『イマージュ』(仏: L’Image)は、カトリーヌ・ロブ=グリエがジャン・ド・ベール(Jean de Berg)の筆名で1956年に発表した小説である。パリを舞台に、主人公ジャンと写真家クレール、その「モデル」アンヌの三人で倒錯と女性の性を描く性愛文学だ。『O嬢の物語』の余波のなかで匿名のまま出され、著者当てが文壇の話題になった。冒頭にはポーリーヌ・レアージュが序文を寄せている。BDSM読者にとっては、視線と写真と服従が同じ部屋で結びつく本である。
十の章と、パリの三人
本文は十章で進む。榊原晃三訳の章題は次のとおりだ。「X…家の夜のパーティ」「バガテル庭園の薔薇」「お茶と、その結果」「偽りの行動」「写真」「贖罪の供物」「試着」「浴室にて」「ゴチック様式の部屋」「すべてがもとどおりになる」。パーティから庭園、茶、偽りの行動を経て写真へ至り、供物と試着と浴室とゴシックの部屋で勘定を合わせ、最後に「もとどおり」へ戻す。クレールが撮る側、アンヌが撮られる側、ジャンが見る側に立つ。倒錯は道具のカタログではなく、三人の配置そのものである。
写真家とモデルと語り手。カメラが拘束具になり、試着が儀式になり、浴室が公開の場になる。章題だけでも、視線の所有が物語の骨格だと分かる。レアージュの序文は、『O嬢の物語』と同じ棚へこの本を置く合図だった。サディズムとマゾヒズムを概念として語るより、パリの室内で誰が誰を見るかを先に書く。
筆名ジャン・ド・ベール
作品は主人公と同名のジャン・ド・ベール名義で出た。『O嬢の物語』発表から間もなく、正体をめぐって名前が飛び交った。評論家ジャン・ポーラン、レアージュ本人、その他フランス文壇の大物が疑われた。のちに、発表後に小説家アラン・ロブ=グリエと結婚した女優カトリーヌ・ロブ=グリエの作だと明かされる。ペンネームは隠蔽であると同時に、作中のジャンを作者の位置へ重ねる仕掛けでもあった。1970年代までの日本語表記は「ジャン・ド・ベルグ」である。
1975年の映画と日本語訳
1975年、ラドリー・メツガー監督で『イメージ』(The Image)として映画化された。89分。原作に沿った十章構成を保つ。小説の章立てを、映像の区切りとして残した翻案である。日本では1967年、榊原晃三訳が講談社から出た。その後、行方未知、伊藤緋紗子の訳も出ている。1973年の牧神社版は訳者名を伏せていた。当初の邦題は『肉体の映像』。以降の訳では原題どおりの『イマージュ』、あるいは『イマージュ 甘美なる映像』となる。題名が肉体から映像へ戻る過程は、この小説が描くもの——身体より先にイメージが所有されること——と重なる。1956年の匿名、レアージュの序、1975年のメツガー、1967年の榊原訳。パリの三人は、写真のほうから先に読者の手元へ来た。













