机の下の楽園(下) 第1部 (1/2)
次の話
一
一晩泊まって実家から戻ってきたミュウは、なんだか浮かれていた。僕の事を家族に話して、承諾してもらってきたのだという。
「好きな人ができて、一緒に暮らしてるって言っちゃった」
そういって「えへっ」と笑った。
「ミュウが奴隷だっていうのは?」
答えを分かっていて、わざとそう訊く。ミュウは「ううん」と首をふって、「ごめんなさい。それは……まだ」
僕はミュウを抱きしめた。
「言わなくていいよ。一生、内緒にしておけばいい」
ミュウは、僕の胸の中で「うん」とうなずいた。しばらくそうして動かずにいたが、やがて思いついたように、「久我さんも、カミングアウトはしてないの?」
と、顔をあげた。
「してないよ。僕が本物のSだって事は、あの佐久間さえ知らない」
「えっ、佐久間さん知らないんだ! でも、佐久間さん、アキちゃんと暮らしてるよ」
「ええっ!」
今度は、僕が驚く番だった。
「だって、あいつノンケのはずだけど」
「プレイまでしてるかどうか分からないけど、とにかく先週から佐久間さん泊まりっぱなしだって、アキちゃんいってた」
「あいつに奴隷は無理だろう」
僕は半信半疑だった。
とまどう僕をよそに、ミュウは夏休みの予定を話し始めた。
「ねえねえ、夏休み、アキちゃん達とどっか行かない?」
「それはいいけど、向こうも予定があるだろう」
ミュウは「訊いてみる」と、さっそくアキ女王様に電話をかけた。
海だの山だの温泉だのの地名が次々と飛び出し、気の置けない女同士の会話が続く。
しばらく賑やかに話したあと、ミュウは電話口を押さえながら僕を振り返った。
「葉山にある、アキちゃんちの別荘はどうかって」
きけば、アキちゃんの本名は九条暁子といって、五代続けて政治家を出している、もと華族の家柄なのだそうだ。あの女王様然とした気品は、血筋から来るものだったのかと、僕はひどく納得した。
「ちょっと不便なところにあるけど、プライベート・ビーチもあって、すごくきれいなところよ」
何度か行ったことがあるというミュウは、期待に目を輝かせている。僕にも、反対する理由はなかった。
僕がうなずくと、ミュウは細かい日取りを決めにかかり、結局二週間後、三泊四日で行くことになった。
携帯を閉じたミュウに、「佐久間も都合つくって?」
「うん。そのあたりの日なら、大丈夫だって」
僕の首に腕をまわして甘えてくるミュウをソファーで受け止めてやる。
「向こうでも、プレイしようか。女王様や佐久間もいれて四人で」
コットンの白いスカートをめくりあげて、下着を付けていない秘所をむき出しにする。ミュウは僕のところへ来て以来、スカートの下にはいつも何もつけなくなった。
「ご主人様が、佐久間さんを責めるの?」
「それはない」
僕はきっぱり否定した。
「佐久間は今回ギャラリーに徹してもらう。アキちゃんと僕で、ミュウを責めてやるよ。そして、きれいでいやらしいミュウをみんなに見てもらうんだ」
ミュウは、僕の膝の間で、からだをくねらせた。
「うれしいだろ?」
「……わかんない」
「じゃあ、からだにきいてみよう。ミュウはからだの方が、ずっと正直だからな」
そんな、どこかで聞いたような下品なセリフをいって足の奥を探ると、案の定濡れている。
ミュウは、熱い吐息を何度ももらして僕に腰をすりつけてきた。
あふれる蜜をぬり広げるようにしてミュウのからだを愛撫する。昼食をとったばかりだから、おなかが少しふくらんでいた。
「ミュウ。おなか、きれいにしようか」
僕がささやくと、ミュウはすぐに意味をさとって、恥ずかし気にうなずく。
「食べたばっかりだから、気持ち悪くならないように、ゆっくりしような」
ミュウは、またコクリとうなずいた。
予定していた日の前日まで荒れ狂っていた台風は、夜のうちに東へぬけ、葉山の空はしみるような青さだった。
九条家の別荘は昭和の初期に建てられた洋館で、アールヌーボー風の内装もなかなか風情がある。佐久間の車で着いた僕たち四人を、近くに住む管理人の老夫婦が気持ちよく迎えてくれた。
僕は、車から荷物を降ろしながら、「おまえ、本当にアキちゃんと暮らしてるんだな」
と、あらためて佐久間にいった。
「ああ。やっと、くどき落とした」
「華族のお姫様だって、知ってたのか?」
「いや俺もさあ、今回初めて聞いてびっくりよ。正直、ちょっとビビった」
真面目な顔でいう佐久間に、「だろうな」とうなずいてやる。それから、気になっていることを訊ねた。
「それで、そのぉ……プレイはしてるのか?」
「一応な。ま、俺のできる範囲でだけど」
「……そうか」
それ以上、深くは訊くまいと思った。
「しかし久我、おまえこそ本物のSだったなんてなあ……
そうと知ってれば、『JUNCTION』へ、もっとはやく連れてくんだった」
「人にはいろいろ秘密があるのさ」
僕が茶化すと、佐久間は笑った。
管理人夫婦が帰っていったあと、佐久間を留守番に残し、道路沿いの市場まで三人で買い出しに出かけた。
バーベキューをやりたいというミュウのたってのリクエストで、肉も魚もこれでもかというほど買い込む。女王様が、佐久間の好きな酒を買うのを見て、「へえ〜」と思った。けっこう二人でうまくやっているようだ。
もどると、佐久間がセッティングしてくれたプライベート・ビーチのテーブルまで材料を運び、さっそく焼き始めた。下ごしらえは、ほとんど店でやってもらってきたのだ。
水平線に、溶け落ちそうなオレンジの夕陽が沈んでゆく。夏の開放感も気心の知れた同士でいる楽しさも、僕らの気分を盛り上げてくれた。
佐久間が、四人で乾杯をしようといった。
まずは言い出した佐久間が、「恋に」
と、シンプルに言うと、アキ女王様が、「友情に」
と、無難にながす。僕は、「夕陽に」
と、斜に構え、ミュウは、「出逢えた奇蹟に」
と、僕の顔を見ながらいった。
そして、四人で缶ビールをぶつけ合った。
二
まだ昼の暑さは残っていたが、暮れ始めた砂浜は潮風が気持ちいい。バーベキューの香ばしい匂いが食欲をそそって、みんないつになく食べた。
あれだけ用意した材料もほとんど食べ尽くし、酒もあらかた飲み尽くしたが、まだ家のなかへ入る気にはなれなくて、とりあえず簡単に片付ける。それからミネラルウォーターやウーロン茶だけ残したテーブルで、みんなふと無口になった。
すっかり暗くなったビーチには、波の音だけが響いていた。
「ミュウ」
僕は、椅子にもたれて夜の海をながめているミュウに声をかけた。
「ん?」
ミュウは振り返った。
「裸になりなさい」
「!」
小さく息をのむ音が、テーブルにいる全員からあがった。
だが、すぐにミュウは、「はい」といって立ち上がった。
そして、水玉とストライプを組み合わせたタンクトップを脱ぎ、ブラジャーをはずし、ネイビーブルーのミニスカートを脱ぐと、生まれたままの姿で砂浜に立った。
青白い常夜灯が、ミュウのきめ細やかな肌を月のように照らす。僕の命令を待つ顔は、はずかしさと嬉さが入り交じっていた。
佐久間が短いため息をもらした。それから軽く咳払いをすると、こういった。
「アキ、おまえも脱ぎなさい」
「えっ!」
僕は不覚にも声を出して、佐久間を振り返っていた。ミュウも、驚いて彼を見ている。
その微妙な空気の中、アキ女王様……ではなくアキちゃんは、「はい、ご主人様」
といって、立ち上がった。
黒のホルダーネックを脱ぎ始めた彼女を見ながら、僕は佐久間に、「なるほどね」
といってやった。
「だったら、二人で暮らしているのもわかる」
「俺が、奴隷になっていると思ったんだろう」
ニヤニヤと人の悪い笑いを浮かべる佐久間に、僕は「ふん」と鼻をならしてやった。
「真性Sのお前には言うまでもないだろうが、彼女バイなんだ。でも、どっちかっていうと、Mのほうが好きらしい。本当に心を寄せられるような主がみつからなかったんで、とりあえず女王様として自分の欲求を満たしていたんだとさ」
「だけどお前、Sの経験なんてないだろう?」
「だから、彼女に毎日教えてもらってる。いってみれば、奴隷がご主人様を育ててるってことだな」
脱ぎ終わって、すらりと見事な肢体をさらしたアキちゃんの瞳からは、いつもの凛とした風情が消え、とろけるようなMの色が浮かんでいた。
「アキ、ここへ乗って、みなさんに俺の奴隷である印をお見せしなさい」
佐久間はそういいながら、テーブルの上の飲み物を砂の上におろす。
アキちゃんは、「はい」といってテーブルに乗った。そして足を大きく広げると、クリトリスを貫くリングを見せた。もちろん、ヘアはきれいに剃られている。
僕はニヤリと笑って、「やるな」と佐久間を肘でつついてやった。佐久間も、「まあな」と笑い返してきた。
主の所有の印をいれることは、M女の側が納得していないと、なかなかできるものではない。
自己破壊願望の強いM女だと、ためらいもなく体中にピアスをいれたり入れ墨をしたりするが、アキちゃんはそういうタイプではなかった。
自分を高く保つ彼女が、一生消えない傷をその体につけたということは、それだけ佐久間を真剣に受け入れたということだ。おそらく、佐久間が言い出したことではなく、アキちゃんが自ら望んでつけたのだろう。僕が「やるな」と言ったのは、アキちゃんをそこまでの気持にさせた、彼の誠実さに対する賞賛だった。
僕は、ミュウを呼んだ。
「ミュウ、アキちゃんのとなりに上がりなさい」
ミュウがテーブルにあがると、僕は、後ろを向いて腰を高く上げるよう命じた。
言うとおりにしたミュウのお尻にはスパンキングによる青い痣ができ、アヌスにはプラグがはめ込まれていた。
「おお」と感心した佐久間が、「ミュウちゃんは、お尻が好きなんだな」
と、どこかのんびりした声で言った。
僕は自分で答える代わりに、ミュウに振った。
「ミュウ、お答えしなさい」
「はい。ミュウは、お尻を苛めていただくのが大好きです」
「ぶたれるのも、好きなんだよな」
と、僕がいうと、「はい。痣が消えないように、毎日ご主人様にぶっていただいています」
「その他には、何が好きなんだっけ?」
「………」
恥ずかしがって、もじもじし始めたミュウのアヌスから、僕はプラグを抜き取る。
「あン」とため息をついたミュウに、僕はもう一度訊ねた。
「プラグを抜いた後は、どうするんだ? いつもおねだりしている事をいってみなさい」
「……か…かん……」
そこまで言って止まってしまったミュウに、再びプラグを押し込む。
「あああ……」
「ちゃんといわないと、今日はこれ以上の責めはナシだ」
ミュウは切なげな細いため息をつき、思い切るようにいった。
「浣腸をしていただきます」
ミュウの全身が、ほんのり薄紅色に染まった。いつまでたっても残る排泄行為へのかたくなな羞恥は、ミュウの育ちの良さを示していて好ましい。
僕は、「後でご褒美をあげよう」
といって、プラグをいっそう深くねじ込んだ。
よろこびに身をうねらせるミュウを見ながら、佐久間が、「おまえ、ホンっとにSだな」
と、ぼそっとつぶやき、気を取り直したようにアキちゃんの股間へ手を伸ばした。
「アキは、ここが一番感じるんだよな」
佐久間はそういって、クリトリスのリングを少々乱暴に引っ張った。アキちゃんは眉を寄せ、「うん」とくぐもった声をあげた。
「ミュウ、アキちゃんのクリトリスにご奉仕してあげなさい」
僕の命令に、ミュウは「はい」といいながら、嬉しそうにアキちゃんのそこに顔を埋めた。
佐久間も、「アキ、ミュウちゃんのアナルをきれいしてやるんだ」
と命じ、少し上気したアキちゃんは、「はい」とハスキーな返事をして長い舌を伸ばした。
テーブルの上で、きれいな女の子達のラブ・プレーが始まり、僕と佐久間は、また呑みたい気分になった。
「アキちゃん、アナル・プラグを出したり入れたりしてみてくれるかな。クリトリスをつまみながらがいいな」
「ミュウちゃん、アキのアソコに指を二、三本入れてやってくれ……そう、リングを引っ張りながら」
「次はミュウの乳首をかんでやって。そこ、大好きだから」
「アキ、お尻にミュウちゃんのプラグをもらいなさい。入れるところが、良くみえるようにな」
僕たちはあれこれ注文をだしながら、ビーチの夜を大いに楽しんだ。そして仕上げは、首輪をつけての海中散歩だった。
僕と佐久間も裸になって、それぞれの奴隷の鎖を引き、四つん這いで歩かせながら海へ入った。 僕は、波がミュウのおなかをかすめる程度の深さで遊ぶことにした。
まずは四つん這いでおしっこをさせて羞恥をさそい、寄せてくる波ごとお尻をぶつ。もちろん、痣になっているところをめがけてだ。
次は波に向かって大きく足をひらかせ、それが打ち寄せる瞬間にアナル・プラグをはずして、海水を少しだけ腸の中へ入れてやった。ミュウはこれが気に入ったようで、潤んだ瞳で僕を見上げ、何度もせがんできた。
それから、僕の腰が隠れるくらいのところまで連れて行って、海中でフェラチオをさせた。
時々息継ぎを許してやりながら、最後は頭を沈めたまま押さえつけ、射精した。
上手に飲めたご褒美に、ミュウのからだを引き上げ、立ったまま僕をあたえた。浮力があるから、からだの重みはたいしたことはない。ミュウは、思い切り声をあげてからだを反らせた。
見れば佐久間も、海中セックスを楽しんでいた。
四つん這いになったアキちゃんのからだが、波が打ち寄せるたびに沈むような位置で、佐久間は彼女の頭を押さえつけながらバックから突き上げていた。苦しみともよろこびともつかぬ彼女の高い声が、波の引いた時にだけ聞こえてきた。
三
翌日は、二人の奴隷に一切下着をつけさせないまま、ワンピース一枚でドライブに連れ出した。
まずは駐車場に車を止め、誰が見ているか分からないところで二人並んでおしっこをさせた。
車の陰で全裸にさせ、それを写真にとったり、昼食のためにはいったレストランでは、太ももの上までワンピースをめくりあげさせ、アキちゃんは前に、ミュウは後ろに入れたローターのスイッチを入れっぱなしにした。
さすがにウェイトレスはヘンな顔をしていたが、ミュウもアキちゃんもワンピースを元通りにしようとはしなかった。
帰りによった土産物屋で、僕は小さな銅の鈴を二つ買い、ミュウのラビアにクリップでとめた。
銅製だから重さも結構ある。これで、歩くたびに涼しげな音が、もっとも淫らな場所から聞こえることになり、ミュウはその恥ずかしさと鈴の重さに耐えなければならなくなった。
アキちゃんも佐久間に何か買ってもらったらしく、僕たちは悩ましげに歩くおいしそうな奴隷をつれて、昨日も来た市場で夕飯の買い物をした。
たぶん、四人だということが、僕たちをより大胆にしていたのだろう。ミュウにしてもアキちゃんにしても、一人じゃないということが、ためらいをずっと少なくしているように見えた。
別荘へ戻る車の中でミュウの股間をむき出しにさせると、鈴どころか膝の辺りまで、蜜が流れてびしょびしょだった。
僕はワンピースを脱がせると、乳首とクリトリスに、旅行前に買ったひまわりのクリップを止めてやった。そして途中で佐久間と運転を代わると、クリップしかまとっていないミュウを助手席に乗せ、走り出した。
別荘について助手席のドアを開けてやると、ミュウは歩くのが困難なほど感じていた。
「ドライブは楽しかったようだね」
といってやると、「ミュウは、もう恥ずかしくて、恥ずかしくて……」
「その恥ずかしい姿を、対向車の男どもに見せてやりたかったんだろう?」
僕はそう言って笑い、ミュウを抱き上げると玄関まで連れて行ってやった。
後から佐久間も、アキちゃんを抱いておりてくる。裸の彼女の足の間からは、空気で膨らますビニール製のクジラのシッポがのぞいていた。つまり本体は、アキちゃんの体内にあるということだ。
二人の奴隷にとって、今日のドライブはとても充実したものになったらしい。
主である僕と佐久間にとっても、今までにない楽しいドライブだった。
夕食は、新鮮な野菜と魚介類を使ったイタリアンにした。
シャワーを浴びて、いつもの様子をとりもどしたアキちゃんと僕で手早く準備し、佐久間が地下のワインセラーから出してきたシチリア産のワインを開けた。そうして、今夜の趣向を話し合う。
僕らはすっかり、このSM休暇にはまりこんでいた。
その夜は、九条家の別荘に常備されている客用の衣装で、コスチュームプレイをすることになった。
僕と佐久間はタキシードを身につけ(これは、奴隷達からのたっての希望だった)、アキちゃんは真っ赤なイブニングドレス、ミュウはメイド用のエプロン姿になった。
身なりというのは不思議なもので、人はどうしてもそれに合った振る舞いをしようとする。いつもはがさつな体育会系にしか見えない佐久間も、タキシードを着て髪をセットすれば、どこかの御曹司に見えなくもなかった。
それはミュウも同感だったらしく、「すごい! 佐久間さん、かっこいい! 意外ぃ!」
と、無邪気に驚いている。アキちゃんは、「サイズがあってよかったわ」
と憎まれ口をいって、それでもちょっとうれしそうに唇をとがらせた。
佐久間は、そんなアキちゃんの照れ隠しに慣れているのか、アゴを指先でクイッと起こし、「惚れ直したか」
と、二枚目を気取ってみせた。
ミュウは僕のそばへ来て背伸びをし、耳元へ口を寄せて、「でも、ミュウのご主人様の方が素敵」
と、ささやいた。
僕は小さく笑うと、ミュウの頭をなで、「可愛いメイドさんになったね。じゃあ今夜は、皆さんによくご奉仕しないとね」
といった。
僕はまず、ミュウに酒の用意を命じた。
「皆さんのお好みを伺って、用意しなさい」
ミュウは「はい」と素直にうなずくと、アキちゃんに場所を聞いて、慣れない手つきでウィスキーやらブランデーやらを運んできた。
だが、グラスの氷はまばらだし、ブランデーとバーボンは間違える、炭酸水はあふれさせるで、リビングのテーブルは悲惨な状況になった。
僕は、おもむろに館の主に質問した。
「アキちゃん、こういう失敗ばかりするメイドにはどんなお仕置きが必要かな?」
今はSの顔になっているアキちゃんは、「そうね……やっぱりムチがいいんじゃないかしら。うちでも、百年ぐらい前はそうしてたみたいだし」
「ということだ、ミュウ。テーブルに手をついて、お尻を出しなさい」
僕がいうと、ミュウは泣きそうな顔をして「はい」と返事をした。そして言われたとおり、テーブルに手をついてメイド服のギャザースカートをまくり上げる。
太ももまである白いストッキングの、凝ったフリルの靴下留めが見え、その上に形のいいミュウのお尻が現れた。
「では、ミュウが粗相をしたお客様みんなにぶっていただくから、お願いしますといいなさい」
こういうストーリー・プレイは、二人の間で時々やるものだった。だが、ただのお遊びだと思ってしまってはSMにならない。想像力の豊かなミュウは、いつも本気でそのストーリーの中に入り込み、僕の仕置きを受けた。
「粗相をして申し訳ありません。どうかいけないミュウを、ぶってください」
僕はアキちゃんが渡してくれたバラ鞭を持つと、痣の消える間がないミュウのお尻を思い切りぶった。
「ああーっ!」
いつもと違う刺激に、ミュウの花びらはもう中からあふれてきたもので光っている。
僕のあとは、アキちゃんがムチをふるった。さすがに手慣れたものだ。ちょうど気持のいい痛さになるよう振り下ろし、また、その振るう姿も美しかった。ミュウも初めてだというのに、安心してまかせきっているように見えた。
問題は、佐久間だった。
「俺も、やっていいのか?」
と訊くので、「いつものとおり、やってみろよ」
といってやる。ミュウも、「どうか・・・・お仕置きしてください」
と、可愛いMの顔で振り返っていった。
「では、僭越ながら」
と、真面目腐った顔でいった佐久間は、ひと呼吸おいて、ムチを振り下ろした。
「ああっ!」
ミュウが、キャンディーのような悲鳴をあげた。なかなかイイらしい。
佐久間からも次第にためらいが消え、彼本来の物怖じしない大胆さでSの役を演じ始めた。
複数プレイは、ミュウにとって初めての経験だった。ゆうべは、アキちゃんとのからみはあったものの、同時に何人もの相手をしたわけではない。
ひととおりムチが済むと、ソファーの上で足を開くよう、僕はミュウに命じた。
「すっかり、お尻が熱くなってしまったね、ミュウ」
青かった痣が、また微妙に赤くなってしまったのを撫でてやると、ミュウは「うン」といって、眉をひそめた。
「明日困らないように、少し冷やしておいてやろう」
僕の言葉を聞くと、ミュウは「ああ…」といって、小さく震えた。これから何をされるのかが分かったのだ。
僕はバーボンのソーダ割りがあふれたグラスから、二センチくらいの氷を取り出し、ミュウのヴァギナに押し込んだ。
「ああああ! いや、冷たい!」
熱くなっているミュウの体内は、あっという間に氷をとかし、入り口から流しだした。
「今夜のお客様は、みんな親切な方ばかりだから、ミュウもたくさんお願いするといい」
「ああ、う……どうか、……ミュウの熱くなったところを、冷やしてください。お願いします」
じっと見守っていたアキちゃんは、「ミュウは、本当にいろいろ出来るようになったのね」
と、感慨深気にいって、グラスから小さな氷をとりだした。
「ご主人様が、とっても好きなのね」
「はい。ミュウはご主人様が大好きです……あああー!」
アキちゃんの入れた氷もすぐに溶け出し、佐久間も、「こんなにすぐ溶けるなんて、よっぽどミュウちゃん、感じてるんだね」
といって入れる。
「あああ、あ、あ、……もう、ダメぇ!」
ミュウは、たまらない様子で叫んだ。
氷プレイも冷やしすぎると凍傷になるし、場合によっては死に至る。だが、小さなかけら三粒程度ではどうということもない。ただ、冷えてくると痛みを感じるようになり、ミュウはそれに弱かった。
僕はミュウをうつぶせにし、膝の上に横抱きにすると、赤くなったお尻に大きめの氷を乗せ、指ですべらせた。
ミュウはからだをビクリとふるわせ、「ううン」と頭をそらす。冷えすぎて痛くなってくると、「もう痛い、いやぁ」といって、頭をふった。
僕は痛がるミュウのお尻から氷をはずすと、平手で二、三度ぶった。そして、また氷をすべらせる。これを何度か繰り返してやると、ミュウはようやく氷の痛みを受け入れ、からだの奥から反応を見せ始めた。
そこで仕上げに、少し大きな氷をアヌスに押し込んでやると、あっけなくイッてしまった。
「早いな、ミュウ」
僕がたしなめるように言うと、アキちゃんも、「ホント。許可を与える暇もなかったわね」
と笑う。そして立って来て、僕の膝でぐったりしているミュウの頬をなで、「可愛いのね、ミュウ。私も、うんといじめたくなっちゃった」
といった。
佐久間も、「俺もわかるな、その気持」
と同意する。
「ミュウ、聞いたとおりだ。今夜は皆さんで、ミュウにお仕置きをしてくださるそうだから、そのつもりでちゃんとお応えしなさい。いいね」
ミュウは苦しげにうめいたが、「……はい。……どうぞミュウに、たくさんお仕置きしてください」
と、僕のひざから、ほんのり染まった顔を上げていった。
四
ドレスを脱ぎ捨てたアキちゃんが、ベッドでペニス・バンドを付け、ミュウをバックから貫いている。ミュウは、まだタキシード姿の佐久間のものを、バックから突き上げられる衝撃に負けまいと、かなり苦労しながらしゃぶっていた。
メイドの服は脱いでいたが、白いストッキングとレースのカチューシャはそのままだ。それがかえってエロティックだった。
僕は、何もしていなかった。天蓋付きのベッドの傍らにあるソファーで、三人の様子を眺めていた。
ミュウには、自分でイッてはダメだと言ってあった。だが佐久間をイカせろと命じてある。
佐久間はイクまいとして、時々ミュウから自分のコックを取り上げる。ミュウは、えぐるように犯すアキちゃんの巧みな責めに耐えながら、逃げる佐久間を追って舌をのばした。ミュウの口のまわりは、自分の唾液でベトベトだった。
僕はソファーの肘掛けを、指で小刻みにたたいた。時々足を組み替えては、次第に動きの鈍くなるミュウを見つめる。
だが、やがて立って行って、佐久間を泣きそうな顔で追いかけるミュウの髪をつかんだ。
「ミュウ、なかなか言うとおりにできないようだね。もっと、きついお仕置きをしてほしいのかな?」
ミュウは、目を閉じたまま首をふった。
「いやぁ……ゆる…して」
「どうやら、して欲しいらしいな」
そういって髪を離すと、ミュウの首ががっくりと落ち、荒い息を継ぎながら前にのめっていった。
かけられた縄の間から、横たわったミュウの豊かな乳房が窮屈そうにはみだしている。
白いストッキングの足もそろえて縛られていたが、それは足の間にあるアナル・プラグが抜けないようにするためだった。
ミュウは目を閉じ、額に汗を浮かべながら時折短いうめき声をもらした。彼女の腸内には、今三人分の尿が入っているのだ。
「おしっこ浣腸」は、ミュウの定番のお仕置きの一つだった。今夜は三人分だと僕が告げると、ミュウは泣きながら愛液をしたたらせた。
僕は、決してこぼさないようにミュウにいって、一リットル以上あった黄金の液体をすべて注入した。
「ミュウ、足を縛っただけじゃ心配だから、ロウで封をしてやろう」
その言葉に、ミュウの瞳が見開かれる。
「いや、いやぁ! ロウソクはイヤ、怖い!」
ミュウはずっとロウソクを怖がったままで、僕は調教のタイミングを待っていた。今夜は、ちょうどいい機会だと思ったのだ。
「ダメだよ。ミュウはこらえ性がないから、このくらいしておかないと心配だろう?」
「イヤー、イヤーッ!」
ミュウは僕の言葉を聞く余裕などなくして、むやみに叫んで首をふる。
アキちゃんが、「聞き分けのない子の口は、閉じてしまった方がいいわね」
といって、ミュウの口に絹のハンカチをつめ、上からタオルで覆ってしまった。
僕は佐久間に、床に横たわったミュウのからだを起こしてもらった。ロウをたらされるところを、ミュウが自分でもよく見られるようにという配慮だ。
それから、あとでロウがきれいにはがせるように、すべらかな恥丘にベビーローションをぬると、「ほら、ミュウ。赤くてきれいだろ?」
そういって、血のように赤い熱ロウを落とした。
「ううううー」
覚悟を決める間もなく落とされたロウの熱さに、ミュウがタオルの奥から叫ぶ。彼女の肩をつかんでいる佐久間はいっそう力を強め、アキちゃんは汗で張り付いたミュウの額の髪をかきあげた。
僕はまた、ロウを落とした。ミュウのデルタは次第に赤でうずまり、ミュウのくぐもった叫びも絶え間のないものとなった。
やがてY字の渓谷がすっかり見えなくなると、そこに血の池が出現した。まわりに飛び散った赤い飛沫が、生々しい想像をかきたてる。白いストッキングとの対比も、なかなか美しかった。
僕は、ミュウの股間を罰しただけでは飽き足らず、さらに胸へもローションをぬった。
ミュウは、見開いた目に涙を浮かべて嫌がったが、僕は許さなかった。
ひしゃげて飛び出した乳房の先が、みるみるうちに熱い色に染まっていった。
「んんんん……うん…ん!」
激しく頭を振るせいで、はずれそうになった白いレースのカチューシャを、アキちゃんが取ってくれた。
柔らかな乳房は、いくらもたたないうちに赤い鎧に覆われた。しかも、灼熱の鎧だった。
僕はその様子に満足すると、次のターゲットへ移った。
「ミュウ、次はお尻だ。こここそ、よぉく封をしておかないとな」
ミュウは泣き続け、口を覆ったタオルにまで、涙が染みとおっていた。
僕は佐久間と二人で、ミュウをひっくりかえした。
「ううん」
うめく力も、もはや弱くなっている。
僕は、さっき三人に鞭打たれた可哀想なミュウのお尻に、容赦なくロウをたらした。休まず、次々と、痣を覆うようにたらしていった。
もしからだが自由に動いたら、ミュウはのたうち回っていたことだろう。恐怖の去らないまま責め続けられることは、受ける苦痛を倍増する。
お尻にたらすところがなくなると、僕はその上の部分をじわじわと血の色に染めていった。
腰が、背中が、火傷を負ったような色になってゆく。背中で縛られた手も熱ロウの洗礼を受け、アキちゃんが髪をかきあげてくれたうなじまで、皮膚を剥がされたかのように真っ赤になった。
ミュウは、もう動く力も残っていないようだった。ぐったりと目を閉じ、肩だけが、呼吸のたびにかすかに揺れている。
僕は、そこでようやくミュウを許してやる気になり、口を覆っていたタオルをはずしてやった。
「ミュウがずっと想像してたっていう“拷問される囚われの美女”の気分、少しは味わえたかな?」
そういってやると、ミュウは大粒の涙をこぼした。
「怖かっ…もう、いや…熱い…嫌ぁ」
背中のロウをはがしていたアキちゃんが、「ミュウは、本当に甘えん坊ね」
と笑い、「SM用のロウソクは温度が低いから、上手にたらせば火傷しないわ。慣れると、もっとよくなるわよ」
「アキは好きだもんな」
と、佐久間がからかえば、アキちゃんは「しらないっ」と横を向く。
佐久間は、そんなアキちゃんのアゴをとらえて自分の方を向かせ、「じゃあ、『好きです』というまで、ここにたらそうか?」
といって、アキちゃんのクリトリス・リングを引っ張った。
「ああっ!」
不意打ちに、アキちゃんのからだがくずれる。佐久間はそれを受け止めながら、「だけど、ミュウちゃんが、おなかにはいっているものを出すのを見てからだな」
と、胸元に飛び込んできた白い耳にささやいた。
五
夜が一番深くなったころ、僕とミュウはベッドの中にいた。
海に向かって開いた窓からは白く冷えた月の光が射し込み、闇の底を洗う単調な潮騒が聞こえてきた。
ミュウは焦点のないまなざしを、ぼんやりと壁に向けていた。
僕はミュウの細いからだを、背中からゆるく抱いていた。
ミュウがいった。
「久我さん……意地悪だった」
「そんなことないだろ? いつもの僕だよ」
そういって少し笑うと、ミュウはけだる気に首を振る。
「いつも少し意地悪だけど、今日はもっとそうだった」
「その意地悪なところが、ミュウは好きなんだろ?」
からかうようにそう言うと、ミュウは、「久我さんは好きだし、意地悪なとこも好きだけど、怖いのはいや。……久我さんが遠くなる気がする」
「もう、奴隷は嫌になったか」
「そうじゃなくて!」
ミュウは、もどかしげに僕をふりかえった。
「私のこと好き?」
「好きだよ。……いい奴隷だと思ってる」
「奴隷……」
ミュウはそういうと、ふりむけた頭を、また力なく枕にもどした。そして、「やっぱり私って、奴隷なだけなのよね。そういうことでしかないんだ」
「SMの主従関係は、それで充分なはずだろ?」
僕の言葉に、ミュウは一瞬からだをこわばらせた。だが、すぐに力を抜いて、「そう……そうよね……私は、いい奴隷にならなくちゃいけないのよね。もっと、もっといい奴隷にならなくちゃ」
と、つぶやいた。
「ミュウは、今でもいい奴隷だよ」
と、僕はいってやった。だが、ミュウはむこうを向いたまま首を振り、それきり黙った。
波の音が、二人の間の時間を規則正しく区切ってゆく。その一つ一つが、今夜はいやに重かった。
僕は、その重さが面倒になってきて、結局本音をいうことにした。
「さっき、佐久間のものをしゃぶっているミュウは、すごくイヤラシかった。アキちゃんのペニスにも感じているのがありありと分かって、いつもより余計にいじめたくなった」
「そうなの?」
嫉妬をほのめかした僕を、ミュウはパッと振り返った。そして、「ホントに?」
と、もう一度確かめた。
僕は、「ホント」
と言ってミュウから腕を離し、上を向いた。
奴隷の心身すべてに責任をもつ主は、常に感情の安定した存在である必要がある。しかしミュウが相手だと、僕はそれほどクールに割り切れなくなる自分を感じていた。
「しあわせ……」
ミュウはからだの向きをかえ、僕の胸に頬を寄せてきた。
僕は、そんな彼女の背中を深く抱き込むと、「ミュウ。だったら、さっきのロウソクでもそれを感じて欲しかったな」
といって、ミュウの鼻をつまんだ。
ミュウは「やぁ」と甘えた声でいって逃げる素振りを見せたが、ふと真顔になって、「でも……ちょっと、しあわせだったかもしれない」
と、僕の顔を見た。
机の下の楽園(下) 第1部 (1/2)
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