『白い炎の女』(しろいほのおのおんな)は、梶山季之が1972年に発表した風俗小説である。同時に、当作を表題にした短編集でもある。全身を羽根や筆、刷毛でくすぐられて悦ぶ美女が軸で、くすぐりフェティシズムの小説として読める。梶山本人は「脚色してあるが、ある女優を取材して書いたもの」と答えている。SM小説の棚では、鞭や縄より先に、くすぐりの執拗さが主題になる珍しい一本だ。男爵令嬢が大女優になり、どもりの家僕が仕える構図のなかで、羽根と筆が肌を這う。
男爵令嬢と、どもりの家僕
語り手の「私」は元小学校教員で、二十九歳。小男でどもりの癖があり、主人公に家僕として仕える。主人公の草壁三樹子(くさかべ みきこ)は一井男爵家の令嬢である。世田谷区成城の豪邸に住み、現在は映画の大女優だ。父の一井孝造(もとい こうぞう)は故人で、男爵家当主かつ日本屈指の資産家だった。祖母にあたる大奥様は、孫である三樹子を溺愛している。映画プロデューサーの志村久満男(しむら くみお)が、三樹子を映画界へ誘う。成城の邸宅、男爵家の遺産、大女優という表の顔が、家僕の視線から語られる。
くすぐりは装飾ではなく、三樹子が悦ぶ核として書かれている。羽根、筆、刷毛が全身を這う場面が、男爵家の令嬢と映画の大女優という二つの身分を同じ肉体に重ねる。家僕として仕える語り手がその場にいることで、主従とくすぐりの視線が一本になる。取材源が「ある女優」だという作者の一言は、フィクションの皮を残したまま、現場のくすぐり嗜好を小説へ移したことを示している。脚色はあるが、女優への取材が種だという告白は、この短編を単なる空想から引き剥がす。くすぐりフェティシズムを、上流の屋敷と映画界の往復のなかに置いた点が梶山らしい。
桃源社と集英社、1972年
単行本は桃源社から1972年に出た。同じ1972年、集英社の『梶山季之傑作集成 4 白い炎の女』にも収まる。表題作として短編集の顔にもなっている。くすぐりフェティシズムの系譜で梶山の名を探すなら、まずこの表題作に当たることになる。成城の豪邸、男爵家、大女優、どもりの家僕——身分の段差が、羽根と筆のくすぐりをSMの主従に近づけている。鞭も縄も出てこなくても、仕える男と悦ぶ女の関係が、この小説をBDSM作品の棚に置く理由である。














