ウィッピング(Whipping)は、BDSMプレイの一環としてパートナーを鞭で打つことである。見栄えがするため、ショーでもよく使われる。かつて鞭打ちは刑罰だった。痛みという肉体の不安と、傷跡が残るかもしれないという心理の不安が、そのままプレイの核になる。サディストがマゾヒストを打つとき、ただの暴力に落ちないことが条件だ。鞭はもともと罪人へ振り降ろされる道具であり、打たれる側が理由を理解していなければ暴行になる。痕が残れば第三者にも知られる。合意の下で行い、望むまま与え続けることも控える。
鞭の種類
プレイ用と実用で種類は多い。商品名と種類名は一致しない。バラ鞭は、柄から数本の革紐が束ねられたものを指すことが多い。9本なら九尾鞭(cat-o-nine tails)、それ以上は千条鞭と呼ばれることがある。音は大きいが打撃面が分散し、痛みは比較的少ないとされる。入門向け。乗馬鞭の先端が複数に分かれたものをバラ鞭と呼ぶ場合もある。初心者向けには、革紐を柔らかいスエードやフェルトにしたクッションバラ鞭が売られている。
一本鞭は鞭が一本になったもので、主にラバー鞭と編み上げ鞭がある。ラバー鞭は鞭部がゴムチューブで、重量があり打撃が重い。編み上げ鞭は革紐を一本に編んだもので、丈夫で軽く、打撃がシャープだ。柄の先からすぐに鞭になるものを一本鞭と呼ぶ。打撃面が細いため痛みは強く、上級者向けである。乗馬鞭は柄から細い棒が伸び、先端に皮のチップが付く。馬を追う道具であり、人へ使うと非常に危険だ。伸縮式のテレスコピックは耐久が低く、プレイ用。本物は厚い馬の皮膚を通して痛むよう作られた、丈夫で危険な鞭である。追い鞭は、棒の先からさらに長い鞭が伸びる。カウボーイや牧童が牛馬を追う型で、小さな動きで遠くを打てるが操作に熟練が要る。反動で自分を打ちやすい。一般のBDSMではあまり使わず、ポニープレイで出る。
打ち方と部位
鞭は武器としても使われ、皮膚を切り裂く威力がある。しなる素材のため、先端が慣性で身体にまとわり付き、予測外の痛みを与える。予測した痛みには耐えられても、予測外の痛みには身がすくむ。先端がもっとも速くなるので、先のほうを対象へ当て、速度を意識する。乳首など鋭敏な部位は避ける。胸や性器を打つなら、できるだけ身体と水平に当て、肘か肩を支点に大きなストロークで打つほうが痛みは少ない。巻きつきを避けるのが要点だ。合意があればより痛い打ち方も試せるが、遠心力で加速した鞭は凶器になる。
初心者が掌から始める例がある。皮膚が比較的丈夫で、生命維持に重要な器官を内蔵していないためだ。この打ち方の型は、欧米とくにイギリスで行われた体罰——両手を出した掌を教師が笞で叩く形式——の歴史を、成人同士のプレイが借りたものにすぎない。学校の体罰そのものをエロティックに再現することが目的ではない。ふとももも、安心して打てるとされる部位である。一般的なBDSMでは尻、あるいは背中を打つ。背中は痕が残りやすく、衣服の外から見えやすい。傷が残ると一人では手当てできない。慣れてから下腹部、乳房、性器へ進む場合は、場所を選び、加減する。性器用の鞭も市販されている。
前戯、お仕置き、権威の象徴
性的嗜好としてのウィッピングは、性行為の前の前戯の意味が強い。年季の入ったマゾヒストなら、掌への鞭打ちだけで絶頂に達することがあるとも言われる。基本は、尻や胸の肉の変化と苦痛の声を楽しむことだ。マゾヒストの嫌がるプレイを強要するための前段としても使われる。独特の道具が「お仕置き」のイメージを濃くする。痛みを好む相手に望むまま打ち続けるのは、プレイとしては単調になりやすい。声を出さずに何発耐えられるか、といった条件を出して限界を確かめ合うほうが、互いの読み合いになる。
柄に張形を仕込み、打ちながら別の責めを重ねる鞭もある。サディスト(ドミナント)の権威を象徴する小道具としても手元に置かれる。見せるための鞭と、当てるための鞭は同じではない。バラ鞭の音、一本鞭の鋭さ、乗馬鞭の危険、追い鞭の射程。種類を選ぶことは、合意の範囲を選ぶことだ。クッションバラ鞭から始め、一本鞭へ進み、乗馬鞭は危険を知ったうえで扱う。性器鞭は加減が前提だ。刑罰の記憶を借りて、大人同士が痛みと痕の不安を性に変換する。それがウィッピングである。












