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縄味 1 · 第4部

縄味 1 第4部 (4/4)
前の話

「もっといじめないと、あの顔が出ないんじゃないですか」

金男が余計なことを言います。

「そうなのか、なわみ」

深川先生の竹刀の先端が、頬に食い込みます。顔をいたぶられるのは、かなりつらいものです。

叩いたりはしないのですが、それだけで体がすくみます。

「おまえの気分が乗らないと、縛る気がなくなる」

「そんな……」

「どうなんだ。縛られたいのか。やめたいのか」

返事ができません。

「すみません。もっと厳しくしてやってください」

金男がさらに言うのです。

「よし」

石がどけられ、上体の縄を赤岩が解きます。

「大丈夫ですか?」

「はい」

なんとか返事をします。

「裸になって」

足首は縛られたままで、着物を脱ぎました。

再び正座をします。ただ、今度は縛り方が変わりました。手を背中で水平に揃えた形で縛ります。首にかけた縄は菱縄のように上体にかかります。

板石が足にのせられます。素肌の上に、食い込んできました。

乳房をつかんだ先生が、絞るように根元に縄をかけました。その縄尻で板の端を縛ったのです。

「あつつぅぅぅ」

引きちぎられそうな痛み。両方の乳房を板に引っ張られ、前屈みになります。

「やっといい顔になったね」

先生が優しい声でいいますが、それどころではありません。

もしバランスを崩せば、板の重みで乳房が引きちぎれてしまうかもしれないのです。

「本来は足の下に

薪

を置くんだよ。角材だね。だけどまあ、今日はそこまではしないでおこう。本当の拷問になっちゃうからな」

機嫌がよくなったらしく、先生は笑っています。

さらに髪をまた縄で縛ると、それを背中の腕にからめて引き絞ります。

「あがっ」

石を抱えるように前屈みになっていたのに、髪を引き上げられて顔はのけぞることに。自然に大きな口を開けます。

「いいねえ」

赤岩もうれしそうにシャッターを押しています。

「じゃ、このシーンの最後の仕上げといこう」

深川先生は、バケツを持って来て、私に見せるのです。

「いくぞ」

「いつでもどうぞ」と赤岩。

シャッターが高速で切られる中で、先生は私の顔をめがけてバケツの水を浴びせました。

吊り

「ぎゃー」

悲鳴は、口の中にあふれる水で消されます。

冷たい水で全身、びしょ濡れになり、気管に入ってむせかえります。

「もう一杯」

今度は金男が水をかけてきました。

「あぎー」

口を閉じることもできず、顔を背ける間もなく、たっぷりの水を浴びせられ、飲んでしまいました。

「よーし。ここでとりあえず休憩」

赤岩と金男が石を取り除くと、伸びきった乳房がやっと解放されました。

水たまりとなった三和土で、私は倒れてしまいました。

「もう音を上げるの?」

意地悪な先生。

「大丈夫ですよ。ぜんぜん、平気ですよ」と金男が無責任に言います。

「体が汚れているのもいいね」

「このまま縛ります?」

「おもしろいな」

髪は赤岩がタオルで拭いてくれましたが、体は濡れて三和土の砂がついています。

「女囚として男たちに犯されて、遊びがてらに拷問されて、今度は酒の肴で吊されるってわけだ」

先生が説明をしてくれますが、自分の身に本当に起きていることなのです。架空のことだとは思えません。

かといって、女囚になりきることもできません。

深夜になって、朦

朧

としつつも、体は火照っています。縄を求めているのです。

水を浴びれば

鎮

まると思ったのですが、一瞬はそうなったようでも、すぐにまた燃え上がってきます。終わりがないのです。

「お願いします」と自分から言っていました。

「うん? いいのか?」

「お願いです。吊してください。なわみを吊して」

囲炉裏のある座敷に上げてもらいました。

太い梁から下がる縄。

「酒の肴だから、おもしろい吊りがいいですね」と赤岩。

手を背中で組むようにして縛られ、乳房の上下に縄が回ります。解かれ、縛られ。その繰り返し。肌が求めているのではないかと錯覚するほど、不思議なリズムに体がうずいてくるのです。

「おっと」

金男が指で股間をなで上げました。

その指先が光っています。

「トロトロになってるな」と先生も、ぎゅっと縛りながら言います。

「あうっ」

梁からの縄に縛られて、体が持ち上げられます。

つま先立ちになります。

「自分でやったように片足立ちにしてやろう」

下手な金男の写真に触発されたのでしょう。先生は左足の膝を縛り、それを別の縄を通して吊り上げました。

バランスが取れません。つま先だけでかろうじて体重を支えますが、吊っている縄に頼るしかなくなります。

「こっちの足も」

先生が、必死に支えている右足首にも縄をかけました。赤岩と金男が私の体を抱えるようにして宙に浮かせるのです。

左足をさらに高く上げて、右足も空中に。腹部と腰に新たな縄が加わってそれも梁と結びます。

金男たちが手を離すと、大股を開いたまま横向きに宙に浮いているのです。

またしても髪を縛られて、それも梁へと引き上げられます。

「ぐぅぅぅ」

空中で反るような姿勢。

苦しいだけではなく、不思議な浮遊感があります。

裸の女を梁から吊し、男たちがその下で酒盛りをしている……。彼らは笑いながら、犠牲者の乳房や性器をもてあそぶ……。

なにをされても、嗚

咽

し、悲鳴を上げることしかできません。

先生と金男がその男たちのように、乳房をつかみ、股間に手をやるのです。

「がぁぁぁ」

悲しい声を上げています。

しばらく遊ばれると、先生は腕の縄を下げていきます。

「あああ」

上体がそのまま下に向かっていくのです。

畳にとても近いところで止まります。今度は左の足首に体重がかかります。

逆さに吊り下げられているのです。

「なわみ、どうだ。吊られた気分は?」

言葉になりません。

膝だけでは不安定なので、右足首にも縄をかけていきました。

斜めだった体は、完全に逆さになっていきます。

それも大きく足を開いた形での逆さ吊り……。

男たちに秘部を見下ろされて、品定めされている……。

目に入るのは男たちの足。そして垂れ下がる縄。

「見てください。欲しそうにヒクヒクしていますよ」

「セックスはNGと言っているのに、挑発しているとは、あきれますね」

赤岩がからかいます。

「恥ずかしい……。そんなに、見ないでください……」

「いいえ。ぼくは許しませんよ。奥さんは上品なモデルに向いていると思っていましたが、その本性はこれですか」

「ひー」

赤岩の指が秘部に触れてきました。見ると、それは指ではなく、縄でした。彼は縄をそこに押しつけているのです。

「どうです、なわみさん。セックスはダメだけど、この縄なら、体に入れてあげてもいいですよ」

「あっ、そんな……」

ぐいっと縄を指で押し込んだのです。

「ふひぃぃぃ」

ぶざまな声を上げてしまいました。女囚でもなんでもなく、ただの淫乱な女です。

ぐいぐいと赤岩が押し込んできます。縄でこんないたずらをすることを、深川先生はやめさせると思ったのに、なにも言いません。

「なわみ。これがぼくたちの気持ちですよ。受け取りなさい」

赤岩が粘膜の奥へ縄を詰め込むと、それを勢いよく引き出しました。

「はああん」

はしたない声が出ていました。

ここにいるのは、菜緒美ではないのです。なわみ。縄に犯されてよがり狂う変態女……。

頭に血がのぼり、疲労もあったと思いますが、しだいに意識が遠くなっていきます。

温かいような、いえ、冷たいような。

感覚がよくわからなくなっていきます。

あたりが急激に暗くなりました。

「なわみ!」

先生の声が遠くに聞こえています。

やがて、それも聞こえなくなりました。

異形

気がつくと、まだ先生のアトリエでした。

畳に寝かされて毛布にくるまれていました。

「気がついたか」

金男でした。

すっかりまわりは明るくなっています。朝なのです。

「失神したんだ。それで休憩さ」

泥のような眠りでした。

囲炉裏から煙がたちのぼり、鍋がかけてありました。

「食べておけ」

深川先生がお粥を用意してくれました。

私は手洗いを使い、顔を洗いましたが、化粧道具を持ってきていませんでした。

鏡の中の顔は、とまどっています。これが自分なのだろうか。目が死んだようになっていて、隈ができて。唇がカサカサです。あまりにも長時間、素肌をさらし、過酷な目に遭っていたからでしょう。

トイレを使うとわずかにおしっこに血が混ざっているようでした。縄でいたぶられた性器は、赤く膨らんでいて、淫らなままです。

あんなことをしてしまった。それだけではありません。みなさんに見られてしまった……。

だるい体を引きずってお粥をいただきました。

「大丈夫ですか」

赤岩が声をかけてきました。あんなに酷いことをしたのに。

彼だけは、どんなときも同じぐらいの温かい言葉をかけてくれます。いつも冷静で少し遠いところにいるようです。

ですが、その距離感は好ましく思えます。

「今日も続けられますか?」

私が返事をするよりも早く、金男が「もちろんです」と言いました。

赤岩は私の返事を待っています。

こくりと頷きました。縄で犯した彼の気持ちを、菜緒美としては拒絶していますが、なわみは受け入れたのです。

このまま彼の縄を受けたら、どんなことになってしまうのでしょう。なわみは期待さえしているのです。

「場所を変えようかと思ったのですが、大丈夫ですか?」

口の中の粥を飲み込み、「化粧ポーチなどを取りに、いったん戻ってもいいでしょうか」と頼みました。

「なるほど。いいでしょう。ぼくの車で移動しましょう」

深川先生のお宅の駐車場に入っていた車は赤岩のものでした。後部に大きな荷台のあるステーションワゴン。後部シートは倒されて荷台になっています。

それをシートに戻し、乗せてもらいました。

助手席に金男が乗って道を教えながら、ガラガラの日曜日の朝の都会を走っていきました。

なにもかも、違って見えます。

こうしてなにもしていないときでも、もはや菜緒美に戻れないような気がします。

自宅に戻ると、やっと、そこが本当の自分のいるべきところだと気づきました。

「待たせてるんだから、さっさとしろよ」

金男がついてきて、そう言うのですが、彼はまたしても夫の服を借りて着替えます。

私もようやく服を着ることを許されました。

「モデルさんだからね。それなりに見栄えがしないとな」

ストッキングをはいて、下着を身につけ、スカートにセーターを着るとホッとします。

化粧をしましたが、鏡で自分を見ているのに、そこには縄奴隷なわみしかいません。この家に戻ったのに、そこに菜緒美はいないのです。

どうしても濃い目になっていきます。

髪にブラシをかけて、必要なものをバッグに入れました。支度をしていて、徐々に怖くなってきます。今日、そして明日。

昨日のように責められて、自分は本当に戻れなくなるのではないか。月曜の夜に夫に顔を合わせることはできるのだろうか。そこで、緊縛モデルの話など、できるのだろうか。

「行くぞ」

せかされて、部屋を出ました。

「逃げるなよ」

金男は笑っています。それは「逃げてみろ」と言っているようです。

逃げるといっても、なにもできないのです。それに、なわみは、もう昨日のめくるめく体験に味をしめて、舌なめずりをしているのです。

金男とはまったく違う、野性的でも冷静で、芸術的な上に、これ以上はないという苦痛……。美しく淫らな世界。赤岩はそれを見せてくれるのではないでしょうか。

マンションを出て、赤岩の待つ車へ行きました。

再び後部座席に乗りました。

「ちょっと遠いんで、ゆっくりしてください」

車は高速道で街から離れていきます。高いビルが少なくなり、緑が多くなっていきます。高速を降りて、買い物をする家族連れの車で混雑した街道を抜けると、突然、人も車もほとんど見なくなりました。

「田舎でしょう。街中から一時間ほどなんですけどね。まだこんな場所があるんです」

果樹園の中を農道のような道を通り、里山の

麓

に赤岩の家がありました。

「いいところにお住まいですね」

「バブルが弾けたおかげでゴルフ場にならずに済んだ場所ですよ」

「ずっと、こちらに?」

「ええ。育った場所が、ここから十五分ぐらいのところです。知り合いにここを紹介してもらって、このあたり一帯を買いました。最初はほら、ゴルフ場開発反対って意味があったんですけどね。張り合いなく業者が撤退したか倒産したかして、反対運動も必要なくなったんですが、住むのにもいいかなと思ったもので」

住むだけではない。女を縛って絵を描くにはいい場所でしょう。

「金男さん」と赤岩が義兄に声をかけます。

「今日は普通とは違う縛りをやってもいいでしょうか」

「どういうことです? どんな縛りもOKですから、遠慮することなんてないですよ」

「縄を使わない縛りです」

「ほう」

「これまで、プロのモデルに依頼しても、たいがい断られてしまったんで、ぜひ、なわみさんにはやってほしい」

「いいですよ、もちろん」

「明日の吹雪さんには申し訳ないけど」

「かまいませんよ」

なぜ明日の吹雪さんに申し訳ないのかは、すぐにわかりました。

車を降りて、モダンなログハウスのアトリエへ入ります。大きな居間があり、そこに赤岩の書きかけの絵がいくつも並んでいました。花鳥風月。山紫水明。そんな言葉が浮かぶような美しい日本画です。

吹き抜けの天井。北向きの採光です。

二階に部屋がいくつかあって、そこへ上がる階段があります。

薪をつかうストーブもあります。

赤岩はてきぱきと絵などを片付けて、居間から物をどかすと、そこにキャンバス地の大きな布を広げました。

「今回はデッサンはあとでします。三台のビデオで撮影しておいて、あとで必要な部分をデジタル画像で切り出して、それを元に絵にしていきます」

「そうなんですか」と金男。

「そのほうがスピーディーだし、思わぬ瞬間を捕らえることもできるでしょう?」

「なるほどね」

これまで見た赤岩ではありません。情熱的で、張り切っているのがわかります。

彼が持ち出してきたのは三種類の針金と有刺鉄線でした。

「それを!」

金男が興奮します。

「ええ。縄の世界は深川先生がご専門で、ぼくもいま修業中ですが、同じことをしてもおもしろくないですからね」

肌が傷つくのではないでしょうか。

がさついた縄を使っただけで肌は擦れ傷ついたのです。深川先生はそういう縄を嫌いました。

ですが、いま、赤岩は別の意味で私を傷つけようとしています。だから、明日の吹雪さんに悪い、というわけなのです。

「縄は存在感があるでしょう。あれは情念の世界ですよ。捕縛って言葉があるでしょ。ぼくはねえ、あれには三つの意味があると思うんだ。第一に、罪人をおとなしくさせる、つまり自由を奪うこと。第二に、苦痛を与えること。自由を奪われた苦痛だけじゃない。縄が食い込み関節が悲鳴を上げる。第三にツボをおさえることで反抗心そのものをなくさせること。心をも縛る。どうです、昨日、あなたは失神したけど、深川先生の縄に実を委ねて、気持ちがよかったんじゃないですか?」

そうだろうか。覚えていない。苦痛だったような気がしているものの、いま赤岩が針金を手にしているのを見てしまうと、深川先生の縄にすがりたい気持ちになる。

それに失神した主な原因は、赤岩が縄を膣に押し込んだから……。

「日本画の情緒としては、縄がいいのは当たり前です。だけど、ぼくはあえて、そうした効用を無視したい。こういう細い針金は、異質なものだし、肌には馴染まない。苦しみのみを与えると思いませんか?」

「なるほど」と金男はうなずいている。

「純粋な苦痛に顔を歪める女を描きたいんだなあ」

あやとりのように、私の指を縛ってくれた彼が、今日は苦痛だけを与えるというのです。

「それに、これって光るでしょう。ギラッとね。これがいいんじゃないかなあ」

「いいですね。やってください」

金男は簡単に承諾します。

赤岩は以前とはちがい、私には話しかけません。私の承諾は不要だと考えているのです。

「じゃ、裸になって」

服を着ていたのに、すぐに裸体をさらす。着衣の縛りもなしです。

赤岩は怒っているのでしょうか。

私は彼を傷つけていたのでしょうか。

せっかく着た服を彼らの前で脱いでいきます。泣きだしたくなる瞬間です。

全裸になりました。

「手を出して」

右手首に針金を巻き付けます。細いですがブレスレットのように、きれいに巻いていきます。ただし、肌に食い込むほど強く。

針金の末端に小指ほどの木片を取り付けました。ペンチでパチンパチンと切ります。

木片を捻ると針金が締まり、さらにきつく食い込みます。

「うううっ」

大丈夫か、と深川先生のところで心配してくれた赤岩ですが、ここではそんなことは聞きません。

左手首にもつけました。奇妙なブレスレット。自由が奪われたわけではないのに、手首から先への血行が悪くなり、指先の感覚がおかしくなっています。

「あとできちんと締めようか」と赤岩は独り言をして、いったん、緩めてくれました。

肘の上、乳房の根元、太もも、足首にも同じような仕掛けをつけていきます。

「じゃ、締めるからね」

キャンバスに寝るように言われて、赤岩は順番に針金をぐいぐいと締め上げていきます。

「あうっっ」

見上げると三台のカメラと、二人の目が私を冷たく見ています。実験動物になったような気分です。

ぐいぐいと締め付けられると、たちまち血行が悪化して、あちこちが鬱血し色が変わっていきます。

その変化を彼らは見下ろして観察しているのです。

「苦しいか」と金男が言います。

「はい」

動く自由はあるはずなのに、立ち上がる勇気も出てきません。苦痛の中に閉じ込められていきます。

「じゃ、次にいきましょう」

ひとしきり私の苦悶を眺めると、すべての針金を緩めてくれましたが、外したわけではありませんでした。

太い針金を赤岩は持ち出します。

緩めた手首の針金に通して先端を絡めます。軽く肘を曲げた形をさせられ、太い針金を首に巻き付けていきます。そして、反対の手首に結ばれました。

手を広げるように動かすと首が絞まるのです。首を絞めたくなければ腕を縮めておくしかありません。

「操り人形にしてあげよう」

赤岩の中にある強烈な魔性がいま、私に向かって吐き出されているようです。

乳房に同じように太い針金が取り付けられ、それは頭を何周かしてぎゅっと締められ、反対側の乳房につなげられました。

これで頭をのけぞらせると、乳房がぎゅっと締まることになりました。

「あっ、くぅ」

どんな姿勢を取ればいいのかわかりません。

今度は足首。そこから太い針金が、股間に置かれます。

「いいですかね、ここ」

「ええ。ご自由に」と金男。

ご自由にって……。

「けっこう濡れていますね」

「ホントだ」

「なんにもしていないのに……」

二人に笑われます。

「昨日、躾けておきましたからね」と赤岩が言うのです。「なわみは、縄でいかされたんですから」

真っ赤になってしまいます。

「縛られるだけで感じてしまう変態女ですからね」と金男も笑います。

マリオネット

「じゃ、こうやってみましょう」

赤岩は、腰に太い針金を巻いて食い込むほど締め付けました。

その針金に別の針金を巻き付け、垂直に下へ降ろしました。

「針金の褌ですよ。貞操帯と言ってもいい。これなら、ぼくたちが彼女を犯していないとはっきりするでしょう?」

「なるほど、貞操帯ですね。悪くないな」と金男が感心しています。

「こうやって、きつく股に食い込ませたら、男はなにもできない」

肉を裂くように、太い針金がクリトリスの横を押さえつけて、割れ目にはまり込み、お尻を通って背中に。

「ただし、こうしてみたらどうかなと思ったんです」

赤岩は左右にわかれた恥丘を指で撫でるのです。つまみあげ、弾力を確かめています。

そして左右にぐいっと開きました。

「うっ」

そこにダブルクリップを挟みました。毛もからまって、強烈な痛み。

足首からの針金を、そのクリップに結びつけたのです。

私は痛みと苦しみの中に、どっぷり漬かっていました。なにかをきちんと考えることなどできません。

「痛いです。お願いです、取ってください」

必死に懇願しましたが、二人とも無視しています。

体を少しでも動かせば、痛みはさらに強くなるのです。足を動かすと、柔らかな丘の肉が引き伸ばされます。ぶちぶちと毛が抜けた感覚も。

手を動かせば首が絞まります。

苦しくて頭を動かすと乳房が……。

男たちは、しばらく私を眺めて楽しんでいました。

「もっと、楽しくさせてあげよう」

赤岩は、缶に入った筆や刷毛を持って来ました。

「古いものや、使わなくなったものなんだけど、捨てられなくてね」

絵を描く道具なのでしょう。

「なわみ、少し狂わせてあげよう」

「なにするの、いや、お願い、やめて」

拒絶しても、縄奴隷を誓った以上、そして金男がストップさせない限り、どんなことでも、何時間でもできるのです。

二人はその筆や刷毛を手にして、私の体をくすぐりはじめました。

「あっ、だめ、ひっ」

体をよじれば、どこかが激しく針金で痛めつけられます。

体温がいっきに上昇していくようです。

「なわみはどこが感じるのかな?」

赤岩は意地悪に、ほんとうにやさしく筆を使います。金男は少し乱暴にするので痛いだけです。

脇、お腹、うなじ、鼠蹊部

など、感じやすいところを責められて、ついもだえてしまいます。

そして痛い思いをするのですが、しだいにくすぐったさと痛みが一緒になってきて、奇妙な感覚に襲われるのです。

くすぐったい、体をよじる、針金が食い込む、痛い……。それが渾然としてきます。

針金までもが私を愛撫している……。

同時にこれは、奇妙なオナニーではないでしょうか。彼らに操られながら、それでも苦しみと快楽は、ある程度、自分で調整できる……。

縄と違い、形状を保ちやすい針金は、むしろ体から浮き上がることもあるので、少し皮膚がホッとします。でもすぐ、鋼が食い込み強烈な痛みとなります。縄はこんな酷いことはしません。

深川先生に女囚として縛られたときも辛かったのですが、いまから思えば甘美な世界と言えました。

針金は、人間の肉体と妥協することがなく、慣れることもありません。いつも異質なまま。

「助けてー、お願い、お願いだから、やめてー」

快楽が寸前に地獄のような苦痛になることもわかりました。オナニーのようで、苦痛ばかりが増えていくのです。これは罰です。縄で感じてしまったなわみへの罰なのです。

泣きながら転げ回っていると、ようやく、筆の動きが止まりました。

「一服しましょう」

赤岩が言い、ペンチで針金を外していってくれました。針金は再使用を考えずにバチバチと切断して外していきます。おかげであっという間に解放されます。縄は解く間も少し時間がかかりますが……。

クリップも取ってくださいました。

体中が痛くて、自分で自分を抱きしめていました。バラバラになってしまいそうです。

水分を補給し、サンドイッチをいただきました。

キュウリや卵の入ったそれを噛みしめていると、ふいに涙があふれました。

「どうしたんです。つらいですか?」

赤岩が言います。

「こんなに日常とかけ離れたことをしていても、こうやって食べるといつもの味がします。なんだか、そう感じたとたんに……」

「うん。なわみさん、ちょっと不安定になっていますね。気分は変動しやすい方ですか?」

「そんなことはないはずですけど……」

「縛られるためのモデル、縄奴隷なわみとして生きるのはなかなか大変だと思います。早い段階でいろいろ経験しておいたほうがいい」

赤岩は真剣な眼差しです。

「はい」

「あなたが望んだことなのだ。だからといって、すべてを受け入れられるとも思わない。だけど、ぼくたちの欲望は果てしない。モデルさえ了承してくれれば、やりたいことはいっぱいある。そのまま作品にできないにしても、そうしたことをやって、しっかり目に焼き付けることは、ほかの作品にも大きな影響を及ぼすのです。想像するだけではなく、実際にやってみないと、本当のことはわかりませんからね」

「はい」

「勇気をもって、そんな役割を申し出たあなたはすばらしい」

そんなつもりではありませんでした。

私はただ、できる範囲で、写真集にあるような緊縛を経験してみたかったのです。常識的な範囲で。発表可能なものだけで十分なのです。

ですが、自分の肉体をイジメることで、赤岩らに貢献できるとするなら、それも一つの役目なのかもしれません。芸術に身を捧げるといった崇高なものではありませんが、誰かのために、という点では邪な欲望の犠牲だとしても、貢献には変わりがないかもしれません。

ライオンに食われたインパラが、ライオンに貢献したとしても、ライオンがそのあとすばらしい功績を残すわけでもないでしょう。犠牲というのは、そういうものではないでしょうか。報われないからといって、犠牲の意味がゼロになることはないと思いたいのです。

それに、これは私が縛られる悦びに浸りたいがためにはじめたこと。欲望が原因です。悪いのは私なのです。

「それにしても、ぼくが今日、こんなことをしたと知ったら、深川先生は怒るでしょうし、明日の吹雪さんも困るでしょうね」

そう言って赤岩は笑うのです。

「どうしてですか?」

「だって。ほら」

針金の跡はくっきり残り、明らかに皮膚を傷つけています。縄跡どころではありません。

お茶を飲み終えるのも待たず、赤岩は仕事の道具を並べていきます。

「やってみたいことをします」と宣言します。「いやあ、面倒がなくてすごくいいですよ。だいたい、モデルさんとは信頼関係が大切だから、話し合ったり了解をとったり、テストしながらってことになるけども、なわみは縄奴隷だから、そんなことは必要ないわけですよね」

「そうです」と金男。「本人はNG行為以外はすべて受け入れます」

「ボディーペインティングをしたいんですよ」

汚れた大きな布の上に仰向けにされました。目にゴーグル。耳と鼻に綿を詰め、髪はまとめてシャワーキャップで覆います。

赤岩が私に絵筆をつかいます。

「乾いてもパリパリにならない絵の具で、お湯に浸かれば取れますから」

緑やカーキ、ベージュなどの絵の具で顔、そして全身が塗られました。立たされて、背中も塗られました。

鏡で見ると、私は軍隊の迷彩服のようになっていました。髪の毛と目が異質です。

「どうです?」

「いいですね。どういうことなんです?」

「ちょっと準備します」

赤岩は乾くまで私を立たせておき、自分は分厚い革手袋をすると有刺鉄線とペンチを持って庭へ行きます。庭といっても、果樹園からの続きのような雑木林と雑草の生い茂った野原があるのですが、そこに有刺鉄線をらせん状に這わせていきます。

すごく嫌な予感がしてなりません。

周囲は緑に覆われています。

「じゃ、こっちに」

足がすくみます。

「行けよ」

義兄が近づいてきます。殴られそうです。

「早くしろ」

拳を振り上げています。体がすべて赤岩の作品となっているので、触れることはできないと思っているのでしょう。唯一、殴ることのできるのは頭ぐらいだから……。

「行きますから」

殴られるのはごめんです。

裸で裸足で、庭に出ました。冷たい草を足の裏に感じながら農村の風景を眺めます。

そこには非情な有刺鉄線のバリケードがあります。

「テーマはまさに、捕らわれた女、ですね」

「む、ムリです」

「やるんですよ、なわみさん。なんでもするんでしょう?」

「怖い……」

「大丈夫ですよ。ちょっとチクッとするぐらいでしょう」

赤岩は私の体に有刺鉄線を這わせていきます。動けばその鋭いトゲが皮膚に突き刺さります。

立ったまま、動くことができません。

首、腕、乳房、腹部、太もも。蔦が這うように、私の体を飾っていきます。

さらに背中からお尻を通って股間から腹部へ。

「動いてみて」

「ムリです」

「ムリじゃないよ。痛くないから」

そんなわけないのです。赤岩の目を見ます。目でいくら訴えても跳ね返されます。

あの日、渋谷のカフェで指を縛ってくれたあの同じ目なのに。

こちらの反応を素早く見定めて、受け止めてくれていた赤岩。いまはそれほど気を使っているようには見えません。

すっと冷たい風が肌をなぶっていきました

「そこへしゃがんで」

言い訳はしません。口答えも。文句も。

だけど、悲鳴は許してください。

「ひぃぃぃ」

バリケードの前にしゃがむと、体にじわっとトゲが食い込むのです。確実に肌は傷ついています。

赤岩は一眼レフで何枚か撮影しました。

金男はビデオカメラを一台、三脚を立てて設置し、その液晶画面と私を交互に見ています。

「そこに横になってみて」

「うぅぅぅ」

うなりながら、体をそろそろと伸ばし、地面に横向きになると、下にしている左の乳房と脇腹にぐさりとトゲが刺さりました。

「あっ」

これだけきついことをしているのに、赤岩が狙っているのは私の表情なのです。

全体像はビデオで捉えているのでしょうが、かなり近くからアップばかりを撮影しています。

「転がって」

ガタガタと震えながら、転がろうとするのですが、怖くて自分ではできません。

「痛いんです」

すると金男がやってきました。

「もっと痛がれってことだよ」

無言で足を私の腰に。

「ああっ、だめ!」

蹴るように仰向けに転がされると、背後のバリケードに背中がぶつかりました。

ただ丸くらせん状に藪に立て掛けただけの有刺鉄線ですから、あっけなく潰れて変形します。

その鋭い先が、あちこちに突き刺さっています。

動けば、ナイフのように皮膚を裂いていくでしょう。

痛くて震えているのですが、身動きできません。

「いいぞ!」

体が捕らわれているのがわかります。

「もっと涙を見せろ!」

赤岩は興奮し、写真を撮っています。

撮影

地面を転がされたあとに、やっと許されて、有刺鉄線を外してもらいました。

体中に傷ができてしまいました。

赤岩も金男も、優しい言葉のひとつもかけてはくれません。撮影した写真を眺めて、語らっているのです。

風呂を使わせてもらったのですが、お湯をかけるだけで、叫びたくなるほどの痛みです。

どこもかしこも、染みてきます。

半死半生で風呂を出ると、金男に薬をつけてもらいました。

「うわ、けっこう大変だな。沁みるけど、がまんするんだよ」

薬をつける間は、思う存分触りながら、優しくしてくれました。弟の妻を、彼はオモチャのように思っているのでしょうか。

本来は優しいはずの金男なのです。私が狂わせてしまったのです。

一時的に帰宅を許されました。赤岩からは「貞操帯をつけたらどうか」と提案されました。

「これじゃ、やってないと言われても、こっちは証明ができない。貞操帯をつけてくれれば、こっちも安心できる」

赤岩は車でターミナル駅まで送ってくれました。

「じゃ、明日。スタジオで」

金男と二人だけになると、不安になります。また酷いことをされるのではないか。赤岩がしたような、普通の女性ならとても了承しないような暴力的な行為を、金男はとても気に入っているようでした。赤岩とは帰りの車の中ではずっと友人同士のように、楽しそうに会話していたのです。

私は後部座席でぐったりしていて、ほとんど眠っていました。

だから金男が繁華街へ向かって歩きはじめたとき、意味がわかりませんでした。

「駅へ行くんじゃないんですか?」

「違うよ。赤岩さんに教えてもらったショップに寄るんだ」

私は裸の上にコートを着ているだけだということを、金男は忘れているようです。

「ここだよ」

革製品中心の輸入雑貨店。黒、茶、バックスキンの革に鋲や鳩目が打ち込まれています。狭い店の中を、金男は私を先に立たせて、一番奥まで行きます。

「店長さん、いらっしゃいますか」

鼻と耳に大きなピアスをして、カラフルな毛糸の帽子をかぶり、その下からドレッドヘアを垂らしている不健康そうな男がいました。

「あん? なんでしょう?」

「赤岩さんから聞いたんです」

「ああ、さっき連絡もらいました。これですけど」

店長が用意していたのはビニール袋に入った黒いベルトでした。

「やり方、わかります?」

「ここでやってみてください。この女に」

「いいですよ」

ガサガサと音を立ててベルトを取り出しました。

コートを開かされます。薄暗い店内で、見知らぬ男に肌を見せていますが、私は泣き出さないように気をしっかり持つことだけで精一杯でした。

こんなことに慣れていくのでしょうか。

それは革のベルトを頑丈な金具でつなぎ、Tバックのような形に仕立てたものでした。ウエストの部分を締めて南京錠をつけます。

つぎに股間のベルトをフィットさせてからもう一つ錠をつけました。

二つの南京錠を開けなければ、脱ぐことはできません。股間は幅広い革が当てられていて、このままではオシッコもできないのです。

金男がお金を払いました。

「よかったな。とりあえず明日はそれで行こう」

不快なだけではなく、みっともない感じもします。カメラマンの吹雪さんがどう思うでしょうか。おもしろがってくれればいいのですが……。

疲れ果て、ようやく日曜日が終わります。

お風呂に入り、傷の治療をし、食事らしい食事をし、横になることができました。

体のあちこちが痛く、熱を持っているようです。そして月曜日のことが不安であまり深くは眠れませんでした。金男が居間のソファで寝ていることも気になります。

出張しているときの夫は、ほとんど連絡をくれません。メールも来ていませんでした。

妻がこんなことになっているのに。

何も知らず、仕事をしているのだとすると、申し訳ない気持ちになります。

縄奴隷なわみになってしまった……。体中傷だらけになって、おまけに貞操帯まで。

私が求めた縄の世界からはどんどん遠くなってしまいます。

眠ることができないまま朝になりました。カーテンが開いたので目を開けました。

「なわみ、今日もがんばろうね」

夫の服を着ているので、一瞬、哲次が帰ってきたのかと錯覚してしまいました。夫に甘えて、すべてを終わりにできれば……。彼が金男の言うことをすべて承諾するとは思えません。兄弟の絆は大切かもしれませんが、私との絆はもっと強いはずです。

今夜、彼が帰宅してくれば、きっと解決することでしょう。

「縛られると思うと、濡れるんじゃないのか?」

いやらしい目で金男は見ます。性的な能力を失っているからといって、いやらしさが失われているわけではないのです。

「なわみのあそこを見せてほしい。だめかな?」

「だめです」

「なぜ?」

「だって、あなたは……」

「義理の兄だから? しかし、なわみは縛られるだけでいいの? 乱暴されて犯されたりしたいんじゃないの?」

「そんなことはありません」

きっぱりと否定したつもりですが、金男が動じないので、もっと強く言うべきだったのでしょうか。

「ま、いいさ。それよりもスタジオに行かないと。女は支度に時間がかかるだろ?」

急いで朝食を取り、最小限のメイクをし、髪をとかし、傷の様子をチェックして薬を塗りました。

金男は昨日購入した貞操帯を持っています。

「ほら。これをしろよ」

「今日は服を着させてください」

「バカだな。なわみは服なんて必要ないんだよ。唯一まとうのは、自分を拘束するものだけなんだ」

「そんな……」

「どうせ裸になるんじゃないか」

「つらすぎます」

「つらいのがいいんだろう?」

何を言ってもダメなのです。

昨日は気づきませんでしたが、革の貞操帯をはくと、股の部分などに食い込んで、かなり痛いのです。これで一日過ごしたら、肌はとても痛むと思います。

スタジオが、今日はすごく怖い場所となりました。

控え室へ行くと、「おはようございます」と明るい声。嫌な予感。

そこには、絵夢奴さんがいました。

「私が言ったとおり『なわみ』にしたんだって? よかったじゃん。あんたにピッタリだし」

彼女が私の写真を流出させた張本人なのです。

「どうしてここに?」

思わず強く言っていました。

「ん? なんだって? えらそうじゃないの、なわみさん。きれいな顔しているからってね、関係ないんだよ。こっちの世界じゃ、あたしが先輩なんだ。あんたは後輩。この世界、後輩は人間以下。豚だよ、豚。ひゃひゃひゃっ。なわぶたちゃん!」

絵夢奴さんはまったく反省なんてしていないのです。人の人生をこれほどまでにねじ曲げたというのに。

「なにか言いなさいよ、豚」

「ごめんなさい」

「わかっているならいいわよ。仲良くやりたいのよ。あんたのこと、けっこう気に入ってるんだし」

笑顔で返すべきでしょうが、顔が強ばっています。

「吹雪ちゃんに呼ばれてるのよ、あたしも」

「え!」

「あんたとレズっちゃうんじゃない? 好きだなあ、そういうの。あんたきれいだしさ。縄奴隷になったって聞いたもん。本格的じゃない?」

そこに吹雪さんが入ってきました。

「おはよう。どう、今日の調子は」

「絶好調!」と絵夢奴は大きな声で答えます。

「さっそくメイクしてね」

メイクさんがやってきました。

そして赤岩は眠そうな目をこちらに向けました。彼も寝ていないのかもしれません。

「大丈夫?」

「はい」

「準備できたら、すぐ撮影できるからね」

「わかりました」

私は絵夢奴とメイクさんがいる前ですが、度胸を決めてコートを脱ぎました。

「うそっ!」

絵夢奴が叫びます。鏡に映った私を指さしています。

「裸で来たの? マジ? 信じられなーい。そのパンツも」

「これは貞操帯なんですよ」と金男が笑いながら説明する。「なわみは人妻で貞操だけは守ろうというわけです」

「貞操? なにそれ? そんなのつけてたら、先生たち怒るわよ。それにどうしたの。あっちこっちに傷があるじゃん。そっか、昨日、派手にやったわけ? SMが好きだからって、そんなことしていたらモデルは務まらないわよ。仕事は仕事。ちゃんとプロらしくやらないと……」

ごくごくまともなことを彼女に言われて、かえってカッとなってしまいます。

「あ、そういうこと!」

絵夢奴は目の周りにきつめのメイクをしていました。頬紅もシャープに入れて、ロックバンドのようです。

「そうなの。今日は絵夢奴さんが女王様よ」とメイクさん。

「できるかなあ。一度やってみたかったけど」

私のメイクはいたって簡素です。ほとんど直しなし。疲労でくすんだ肌を明るくごまかしてもらいました。

吹雪さんが戻って来て、「今日は最初の撮影は、絵夢奴ちゃんが女王様役をやってもらうよ」と言いました。「ご主人様の愛人ってわけなんだ。そして正妻をいじめる役」

「へえ、楽しそう。だけどやったことなーい」

「いいんだよ。ぎこちなくて。どっちもMなんだけど、ご主人様の命令でおまえさんがSをむりやりやらされちゃう」

「あ、わかった」

あっさり飲み込んでいます。

「なわみさんは、だからそのまま。人妻って設定。貞操帯のことはさっき赤岩から聞いたから。まあ、いいんじゃないかな。どうせ日本ではその部分はぼかすわけだしね。傷はできるだけ目立たなくしておいてね」とメイクに注文をつける。

スタジオには無地の背景をライトで変化させるようにしてあり、床には小さなサイズの畳が六枚敷かれています。

スタジオ撮影なので、深川先生の家のような風情や赤岩のアトリエのような自然はありません。

そのかわりライティングをしっかりやれば、被写体を意図的にくっきりと切り取ることができます。何ヵ所もの露出を計測して、ライトの位置などを変えながら、吹雪さんと助手たちが忙しくしている中に、私たちは入りました。

深川先生がやってきて、「傷モノだな」と言いました。ですが、怒ってはいないのです。ニヤリと笑っています。「リアリティがあっていいかもな」

「だめですよ」と吹雪さん。「あとでフォトショップで修正しますよ、目立つところは」

「ふん」と深川先生は鼻を鳴らします。

おもしろいことに、緊縛のスチルは傷や血はだめなのです。肌はきれいに。可能な限り艶やかに。そして縛られて肌の色が変化していくのは構いません。それもピンクや赤はOKですが、あんまりにも紫色になるのもダメらしいです。

昨日の赤岩とちがい、吹雪さんは常識人です。

「現場検証じゃないんだからね。事件にしないでよ、事件にさ」

ある意味のファンタジーですが、私は本来、その世界に憧れたのです。ただ縛られて惨めな目に遭うことが目的ではないのです。

惨めかどうかは、深川先生の縛りと吹雪さんの写真で表現できればいいのであって、実際に惨めなことをされなければいけないわけではありません。

金男は、そこを強引に踏み越えて、縄奴隷なわみを、現実に造りだそうとしているのです。

赤岩は密かにその金男の狙いに協力し、金男が思っている以上のことをしようと考えています。

金男や赤岩の持つような、生皮を剥ぐような残酷さは、私の望むものではありません。その点は吹雪さんも同じはずなのですが……。

表情

吹雪さんはイライラしているようです。

深川先生の縄も、これまで以上にきつく肌を締め付けます。体がバラバラになってしまうのではないかと思ったり、一方で、縄のおかげでつなぎとめてもらえている感じもあります。

「もうちょっとここを」

そんな感じで吹雪さんは注文をつけていきますが、深川先生は「わかってますよ、わかってますけどねー」とつぶやきながら私に縄をかけていきます。

「いやあ、そうじゃなくて……」

カメラを手にして、どうにももどかしい様子です。

私はテニスの恰好をさせられ、手を背中でがんじがらめに縛られています。首にも乳房にも縄がかかっています。上品な若奥さん風の柄のテニスウェアはビリビリに破かれています。スコートは貞操帯を隠すためにも便利です。

足は右と左を別々に縛り、右足の縄を絵夢奴が持ちます。左足の縄は、背中に限界まで引き上げられ、髪の毛と腕を縛る縄に絡めました。

思い切り幅跳びでもするような大股開きです。

「なんか、違うなあ。もう!」

吹雪さんの苛立ちの原因がよくわからず、現場はピリピリとしています。

何枚か撮ってはいますが、気に入らないのです。

「どうしたんですか」

赤岩が声をかけます。

「え? ああ、ちょっとねえ」

吹雪さんはカメラを置き、助手や赤岩、そして深川先生と密談をはじめました。金男はどこか邪魔にならないところにいるはずです。

私は苦しいまま、放置されています。

「ふふふ、なわみって、そういうの好きなのよね?」

絵夢奴は女王様らしいピンヒールのブーツ、革のコルセット、革の手袋をして、左手に縄を持ち、右手に一本鞭を持っています。

しゃがみこみ、私の顔を鞭の柄で撫でるのです。

「感じるの? こういうので?」

返事ができません。苦しいだけです。だけど、この場でそうも言えません。もちろん、感じているとも言えません。これは撮影のためのポーズであって、モデルとして……。

「おっ、いいじゃないか」と吹雪さんが素っ頓狂な声を上げました。

いつの間にかカメラを持ち、撮影をはじめたのです。

「そうだよ、絵夢奴ちゃん、なわみの顔に鞭の柄をあてて、顎を掴めるかな、そうだ!」

しゃがんだ彼女は、鞭の柄を顔に押しつけてきて、そのついでのようにぎゅっと顎を掴んだので、口を開けるしかありません。

「なわみ、舌を出せ。もっとだ。もっと出せ!」

髪と足が縛られて、顔を自由に動かせず、その上に顎を握られています。

「鞭の柄を噛ませてみろ!」

柄の部分を口に押しつけられます。ぎゅっと噛みます。

「そうか、そうなんだな。いいぞ、その調子だね。わかってきたぞ」

しばらく何ポーズかやらされて、なんとかその場面の撮影は終了しました。

ですが、縄を解いてくれないのです。

「金男さん。申し訳ないが、なわみはやっぱりシロウトだから、演技が下手すぎる。表情がないんだ。顔の表情だけじゃない。体の表情もない。だけど、以前はもっとよかった。その原因がわかったんだよ。とにかく、本気になってもらうしかないね」

「本気?」

「そう。たとえば、絵夢奴に責めさせる。本気でね。ウソはなしだ」

「いいですよ、もちろん。そういうのを求めてるんですよ、なわみという女は」

「よし。じゃあ、やってみようじゃないか」

そんなのモデルじゃない……。

当然、抗議すべき場面でした。でも言葉が出ません。縛られたい、ギュッと体を締め付けられたい。恥ずかしい姿を晒したい。縄をまとった自分を撮影してほしい……。

その心にはいまも偽りはありません。いまも、このような姿にさせられて、陶酔しかかっています。

だからといって、叩かれたりすることを求めているわけではありません。金男に公園で恥ずかしい目に遭わされたり、赤岩に有刺鉄線で縛られたことは、限界を超えていると思います。

「いいの? ホントにやっちゃってぇ」

「ぼくが合図したら、やってみて」

絵夢奴は私の写真を流出させた女です。撮影のためのポーズとはいえ、彼女が女王様として私に鞭を当てることには、強い屈辱を感じてしまいます。

「いくわよ」

足を広げるために、少し離れたところに立った彼女は、大きく腕を振り上げ、鞭を振り下ろしました。それはあまり強くはないものでしたが、開かれた両足にバチンと当たりました。

「くぅぅぅ」

悔しくて、歯を食いしばっていました。

「いいぞ。いい顔だ。絵夢奴はそもそもMなのに、ご主人様の命令でしょうがなくSをやっているんだからな。あんまり上手にやっちゃダメだ」

「上手すぎた?」

「もう少し力は加減して。写真には写らないんだから」

「そうなの?」

彼女は不満そうです。

私の表情をつくるためだけに、鞭を当てるのです。

「じゃ、こんな感じかなあ」

投げやりな感じで、ためらいながらも、何度も鞭を振り下ろしてきます。腿やふくらはぎに当たるのですが、下手だろうとなんだろうと、痛いし、激しい怒りを感じてしまうのです。

何発目かで涙も出てきました。

「なわみ。悔しいのか」

「はい」

「もっと泣きわめけ」

演技はできません。だから、正直な反応をするしかありません。

「ポーズを変えましょう」

縄を解かれ、正座をさせられて、スコートは取られました。縄で股間を縛り貞操帯を隠そうとしますが、深川先生は「邪魔っけだな」とぼやいています。

「ねえ、ロウソクとかやりたいよう!」と絵夢奴。

「だめだ」と吹雪さんは否定してくれます。

「そういうのは、誰でもできるじゃないか。なわみじゃないとできないことをやりたいんだ」

「たとえば?」

「先生、こういう風に……」

深川先生に吹雪さんがボソボソと伝えています。

「いいですよ」

正座のかたちに足を縛ってしまうと、腕と髪を織るように縄と一体化させて足首と結びつけていきました。

顔を真上に上げないといけないほどきつく髪を引っ張られています。腕も絞られて自分の足首を背後で掴んでいます。

乳房に縄がかけられます。左右、別々に根元を何重にも締め付けていくのです。

「じゃ、絵夢奴ちゃんは、この縄を手に巻き付けるんだ」

たぐるようにして縄を腕にまきつけて短く持ちます。

「ここにお尻をついて、足をなわみのみぞおちあたりに」

「ぐふっ」

上を向いているので、よく見えませんが、畳に座っている絵夢奴が、乳房を引っ張るのです。片足を私のみぞおちに押しつけて。ピンヒールが食い込んできます。

「もっと上体を倒せ」

「いいの?」

「もっとだ!」

「ぐひっ」

絵夢奴は体を反らせて、おっぱいを引っ張るのです。ちぎれてしまいそうな痛み。

「ぎぃぃぃぃぃ」

バシャバシャとシャッターが落ちる音。

撮られている……。

こんな苦しい姿を。

普通のモデルはしないようなことをする縄奴隷なわみ。

「うわ、おっぱい、色が変わってきちゃったわよ」

「もっとやれ!」

「ぐひぃぃぃぃぃ」

「いいぞ!」

股間の貞操帯に、冷たいものがたっぷりと注がれていくのがわかります。

この苦痛の中で、私は確実になにかを得ていました。

こんな理不尽で、異常な事態なのに。

「次はいよいよ吊りだ」

髪と腕をほどかれたものの、足は正座のまま吊すというのです。そうしないと貞操帯が目立ちすぎるので、吹雪さんはそれを嫌ったのでした。

貞操帯のお店を紹介してくれた赤岩は、「いいじゃないですか、貞操帯をしているご婦人って題材も悪くないけど」と言いますが、吹雪さんは「ちょっとイメージが違うんだなあ」と渋い表情です。

足と腰を縛られて、正座からあぐらのように変形し、そのまま逆さに吊り上げていきました。

そのとき、貞操帯の間から流れてきた汁が、へそのあたりに達しました。

「ふふふ」と金男の声がします。

男たちは私の状態を理解しているようですが、無視しています。

顔が彼らの膝ぐらいまで引き上げられました。

「絵夢奴ちゃん、こんどは足でおっぱいを揉んでみて」

乳房の縄はまだついたままです。

畳に座って足を投げ出した絵夢奴が、縄をひっぱり、引き伸ばされた乳房にブーツを押しつけてきます。

「ひぃぃぃぃ」

頭に血がのぼっています。

笑っている絵夢奴。彼女は楽しいのでしょう。

「今度はつま先をしゃぶらせろ!」

ブーツが顔に。

「なわみ、しゃぶれ!」

「むりです」

「おまえはなんでもするんじゃないのか! だからスタジオを用意したんだ。ふざけるなよ」

吹雪さんが怒鳴ります。これまで見たことのない顔。厳しい言葉です。

舌をのばし、靴クリームのニオイがするブーツを舐めます。すると絵夢奴がつま先を口に押しつけてきました。

逃げようとすれば、乳房の縄を引っ張ってきます。吊られた体が引っ張られて、逃げようもありません。それに、ちゃんとやらなければ、おっぱいがどうかなってしまう……。

必死で舐めました。しゃぶりました。早く撮影を終わらせてもらうために。

「けっこうS役っておもしろいかも」

絵夢奴は笑っています。

「なわみ、すごい。大洪水だよ!」

彼女に発見されました。

「きゃははは。本気汁じゃん! 引くわー」

「いいね」

吹雪さんは苦しんでいる私の撮影に飽きたのか、うれしそうにしている絵夢奴を撮影しはじめました。

まったく写っていないのに、私の苦しみは増すばかりです。絵夢奴がうれしくて、思い切り口にブーツをねじ込み、顔や乳房を蹴ったりするようになっていました。

「あうっ、ひどぃ、あひっ」

つい声が出てしまいます。

でも、誰も助けてはくれません。

絵夢奴は悪魔的な笑みを浮かべ、舌なめずりしています。吹雪さんはそれを撮影しまくります。私に対する何倍もシャッターを押しています。

私は引き立て役にすぎないのです。

「なわみ、泣いてごらん!」

絵夢奴に乳房を蹴られました。

「ぎゃっ」

気が遠くなります。

「まだ泣きが足りないってさ」

「許して……」

「だめよ。みんなが納得するまで」

私はとうとう終わりのない暗黒世界に入り込んでしまったのです。

「こうしてあげる」

ピンヒールで乳首をグリグリと潰してきました。

「あん、あん!」

ケモノのような声を上げて、私は体を痙攣させていました。

「こいつ、勝手に感じてるわ! もう、絶対に許さないわよ! とんでもないメスブタね!」

その声を遠くで聞きながら、生まれてはじめて味わう強烈な快楽に、いつまでも体を震わせていたのでした。

「縄味2」につづく

奥付

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ありがとうございました。

二〇一三年八月刊行

二〇一四年四月二版

著作権 あんぷらぐど

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