『男を飼う』(おとこをかう)は、梶山季之が1969年に発表した風俗小説である。『週刊明星』に1968年から1969年まで連載され、単行本は上・下の二分冊になった。上巻の副題は「鞭と奴隷の章」、下巻は「蛇と刺青の章」。女装した男たちを女王様が飼い、ゴムと長靴と下着で調教する話だ。SM小説として読むなら、プレイ契約と女装と鞭が核になる。題名どおり、男は恋人ではなく、飼われる側として書かれている。
プレイ契約と、四人の女装男子
魚住はバーで冴子と知り合い、プレイ契約を結ぶ。風見はゴムの下着と婦人用の長靴を履き、女の長靴が両足に触れる感覚を悦ぶ。女の洋服姿のまま、同性愛の女性から指や刷毛で耳朶や首筋をくすぐられる。久留島は女王様の冴子のもと、背広の下に女性の下着一式を纏っている。冴子はアメリカやメキシコで、富豪の有閑マダムにお好みの性サービスを提供する事業を始めるため、四人の女装男子を連れて渡米する計画を立てていた。国内のサロンを出て、男たちを輸出する話でもある。
契約、女装、ゴム、長靴、くすぐり、下着——道具立ては当時の風俗小説の枠を使いながら、中身はSMクラブの調教メニューそのものだ。女王が男を「飼う」という題名どおり、所有と奉仕が物語を進める。上巻が鞭と奴隷、下巻が蛇と刺青という副題は、調教の段階を巻で分けた形にも読める。渡米計画の先にいるのは、アカプルコのマゾヒスト夫人をはじめとする有閑マダムたちである。
登場人物
魚住アキラ(彰)は主人公で、アメリカ帰りの美容師、二十二歳。女の格好で暮らし、日本語は女言葉で話す。冴子はもう一人の主人公である。レズビアンであり、女装した男も好きなSMの女王様だ。礫功一郎は映画スターで、女装してSMプレイをする。マゾヒスト女性に対しては、自分も女王様になる。風見吉彦は女装の美大生。ゴムやビニールが好きで、天気の良い日でも婦人用の長靴を履き、高級住宅地の豪邸に住む。久留島敏郎は大学院生で、女性の下着マニア。サリーは日本人と欧米白人のハーフ。ミッシェル・ロンブレロ夫人はアカプルコに住むフランス系メキシコ人で、マゾヒストの白人女性である。女王一人に、女装とフェチの違う男たちが揃う。
作者の一家言と書誌
梶山は登場人物の口を借り、男同士の性行為では特殊な挿入を嫌悪し、シックスナインでの相互口戯もキスや嬌声が出せないから駄目だと言わせる。互いに相手の陰茎を持ち合う相互手淫と、陰茎密着こそ正しいやり方だと主張する。現実世界でも陰茎密着は英語でFrotと書かれ、タチによる挿入の実践を軽蔑した男同士の同性愛者によって普及した、と原文は注記している。1969年の風俗小説が、挿入を拒否する男同士の快楽を作中の正説として置いている点は、SMと女装の話の脇にあるもう一つの主張だ。
書誌は『男を飼う』(上・下)(集英社、1969年)。翌1970年に新書判で『男を飼う 鞭と奴隷の章』『男を飼う 蛇と刺青の章』が出た。1990年の集英社文庫は、鞭と奴隷の章がISBN-13 978-4087496598、蛇と刺青の章がISBN-13 978-4087496604。女装百合、くすぐりプレイ、長靴フェチ、女王様——この四つの棚が交差する長編として残っている。連載の場が『週刊明星』だったことも、当時の大衆誌がどこまでSMと女装を載せていたかを示す。












