安里咲1 第1部 (1/5)
次の話
SM小説 亜由美シリーズ5
安里咲1
あんぷらぐど著
荒縄工房・発行
本作品はすべてフィクションであり、実在する人物・地名・団体とは一切関係ありません。また、特定の個人、団体、宗教、人種、性別などを誹謗中傷する意図はありません。
あんぷらぐど
SM雑誌に「仲ゆうじ」名でSM小説を執筆して作家活動をスタート。その後、作家活動は休止し、編集の仕事に携わる。ネットでは「ふにゃふにゃ」「あんぷらぐど」名でSM小説を執筆。独自の自虐的SM、一人称による告白形式の作品、伝奇SM小説などを発表し続けている。東京在住。
はじめに
本書は、亜由美シリーズの一冊です。「亜由美 第三部」に登場した安里咲を主人公とした作品です。亜由美シリーズとして同じ世界観で描かれています。
独立した作品としてお読みいただくことも可能ですが、登場する人々や場所の多くは、ご存知であることを前提に書かれていますので、その点はご容赦ください。
剛介たちは亜由美がパルダ王国に留学の名目で人質に取られたため、新たな奴隷を必要としていました。また、剛介には亜由美を取り戻すために、交換条件としての新しい奴隷を必要としていました。亜由美の立場は「亜由美 灼熱編」もご参照ください。
そして剛介は、次の犠牲者として安里咲に目をつけたのです……。
亜由美シリーズ
1、小説『亜由美』第一部
2、小説『亜由美』第二部
3、小説『亜由美』第三部
4、『亜由美』灼熱編
5、『安里咲』1(本書)
6、『安里咲』2
主な登場人物
わたし
(安
里
咲
)
亜由美と同じ大学の新入生。亜由美の拷問実験に参加した。
登美子 佐智子
映奈
亜由美の拷問実験に参加した女子大生。
剛介
亜由美が憧れた先輩。「亜由美の会」を作る。
末
土
教授
亜由美に興味を持ち、拷問実験を企画して実施。
野川陽子
末土教授の夫人。事実婚。
渡辺奈美
女子寮の寮長。柔道経験者。
三上
彩
芽
ゲー研初の女子部員。女子寮に住む。寮長の助手的存在。
珠緒
かつての安里咲のバレエ教室の友人
ミハイル・マーコフ
ロシア系のバレエ教師。安里咲の初恋の男。
ゲー研
大学のサークル。剛介の提案で亜由美のゲームを作った。
嫌われ者でもいい
わたしは、大学に近いカフェで、居心地の悪い思いをしていた。
五月六日。金曜日。ゴールデンウィークはこの週末まで続く。のんびりとした町は、いつになく大人びて、地元に残っている人たちのくつろぎの場となっていた。
初夏の日差し。空まで広くなったように見える。
アイスカフェオレの氷が溶けてしまっている。
「安里咲、なにがあったの?」
テラス席で登美子、佐智子、映奈に囲まれる。
彼女たちの圧力に耐えられない。
大学に入ってから、限られた数人以外とは、あまり打ち解けられなかった。登美子、佐智子、映奈と親密になったのは、つい三日前のことだ。
末土教授の誘いに応じてアルバイトだと思い、ある実験に参加した。それは心理実験のようでいて、一人の女性を徹底的にいたぶる、思い出すのも忌まわしい拷問ショーだった。
あれがすべて芝居だったとしても、心には深い傷が残っている。
あんなものに参加しなければよかった。少しでも大学に溶け込もう、チャンスがあれば教授や新しい友人と自然に話ができるようになりたい。そんなわたしの願望は、みごとに裏切られた。
昨日、耐えきれず亜由美を見捨てて実験から逃げ出してしまった。
彼女のことが心配でならない。かといって、自分になにかができるわけでもない。
せっかく直接、亜由美と話をする機会を与えられたのに。のような体を破壊するような暴力を、彼女は自分から求めていた。
どうしてあそこまでするのか。
理解ができなかった。
演技などといえる範囲を逸脱していた行為……。たくさんの黒人たちに犯され、鞭打たれ、焼かれ……。
思い出すだけでも、ゾッとする。
「黙ってちゃ、わからないじゃない」
あのショックからまだ立ち直れていないのに、早々に実験から逃げた登美子たちに呼び出された。
どうしたわけか、彼女たちは、わたし一人、あのあと末土教授のもとに戻ったことを知っていた。
「あれって、ウソだったのよね? 教授と亜由美は結託して、わたしたちを笑い者にしたわけでしょ?」
トゲトゲしい口調だ。
忌まわしいことに関わってしまった怒りの裏返しであり、同時に、自分たちは悪くないのだ、と信じたい気持ちからくる歪んだ心理ではないか。
そう感じたが、口には出せなかった。
耳元にはいまも、息絶え絶えの亜由美の声がこびりついている。
「だって、わたしは拷問の実験台なのよ。死んでしまったら実験ができなくなる。あの人たちはプロなのよ」
そう言って笑っていたのだ。殺されたりはしない、プロがやるのだから大丈夫だ、と。
そんなことはない。
絶叫を続けたために枯れてしまった声。
焼けた棒を乳房に押しつけられ、スタンガンを浴びて悶絶していた亜由美……。
皮膚は焼け、腫れ、裂けていた。特殊メイクではない。わたしの目の前で加えられた、たくさんの傷……。
いま頃は、死んでしまっているかもしれない……。
見捨てなければよかった。
後ろめたさがあった。
ところが、目の前の三人はどうも、そうではないようだ。
「あんた、教授とどういう取り引きをしたの?」
「え?」
「そうよ。あとで考えたら、あれって四人のうち最後に残った一人を選ぶための芝居だったんじゃない? わたしたちはまんまと騙されたのよ」
彼女たちは、傷ついた亜由美を、直接見ていない。マジックミラー越しで、作り物じみた拷問室を見ていただけだ。それは生まれてはじめて見る陰惨な光景だった。同時にパソコン画面の中の、ゲームのようだった。
わたしは、あの部屋に入ったから知っている。
亜由美は傷つき、汗や小水にまみれていた。男たちはムッとするようなケモノじみた体臭を発していた。あの部屋は恐怖そのものだった。
あれは、ホンモノだった。
それを彼女たちに語ることなどできない。だから、返事ができずにいた。
「安里咲はあそこに戻ったんでしょう? なにをしたの。なにがあったの? なにを貰ったの?」
「なんにもありませんでした」
「なによそれ。そんなわけないじゃん」
「そうよ。よっぽどいい目にあったんじゃないの?」
「あなた、教授のお気に入りになったわけ?」
「違います」としか答えられない。
末土教授のお気に入りになるなど、ゾッとする。
「いい。わたしたちは選ばれた四人なのよ。あなただけ、抜け駆けしたんだから、報告する義務があるわ」
「なにがあったのか、言いなさいよ」
「ズルイわよ」
よく、そんなことが言える。ため息をつくしかない。
「教授に聞いてください」
やっと考えついた答えだった。
「ええ。そうするわよ。レポートを出すときに、わたしたち、徹底してこのことについて、教授をつるし上げるつもりよ。場合によっては大学に訴えるかもしれないわ」
そんなことをしても、亜由美が救われるわけではない。彼女たちはまったく亜由美のことを心配していないのだ。
なんのために教授を糾弾するのか。
亜由美のためではない。自分たちのためだ。
あの教授も、あれだけのことをしたのだ。大学を去ることも含めて、たいがいのことを計算しているはずだ。
「安里咲じゃ話にならないわ」
「わたしたちだけで考えることにしましょう」
「安里咲、あんた一人で抜け駆けするんじゃないわよ」
三人が、黙っているわたしをあきらめてどこかへ行ってしまうと、少しホッとした。
彼女たちは友だちとはいえない。顔見知りではあるが、あの実験ではじめて知ったのだ。彼女たちも亜由美に酷いことをした。わたしも、亜由美を痛めつけた。助けることができなかった。
その罪悪感をあの三人は、わたしにぶつけ、今度は末土教授にぶつけるらしい。
わたしは誰にもぶつけられない……。
この罪悪感から逃れることはできない……。
帰ろう。ここにいてもしょうがない。
そう思ったとき、テーブルに影がさした。
見上げると、爽やかな笑みを浮かべた男子がいた。
「こんにちは。剛介です。失礼ですけど、安里咲さんですよね」
「え?」
「すみません。ちょっとだけ時間、いただけませんか?」
「なんのことでしょう。わたし、帰るところなんです」
「末土教授の助手をしているんです、ぼく」
「えっ」
「ちょっとは興味あります? ナンパじゃないんです。教授からの頼まれごとなんですけど。すぐ終わりますから、聞くだけ聞いてください。そうしないと、今度教授があなたに会ったときに、確認すると思うんですよ。ぼくからなにか聞いていないかって。安里咲さんにとぼけられたら、ぼくが困っちゃうんで……」
学生証を見せてくれた。剛介は学生で、二年先輩だ。いい加減なことを言っているわけではなさそうだ。
亜由美のことが知りたかった。彼女がいま無事でいるのか。あのあと、ちゃんと治療されたのか。大学には戻ってくるのか。
それにあのような実験をした末土教授のことも知りたかった。ほかの三人ではないが、場合によっては警察に通報しなければならない。
「ちょっとだけ助手をしていた亜由美という子がいたんですが、ご存知ですか? 彼女は今後は講義に出られないらしいので、新しい助手が必要になるんです」
「それって、実験の助手?」
あまりにわたしの表情が険しかったのだろう。剛介はびっくりして「実験? どんな?」と慌てていた。
「実験のことは知らないけど、講義の助手について、あなたがいいんじゃないかって教授に言われたのです。打診しておいてくれと」
「どうしてわたしなんですか?」
「教授が写真つきでメールをくれたので……」
いつの間に写真を撮られたのだろう。
あの実験のときではないか。あの実験の被験者はわたしたちだった。だからモニタールームにいた間、ずっと撮影されていたのかもしれない。
「あれっ。教授のことをご存知だと思っていました」
知らないわけではない。ただ、公にするのはちょっとはばかられるだけだ。
「前回の講義には出ましたか?」
「ええ」
「そのとき、教授が学生を一人、壇上に呼んだんですけど、覚えていませんか」
「ああ、そうですね、亜由美さん」
「そう。犬の首輪をしていた彼女。覚えていたなら早いです。彼女の代わりが必要なんです」
「亜由美さんになにかあったんですか?」
もし本当に末土教授の助手なら、剛介は実験や亜由美について知っているはずだ。
あのあと亜由美が重傷で入院したか、最悪の場合は死んでいるかもしれない。
すぐに席を立ちたいが、確かめてからでも遅くはない。もし末土教授が犯罪的な行為(そうとしか思えないのだが)に手を染めているのなら、告発しなくてはならない。
問題は、亜由美だ。
彼女がピンピンしていて、すべてを笑い飛ばしたら、バカを見てしまう。亜由美になじられるかもしれない。
「あなたが余計なことをしたから、わたし、とんでもなく恥ずかしいことになっちゃったじゃないの」
あの実験は限られた空間で実施されていた。関係者も少ない。それでいて、秘密にする気はないようだ。なにしろそのことをレポートにして提出しろというのだから。
だとすれば、わたしが考え過ぎなのだろうか。
「大学なんだよ、ここは。そんなことあるわけないじゃん。すべてお芝居なんだってば」
亜由美がいまにも、そのあたりから歩いてやってきて、そう言うかもしれない。
自分の見たこと、感じたことを百パーセント信じているつもりでいた。しかしわずかに、それがすべて自分の勘違いであって、亜由美たちの悪いイタズラである可能性も捨て切れずにいた。
確かめたかった。
「亜由美さんは、いま、どうしているんですか?」
「それがねえ、困ってるんです。末土教授の推薦もあって、短期留学が急に決まって、出発しちゃったんです」
「え?」
「こんなところだそうですよ」
剛介が携帯の画面を見せる。
南国のリゾートを思わせる石畳み。レンガの建物。光線がまぶしい。
「そこは?」
「パルダ王国です。ご存知でしょう? 天然資源が豊富で、小さな国ですけど、日本ともかなり深いつながりがあります」
「聞いたことはあります。東南アジアですね。国民の幸福度が高いらしいとか……。ブータンほどではないらしいですけど」
「そうなんです。基本、貧しい人がいませんからね。政治も安定していますし。日本に比べたら天国ですよ」
「独裁国、ですよね?」
「まあ、一長一短あるでしょうね。なかなか立派な国立大学があって、亜由美さんは今日、その国へ向かったそうです」
「今日!」
「ええ。今日ですよ。なにか、妙ですか?」
安里咲は思う。あれだけのダメージを受けた人間が国外に出られるのだろうか。飛行機に乗るところなど想像できない。
亜由美は無事なのだ。あれはやはり芝居だった……。
あそこにいた、未知の言葉を話す黒人たち。彼らはその王国と関係があるのではないか。
「いいよなあ、留学なんて。そのうち末土教授のところに、向こうの生活についての写真とかメールが来ると思いますよ。うらやましいですよ」
「それで?」
「彼女にやってもらおうと思っていた助手を、誰かに代わってもらいたいんです」
わたしは剛介を見た。ウソをついているようには見えない。二年しか上ではないのに、ずっと大人に見える。目が鋭いのが気になるぐらいで、ナンパされて付き合ってもいいという女性はたくさんいそうだ。
わたしのタイプではないけども。自分のタイプは……。別の忌まわしい記憶に触れそうになって、頭を振った。いまはそんなことは関係ない。
「誰でもいいわけじゃないんです。ぼくじゃダメだって言われてしまいました。難しい役目ですからね」
「亜由美さんって、講義のとき、みんなからいろいろ言われていましたけど……」
登美子たちが激しく攻撃していたのである。あれも末土教授の実験なのだろうか。
「とくに女性からの反発がすごかったですね。ああいう役は、誰もやりたがりません。亜由美さんはすごく頭がよくて、一発で教授に気に入られて、あれを引き受けたんですけどね。たまたまその前に申請していた留学を、向こうが受け入れたものだから……」
「そうなんですか」
「おそらく、亜由美さんはあっちの大学でしばらく心理学を勉強して、それからアメリカの大学へ移ると思います」
「アメリカ! どうして」
「パルダ王国の国立大学は、アメリカ屈指の名門大学と深い関係があるんです。かなり有名な教授がわざわざやってきて講義をしていますし、インターネットでアメリカの生の講義に参加できたりするんです」
「すごいですね」
「あの王国は天然資源を除けば、人材しかないわけですから。人を育てることにお金を惜しまないんですね。観光開発はしません。観光ビザはまず出ません。江戸時代の鎖国に喩える人もいますね。国土が狭いので、荒らされたくないのかもしれません。建物もシンガポールやドバイのような高層ビルを建てたりせず、古い植民地時代のものを、いまでも大切に使っているそうです」
「亜由美さんはすごいんですね」
「そんなことないですよ」
剛介はさらりと言う。
「教授によると、安里咲さんの方が学力、語学力でもずっと高いらしいじゃないですか。亜由美さんは、ぼくに言わせれば少し焦っていましたね。この大学に入ったものの、目標を見失いかけていたんでしょう」
そんなことを言われたら自分だって同じだ。四月に入学し五月になって、早くも興奮は冷め、教授も学生も、自分が想像したようなレベルではないような気がしていた。
本当にここでいいのだろうか。
末土教授から声がかかり、実験の手伝いを頼まれたときは、チャンスがあると思った。自分の人生がこれで変わるかもしれない。この大学へ来た意味が見いだせるような出会いがあるかもしれない。
ところが、そこで目にしたものは、自分の人生でこれまで想像したこともないような最悪の世界だった。陰湿で残虐で暴力的な世界だった。
あれがすべて芝居だったとしても、裸の亜由美を見ているし、亜由美の肌がどうなっていたか、間近で見ている。
演技もあっただろう。だが、実際に亜由美も傷ついていたに違いない。
あんな異常な世界。
わたしには耐えられない。
そしてさっきは、三人に意地悪なことを言われ、責められた。彼女たちにも目をつけられた。
ますますこの大学にいる意味を見失いつつあった。
「たぶん、安里咲さんは、末土教授を誤解しています」
「え?」
剛介は爽やかな笑顔を見せた。
「末土教授は誤解される存在なんですよ。そう仕向けているんです。困ったものです。あれでも、すごく美しい奥さんがいますし、研究論文は海外で高く評価されています」
その話は耳にしたことがあった。
「わたしなんかにできることでしょうか?」
「できますよ。末土教授と一緒に、嫌われ者になる覚悟があるならね!」
剛介の笑顔につられて、思わず笑ってしまう。
「あ、安里咲さん、笑うとすごくきれいですね」
「やめてください」
「ごめん。亜由美さんにも怒られましたよ。ぼくはちょっと口が軽いのかな」
「あ、いえ」
剛介は先輩である。安里咲は恐縮する。
「いいんです。嫌われ者になると、いいことがいっぱいありますよ」
「ホントですか?」
「ええ。つまらない誘いが来なくなるし、ホントにわかり合った者だけで、どんどん先に進むことができますし。第一、脳天気に楽しそうにしているバカ者どもに付き合う必要がなくなりますからね」
安里咲はため息をついた。
自分をなじりにきた三人の顔が浮かぶ。彼女たちは徒党を組むのが好きで、わたしのような一人でいても平気な者を嫌う。ああいう人たちと付き合うのは面倒なことだった。
嫌われるのが前提なら、それも苦ではないかもしれない。
「でも、嫌われるんですよね?」
「そうです」
「メリットがなさすぎません? 四年も耐えられるかしら」
「大丈夫。亜由美さんみたいに留学すればいいんです」
「留学はダメです。親が許さないでしょう。お金もかかるし」
「あれ、言いませんでしたっけ。パルダ王国は大金持ちなんですよ。そこの審査に受かった学生は留学費用なんていりません。支度金のほかに、留学中もなんだかんだと手当を貰えます。世界中から優秀な学生を募っていますよ」
「うそ!」
「ホントですよ。じゃなきゃ、亜由美さんだって行きませんよ。彼女の家だってそんな裕福じゃない。この大学にはすごい金持ちの子女もいるでしょう? 普通のサラリーマンの家の子どもなんて、ぼくもそうなんだけど、まったく太刀打ちできません。まして留学なんてね」
「剛介さんは、行かないんですか?」
「受かりません。男女ともに少数の募集です。日本は特別な枠があるんです。末土教授はあの国と太いパイプがあるらしいから……。だけど、競争率はめちゃくちゃ高い。あくまでウワサですが、国立大学には王族の子女もいるわけです。とくに男の子があの国では多いらしい。その中で日本人女性への強い憧れがあるんじゃないでしょうか。なんだか、男は落ちて、女性は受かるらしいんですよ」
「ホントですか?」
剛介の冗談だろう。
女性が優遇されるサービスは世の中にあるものの、女子大生を優遇する国があるなどと聞いたことはない。だったら写真審査でもあるのでは。水着審査とか……。
裸になって?
亜由美のことを連想する。彼女はあの実験で留学に合格したのではないか。裸になってすべてをさらけ出し、向こうの国から派遣されたあの黒人たちに認められたとき、彼女は合格となった?
まさか。
だとしたら、わたしは留学はしない。そこまでして行きたいとは思わない。あのように汚されて、ケモノの悦びに浸るのはゴメンだ。
「安里咲さんは、モテそうだから、どうします? 王族から付き合ってくれって言われたら……」
「そんな……」
笑ったが少し不自然だったかもしれない。あの拷問をしていた黒人たちこそ、その王族の連中ではないか。
「マジメな話。ケタ違いの金持ちですからね。この大学にいる金持ちの学生どもが束になっても勝てないですよ」
「そんなに?」
「天然ガスの輸出だけでどれだけ稼いでいるか、あとで調べてみたらいいですよ」
妙な気持ちになっていた。
あのボロボロにされていたように見えた亜由美が、いまは南国のすばらしいキャンパスにいる。そして王族の子女と一緒に、アメリカの一流大学の教授の講義を受けている……。
もし体を使ったとしても、それは、すごいことだ。汚らわしいが、自分の力で得たものだ。わたしにはとうてい、真似できないが……。
「募集は年に一度ですか?」
「そうですね。たしか二度あったと思います。春と秋。いまからでも秋の募集に間に合うでしょう」
「亜由美さんの場合は?」
「大学に入ってすぐ申請して四月末に発表の選考で合格。五月にはもう向こうですからね。八月の選考で、受かれば九月にはパルダ王国ってことになりますね」
「期間はどれぐらいですか?」
「当初は三か月以内の短期留学ですけど、本人しだいで延長できるそうです。向こうで卒業してもいいし、さっき言ったみたいにアメリカの大学へ移ってもいい。合わなければ帰ってくればいい」
三か月ぐらいなら、ちょうどいい。
もし亜由美が戻って来たら、話を聞いてみたい。選考方法さえちゃんとしているのなら、厳しい父母を説得できるのではないか。
「わたしはムリだと思いますけど……」
「留学のことは、いつでもいいじゃないですか。それよりも、嫌われ者クラブに入るかどうか。それだけでも、考えてみてくれませんか? できれば、返事は今日がありがたいんですけど」
「えっ、今日?」
「末土教授はせっかちなんです。次の講義が来週火曜日、水曜日とあるんで、それまでに探さないといけなくて……。もし安里咲さんに断られたら、すぐ次の候補を探さないと」
「そうなんですか……。ほかの候補っているんですか?」
「末土教授はあなたが一番なんです。ほかに三人ほどいないわけではないそうですが、できればその人たちは避けたいらしい……」
あの三人だろうか。
「じゃ、えーと、何時にします? 少し考えますよね。五時半でいいですか。六時にしましょうか。この大学を出てすぐの商店街にある居酒屋、ご存知ですか?」
「ええ、まあ。行けばわかると思います」
「すぐなんで、そこに来ていただければありがたいです。あ、お金は心配しないで。これは教授の経費ですから。返事はどっちでもいいです。ぼくは安里咲さんと知り合えたし、一緒に飲めたらうれしいですから」
「わかりました」
笑うしかなかった。やっぱりナンパではないか。
「じゃ」
剛介は小走りにキャンパスから出て行く。
下心があるにしても爽やかだ。ああいう男性と普通の恋愛ができるような体質ならよかったのに、と思う。
時計を見た。考える時間はあと四時間ほどしかない。
誰かに相談するべきだ。
しかし、奇妙な胸騒ぎも感じている。第一に、剛介という人間だ。信じていいのだろうか。もうほとんど信じかけているのだが。
末土教授が信頼しているのなら、一定のレベルに達しているとみていい。
教授の名を出してわたしを騙すとしたら、手がこみすぎている。それこそわたしが教授に電話したらすぐバレてしまうだろう。電話してみよう。
そしてパルダ王国の話。亜由美は頑張っていたのだ。そんないい話があるから、体をなげうって芝居をしていたのである。
みんなから嫌われたとしても、そんなものはなんの意味もない。長い人生の中で、本当に重要なものは、自分だけが進める道を見つけること。
わたしはあの三人と同類にはなりたくない。
たとえ留学はムリでも、末土教授や剛介の仲間に入ることのほうが、表面だけの友情や表面だけの正義をふりかざす登美子、佐智子、映奈らと組むより、ずっと自分のためになりそうだ。
剛介が去ってほとんどすぐに、決めていた。
居酒屋へ行き、剛介に話すのだ。「やってみます」と。
突然の危機
「うれしいですよ。教授も喜びますよ」
居酒屋のカウンターで剛介は、携帯を取り出し、すぐに教授に電話をかけた。
「はい。安里咲さんが引き受けてくれるそうです。ぼくから説明しておきます。あ、代わります」
剛介の携帯電話を借りた。
「安里咲さん。ありがとう。事前の打ち合わせをしないので、ぶっつけになるんだけど、剛介君からの説明をよく聞いておいてほしい。とにかく朝一番の講義なんで、大変だけど、よろしく頼むよ」
「はい。わかりました」
「じゃ、剛介君に代わって」
ここに来る前に、わたしは教授に電話をしていた。事情を丁寧に説明してくれた。剛介が言ったとおりだった。
「亜由美君はちょっとやりすぎたけど、あれは彼女の演出だからね。ああいうことをしないと留学できないってわけじゃない。安里咲さんは安里咲さんらしいやり方でいいと思うよ」
そうなのか、と少しホッとした。
あのような恐ろしい拷問演出は亜由美自身の発案なのか。あまりにも変わっているが、むしろそれで辻褄があう。
教授が強制したとしたら犯罪だろう。パルダ王国も、世の中に知れたら非難されるようなことだ。
彼女が自分で考えたなら、ギリギリだが許されるかもしれない。
心の中の重石が、少し軽くなった気さえした。
その後、しばらく剛介は末土教授からいくつもの注意点を受けているらしく、神妙に「はい」と返事をし続けていた。
「ふー。先生は喜んでいたねえ。とりあえず、乾杯しよう。安里咲さんは、なにを飲むの?」
「ビール」
「お、いいね。じゃ、生二つ!」
剛介は顔なじみの店員に声をかけウインクをしたように見えた。剛介という男は、変わっている。
「はい、生二丁」
生ビールのジョッキ。先に目の前に置かれ、あとから剛介のものがくる。
「じゃ、かんぱーい」
二人だけで乾杯した。
ビールは嫌いではない。彼はわたしが飲み干すのを見ていた。大胆にも、半分以上をいっきに飲み干してみせた。
「ぷはー」
オヤジのように手で口を拭ってやる。わたしは亜由美ではない。彼や教授に女として媚びるような態度は取りたくない。性を前面に出す彼女の方法を期待されたくなかった。
「すごいですね」
カウンターに座ると、わたしの方が彼より少し背が高いことがわかった。
「笑うと左右にえくぼが出るんですね」
剛介はそう言うと、いっきに飲み干した。
「マスター、生おかわり二丁」
男と二人だけでこうした店でお酒を飲んだことはなかった。剛介には、危険な臭いがある。しかし、それを上回る魅力もあった。話し方は、人を引っ張っていく者のようだし、大学生にしては自信にあふれていて、それでいて大げさな話はほとんどしない。
自信過剰の学生の話には、浮ついたところがミエミエで、痛い感じがするものだけど、剛介はなにかしら、成し遂げている者に特有のゆとりが感じられた。
一言で言えば、大人なのだ。
当たり障りのない話が続き、枝豆や唐揚げといったつまみが出てきて、二杯目のジョッキを飲み干したとき、そのまま、後方に倒れそうになって剛介と店員に体を支えられた。
「あれ、わたし、おかしいわ」
ケラケラと笑っている自分がいた。
自分の体の自由が利かなくなって、笑うしかないのだ。
「大丈夫?」
「帰らなくちゃ」
「少し、休んでからのほうがいいよ」
店員が「そこの座敷、今日はあいているから」と言う。
「え? でも……」
剛介ががっちりと腕を取り、店員も手伝う。引きずるようにして座敷に運ばれる。
酔っ払いを介抱する光景には見慣れている客たち。
「また大学生が飲み過ぎたらしい」「飲み方を知らないな」といった会話を交わして、すぐ興味を失っているだろう。
みっともなくて、恥ずかしい。
だが、この酔い方は普通ではなかった。たった二杯のビールで起こることではない。
緊張が解けたからか。それとも嫌われ者の会に入る決断をしたからか。
それとも……。
剛介のウインクが気になる。
「少し、多すぎたんじゃないか」
剛介の声がしている。
「いま、水を持っていきます。そこにも入れておくので、完全に失神しますよ」
「彼女、けっこうしぶといんだね」
「亜由美よりは背も高いですしね。体が大きいと効き目も違うかもしれないし」
「ふざけるなよ。野性の熊じゃないんだぜ」
二人が笑っている。
わたしは座敷にうつ伏せに倒れたまま動けない。すべては聞こえていて、いま自分が大変なことになっているのはわかっていた。
それでも動けないのだ。
「あとは、誰が来るんだ?」
店員は数人の名をあげた。知らない人ばかり。
「じゃ、四人が五人か」
「十分でしょ」
「おれが合図するまでは、入ってくるなよ」
「了解!」
絶対にやってはいけないことをしたのだ、と思うが、そこでプツッと記憶はなくなってしまった。
縄に絡め捕られて
気づくと、わたしはまだ居酒屋の座敷にいた。ガランとした畳の上に座布団が並び、そこに寝かされていた。大きなテーブルは壁に立て掛けてあった。
気分が悪い。
吐いてはいない。
立ち上がろうとしたが手が動かない。
「あっ」
背中で縛られていた。
それはとてつもないショックだった。生まれてこのかた、後ろ手に縛られるようなことはなかった。罪人でもあるまいし……。
拷問実験の場面がフラッシュバックのように脳裏をよぎる。怖い。ひたすら、怖い。早く、この場から逃げ出したい。
「やっと気づいたんだね」
剛介の声がしている。遠く感じられる。
逃げなくては。なにがなんでも、この場から外に出なければ。
ここは居酒屋なのだから。大学の人がみんな利用している有名な店なのだ。剛介が好きなように使える場所ではない。
「何時だと思ってるんだ。もう十時過ぎたんだよ」
「えっ」
「今日は早じまい。閉店ガラガラさ。それにしても、ビール二杯で失神するとはなあ」
「お願いです。誰にもなにも言いません。このまま帰してください」
「うん。そういうことはあとでいいじゃん」
剛介の態度が変わった。
豹変というのではなく、これまで大人びていてプラスに見えた面が、実はそういう意味ではなかったのだと気づかされたのだ。
この人は裏の顔がある。それが魅力のように見えただけで、それはこっちが小娘だからだ。
「騒いでもいいよ。誰も来ないけど」
店員もグルだった。
「冗談ですよね?」
「うーん、冗談といえば冗談。冗談じゃないといえば冗談じゃないんだな」
「これは犯罪です」
「うん。そうなるね。それで?」
「それでって……」
「話をするだけだよ」
「だったら、解いてください」
「それはダメだ。話を聞いてくれないから」
「聞きます。約束します」
「亜由美のこと、どう思った?」
「え?」
「拷問実験で君は亜由美にすごく同情的だった。四人の中で亜由美のところに直接行ったのは君だけだ」
「だって、あんな酷いことをされて……。あんな実験、いくら自分で考えたといっても……」
「信じられないか?」
「あたりまえです」
怖い。いまから、あの場所にわたしが連れていかれて、黒人たちに引き渡されて……。亜由美がされたようなことをされたとしたら……。
死んでしまうだろう。
「亜由美が外国に行ってしまったので、みんな困ってるんだよね」
「なんのことですか」
「これを見てほしい」
剛介はパソコンを開いて、ネットに接続すると、裸の女の人たちの写真がたくさん出ている画面から、「ゲーム・亜由美」をクリックした。
亜由美がそこにいた。
それも、わたしがあの部屋で出会った彼女よりは、ずっと元気で健康的な彼女。
小さな画面の中で泣き、叫ぶ彼女は、町の中を全裸で逃げたり、男たちに捕まって、乱暴されたりしていた。
「一種のAVなんだよね」
ゴクリとツバを飲みました。
心臓がバクバクし、気持ちが悪くなりそうです。
「亜由美は自分からこのゲームの企画をして、自分で出演したんだよ。海外でも配信されていて、ちょっとした金になってる」
それがなんだ、と思う。わたしには関係のない話だ。
見ると、その動画は秘部までもが見えてしまっている。ボカシさえない。見たくない部分までも詳細に描かれているのである。
「ああ、これはね。海外のサーバーから配信してるんだよ。だから、収入はドルだけどね」
「話は聞きますから、これを解いてほしいです」
つとめて冷静に言ったつもりだった。相手を下手に興奮させてはいけないから。
「こんばんは」
男たちの声がして、床をサンダルでするような音がバタバタした。
「座敷ですけど、合図があるまで待機だって」
店員の声がしている。
外には男たちばかり。寒気がする。なんてバカなことをしたのだろう。嫌われ者の会? 末土教授の助手? 海外留学? すべてがウソっぱち。自分が大甘だったのだ。
悔しい。剛介を蹴っ飛ばして逃げることはできないだろうか。
できるのではないか。足は自由なのだ。
壁にもたれるふりをして、足を縮め、さっと立ち上がった。思った以上にうまくいった。
剛介とわたしだけだった。彼の手の届かないところへ素早く移動した。襖を閉じられて、店に出られない。だが、思い切って体当たりした。簡単に外れた。
「うわっ」
男たちの声がした。
裸足で冷たいタイルの上におりた。
キャンパスで見かける男もいた。みんな大学生のようだ。店員を含め、五人。剛介を入れて六人。
出入り口へ行くには、彼らを突破しなくてはならない。
がむしゃらに突進した。
「おお! なんだ、どうする気だ」
彼らにぶつかってもいい。店の外へ出よう。
死に物狂いで走った。
「がっ!」
突然、首に強烈な衝撃があり、喉が潰れるような痛みとともに、引き戻されるように後ろに倒れてしまった。
首に縄がかかっていた。
見れば、座敷に立つ剛介が縄を手にしていた。そこから投げ縄で首をとらえたのだ。
折れるかと思うほどの痛み。そして彼がぎゅっと縄を引くので、息ができなくなっていく。
「ぐうっ」
声も出ない。
床に倒れたわたしを男たちが見下ろしている。もうだめだ。逃げられない……。
レイプ願望
「うううう」
手、腕、足を彼らが踏みつけている。
首にからまった縄が、もう少しで窒息しそうなほど締め付けている。
店の床で虫ケラのようにもだえている。こんなみじめで、おそろしい目に遭ったのははじめてだった。
「機材は?」
剛介が男たちに聞いている。
「すぐ用意します」
足元の二人は、踏みつけるだけでは押さえられないと思ったのか、中腰になって手で掴み体重をかけてくる。
手を踏んでいた男たちもそれにならって、掴んでくる。
「やめてください!」
はっきり叫んでも、彼らは聞こえないかのようで、店員と残りの一人はなにかの準備をしている。
「放して!」
わたしが叫んでも、手足に力を入れても、彼らはまったく気にしていない。
パッと突然、目のくらむほどの光を浴びせられた。
「そこでいいよ」
剛介が指示している。彼の声が近い。
光に目が慣れると、剛介がビデオカメラを手にして真上からわたしを写していた。
「なにするの!」
「名前は?」
「いや!」
「名前は?」
「やめて。あなたたち、これは犯罪よ!」
「名前を教えてください」
剛介は平然としている。
これはなんだろう。どこかで見たような光景。無惨に嬲られている女を前にして、みんなが平然と、黙々と作業のように凌辱していく……。
亜由美の拷問実験の場にいた黒人たちのようだ。
まさか、剛介たちはあれをわたしにするつもりでは?
「名前を教えてほしいなあ」
涙でくしゃくしゃの顔を彼らは撮影し、笑って見ている。
足を掴んでいた男の手がスカートの中へ伸びてきた。
「あ、いや! だめ!」
太ももをじわじわと撫でるようにして、その手が這い上がってくる。
「名前を言ってみてよ」
「あ、安里咲」
言うことを聞けば助けてくれると、彼らは約束したわけではない。
だが、名乗ると、スカートの中の手はなくなっていた。
嗚咽が止まらない。みっともないほど脅えている。
「安里咲。いい名前だね。安里咲はレイプって知ってる?」
「レイプ!」
そうだ。これは、まさにレイプだ。
「レイプ映像のファンってけっこういるんだけどさ」
「そんな……」
「安里咲ちゃんはレイプ願望があるって聞いたけど、ホントかな?」
剛介の言葉は不気味にやさしい。
「あるわけないでしょ!」
「またまた」
今度はスカートの中に、左右から男の手が伸びてきた。
「ありません! レイプなんて……」
「安里咲ちゃんはレイプ願望があるって聞いたんだけど、そうなの?」
「いや! ぜったい、いや」
そんなことを求める女がいるわけがない。
彼らの手が太ももの付け根まで伸びてきた。
「いや、いや、いや!」
叫び、泣き、ツバを飛ばして、みっともないほど暴れたつもりなのに、彼らはまったく動じない。
「はー、はー、はー」
荒い息を繰り返しながら、彼らを見る。
指先がショーツにまで迫ってきた。べたっとした手で、太ももを撫でたり揉んだりしながら、とうとうスカートをめくりあげてしまった。
「安里咲ちゃんはレイプ願望があるって聞いたけんだけど、ホントのところはどうなの?」
「ないです……」
もう疲れてしまい、力なく答えた。
「お願い……」
やめて、と言おうとしたとき、ショーツの上まで手が伸びてきた。足をばたつかせても、彼らの体重で、なんのダメージも与えられない。
ここで逃げなければ、こちらがなにを言ってもムダになる。全力で逃げようと体をばたつかせたとき、首の縄がグイッと引っ張られた。
「げえっ」
舌を出し、口を開ける。呼吸ができない。バタバタしても苦しいばかりだ。
剛介はビデオカメラを横に置いて、釣りでもしているかのように、縄を手にしてニヤニヤしている。
「ああああ」
どれぐらい呼吸ができないでいるのだろう。
目の前が暗くなっていき、気が遠くなる。
死ぬのだろうか。
体から力が抜けていった。
気がつくと、畳の上にいた。どこだろうと思ったが、相変わらず、居酒屋なのだった。
「危なかったね。死ぬところだったよ」
剛介が笑っている。悪魔の笑いだ。
「ひっ」
逃げようとしたが、体が動かない。
手を頭の後ろで組んだように縛られていた。その縄は首にきつく巻き付いてもいる。そこから伸びている縄を剛介は手に持っている。くいっと手首を動かすだけで、喉にぐっと縄が食い込む。
状況はまったく変わっていない。
両足に人は乗っていないが、固い棒で足を広げられて、足首につけられた革の枷でがっちりと留められていた。
体の自由がきかない。いや、力を入れることはできる。少しは体をひねったりはできる。
だけど、それだけなのだ。
「話を簡単にしようね。このモニターを見て」
最新のタブレットパソコン。そこに鮮やかにわたしが映っている。さっきの場面だ。
剛介が「名前は?」と聞くと、醜く歪んだ顔のわたしが、「安里咲」と答えている。「安里咲ちゃんはレイプ願望があるって聞いたけど、ホントかな?」と剛介が聞く。すると「お願い」とわたしが言う。
間がカットされていることは、ほかの人にはわからない。このまま素直に見れば、わたしがレイプをお願いしているように見える……。
「お願いされちゃったよ」
「そんなの、インチキです」
「うん。編集したからね。だけどインチキじゃない。この映像が世界中に配信されて、安里咲はレイプ願望の強い女の子ということになる」
「トリックです」
「それを証明したところで、みんなに『これはインチキだ』と伝えてまわるのは大変そうだなあ」
「ふざけないで。ここで終わりにしましょう。あなただって学生でしょう。こんなことをして人生を台無しにするなんてバカげているわ」
「そうだね。バカげているね。インチキな世の中で、バカげたことをする。困ったものだよね」
するっと逃げられるような感じ。
「じゃあ、こうしてあげるね」
剛介がわたしをまたいで、見下ろす。
「安里咲ちゃんは処女なの? まさかね。それだけきれいな子を男がほっておくわけないよね」
返事はしない。できない。
「調べてみようね」
「だめ!」
こっちがなんと言おうと、彼はまったく動揺せず、スカートをめくりあげた。
「薄いブルーのショーツだね。陰毛は濃い方かな」
陰毛……。その言い方……。
頭がおかしくなりそうだ。剛介の足が、わたしの股間の上にゆっくりとおりていく。
アクセルでも踏むように、ぐっとショーツの上から押しつけてきた。
「ぐっ」
なにを言ってもダメで、こっちが言ったことは、彼らの都合のいいように編集されてしまうなら、絶対に言葉を発しないでおこう。それぐらいしかできることはない。
半ば、レイプされることはあきらめていたが、一つだけ、ホッとしているのは、座敷にほかの男たちがいないことだ。
剛介と一対一なら、まだマシかもしれない。レイプされることには変わりはないかもしれないが、逃げるチャンスが生まれるかもしれない。
「どうってことないだろ? 安里咲のマンコにおれのチンコを入れるだけだよ。みんなやってることだぜ」
バカげたことを言う男だと思う。くだらない人間だけが、こんなくだらないことを考え、そして実行するのだ。
ぐりぐりと足で股間を回すように押す。
「あっ」
足の側面が中にめり込んでくる。
大きな親指でねじるようにまさぐってくる。
痛い。反射的にビクッとなる。
「だんだん感じが出てきたかな? 安里咲ちゃんは汁気の多い方かな。何回ぐらいエッチしたことあるの?」
絶対に答えない。
指先がついに深い溝の中に入り込み、敏感な部分を縦に擦りはじめた。
「はっ」
体の反射的な動きだが、もしかしたら、喜んでいると思われるかもしれない。冷たい手で首筋を触られたら、誰だってびくっとなる。それと同じことに過ぎないのに。
この映像を見た人はそうは思わない。
レイプ願望のある女が、いよいよレイプされる。待ちかねているように見えるだろう。早くしてくれと、もだえているように見えるだろう。
すごく悔しい。もし生きてここを出ることができたら、剛介たちを社会から抹殺してやろう。そんなにレイプが好きなら、自分たちがレイプされてみればいい。
わたしは怒りと憎しみだけになっていた。このことは忘れてはいけない。なにがあっても。一生、背負っていくことになる。もちろん、剛介たちもだ。いやでも背負わせてやる。こいつらの人生を破滅させてやる……。
皆殺しなんて生やさしい。生かしてやろう。生かしたまま、一生を無為に過ごさせてやろう。
「感じてきちゃったみたいだね。お汁が染み出してきたよ」
生理的な現象に過ぎない。おそらく、首を絞められて気絶したときに尿道が緩んだのではないか。
「おっぱいも見せてもらおうか」
「えっ」
なんという余裕。そして、あまりにも屈辱的。これでは本当にわたしが求めていることに、彼が一生懸命に応えているように見えるだろう。レイプするなら、さっさとすればいいのに。
そして、終わりにしてくれればいいのに。
あやうく、言葉に出して言いそうになってしまった。
そんなことを言えば、彼らを喜ばせるばかりだ。「早く終わりにして」なんて叫ぶことはできない。
「いいお洋服だから、汚れないように脱がせてあげたいけど、縛っちゃうとムリだね」
ブラウスのボタンを一つずつゆっくりとはずしはじめた剛介は、いかにも楽しそうだ。
無邪気すぎる。
理不尽な快楽
ブラを男に見られる。剛介は、白い下着に指をそっとはわせる。
「きれいな胸をしているね」
どこまで恥をかかせるつもりなのだろう。
ゆっくりと彼の手がブラの上から乳房を包む。
「なにカップなのかな?」
ごく普通のCカップだが、コンプレックスに感じるほど小さいとは思っていない。
彼に包まれて、それなりに大きさを実感できる。
「かわいい顔に似合って、ちょうどいい大きさだね」
しゃくりあげるわたしを、あやすように、剛介は乳房を大きく揉む。そこを撫でれば、機嫌がよくなるとでもいうように。
「見せてもらおうかな」
体を揺すって、虚しい抵抗をする。足を持ち上げようとしても、棒を剛介が踏みつけているので、ろくに動かない。
「だめだめ。あんまり暴れると縛ったところが傷になるよ」
「助けて」
間近にある彼の顔にささやきかける。
「だからね。安里咲はレイプが大好きで、男が欲しくてしょうがない淫乱女子大生だし、頭はよくてカワイイけど、乱暴に犯されないと気がすまないわけだよね」
妄想を吹き込まれる。どれだけ呪文のように、そんなことを聞かされても、わたしがそうなるわけではない。なるはずがない。
「暴れた罰だよ」
剛介の手にナイフがあった。
「はっ」
殺される……。
「い、痛くしないで……」
思わず懇願していた。
「え? なんだって?」
「殺すなら、痛くしないで。苦しませないで」
「だめだよ、安里咲。命を粗末にしちゃ」
ナイフの先を見せつけたあと、それは少し下へ。冷たい背の部分をみぞおちにあてる。
そしてスーッとすべらせて、ブラの下に刃先が入った。
「ワイヤーのないシームレスのやつだね」
ザリッと音がして、ブラの中央部分が切断された。
「さあ、いよいよだね。安里咲のおっぱいが見られるぞ」
ナイフが谷間に置かれたままなので、暴れる勇気はない。じっとしていると、彼は両手でカップを掴み、ぐりぐりと乳房を揉みながら、徐々にずらしていく。
「男が喜ぶ大きさだよ。自信を持っていい。巨乳とはいえないけど、自然で安里咲ちゃんらしくて……」
安里咲1 第1部 (1/5)
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