『昼顔』(ひるがお、フランス語: Belle de jour。「三色朝顔」「日中の美女」「昼間に稼ぐ娼婦」の意)は、1967年のフランス・イタリア合作映画である。ルイス・ブニュエルが監督し、原作はジョゼフ・ケッセルの同名小説。第28回ヴェネツィア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受けた。美しい若妻が昼間だけ娼婦になり、マゾヒスティックな空想とSM・フェチの客を通して性を取り戻す話である。ブニュエルの作家論ではなく、昼の売春宿でマゾが開く映画として読む。
セヴリーヌのマゾ空想と「昼顔」
美しい若妻のセヴリーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、医師の夫ピエール(ジャン・ソレル)とともにパリで幸せな生活を送っていた。その一方で、マゾヒスティックな空想に取り憑かれてもいた。ある日セヴリーヌは友人から、上流階級の婦人たちが客を取る売春宿の話を聞く。迷った末、「昼顔」という名前で娼婦として働くようになる。黒エナメルのレインコートで店に行くと、同僚たちは即座に「サンローラン! 素敵ね」とコートを褒める。上流階級が趣味で娼婦をしているのは本当なんだとわかり、親しくなる。
様々な変わったSMやフェチなど性癖を持つ男性客や女性たちと接するうち、次第に自由奔放な性の快楽を受け入れていく。それまでよそよそしく冷たい側にあった夫婦の性生活は明らかに順調になり、ピエールとの関係も改善する。二重生活のおかげで、ようやく自分の人生を取り戻した、という筋である。昼間の娼婦名、黒エナメル、サンローランのコート、SMとフェチの客——マゾの空想が店の実務に接続されるのが、この映画の核だ。幸せな結婚の外側に、昼だけのボンデージがある。
続編『夜顔』と日本語訳
2006年、マノエル・ド・オリヴェイラ監督による続編『夜顔』(フランス語: Belle toujours、「つねに美女」の意)が作られ、第63回ヴェネツィア国際映画祭で上映された。アンリ役はミシェル・ピコリのままだが、カトリーヌ・ドヌーヴが演じたセヴリーヌ役はビュル・オジェが演じている。オリヴェイラはブニュエルのわずか8歳下の同世代だが、満97歳で同作を監督し、約40年ぶりの続編となった。マゾの若妻を演じたドヌーヴは続編にはおらず、ピコリのアンリだけが残る。
原作小説の日本語訳は、堀口大學訳『昼顔』(第一書房、1932、のち新潮文庫)、桜井成夫訳(角川文庫、1954)、山崎剛太郎訳(三笠書房、1971)がある。2010年代の日本では、本作から着想された主婦の不倫ドラマ『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』が作られた。題名は借りても、ブニュエル側のSM客とマゾ空想までは引き継いでいない。金獅子賞の1967年版が残しているのは、昼の売春宿で開くマゾヒストの性である。
ドヌーヴのセヴリーヌは、医師の夫との幸福な結婚のなかでマゾヒスティックな空想に取り憑かれ、昼だけ「昼顔」として店に立つ。黒エナメルのサンローランを着て娼館に入り、SMやフェチの客を受け、冷えていた夫婦の性を二重生活で立て直す。1967年のフランス・イタリア合作、ヴェネツィア金獅子。ジョゼフ・ケッセルの小説を、ブニュエルが昼の娼婦とマゾの映画にした。続編『夜顔』は2006年、97歳のオリヴェイラがピコリのアンリを残し、セヴリーヌをオジェに替えて撮った。マゾの空想と昼の店——それが『昼顔』の本体である。











