『SM調教師瞳』(エスエムちょうきょうしひとみ)は、西武企画がスーパーファミコン向けに出したアダルトゲームとそのシリーズである。正確な発売日は残っていない。1997年頃までには最終作『SM調教師瞳 番外編2 まきのラブラブパニック』が出ている。任天堂のライセンスは受けていない非公認ソフトだ。家庭用ハードで動くSM調教ものとして、当時の通信販売と秋葉原のマニア店に顔を出していた。同じ時期の非公認SFCとしては『香港97』も名が残るが、こちらは調教シミュレーションの系列として、VOL.1から番外編2まで本数が続いた。
正規カートリッジを空ける作り方
スーパーファミコンで動かしつつ、任天堂の著作権や特許を直接踏まないための手が、基板の再利用だった。問屋から過剰在庫として安く回ってきた正規ソフト――『ジーコサッカー』などがよく挙げられる――のマスクROMを外し、瞳のプログラムを焼いたEPROMを載せる。ゲーム雑誌『ファミコン通信』(現『ファミ通』)のインタビューで、西武企画の社員はこう例えている。規格外の車をメーカーが発売しては違法だが、規格内の車を買って違法改造し、中古車屋に売るのは合法である、と。正規品ならパッケージ外箱に「SUPER FAMICOM」と書くところを、商標を避けるため「SUPER FAMICO」と刷っている。カートリッジ本体は元の殻に、プリンターで印字したシールを貼ったものが多い。ファミコン版も存在し、中身は『スペランカー』のカセットに入っていた。スーファミ版が正規カートリッジのROMを挿げ替えるのと同じ発想で、古いカセットの殻を借りている。ライセンスのないSMゲームを、任天堂の箱の形で動かすための流用である。
当時もいまも、アダルトゲームの本流はパソコンである。1990年代前半のパソコンは高価で、プレイ環境を揃えるのが難しかった。そのなかで普及していたスーパーファミコンのカートリッジであること、大手ゲーム雑誌に通販広告が出ていたことが、一定の知名度を作った。正規のSFC流通には乗らない。秋葉原などのマニア向けショップ、雑誌の通信販売、パチンコ店の景品として出回った。出自の特殊さ、SMの枠を超える残虐描写、非公認でありながらゲームとしての面白さとバランスが評価され、表現が多様化したいまも名前が残る。正規のスーパーファミコンソフトとしては流通しなかったが、通販広告が大手誌に載ったことが、裏ソフトとしては異例の露出になった。
VOL.1からVOL.2 Remixまで
『SM調教師瞳 VOL.1』がシリーズ第一作である。主人公の名「瞳」、借金のカタに自由を奪われる定型が、ここで揃っている。タイトル画面は実写取り込みだが、中身はアニメ絵のアドベンチャーだ。瞳が売られ、ソープ嬢やSMクラブの経営者になっていく。シナリオ分岐はあるもののゲーム性は低く、BGMもない。VOL.1だけ開発元はイージェイではなく、一人のエンジニアが作った。正規ライブラリではない非正規環境での開発実験が目的だったともされる。つまり最初の一本は、商品というより基板の上で動くSMアドベンチャーを通した技術検証だった。現在は入手が難しい。
『SM調教師瞳 VOL.2』は、前作のアドベンチャーからパラメータ式の調教シミュレーションへ切り替わる。主人公はヤクザの親分で、片思いしていた瞳を借金のカタに奴隷にする。学校ターンでは「授業中」「放課後」などの場所を選んで瞳を犯し、帰宅後の家ターンでは「言葉責め」「オナニー」などをさせる。選んだコマンドで瞳のパラメータが変わり、十数種類のエンディングへ分かれる。腸を引きずり出す、眼球をえぐるといった残虐描写がある一方、どれだけ負傷してもスーパードクターが一夜で治してしまう。簡易的なコピープロテクトがかかり、当時のハードウェアコピー機への対処が入っている。非公認でありながら、パラメータとエンディングの数でゲームとして遊べる側へ寄せたのがVOL.2だった。
『SM調教師瞳 VOL.2 Remix』は、基本的にVOL.2と同じ内容の改善版である。難易度を抑え、一部グラフィックを描き直し、エンディングを足している。VOL.2のパラメータ調教を遊びやすくした改訂で、本編の残虐とエンディング数はそのまま残る。
VOL.3と町野変丸
『SM調教師瞳 VOL.3』では、瞳の登場が隠しシナリオに限られる。主人公はSMクラブへ通うS男で、素質を見込まれてM女の育成を任される。パラメータは前作では瞳の能力値だったが、本作では主人公側に移った。乳房が何十個もある女性、肛門から水を入れてカエルのように腹を膨らませた女性など、アブノーマルな絵がある一方、残虐描写は抑えられる。ラバーやスカトロなど、ハードだが現実のSMに近い側へ寄った。
本作は『スーパーメトロイド』のROMを書き換える形で作られたため、バッテリーバックアップで進行をセーブできる。初期出荷は8Mbit ROM、後期は4Mbit ROMになり、音楽がステレオ対応になるなど、出荷時期で複数バージョンがある。作画は成人向け漫画の町野変丸で、プレイ画面でも作家の絵が再現されるため、町野のコレクターズアイテムにもなっている。一部バージョンはイージェイが直接販売し、その版では起動時に西武企画のロゴが出ない。メトロイド基板、8Mbitから4Mbitへの縮小、ステレオ化、町野変丸の絵。VOL.3はシリーズのなかで、基板の流用と出荷差がいちばん見える一本だ。
番外編とまき
『SM調教師瞳 番外編』は、VOL.2のヒロインである瞳の後日談だ。VOL.1と同じくアドベンチャーだが、コマンド選択ではなくアイコンをクリックする。主人公は、瞳が転校してきたクラスのまきである。自分の恋人を取られるのではないかという危機感から、瞳をあの手この手で貶める。残虐描写が少ないためか、シリーズのなかでは販売期間が長かった。
『SM調教師 瞳 番外編2 まきのラブラブパニック』もアドベンチャーで、主人公はやはりまき。当時流行していた『新世紀エヴァンゲリオン』へのパロディが随所にある。人肉料理を食すなど、残虐描写が復活した。こちらも現在は入手が難しい。
MSX、Windows、西武企画の消滅
MSX版は存在する。絵や音楽の多くがもともとMSXで作られていたため、それを利用して動く程度のものであり、MSX版からの移植という説は事実ではない。すでに売ったオリジナルからMSXへ再移植して売る予定はあった。VOL.3に限りWindows移植の可能性も示唆され、主題曲は歌詞を付けられる作りになっており、Windows版向けの音楽ファイルは全曲用意された。移植はされなかった。
西武企画はこのシリーズ以外にも独自のオリジナルソフトを広告で予告していたが、実現せず、瞳シリーズのあとに消滅している。元関係者が『ゲームラボ』2012年7月号のインタビューで語ったところでは、西武企画はもともとゲームと無縁の業者で、インタビュアーは山師と呼んでいる。任天堂から別件で警告が来ていたとも語る。同時期に非公認を手がけていたハッカーインターナショナルも、PCエンジンを最後に非公認ソフトから撤退した。西武企画は瞳以外のオリジナルを広告だけ出して消え、任天堂の別件警告と、ゲームと無縁だった山師的な出自が、ゲームラボのインタビューに残っている。
家庭用ハードの非公認アダルトその後
当時の次世代機であるPlayStationにも、非公認ソフトはわずかに出た。形態としては定着しなかった。NINTENDO 64には非公認は出ていない。セガサターンはX指定――厳密にはPCの18禁とは性格が違い、のちのCERO Zに近い――を公式に採用したため、PCアダルトの移植が正規流通で出せた。パソコンも安くなり始め、規制の厳しい家庭用ハードで出す必要がなくなり、非公認アダルトはほぼ見かけなくなる。21世紀の非公認は、レトロゲームの再現を目的としたものが主流だ。
PlayStation 2の時代にDVD-PGが登場し、PS2でも遊べると謳うアダルトゲームが多数出た。中身はDVD-Video規格の映像ソフトで、一般のDVDプレーヤーでも再生できるため、非公認ソフトには当たらない。携帯ではPSPのUMDビデオにUMD-PGのアダルトがある。ニンテンドーDSでは、ハードメーカー非公認のアダルト(名目上は同人)が出るはずだったが、マジコンを介するタイプで、広告にマジコン使用が明記されていた。任天堂がマジコン摘発を進めていた時期と重なり、業者へ警告が出て発売中止、不正機器への法規制も強化された。それ以前の携帯では、SNKのネオジオポケットカラー用脱衣麻雀『スーパーリアル麻雀』が18歳以上推奨で出ている。こちらはメーカー公式で、当時、唯一年齢制限が付いた家庭用ソフトだった。PCアダルトを携帯へコンバートしたデータは、一部サークルがマジコン用カートリッジへ書いて遊ぶ形式で出回り、元ソフトが必要になる。
記録としては、『ゲーム批評』vol.6(1995年11月30日、マイクロデザイン出版局)の「裏ソフトの「濃密」な生態」、『封印ゲーム大全』(2007年、アスペクト)の「西部企画プレゼンツのSMワールドへようこそ」、『ゲームラボ』2012年7月号の開発者インタビューが、この系列の一次に近い証言を残している。正規流通に乗れなかったSM調教カートリッジは、基板の流用と通販広告と、町野変丸の絵で、スーファミの裏史に残った。VOL.1の一人エンジニアによる実験、VOL.2のパラメータ調教とコピープロテクト、メトロイド基板でセーブが付いたVOL.3、まきが主人公の番外編二本。箱はSUPER FAMICO、中身はジーコサッカーの殻に挿したEPROM。ファミ通の中古車改造のたとえは、この系列の合法と違法の境界を、いちばん短く説明している。










