれを取り除ける。しかし金属製のベルト貞操帯を使う場合、被装着者の意志に関係なくキーホールダーに解錠してもらえない限り取り除けない。どんなに苦しくとも膣や肛門を休み無く半永久に拡張され続ける——被装着者の意志のみで終了できない——通常よりさらにハードな常時拡張プレイに使える、という側面もある。
文献と鍵管理サービス
参考文献として挙げられるのは、青弓社『貞操帯の文化史』(1995年、ISBN 978-4787230966)、鍵と錠の研究会『鍵開けマニュアル』(データハウス、2014年5月29日初版、ISBN 978-4-7817-0177-6)、三葉『身体も心もボクのもの はじめてのSMガイド2』(一迅社、2013年12月5日初版、ISBN 978-4-7580-1352-9)、『秘密の裏モノ大図鑑 今ドキの女子は、こんな“激ヤバ”グッズを持っている!?』(MS MOOK ハッピーライフシリーズ、2015年1月1日初版、ISBN 978-4-86425-630-8)。関連項はSM(性風俗)、性欲喚起のための性的拒否、拘束具、BDSM、フェムドム、ミストレス、レイプ防止器具。
メーカー・サイトとして名が残るのはTollyboy、Neosteel、My-steel、Latowski、Chastitysteel、Locked in Steel、CB6000.com、純潔工房・実用貞操帯製作、アーカイブされた「純潔研究所」、DIDの「射精管理」解説、ウェイバックに残る「妻と貞操帯と射精管理」である。鍵の遠隔管理では、EmlaLockが個人管理とキーホールダー管理、時間設定、カードゲーム、目標体重、これまでの施錠時間以上などの条件を扱う。Chastikeyはダイヤルキーの番号生成アプリ(1〜8桁)で、時間設定とカードゲーム、個人管理、BOT管理、キーホールダー管理がある。中世の鉄のパンツが本物だったかどうかは、これらの番号と時間設定とは別の話である。いま現場にあるのは、採寸された管とベルト、そして誰が番号を持つか、という管理の装置だ。













