エミリー・マリリン(Emily Marilyn、1977年11月15日生まれ)は、アメリカのボンデージ・モデルである。ボンデージとフェティシズムを主題にした映画と写真に数多く出て、愛好家のあいだではジュエル・マルソー、イブ・エリスと並んで名前が挙がる。スクリーン上で男女の性交を演じない点が、同業の多くのモデルと違う。残っている映像はレズビアンのパフォーマンス程度で、挿入を売りにする主流ポルノの文法からは外れている。それでも商品性は高く評価され、ニッチなフェチ市場から主流の成人映画へ横断した。
ブレイク作品と、フェチの横断
フェティシズムは成人映画のなかでは狭い棚だ。エミリーはその棚に留まらず、プロデューサーのアンドリュー・ブレイクから『Justine』や『Adriana』への出演を頼まれた。『Jenna Loves Pain』ではフェチシズムそのものを前面に出した。ポルノ業界が彼女を「使える」と判断したのは、拘束と衣装と視線の密度であって、男女の本番ではない。ボンデージ映像の商品価値を、主流の成人映画側が借りに来た形である。ニッチが主流に食い込むとき、よくあるのは本番を足すことだが、彼女の場合は逆だった。本番を足さず、拘束の見栄えを貸した。
モデル業はいまも続く。アダルトファッションのカメラマン、リチャード・エーブリーをはじめ、複数の撮影者と組んでいる。活動の幅はヘビーメタル系の雑誌面にも広がった。ボンデージ・モデルとしては例外的に知名度が高く、ジハード・ジェリー・アンド・ジ・エヴィルドアーズのミュージック・ビデオ『Army Girls Gone Wild』にも出ている。フェチの内側で完結せず、音楽映像とファッション写真の側へ顔を出すのが、彼女の立ち位置である。メタル誌の読者がボンデージを見るとき、AVの棚からではなく、衣装とポーズの棚から入ることになる。
SIGNYと変名
ボンデージ愛好家がモデル、カメラマン、作家から選ぶSIGNY Awardsでは、トップ10に入る評価を受けている。順位そのものより、撮る側と撮られる側と書く側が同じ票を投じる場で名前が残ったことが重要だ。ジュエル・マルソーやイブ・エリスと同じ棚に置かれるのは、その票の結果である。業界の宣伝文句ではなく、フェチ側の投票が彼女の位置を決めた。モデル、カメラマン、作家が同じ名簿から選ぶ賞で、トップ10に残ることは、出演本数より拘束の画面が愛好家の基準に合っていたことを示す。
出演先の会社によって名前を使い分けた時期がある。LBOボンデージ・フィルムではヘーゼル・ペトロー(Hazel Petrow)を名乗った。この芸名はいまは使われていない。エフエム・コンセプト社ではモリー・マシューズ(Molly Matthews)として活動する。変名は作品の棚を分けるための道具であり、本人の顔と拘束のスタイルは同じである。1977年生まれのボンデージ・モデルが、男女の本番を撮らずに主流成人映画とメタルのビデオまで横断した、というのがエミリー・マリリンの輪郭だ。Justine と Adriana と Jenna Loves Pain、エーブリーの写真、Army Girls Gone Wild。Hazel Petrow は廃棄され、Molly Matthews はFMコンセプト用に残る。名前が三つあっても、残るのは拘束の画面である。レズビアンのパフォーマンスに留め、男女の本番を撮らない選択が、かえってブレイクとSIGNYの票を呼んだ。












