『スウィート・グウェンドリン』(Sweet Gwendoline)は、アメリカで活動したボンデージアーティスト、ジョン・ウィリーが描いたイラストストーリーから始まったコミックシリーズである。主人公グウェンドリンは若く愛らしい金髪のアメリカ女性で、悪漢にさらわれ拘束される姿が主題になる。話に複雑な仕掛けはほとんどない。さらわれて縛られ、誰か(美女が多い)に助けられ、また捕まり、救出者ともども縛られる——その繰り返しが延々と続く。『Bizarre』などボンデージ雑誌に載って人気を取った。ウィリー初期のグウェンドリンは裸にされなかった。出版規制が緩んだあと、本人やエリック・スタントンらが描いた後期では裸で描かれることが多い。
グウェン、U-69、ダーシー卿
グウェンドリンは金髪でグラマラスな少女として描かれる。年齢は不詳だが、シリーズ当初は21歳未満とされた。家族構成や経歴の詳細はなく、親の遺産で田舎に細々と暮らし、世間知らずで男性や不審者への警戒が皆無。楽天的で負けず嫌い、最悪の状況に自分ではまりやすい。『The Race of Gold Cup』では祖父と暮らす孫娘で、所有馬「LIGHTNING」のジョッキーも務めた。トラブルが多すぎるため、エージェントのU-69に縄抜けを特訓してもらうが、才能は乏しい。愛称はグウェン。何度も助けてくれたU-69を心から信頼し、多少逆らったり喧嘩したりしても、手足を縛られ鞭を打たれても、U-69と行動をともにする。
U-69(またはU-89)はブルネットの女性エージェントで、本名は不明。何らかの機関に属し、不正調査で潜入する。作戦時は白の上下、黒のコルセット、長手袋、ブーツを着る(制服扱いらしい)。ハイヒールの踵にはピッキングツールが仕込まれている。軽い拘束なら自力で縄抜けできる。サディスティックな嗜好があり、グウェンに縄抜けを教えつつ、縛られて苦しむ彼女を見るのを楽しむ。グウェンドリンが大好きで、いじめるのも愛情表現。名前がU-69とU-89で変わるのは出版規制のためである。
アンティーはU-69の叔母とされるが、本当の叔母かは不明。貴族か豪商の家系らしくメイドを抱え、女性の躾に厳しい。後ろ手に縛られ首の鎖で引かれるグウェンドリンを見ても動じないので、U-69と同じサディスティックな性向は間違いない。『The Missing Princess』でグウェンを屋敷に招き、淑女の歩き方などを厳しく「指導」した。フィフィはアンティーの若いハウスメイドで、同じ価値観からグウェンを厳しく躾ける。
ダーシー卿(Sir d’Arcy)はグウェンドリン最大の敵。髭のチビの三流貴族で、悪巧みに長け、何度もグウェンを捕らえて肢体を縛り責め立てる。たいがいポカをやり、U-69に奪還されてダメージを受ける役回り。作者ジョン・ウィリーの投影とされる。“M”はダーシー卿と組む女性で本名不明。メイドを連れ、気品ある姿から身分のある女性らしい。ザザというメイドを操り、グウェンとダーシー卿の関係を動かす。深謀遠慮ではダーシー卿より上。ザザは訛りのメイドで、のちにフレンチメイドと呼ばれる装い。Mの忠実な手下としてグウェンを縛る役が多いが、抜けている面もある。
ゴールドカップから行方不明の姫まで
『“Sweet Gwendoline” and the Race of Gold Cup』では、郊外のグウェンドリンが借金のかたとしてダーシー卿に結婚を迫られる。牧場を含む財産が目当てだ。祖父とグウェンドリンは、競馬レース「ゴールドカップ」にライトニング号を出走させて借金を返そうとする。聞きつけたダーシー卿は騎手のグウェンドリンを誘拐し、欲望を遂げようとする。監禁されがちがちに縛られるグウェンを、U-89が助けに来る。かろうじて救出されるが、ダーシー卿の妨害は執拗に続く。
『Sir d’Arcy & Wasp Woman』はゴールドカップの後日談。グウェンを逃しレースでも負けたダーシー卿は収まらない。相棒の“M”にそそのかされ、再びグウェンを森に縛り付けるが、事態は意外な方向へ転がる。『Sweet Gwendoline in “The Escape Artist”』では、事件後に懇意になったグウェンとU-89(69)が、U-89のコテージで夏のバカンスを過ごす。その時間を使い、U-89はグウェンに縄抜けを教えようとする。毎日あらゆる手段で縛られるが、解ける気配はない。解けるはずのない拘束を課して楽しんでいたのだ。知らぬグウェンは、寝るときまで鎖をかけられる生活に慣れていく。
『Gwendoline and “The Missing Princess”』では、縄抜けが上達しないグウェンがU-69の叔母アンティーの家へ招かれる。二週間滞在し、レディーのたしなみをみっちり仕込まれ、コルセットや革の拘束具で不自由な身体のまま「しとやかに」歩かされる。その不自由さが災いして、侵入した悪漢に捕まる。悪漢はある王国の姫をさらった女性たちで、姫が従わないため、顔の似たグウェンを代役に仕立てようとする。古城の地下室で、姫と侍従への拷問を見せつけられるグウェン。自分にも来る責めに耐えられるかが問われる。
単行本、スタントン、1984年の映画
単行本は BELIER PRESS Inc. 発行の『The Adventure of Sweet Gwendoline』。エリック・スタントンによる続編『Sweet, Sweet Gwendoline』では、より激しくいじめられるグウェンが描かれた。1984年には『Gwendoline』という映画がフランスで制作・公開され、日本では『Gwendoline ゴールドパピヨン』の題でDVD化された。原作の繰り返し拘束とは趣が大きく異なる。
繰り返される捕縛と、出版規制
ウィリーのグウェンドリンは、複雑な陰謀より、捕まる・助けられる・また捕まる循環そのものが主題である。『Bizarre』に載った初期は裸にされず、規制が緩んだ後期とスタントンの続編で裸が増える。U-69とU-89の改名も出版規制の痕跡だ。グウェンは21歳未満とされた当初の設定のまま、遺産暮らしの世間知らずとして描かれ、警戒心がなく自ら最悪へはまる。LIGHTNING号のジョッキー、ゴールドカップの借金返済、ダーシー卿の結婚強要。U-69の白上下と黒コルセット、踵のピッキング、サディスティックな愛情。アンティーの淑女指導、フィフィの躾、Mとザザの謀。作者の投影とされるチビの三流貴族ダーシー卿は、捕えてはポカをやり、奪還されて終わる。
『Race of Gold Cup』で誘拐され、『Wasp Woman』で森に縛られ、『The Escape Artist』で解けない鎖に慣れ、『The Missing Princess』で顔の似た姫の代役にされる。縄抜けの才能がないグウェンを、U-69は教えつつ楽しむ。BELIER PRESS の単行本がシリーズをまとめ、スタントンがさらに強くいじめ、1984年のフランス映画が別の趣へ移した。ボンデージ漫画としての核は、金髪のグウェンが悪漢に拘束され、美女に助けられ、また縛られる反復である。













