窒息プレイ(ちっそくプレイ)は、性的興奮のために脳への酸素供給を意図的に止め、仮死に近づける行為を指す。自己発情窒息(AeA)、ハイポクシフィリア、ブレス・コントロール・プレイ(BCP)とも呼ばれる。性的興奮を意図しない同種の行為は失神ゲームと呼ばれる。AeA、ハイポクシフィリア、BCPは性的興奮を目的とする側の呼び方で、失神ゲームはそちらから外した呼び名である。アメリカ精神医学会の『精神障害の診断と統計マニュアル』では性的倒錯に分類される。精神科医ジョセフ・メルリーノは、「致死性または重症となる可能性があるので」障害の基準を満たす、と述べている。以下は医学・法医・文化史の整理であり、実施手順ではない。袋や結紮の名が出るのは、法医が現場から拾った状況の話としてである。
生理学の記述
ジョン・クーラは著書で、首の両側の頸動脈が心臓から脳へ酸素の多い血液を運ぶ、と説明する。ここが圧迫されると絞殺や絞首刑と同様、脳への酸素が突然止まり、二酸化炭素が溜まってめまい、意識朦朧、喜びの感情が増し、それが自慰の興奮を高める、という。頸動脈の圧迫は、絞首刑と同じ経路で脳の酸素を切る、というのがクーラの書き方である。ジョージ・シューマンは、脳が酸素を奪われると低酸素症と呼ばれる半幻覚状態が起き、オーガズムと結びつくとそのラッシュはコカイン並みに強く、習慣性が高い、と書く。習慣性の比喩は快感の強さを言うためのもので、安全の保証にはならない。
慢性的な低酸素症の幻覚について、ロイド博士は登山者が高地で経験する幻覚に似ると注記した。一方、高高度での航空機の急減圧がもたらす低酸素症では、同じ幻覚は起きない、とも記している。酸素欠乏だけが興奮増大の要因ではない、という含意である。低酸素症研究を当たると、幻覚が報告される状況では、相互に連なる神経伝達物質――ドーパミン、セロトニン、β-エンドルフィン――の一つ以上を含む脳の神経化学の異常が繰り返し出てくる、とロイドはまとめている。
17世紀からの記録
文書に窒息プレイが現れるのは17世紀前半からで、当初は勃起不全の治療として使われた。着想はおそらく公開絞首刑である。立会人は、男性受刑者が勃起し、死後も勃起が続き、時に絞首台で射精した、と記した。死後勃起と射精が、治療や性的興奮の証拠のように読まれた、というのがこの起源話の骨格である。ただし絞首刑後の射精は筋肉の弛緩によるもので、窒息プレイを求める人が狙う機序とは別である。同じ射精でも、死のあとの弛緩と、低酸素下のオーガズムは、生理学的に同じ出来事ではない。
法医が見る死
法医・疫学の文献には、低酸素を起こした状況として袋、結紮、揮発性溶媒、装置などが事故死の現場から報告されている。望ましい効果を得るために複雑な装置が使われた例も、死亡記録の側から知られる。注意して行っても危険は消えず、事故死は相当数ある。1995年、ウヴァは米国での窒息プレイによる死亡の推定を年間250人から1000人の幅で記した。スカンジナビアとドイツでも同様の問題が報告された。数字の幅が広いこと自体が、届出と検死の分類が安定していないことを示している。手順の一覧ではなく、死亡統計の話として読むべき箇所である。
部分的な仮死で意識を失うと、窒息の制御も失われ、そのまま死に至る。パートナーとの性交に取り入れられることもあるが、単独で行われる場合は危険な状態から抜けにくい。事故死の遺体は、裸、性器を握った状態、ポルノ雑誌の近く、張型や性具、直前のオーガズムの痕跡とともに見つかることがある。女装やマゾヒズムなど、他の倒錯の徴候が同じ現場に残る例もある。自宅で十代が関係したケースでは、家族が現場を「片づけ」、性的な証拠を取り除くことがある、と文献は書く。
既知の事故死の大多数は男性である。1974年から1987年までのオンタリオ州とアルバータ州の既知全例では、117件中、女性の事故死は1件だけだった。女性の事故死も別途いくつか報告されている。平均年齢は20代半ばだが、青年の死も、70代男性の死も報告がある。十代から七十代まで幅があり、平均が20代半ばに寄る、という分布である。自殺ではなく事故死となれば生命保険の支払い義務が生じるため、弁護士と保険会社は臨床医の注意を自殺判定へ向けさせた、という指摘もある。保険の枠が、法医の「事故か自殺か」を押してきた、という話でもある。
記録に残った死
作曲家フランツ・コツワラは1791年、窒息プレイの事故で死んだ。記録上、この種の事故死の最初の例とされる。18世紀末の音楽史に、自己発情窒息の法医記録がすでに混ざっている。1936年、阿部定は恋人・石田吉蔵を窒息プレイの末に絞殺したうえで陰茎と睾丸を切除し、ハンドバッグに入れて数日持ち歩いた。1930年代の日本に阿部定パニックを起こし、国内で最も知られた殺人の一つになった(阿部定事件)。俳優アルバート・デッカーは1968年、バスタブ内でひざまずき、全裸に口紅で性的な言葉を書かれ、首に縄をかけた状態で見つかった。アーティストのヴァーン・ボーデは1975年、同じく事故で死亡。イギリス保守党、イーストレイ選出の議員スティーブン・ミリガンは1994年、自縛した状態で窒息プレイの事故死を遂げた。シンガーソングライターのケヴィン・ギルバートは1996年、外見上はこの種の事故で死んだとされる。イギリス国民戦線のクリスティアン・エッケルズは2005年に事故死した。
ダイアン・ヘルツェグは、14歳の息子トロイ・Dの死をめぐりハスラー誌を訴えた。息子は誌面に載っていた方法を読んだあと、それを試した。未成年の死とポルノ誌面の関係が、裁判の争点になった例である。俳優デビッド・キャラダインは、検死官によれば2009年6月4日、窒息プレイの事故で死亡したとされる。タイの自室クローゼットにロープでぶら下がった状態で見つかり、直前のオーガズムの証拠があった。二度の解剖の結果、死は自殺ではないとされ、タイの法医病理学者は窒息プレイの可能性を述べた。元妻ゲイル・イェンセンとマリーナ・アンダーソンは、彼の性的関心に自縛が含まれていたと公に語っている。ミリガンの自縛、キャラダインのクローゼット、デッカーのバスタブは、いずれも単独で制御を失った現場として法医の側から繰り返し引用される。
大衆文化と文献
映画『The Ruling Class』の冒頭は、ハリー・アンドリュース演じる第13代ガーニー伯爵ラルフ・ガーニーが窒息プレイの事故で死ぬ場面である。ロビン・ウィリアムズの『ディア・ダディ 嘘つき父さんの秘密』(World’s Greatest Dad)もこの種の事故死を扱う。テレビドラマ『シックス・フィート・アンダー』第2シーズン第7話「咆哮(back to the garden)」では、ジェフリー・マーク・シャピロの死因が窒息プレイの事故死とされる。
関連図書には、Hazelwood / Dietz / Burgess『Autoerotic Fatalities』(LexingtonBooks、1983)、Sheleg / Ehrlich『Autoerotic Asphyxiation: Forensic, Medical, and Social Aspects』(Wheatmark、2006、ISBN 1587366045 / 978-1587366048)、John Money、Gordon Wainwright、David Hingsburger『The Breathless Orgasm: A Lovemap Biography of Asphyxiophilia』(Prometheus Books、1991)、振津隆行「同意殺人・同意傷害――殺人罪・傷害罪と同意の法的効果およびその有効性の限界」(別冊法学教室『刑法の基本判例』92–95頁、1988)がある。英語圏の概説としては Turvey の事故死概観や、Jay Wiseman のブレス・コントロールに関する医学的現実の文章も、関連リンクとして挙げられてきた。SM、圧迫系プレイ、低酸素症、絞め技、失神ゲーム、水責めと並べて語られる語だが、AeA/ハイポクシフィリア/BCPの中身は、快感の話である前に、年間推定数百人規模の事故死の話である。APAの倒錯分類もメルリーノの致死性の指摘も、その下限を先に置いている。ロイドの神経伝達物質の話も、クーラの頸動脈の話も、実施の手順ではなく、なぜ人が死ぬのかの説明として残す。失神ゲームは性的興奮を意図しない同種の行為で、こちらも低酸素の事故死と地続きである。












