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隷獣 · 第3部

隷獣 第3部 (3/7)
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まばらな木、そして砂利道。手足にその角が突き刺さってきます。

望月は容赦なく、鎖を引っ張り、進むのです。

気づくと、そこはバス停でした。

突然、もとの場所に出て恥ずかしくてなりません。昨日、ここで犯され、裸にされてから永遠とも思える時間が過ぎていったのです。

驚くべき苦痛の連続。それによって、獣欲に身をまかせ、自分自身も崩壊寸前まで追い込まれたのです。

もう崩壊してしまっているのかもしれません。

恥ずかしすぎて、森に戻りたい。そんなことを思ってしまうほどでした。このまま、どこかへ行くのか。人目にさらされるのは耐えられません。

望月の車。そのテールを開けました。荷物だらけの荷台ですが、一番下には小さな檻がありました。トランクぐらいのスペースしかありません。

「入れ」

抵抗したくても、ムリなことはわかっています。

荷物を解かれ、頬を二度、三度と平手で殴られて、体から力がすっかり抜けてしまいました。

そんな私を、望月は転がすように檻に入れ、頑丈な檻を閉じました。横になって膝を抱えるようにするしかないのです。それほど小さな空間でした。

上から布がかけられます。

クルマが動き出し、山道を下っているのがわかります。

がまんできず、おしっこを漏らし、クルマに酔って胃液も吐きました。不快な臭いに包まれてのドライブでした。

うとうとしていたら、いつしかクルマは滑らかな道路の上を高速で走っていました。まさかと思うのですが、町に向かっているようです。

どうなってしまうのでしょう。

「着いたぞ」

気づくと、布がめくられてテールが開いていました。

「ちくしょう、汚しやがって。出ろ」

引きずり出されます。

まぶしい陽光。秋はまだ本格的にはなっていません。都会は夏を思わせる暑さです。

「立て」

裸で、口を開けたまま立ち上がりました。ガタガタと震えていました。

見慣れた町です。逃げ出したい。すぐに、どこかへ隠れたい。首輪とチェーンが、その気持ちを私からむしり取ります。

ぐいっと引かれて、首が取れそうになるので、私は望月についていくしかありません。

揺れる気持ち

マンションの入り口に有希恵が待っていました。ちゃんと化粧をし、ミスキャンパスにでも出るようなファッショナブルなブラウスとスカートです。

これほど恥ずかしいことはありません。昨日よりもずっと恥ずかしくて、私は体を隠したくて、身もだえしていました。

「お帰りなさい」

望月と有希恵に連れられて、私は見慣れた自分の部屋に戻されました。なにも変わっていません。

助かるかもしれない。

私は喜んでいいものか、二人の様子を、こわごわと見ていました。

望月は「じゃ」と言って、帰っていきました。

有希恵だけです。そして、開口器を外してくれました。

「苦しかった? 大変だったわね」

やさしい言葉に、私は、子どものように泣き出し、床に崩れ落ちました。

「泣けばいい。思い切り泣きなさい。落ち着くまで、いてあげる」

十分ほどして泣き止むと、有希恵は「落ち着いた?」と確認し、「これ、お薬。アフターピル。いまから飲んでおけば、妊娠はしないわ」

錠剤が渡されます。すがるように私はそれを飲みました。あの男たちの子を宿すことなど、絶対にゴメンでした。

「ゆっくり休みなさいね。あとで電話するわ」

奪われた携帯やサイフなどが、すっかりそこに揃っていました。

これで終わりなのです。助かったのです。

有希恵が立ち去ると、バスルームに駆け込み、シャワーを浴びました。たっぷりのボディーシャンプーで何度も、穢れてしまった体を洗いました。

洗えば、すべてが元に戻るのではないか。

これは事故よ、と自分に言い聞かせます。忘れるべき悪夢なのです。

早く忘れ、現実の社会に復帰すべきです。そうすれば昨日のことなど、どうということはないはず。

あれは長い人生の中で、たった一日のことに過ぎません。望月とも鬼丘とも、二度と会うことはないのです。

部屋着に着替えるとすっかり落ち着きました。二回、三回とドアの鍵を確認し、冷蔵庫のもので食事をしました。

たった一日のことなのです。冷蔵庫にあるものはどれもまだ新鮮で、賞味期限は来ていません。

それなのに……。

私はもう、とんでもない体にされてしまっていました。

一生、この消えることのない傷を背負って生きていくのです。

とにかく体を休めよう、寝てしまおうと思うのですが、ベッドに横になるとかえって落ち着かないのです。携帯電話に細工でもされていないかと調べてみたり……。

本当に終わったのだと感じられるようになってきて、笑い出したくなったり……。

あんなことは、なにもなかったのだ。自分は明日はまた学校へ行くだろう、と思ったり……。

有希恵だけが、知っています。でも、彼女だって人を誘拐し暴行を加えた犯人の一味なのです。負い目があるはずです。

私の方が強く出ることができる、と自分に言い聞かせます。

耐えなくては、しっかりしなくてはと自分を励まします。

いろいろ気になることをチェックしてから、またベッドに横になりました。テレビをつけても、まったく関心が持てません。絵空事にしか見えないのです。

そのうち、昨夜は、よく眠れなかったこともあって、そのまま眠ってしまうのでした。

「ひーっ」

自分の悲鳴で目が覚めました。やつらがこの部屋にいる、と思い込んでいました。

誰もいません。

気がつくと夕方でした。

あれだけ長く感じた昨日に比べて、なんてあっけなく時間は過ぎていくのでしょう。

それが平凡な、普通の一日なのです。

明日の大学の予定をパソコンで調べ、同級生とメールのやり取りをしました。

かなり気分がよくなってきたので、夕食を近くのコンビニで買ってくることにしました。

外におかしな連中がいないかと心配しましたが、それもありません。望月の姿も、クルマも見当たりません。

簡単な食事をし、もう一度、ゆっくり風呂に入りました。

夜になってくると、テレビを見て笑うこともできました。

寝る前に、有希恵から電話がありました。

「郁美。どうしてる?」

「もう、二度と、かけてこないで」

「ええ。そうする。だけど、これだけは覚えておいて。明日の朝、あなたは二つの選択ができるわ。普通に大学へ行くのもいい選択。だけど、もう一つ。あなたの本能のままに、とことんやり抜くこと。ケモノの道を進むことよ」

「バカなことを言わないで」

「明日決断できないかもしれない。でも、待ってる。あなたは、きっと正しい選択をするでしょう」

「そんなこと、あるはずないでしょ」

私は一方的に電話を切りました。

脅迫でもされるのかと思えば、ただ、えらそうにしているだけなのです。有希恵の人をバカにしたような笑顔が思い浮かびます。

大学へ行って顔を合わせても、無視することです。そして、なんとかして訴えることを考えなければなりません。有希恵も、望月も、鬼丘も、警察に突き出すのです。

眠れるだろうと思っていましたが、昼間に寝すぎたせいか、なかなか寝付かれず、夜半を回っても、起きていました。

テレビを消しても眠れません。

目を開けると午前一時。次に目を開けると二時でした。

私は、パジャマを脱ぎ捨てました。下着も脱ぎ捨てました。

裸になってカーテンをあけて、ベランダに出てみました。

なにかわかるかもしれないと思ったのですが、なにもわかりません。

生ぬるい風が体を吹き抜けていくばかりです。

あの山小屋のような陰惨な空気は、ここにはまったくありませんでした。

顔に押しつけられた男たちの下半身。あれに似た臭いは、このあたりのどこにもありません。

激しく責められ、いじめ抜かれ、犯され続け……。

そして脳天を突き破るほどの快楽に何度も失神しそうになった自分。

あれは、二度とあってはならないことなのです。

平凡で、おとなしい生活こそが、正しい選択です。大学を出て就職し、結婚し、出産して子どもを育てて……。

ポロリと涙が頬を伝います。

なぜ涙が出るのか不思議でした。自分のことがわからなくなってきているのです。

忘れるべき記憶が懐かしく感じてしまう。これは、精神的にギリギリのところに置かれていたからこその、単なる反射的なもので、錯覚に違いないのです。

あんなものは、思い出であるはずがないのです。

バカなことはしてはいけない、と自分を叱ります。

裸のままベッドに入りました。

触るとまだ痛みが残っている股間。そこを指で撫でてみます。サビの浮き出たカミソリで毛を剃られてしまい、ロープで激しく擦り上げられ、傷ができ、そこにかさぶたができていました。

縄で絞られた乳房も、触るだけで痛みの記憶がよみがえります。

擦過傷だらけの体なのです。何十発と浴びた鞭の痕も。

あれは、とてつもなく苦しいことでした。体中を打ちのめされると、吐きそうになるほど苦しいのです。

その痛みは体の奥にジーンと残り、いつまでも取れません。

あんなことをされた自分がいて、しかも、激しい快楽まで感じていた自分がいたのです。

強制されたとはいえ、あれも自分なのでしょうか。

誰にも言えない経験も経験なのでしょうか。

それが、私にどんな作用を及ぼしたというのでしょうか。

とりとめのない考えの中で、いつしか落ち着いたのか、やっと眠りに入るのでした。

究極の選択

翌日、私は大学に行きました。

最初はとても楽しくて、すべてを忘れられそうでした。

有希恵も見当たりません。

よく話をする女友達と、勉強の話や学園祭のことなどを話しました。

ランチはひとりで食べました。

今日の講義は終わり、レポートを書くために図書館へ行き、二時間ほど過ごしました。

また今日も平凡に、そして充実した時間が過ぎていきます。

傷は驚くほど早く回復しているのもうれしいことでした。アフターピルのせいか、むかむかするような不快感は一日中、つきまとっていましたが、食事もおいしく食べることができたのです。

すっかり元に戻ったようです。

それなのに、私は気づいてしまいました。

自分はもう、以前の自分ではない、と。

それがはっきりわかってしまったあとは、部屋に戻り、テレビをつけたり夕食を食べても落ち着かなくなりました。

もう、自分は戻れない。傷は治っても、昔の自分にはなれないのです。

「有希恵?」

思わず電話をしていました。ただ、状況を把握したいがために。あのことを話せる唯一の人間としての有希恵を求めてしまったのです。

「なに?」と有希恵はきわめて平然と、そしてあたりまえのように電話に出ました。

「大学へ行ったわ」

「ええ。そうでしょうね。どうだった? 楽しかったでしょう?」

そうだ、楽しかった、と言うべきなのに言葉が出ない。

「あれは、なんだったの?」

「あれって?」

「とぼけないで。あの山のこと」

「忘れなさい。あなたには関係のないことでしょう?」

「そうはいかないのよ。私はもう昔の自分には戻れない。だったら、なにがあったのか、正確に知っておきたいの」

有希恵が息を吸い込む音がしました。

「レイプ。あなたは暴行された。それだけのことよ」

私はハッと息を飲みました。そうなのです。これは事件なのです。それでいて、ただの事件として片付けたくない気持ちもあるのです。

「訴えるの?」と有希恵。

「そういうんじゃないの」

自分がなにを言っているのか、わからなくなってきました。

「よくわからないから、あなたに電話したんじゃない」

「確かめるなら、また、あそこに行くしかないんじゃない?」

有希恵の声は、サラッとしていました。

「それはできないわ」

「でしょう? だったら、いいじゃない。お休み」

「待って!」

思わず叫びました。

「どうして私を戻してくれたの? 有希恵がそうしてくれたの?」

「え? 違うわ。確かにあなたには素質があるかな、と思ったのよ。だけど、最後にはあなたが選ぶことよ。決断は自分でしてほしいの」

「選べなかったじゃない。ムリやりに、あんなことを……」

「最初はね。最初は誰でもそうじゃない? 私もあなたも、承諾なしにこの世に生まれてきたの。強引にね。選択の余地なし。でも、そのあとの生き方は、自分で選ぶことができる。幸い、いまのこの国ではね」

「選ばせるって、なにを?」

「正確に言えば、選ぶとか選ばないですらないの。あなたには素質がある。その素質が、あなたがどう思い、どう考えようと、ある方向へ進もうとするでしょう。水は高いところから低いところへ流れていく。選んでいるわけじゃないのよ、行き先を」

わかったようなことを言うわ、と私は思ったのですが、頭の中ではいろいろな思いが重なって整理できなくなっています。

有希恵のドライな声が続きます。

「もしいま、あなたのマンションの外に望月が待っていたら、どうする?」

「冗談でしょ」

「あなたはどうする? 拒否するのよね、当然。だけど、あなたの中にある本質の部分はそういう選択はしないのよ。選ぶんじゃなくて、あなたはもう選ばれている。あとは、自分から行動するだけ。違う?」

「わかるわけないでしょう、そんなこと」

催眠術なのではないか、と私は少し疑いました。有希恵の滑らかで冷たい言い方は、反発ばかりの心を静め、奥底まで染み込むようです。

抵抗が消えていくのがわかります。

「でしょうね。私だってわからない。だけど、私は生まれたときから運命づけられていて、その道をたどるしかなくて、こうしている。あなたはどうかしら。そうじゃない道を選ぶこともできるし、選ばれることもある」

「わからないわ」

いつしか電話は切れていました。

私は、自分がなにを確かめたくて有希恵に電話をしたのかも、わからなくなっていました。

ドレッサーに、開口器と首輪が置いてあります。

ふと、そのことを思い出します。

鼓動が激しくなります。

帰された日、郁美がそこに置いていったのです。それを、ずっと見ないようにしてきました。触れることもできなかったのです。

おそろしく、汚らしいからです。二度と身につけてはいけないものです。

それが、いまは目の前にあります。

私はドレッサーの前に立っています。

触りたくないおぞましい器具に手を伸ばします。

指先が触れます。

ビリッと電流が走ったような気がしました。

首輪。

無骨な皮で作られた首輪から、長いチェーンが伸びています。その内側には、私の汗と涙が染み込んでいます。それは、苦しいものでした。喉が締まるだけではなく、そこを強く引かれるだけで、体が麻痺するほどの痛みが襲うのです。

手に取りました。思ったよりも軽いものです。

たかが革製品です。

鏡の前で、それを身につけてみました。自分はそんな格好で一日、山の中で過ごしたのです。

緩く締めただけではダメだと、思い切りきつく締めてみました。望月がやったように。

喉が苦しく、気が遠くなります。

まだ大して時間が経っていないので、革の湿り気が痛みの記憶にぴったりと重なって、私は臭い山小屋に引き戻されたような気分になりました。

呼吸が荒くなっていくのがわかります。

「はー、はー、はー」

犬のように舌まで出して……。

みっともない郁美。それが鏡の中の自分なのです。

開口器。

蛍光灯の下で見ると、いかにもグロテスクな装置です。黒光りする木の部分に、いくつもの歯形が見えます。これを嵌められて、もだえ苦しみ、痛みを噛みしめた人たちが、大勢いたのです。

私もそのひとり。

自分の歯形もうっすら残っているのではないでしょうか。たかが、半日ぐらいでは大したことはないのでしょうが……。

これを装着されたまま一生を終えた人がいたかもしれません。短い一生だったかもしれません。

口を開き、歯を当ててみました。

ぴったりと窪みに歯が当たります。古い歯形であり、私がそれをなぞった跡でもあるのです。

顎が外れるほど、開けるのが望月たちのやり方でした。

ネジを回して大きく開いてみます。顎に痛みが走ります。

そう、こんな感じ。この感覚。この苦しみ。この屈辱。この恐怖。

その中で、私は犯されたのです。

バカなことをしているのはわかっていました。

それでも鏡の中の自分は、バカには見えませんでした。

気味が悪い存在です。人間らしさが隠れ、ケモノ臭い生き物がそこにいました。服なんて似合わないのです。

肌の匂いこそが、似合うのです。体から滲み出るケモノ臭が似合うのです。

裸になってみました。

なんということでしょう。罰せられるべきグロテスクな存在は、この肉体そのものだったのです。

大きく発達した乳房。

剃り上げられたそけい部。恥丘。少し男を経験したからといって、だらしなくさえ見える性器のリップ。

しゃがみこみ、手鏡で肛門を見ました。

あれだけのことをされたのに、いまでは慎ましやかにすぼんでいます。多少、色素は沈着したかもしれません。その程度のことです。

すべてが醜い、と私は感じました。

私自身の体としての実感はどこにもありません。

残念なことに、精神はこの体を求めていないのです。

汚れきった醜悪な肉体が、ズタズタにされて徹底的に罰せられることで、それは改善されるのでしょうか。

いまのままでは少なくとも、とても普通の男性に抱かれる体ではありません。そして、まともな子どもを産める体でもないのです。

汚いだけの肉の塊。それが私なのです。

誰か、私を助けて……。

私は、気がつくと、玄関から外に出ていました。全裸で裸足で。

非常階段から、一階に降りて、裏口から外に出ました。真っ暗な都会の夜。ぬるい空気が肌を撫でるのです。

見上げると満月が雲の間から顔を出しました。

あらかじめ、決まっていたことのように。

道路に出ると、四駆のクルマが停車していました。月光が汚れた車体を、少しは美しく見せていました。

ドアが開き望月が降りました。

言葉はありません。テールゲートを開けて、檻を見せただけです。

私は魅入られたようにその暗い箱を見つめ、振り返ることもなく中に入っていきました。

まだ私の嘔吐物と小便の臭いがしていました。

ああ、これだ、と思うのです。

檻が閉じ、布がかけられ、テールがバタンと閉じたとき、心底からホッとしました。

なにもかもが変わってしまったのです。

迷ったり、選んだりすることはないのです。

自ら飛び込むだけなのです。

棒狂い

真っ暗なバス停。

鋭い砂利を足の裏で感じ、冷たい風で全身をなぶられていました。

望月はなにも言わず、開口器をしっかりと後頭部で止めました。そして、チェーンを持つと、山小屋への道を歩きはじめました。

私は、四つ這いになってあとをついていきました。それがふさわしいと思えたからです。

真っ暗な道を、望月は慣れているらしく、懐中電灯も使わずにすたすたと歩きます。その足元を見ながら必死に歩きました。

恥ずかしいほど乳房がぶらぶらと揺れ、すぐに汗が皮膚を濡らしていきました。

そして、あの小屋に到着しました。

これだ、と感じました。

大勢の人がいる前で、どうしてもがまんできずに、おしっこを漏らしそうになったときにも似た、突き抜ける感覚。後戻りできないという悦び。

煌々と明かりが灯っていました。小屋の外の灯、小屋の中。そして天窓から、光が発散されています。

悪魔の殿堂。醜い自分にふさわしい場所。ここでケモノに堕ちるのです。それが私の本性なのです。

鬼丘が笑みを浮かべて小屋から出てきました。

「見込んだ通りか。有希恵の眼力はすごいな」

「ああ。これから忙しいぞ」

「やり甲斐がある」

独特の臭いが染みついた小屋に入ります。

私だけは土間に正座です。

神妙な顔付きをした鬼丘が言います。

「いいか。前は強制的に連れてきた。だが、今回は違う。自分から来た。その違いはわかるな?」

私は頷きました。

「おまえは、いまから隷獣となるための、ありとあらゆる責め苦を受ける。隷獣の本性を引き出すためだ。そしてとことん、堕ちるところまで堕ちる。残念ながらその途中で命を落とすこともある」

怖ろしい話なのに、なぜか体の中が熱くなっていくのです。

「第一に、おまえの言葉を奪う。その口にしている器具を、かなり長時間、つけたままになるだろう」

私の目はきっと輝いていたと思います。宝石の山でも発見したかのように。望んでいたものが手に入る瞬間なのですから。

「これからおまえの意思は完全に無視される。おまえの体に、おれたちはあらゆることをするが、拒絶することはできない」

その苦痛を想像しただけで、恍惚となるのです。はしたなくも、唇を舐めてしまいました。

「まず、髪の毛を剃る。おまえの尻尾を作るためだ」

鬼丘は電気バリカンを手にし、私の黒髪を額から後頭部へと刈り込んでいきました。

わずか数分で坊主頭です。

ポロポロと涙が流れました。剃られたからというよりも、そり落とされた自分の髪の毛を、鬼丘のような男が手にしているからでした。

自分の分身を奪われたような気持ちがします。

鬼丘は髪の毛を木箱に入れました。

開口器のベルトがわずかに緩くなったので、望月がきつく締め直し、そこに小型の南京錠をつけました。簡単には外せなくなったのです。

「手もケモノとしての用を足すだけにする」

鬼丘は革のブーツを用意していました。手にそのブーツを履かせます。手袋とは違い、靴のような形状で、中で指を広げたり閉じたりはできますが、指を使ってなにかをすることはできません。

「この二日の間、おまえは過去の自分と同じようにだらけた人間の食べ物を口にしてきた。それをすっかり洗い流さないとな」

口に鬼丘が苦い液体をコップ一杯、注ぎ込みます。飲み込むしかありません。あふれないように、ゆっくり注がれます。ハッカのような味です。どろりとした感触は不気味でした。

キャリーカーにブリキの一斗缶と手押しポンプがついた、手作りの道具を持って来ました。

細く長い管がついています。その先端はヘビの頭のように膨らんでいました。

「これは、おまえのケツの洗浄器だ。もともとは、薬品を噴霧するために作ったんだが、このポンプを押すと、高圧で先端から液体が噴き出す。十八リットルの容量があるから、何回でも、徹底的に洗うことができるぞ」

そんなことを聞かされているうちにも、胃が熱くなり、さらに腹部がゴロゴロと動き出す不快感があります。この不気味な感触、急激な体調の変化に私は脅えていました。

「効いてきたかな。自家製の強烈な下剤を飲ませてやったんだ。牛でも馬でも、これ一発で、腸の中をすっかり、出すぐらいだからな。ハハハ」と鬼丘は笑っています。

油のようなものを、管の先端に手で塗ると、「ほら、ケツを出せ。その汚い、でかいケツを」と命じました。

考える暇はありません。尻を高く上げるのです。鬼丘に足で蹴られて「もっと開け」と言われます。

這いつくばるようなポーズ。

腹部の違和感は、しだいに激しさを増して、腸がうねり、くねり悲鳴を上げるほどです。

スコン、スコンと鬼丘はポンプを操作し、一斗缶に圧力をかけました。

「入れてやろう」

シュバーと噴き出す水の圧力をお尻に感じます。それは穴に集中して、そこが唇のようにめくれあがっているようです。

管の頭がぐいっと押し込まれました。水を噴き出し、腸壁を広げながら管がどんどん奥へと侵入してくるのです。

「ふっ、へぇっ」

無様な声を出してしまいます。

押し寄せてくる下剤の効果、そして下から突き上げてくる水流。お腹が捻れて、切り刻まれるような痛みです。

「ここでやられてはたまらんな。歩け」

すぐには動けずにいると、鬼丘に蹴られました。それも、剥き出しの股間に硬い靴先が手加減なしでめり込んだのです。

「うがぁぁぁ」

ケモノらしい悲鳴をあげながら、這うように小屋の外に出ました。

小屋から離れた草むらまで行き、ようやく管が引き抜かれました。

「がひぃー」

悲しい声をあげてしまいます。

限界だったお腹は、腸内にあった汚物をとめどなく噴き出していきました。

お尻の穴が切れてしまうのではないかと怖ろしくなるほど、水分と固形物が断続的に噴き出します。

ちょっとでも噴出が止まると、すぐに管が突っ込まれて、腸内を水で満たすのです。

十八リットルの水がなくなるまで、それが続けられるのでした。

下剤のせいか、もやもやした感じが残っていましたが、すっかり空っぽになった腸は痛みだけを残して落ち着いてきました。

「小屋に戻れ」

土間に戻るとそこは暑いほどで、汗と水しぶきで濡れた体には心地よく感じました。

「よし。じゃあ、縛ろう」

望月が私の手を背中で縛りあげます。乳房の根本にも、幾重にも縄を巻き付けます。

足首を交差させて縛り、あぐらのような格好にされました。

首輪からのチェーンをその足首の縄目を通して引っ張られて、土間で上体を深く曲げ、這いつくばるような姿勢を取らされました。

「押さえていろ」と鬼丘。その手にはキリがありました。

「簡単だからな」

私の鼻をつまみ、その鼻柱にキリの先をあてたのです。そしてグイグイとえぐるように突き通そうとします。

「おおうぅぅぅ」

あまりの痛みに、逃げようと顔を動かしますが、鬼丘と望月に抑え付けられて逃げられません。

やがて貫通すると、血がこぼれました。止血の薬を塗られ、長さ四センチほどの棒状の金属が開けられたばかりの鼻柱の穴に、力任せにねじ込まれました。小鼻を押しやって鼻柱が前に飛び出すほどです。ムリなことをするのです。

その棒には、U字型の金具がボルトで取り付けられます。本格的な鼻輪でした。アクセサリー用のピアスなどではありません。

その鼻輪は、開きっぱなしの口の上に垂れ下がっています。

鬼丘が肩を蹴ったので、ごろんと仰向けにひっくり返ってしまいました。下半身を上に向けて丸出しにした格好です。

「この間は自然薯を使ったが、これは、おれが開発した薬で、効き目はその二倍ぐらいある。たっぷり塗り込んでやろう」

二人はゴム手袋をしてから、スポイトで薬を私の二つの穴に垂らし、奥まで薬を塗り込んでいくのです。

その作業も、体の中をすべて確認しなければすまないようなしつこさで、薬剤が奥までしっかり染み込んでいくのです。

熱くなってきました。そこだけではなく下腹部全体が、そして下半身が、やがて全身が、カッとほてり汗が噴き出してきます。

二つの穴はきっとパクパクと口を開けたり閉じたりしているのではないでしょうか。それほど強烈な刺激で、私の体がガクガクと震え始めました。

「かゆいなんてものじゃないだろう。それを慰める道具も用意してあるから」と鬼丘は、土間の隅を示すのです。

土間にはコンクリートが埋められているらしく、そこに望月が短い鉄棒を二本、立てます。ネジでしっかり土台にはめ込まれます。

そして、その鉄棒の上から、太い棒をやはりネジりながらかぶせます。

二本の突起が地面からはえたようになりました。

長さ十五センチほどの短い一本、そして三センチほどの間隔をあけて、三十センチはある長い一本です。

短い棒は直径五センチほどの太さがあり、長い棒はそれよりやや細くなっていました。

足首の縄が外されたので、私はしばらく苦悶にもだえ、転げ回っていました。

「ほら、これで思うぞんぶん、掻けばいい」と望月に言われ、縄をつかまれて引き上げられました。立ち上がることはできず、しゃがんだまま、その突起物に向かいました。

でも、それは、あまりにもむごい課題でした。

長さがあまりに違うからです。長い一本を膣に入れて少し擦ってみましたが、それではアナルが満足できません。そしてアナルと取り替えると、今度はおまんこが悲鳴を上げます。

同時に二つの穴を満たしたいのです。そして思い切り、擦りつけたいのです。

二つの穴を同時に慰めようとすれば、思い切り深く突き刺さなければなりません。もちろん、膣は三十センチもの長さはムリですから、入れるとすればお尻ということになります。

虫のエサ

「狂っちゃうぞ」

選択肢はありません。

長い一本を自ら腸に入れようとしました。水流で押し広げられた肛門は十センチぐらいはすぐに入りますが、そこから先が困難でした。

水のような形のないものは奥までやすやすと侵入します。それが、細いとはいえ硬いまっすぐの棒なのです。柔らかく、くねっている腸を自ら串刺しにするわけですから簡単なはずがありません。

体をひねり、腰の向きを変えるなどしながら、少しずつ奥まで入れようと必死でした。

「ふぅがー」

悲鳴をあげながら、かなり奥まで棒が入ったのがわかります。お腹の左側に硬い棒を感じます。

「慌てると、腸が破けて死ぬぞ」

鬼丘は脅すのです。

でも、強烈なかゆみが脳ミソを麻痺させています。

慎重にしなくては、と思いながらも、勝手に腰がおりていきます。

二十センチほど入ったところで、ようやく短い一本が膣に浅く入ってきました。

「もう少しだぞ」

棒が太短いので、強烈にかゆい膣にしっかり入れて、強く掻きたくてなりません。そのために、もっと深く腸内に長い棒を入れないといけません。

焦っていました。

体を上下させて、粘膜を棒にこすりつけながら、少しずつ深く飲み込んでいきます。

擦ると熱によって、かゆみ成分が弱くなっていくようでした。擦れば擦るほど、苦しみが減り、気持ちよくなっていくのです。

理性などどこかに吹っ飛んでしまっていました。ますます激しく体を揺さぶりました。

五分、十分とあさましい踊りを披露していたことでしょう。

その間に、確実に腰は下に落ちていき、お尻が地面につくほどになりました。とうとう長い棒がすっかり腸内に入ってしまったのです。

「大したもんだ」と望月が感心しています。

いつしか、かゆみよりも快楽が勝っていました。しゃがみながらもだえている私を見ていた二人は、半ばあきれています。私はケモノそのものだったからです。

「そのぐらいでいいだろう」と二人は抱え上げて、慎重に棒から私を引き抜きました。

土間に横たえられ、穴の状態を鬼丘にチェックされます。

「ついこの間まで男を知らなかった体とは思えないぜ」

「気持ちよくなったあとは、苦痛に慣れてもらおう」

コブのついた黒い縄が用意されます。

首輪と乳房で、天井から吊り上げられます。その股間でコブのついた縄を挟みます。前回と同じ格好にさせられました。

違うのは鞭でした。

今回は痛みが増すように、一本はピアノ線にゴルフのグリップがついたものです。

鞭は皮膚に当たる部分が細いほど痛みが増すのです。鋼のピアノ線は軽く正確に打つことができます。

もう一本は、乗馬に使う長鞭です。固い鞭で、二メートルほどもあり、硬く棒のようです。

「行くぞ」

二人はスポーツでもするかのように、鞭を次々と私の体に叩きつけていきます。

ヒュッと軽い音がして、ピアノ線が皮膚を裂きました。

バシッと重い音がして、皮膚を打ち据えます。

殴られながら、カミソリで切られているような感覚でした。

白い肌はたちまち赤くなり、皮膚が裂け、血が流れ、そこが青く痣になっていきます。

男たちは私の体に取り憑かれたかのように、暴力をふるい続けました。

二人がひと汗かく間に、二度軽く失神していました。

地面に降ろされ、傷の様子をみて、鬼丘の手製の傷薬が塗られました。

彼らは交互に私の口に陰茎を入れて、硬くしていきました。そして、望月は前、鬼丘は後ろで二人同時に傷だらけの私を犯すのです。

「これまでのおさらいだ」

彼らは、私の体を道具のように扱って、自分たちの快楽のために、いろいろと向きを変えては激しく突いてきました。

男たちが果てるまで、長い時間、体をまかせるしかありませんでした。

そのあとようやく手の拘束が解かれました。

「どうだ、気が済んだか。これをやってほしくて、戻って来たんだろう」と望月。

「これからは、こんなヤワなことじゃすまない」と鬼丘。

コップの水を飲ませていただきました。

「いいか、これからは、喉を開いて、いっきに飲む練習をしろ」

鬼丘が傾けるコップの水。一杯目はごくごくと飲みました。二杯目は、喉を開くことを意識して、水が直接流れ込んでいくようにしてみました。ガマンできなくて、むせて、あふれてしまいます。

「だめだ。こぼさずに、全部飲めなくてはならない。

どんなに大量でも、そのまま胃まで入れるんだ」

必死に喉を開きました。

三杯目で、ようやくこぼさずにいっきに飲むことができました。

コツがなかなかつかめませんでしたが、四杯目は、なんとか喉を直接流れ落ちるようにできました。同じコップの量なのに、ほとんど一瞬で胃まで落ちていくのです。

「わかったな。今後、おまえはおれたちの小便でもなんでも、ごくごく飲まないといけないぞ」

二人は膣鏡を取り出し、以前のように、二つの穴を大きく広げました。さきほどのこすりつけた二本の棒、そして肉棒で、真っ赤にただれているのではないでしょうか。

「立ってみろ」

二つの穴を全開にしたまま、立ち上がりました。男たちの精液がしたたります。

「外へ出るぞ」

山は秋が早いようです。夜になると外は凍り付くほどの寒さです。

「今夜は、ゆっくり寝させないからな。ま、今後はずっと、まともに眠ることはできないぞ」

小屋の外の広場は屋外灯で明るく照らされています。地面に、八本の杭が打ち込まれていました。

仰向けに寝るように命じられました。

二本の杭は脇の下。もう二本は腰の左右。それよりも遠い残り四本は、手首、足首のためにあるのでした。

足首にロープをつけ、私の体の柔らかさを試すように、百八十度以上の開脚で杭に縛り付けていきます。

土の上に、足を大きく開いて固定されるのでした。

手も左右に引き延ばされて、大の字です。脇の下の杭と乳房を縄でくくります。乳房は夜空を向いて突き出しています。

腰の横の杭と腿の付け根に、縄が通されます。

ただ手足を広げて縛るだけなら、体をひねったり、少しは動かせるでしょう。でも、脇と腰の杭のせいで、まったく身動きができません。

「念のためだ」とスイミング用のゴーグルをかけられます。

「うまそうな甘い香りをつけてやろう」

鬼丘が、小さな瓶からスポイトで薬液を吸い上げ、私に向けるのです。

「この香りは、かなり遠くまで届くぞ。朝まで楽しく過ごせよ」

大きく膣鏡で開かれた穴の中とその周辺、そびえ立つ乳房、そして口、鼻にまで、そのエキスをたっぷり塗られました。

そのまま小屋に戻っていきました。

最初は寒さに耐えられるか不安でした。汗が引き、傷ついた体に冷たい夜風が吹きつけてきます。じめっとした土も冷たくなっていくばかりです。

救いはうっとりするほど甘ったるい香りです。私はそれに包まれて、鞭の痛みや、体のあちこちに残る辛さが少しやわらいでいくように感じていました。

でも、鬼丘は、私を癒すためにその液体を私にふりかけたのではありませんでした。

ほどなくして、おそろしいことが自分の身に起きていることに気づきました。

森の中から、樹液を吸うタイプの虫たちがやってきて、私の体を獲物として襲い始めたのです。

最初に気づいたのは、鼻や口に飛んできた小さな甲虫です。鋭い細い足で無遠慮に顔を這い回ります。

「あぅあぅ」

うめいても、抵抗できません。

ゴーグルをされた意味がわかりました。目だけは保護してくれたのです。でも、全身はまったくの無防備でした。

口は開かされたまま、鼻や耳も防ぎようがありません。そして、おそろしいことに、膣と肛門を全開にされているのです。あの甘い香りのエキスをたっぷりと注がれて……。

人間として、大切な器官、柔らかな粘膜が外気にさらされ、まったく無抵抗に虫の侵入を受けるのです。

蟻でしょうか。

尻や膣の中にもぞもぞと入り込む感触があります。そしてとうとう、その強い顎で敏感な粘膜を、容赦なく噛んできました。

「うぐぅう」

その痛みは、これまでに経験したことのないほどでした。痛みを感じる神経そのものを、直接、ごく小さな顎が噛みちぎっているようです。

おそらく虫特有の、毒性のある唾液などもまき散らされているはずです。

屋外灯の明かりも手伝って、虫たちは集まってくる一方です。

飛んでくるタイプの虫が、体にぱたっととまると、当然のように針のような口で刺してきました。

小さい虫のようでいて、鋭い針は皮膚と肉を突き刺し、えぐるのです。

突き立った乳房は格好の餌食です。白い肌。それが屋外灯に反射して、光り輝く塔のようにそびえているのです。最初は遠慮がちにチクッと刺す感覚がして、すぐに無遠慮にぐいぐいと、ささくれた竹を押し込むように、肉を切り裂いてきます。

「あぐぅあ」

寒さはどうでもよくなっていました。

汗をかきながら、もだえ苦しみ、ときに失禁しながら、苦痛を味わっているのです。

膣を器具で広げられているため、自分のおしっこが中に入ってしまったのも、怖ろしいことのように思えました。

すると、体温で温められた尿の臭いに引き寄せられてか、また別の虫たちの興味をひいたらしく、陰部につぎつぎと虫たちが集まってくるのです。

束の間、疲労のために、眠りというよりも失神している時間がありました。それは、穏やかなようで、決まって悪夢のような強烈な痛みで現実に引き戻されるのです。

その繰り返しでした。

正気なまま、朝が迎えられる自信はありませんでした。それでいて、ここへ来てしまった自分を否定することもできませんでした。

こうして虫たちに犯されながら、ボロボロになっていくのが、一番、ふさわしいように思えたのです。

虫取り改造

陰惨な夜が明けました。

白い光があたりを照らし、屋外灯も消えていました。

でも、終わったわけではないのです。

昆虫は、夜中に動くものもいれば、夜明けとともに活動するものもいました。

ブヨや蚊が活動をはじめたのです。蟻たちはすっかり私を獲物と信じ、粘膜や肉片を囓り取っていきます。

慣れることのない痛み、かゆみ。そして惨めさ。

身もだえしたくても、縛り付けられて動けるスペースもありません。それなのに一晩中、苦痛の中でわずかに動いていたからか、背中がいくぶん、地面に沈んでいたほどでした。

「どうだ」

鬼丘と望月がやってくるのが、曇ったゴーグル越しに見えました。そのゴーグルにも虫が貼り付いているのです。

「おお、けっこう、人気があるな」

柔らかな肉を楽しんだ跡が、私の全身に広がっていたはずです。

頬、鼻、唇、耳、首筋、脇、二の腕、乳房、腹部、太もも。虫は襲いやすい部分をよく知っているようです。

ポツポツと赤い跡、青く腫れている部分、破けた皮膚……。白い肌を探すほうが難しいほどです。

手にピンセット、そしてプラスチックの容器を持った鬼丘は、学者のように注意深く私を観察して虫を発見して採取します。

鼻の中に入っていた羽虫を数匹取り出しました。口の中に落ちていた小さな甲虫類。乳房に刺さったまま動けずにいる甲虫たち。そして膣の中からも、肛門からも、何匹もの虫やその残骸が採取されました。

体にへばりついている、蚊やアブ、蟻までも、叩くように潰しては、容器に入れていきました。

容器はたちまち大小の虫で真っ黒になりました。

「これしかないね、収穫が」

私には十分に思えましたが、足りないというのです。

「いいか。ケモノは自分の食い扶持は自分で見つけなくちゃいけない。おまえは能なしだから、自分の体をエサにして食べ物を見つけるしかないんだ。しかも、もう秋。虫はどんどん減っていく。これだけじゃ、満足できんだろう」

その意味がわかりませんでした。とにかく、この場から解放してほしいと目で訴えるのですが、ゴーグルのせいできっと彼らにはそれも見えていないのでしょう。

「しょうがない。屋外灯の下に落ちている虫も足せば、一食分ぐらいにはなるだろう」

「もういいかな」

望月がそわそわしています。

「がまんできないんだ」

「いいさ。おれもだ」

二人は逸物を取り出して、私に向けました。

「思い出せ。喉を開くんだ。こぼすなよ」

勢いよく小便が落ちてきました。最初、思わず顔を背けてしまいました。

「おい」と望月に怒鳴られて思い返し、自ら口を放尿に向けました。

喉を開くことができず、口からあふれてこぼれます。そして、少しずつ喉が動くようになり、やがてすべてを飲み干せるようになりました。

鬼丘も続けて放尿します。それはほとんど飲むことができました。

「これが、いつでもできないようでは、ダメだぞ」と鬼丘。

私は彼らの尿を飲むのが決まりとなったのです。私は人間らしい性愛の対象ではなく、生理的な排泄の対象でしかないのです。

鬼丘が屋外灯の下に置かれた錆びたバケツから、その水に落ちて死んでいる蛾や虫を拾い、容器に入れて戻って来ました。容器は虫でいっぱいになっていました。

「まあ、これで少しはましになるかな。待ってろ」

鬼丘は小屋に戻っていきました。小屋の中では、鍋の音がし、油がはぜる音がしばらくしていました。香ばしい匂いが外に漂います。

その後、ガリガリと砕くような音がしばらくしていました。

そして鬼丘が戻って来ました。手にはすり鉢があります。

「これを食うんだ」

すりこぎには、黒、茶、白の、油でテラテラとして、粉砕された虫の残骸がついています。

それが口の中に入れられます。

「食えよ」

舌を伸ばすまでもなく、開いたままの口の中で、肉棒のようにすりこぎが動いて、それをなすりつけ、落としていくのです。噛むことができないので、飲み込むしかありません。

最初、おいしいとさえ思いました。それはおそらく調理用の油のおかげだと思います。それと塩味のおかげです。ただ、塩分はかなり強く、しだいに苦みと妙な臭いも鼻をついてきました。

鬼丘はニヤニヤしながら、すり鉢の中身を口に流し込み、すりこぎで喉へ押し込むのです。

「飲み込め。考えるな」

ひたすら飲み込むしかありません。それが自分の体にたかった虫の死骸だとしても。

「いいか。こうやって自然のものを体に入れていくと、おまえの獣性はさらに高まる。裸で野山で生きるんだから、人間よりも強くなければダメだ。いろいろな抵抗力が試される。それはもともと原始の人間にあったものだ。こうやってそれを呼び覚ますんだ」

鬼丘の理屈は、相変わらず私の理解を超えてます。でも、考えるのはやめるように努力していました。ここに来た以上、過去の郁美はいないのです。ここにいるのは隷獣としての郁美なのです。

かろうじて人間の女の体をしているものの、いつかケモノになりきる日が来るはずなのです。

「さて。これだけじゃ足りないだろう。おまえは体もでかいしな。どうすれば、もっと虫が捕れるかな?」

鬼丘の言葉は考える対象ではありません。そのまま、頭に入れておくだけでいいのです。

「肝心の穴に、金属の器具が入っている。あれが虫を遠ざけているな。つまり、器具なしで、穴を全開にできないとな」

そうだ、器具なしで全開にできれば、そこにたくさんの虫たちが入り込み、収穫も増えるだろう、と私は思うのです。粘膜にびっしりと虫がたかっている様が浮かびます。

そのときの痛みはどれほどでしょうか。その苦痛を早く、味わってみたい、と思うのです。

「鼻も小さいしな。もっと広げよう」

しばらく鬼丘と望月の存在が消えました。

小屋に入り食事をしているのでしょう。人間の食事らしい、いい香りがしてきます。コーヒーの香り。ラジオの音。笑い声。

それは、私の世界ではありません。もう、人を恋しいと思ってもいけないのです。

太陽が上にのぼってきました。森の中にも、陽光が差し込んできます。

夜とはうってかわって、夏を思わせる暑さです。

虫たちは、いまも体に這い、柔肌を刺し、噛み、血を吸っています。

不思議と昨夜ほどのかゆみは感じません。麻痺してきたのでしょう。

戻って来た鬼丘と望月は、両手にじゃらじゃらと金具を持っていました。

「虫取りがもっとうまくなるように改造してやろうな」

鼻輪がつけられた鼻。その穴の上と横にフックが取り付けられました。それを後頭部で引き絞ります。鼻孔が上下左右に、これ以上はないというほど広がっていきます。

「あぅぅぅ」

ちぎれそうな痛み。涙があふれてきます。

足が杭から自由になりましたが、それも束の間で、二人は足を持ち上げて、体を折り曲げるようにして引き絞っていきました。

背中が曲がり、腰が浮き上がります。自分の目の前に膣鏡の埋め込まれた二つの穴が見えてきます。

なんということ……。剃り上げられ、縄や鞭で傷ついた柔らかな股間は、たった一夜の虫による攻撃で、見るも無惨になっていました。正視に耐えないほど、無数の噛み跡や赤黒い血豆、小さく裂けてささくれた肌、腫れ上がった粘膜……。

太もも、お尻にも無数の虫さされがありました。哀れなほど皮膚がボコボコになっています。

「体が柔らかいから助かるよ」

鬼丘たちは、私がいまどんな気持ちなのか、わかろうともしないようです。

足は手と同じ杭に縛り付けられてしまいました。

床に足を広げて前屈したときのような格好を、ひっくり返されたようなものですから、いくら体が柔らかくても苦しい姿勢です。

膣鏡が緩められ抜き取られます。

その器具がどれほど体を押し広げていたか。いまさらながらに実感できます。まるでつっかえが取れたようでした。

男たちは容赦がありませんでした。彼らは淡々と作業を続けていくのです。

一晩、広げられたままで伸びきっている性器の小陰唇を、自分のオモチャのように指でつまんで引っ張り、そこに小型の器具を向けるのです。

「これはな、おまえの体に自由に穴を開けることができるんだ」と鬼丘は、おそろしいことを言うのです。

パンチのように握る部分があって、その先端には、八本の円筒状の刃先が水車のようにセットされています。それをくるくると回すのです。

「二ミリから四・五ミリまで選ぶことができるんだよ」

細い刃先から徐々に太くなっていく、そのペン先のような細い刃先には穴があいているようです。

「そんな道具、よく見つけたな」

「革のベルトに穴を開けたりする回転式の穴開け器だ」

「なるほどね」

「三ミリがいいかな」

引き延ばした小陰唇を挟み込み、ぐっと器具を握りました。

「うぐー」

私の体は革のベルトとは違います。皮膚があり肉があり、血が通っているのです。

そこを鋼鉄の刃先が貫通していきます。

引きちぎられたような痛みがあって、それが重い痛みへと変わっていきます。

目の前で自分の肉体に穴があけられているのです。

本来の痛み以上の痛みを感じてしまいます。

鬼丘は開いた穴を確認すると、無骨な指先でしたが、器用に金属の小さな鳩目をねじ込んでいきました。

隷獣 第3部 (3/7)
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