机の下の楽園(上) 第2部 (2/2)
前の話
ミュウは唇を少し開いたまま目を閉じ、頬を上気させていた。買い物から帰ってきてから一度もトイレにいっていなかったミュウの芳水は、ゆうに五00cc以上あった。
「いっぱい出たね」
僕がほめてやると、ミュウは恥ずかしそうにうつむいた。それが可愛くて、左右の乳首を一度ずつひねってやると、甘い声をあげて身をよじり、割れ目に絡んだ黄金のしずくをふりおとした。
「今日は、もう一つミュウに教えてやろう。それができたら、こんどこそ本当にクリップをしてあげるからね」
僕はそういうと、おしっこ入りのボールをミュウにもたせ、バスルームへ連れて行った。
「そこへ四つん這いになって、こっちへお尻をむけてごらん」
ミュウはサラダボールを脇へ置くと、言われたとおり僕にお尻を向けた。
僕はガラスの浣腸器を取り出すと、ミュウの目の前に持っていった。
「これで、ミュウのおしっこをお尻から入れてやろう。たった今出した物が、またおなかの中に戻るんだ」
ミュウは唇をふるわせ、僕を見た。
「うれしいか?」
僕が訊くと、「あっ、あっ、ああ」といって何度もイヤイヤをしながら、瞳を潤ませた。
ヴァギナを探ってやると、日なたのアイスクリームのように溶けている。
「うれしいみたいだね」
僕は笑って、サラダボールから黄金色の液体を吸い上げた。
尿は本来無菌だ。雑菌がつくのは、排出されたあとのことだ。だから飲尿健康法なんていうのをやっても平気なのだが、普通の感覚だと排泄物は「汚いもの」に感じる。
それを体内に入れる。しかも、さっき自分が出したばかりのものを。
今ミュウは、その二重の被虐に翻弄されているはずだった。
僕は、ミュウのクレバスからあふれ出るクリームをアヌスの方にまでのばし、充分にぬめりを与えると、浣腸器のノズルを挿し込んだ。
ミュウが、ビクンと背をそらす。
「どんどん入って行く。……自分でわかる?」
「あっ、んん……わかり…ます」
「ほら、もう一本」
「ああ、あっ……ううん!」
「少しは貯まってきたかな?」
「ん……少し」
「もう一本だ」
一回の容量は一○○ccだから、三本入れたところでたいしたことはない。ミュウの様子をみながら、適当なところでやめておくつもりだった。
だがミュウは、自分の出した量を全部飲み込まなければいけないのだと思っていたらしい。
僕の「もっといけそう?」という問いかけに、必ず「大丈夫です」と答え、とうとうすべておなかに収めてしまった。
「全部入ったよ」
といってミュウの髪をかきあげてやると、かなり苦しかったのだろう。すっかり汗をかいている。
「がんばったね」
と、僕は褒めた。
「じゃあ、もう少しがんばろうか」
七
もうほとんど口もきけなくなっているミュウを、僕は起こした。そして壁際に立たせると、「そこで、オナニーしてごらん」
と命じた。
「そんな……できな…い」
ミュウは、苦し気に首をふった。立っているだけでもつらいのだろう。
「イクまでは、中のものを出しちゃダメだよ」
そういうと、ミュウは膝から崩れそうになった。
「ミュウ立って!」
「ダメ……許して……お願い」
泣き出したミュウに、僕は大きく溜め息をついてみせ、手を伸ばしてすべらかな股間に割り込ませた。
「こんなにトロトロなら、すぐにもイケそうだ」
クリトリスをこするように手を動かしてやると、ミュウは悲鳴のような声をあげた。
「イヤー、やめてぇ」
うしろの排泄感と前の快感とに責められ、僕の腕に爪を立てる。
「ああ、出る……でちゃう!」
「イクまではだめだよ。がまんしなさい」
「あ、あ、あ、あ……だめ…だめ、ああ! あああっ!」
ミュウが首をそらすのと、うしろからほとばしり出るのとは、ほとんど同時だった。
壁に背中をつけたまま、ミュウはずるずるとしゃがみ込んだ。僕はそこへ、サラダボールをあてがってやった。
「いやぁ、見ないでぇ」
間欠的に出てくるものの中に、液体以外の物が混じっていることを、自分でもわかったのだろう。ミュウはそういって、顔をおおってしまった。
「排泄は、いつも僕の前でするようにいっただろう? これからは、毎日そうするんだよ」
僕は、ミュウの手を顔から引きはがした。
「ご主人様には、すべてを見せるんだ……そうやっているミュウは、とてもきれいだよ」
ミュウの泣き顔が、ハッと動いた。
「き……れい?」
「きれいだよ」
僕は、もう一度いった。
恥ずかしくてたまらない姿をさらし、それでも快感に耐えきれず、花唇をしとどに濡らししまう桜色のミュウは、とてつもなくエロティックで、憐れで、美しかった。
ミュウはまた泣くと、僕にしがみつきながら、すべてを排泄した。
軽くシャワーを浴びて寝室に移動したとき、ミュウはまだいくらか放心状態だった。
そんなミュウの手を引いて、ベッドへ引き上げてやる。
「さあ、ちゃんと出すところを見せられたから、今度こそお待ちかねのご褒美だ」
腕の中に抱き取ったからだにささやくと、柔らかくあたる胸がふるえた。
僕は、ベッドサイドに置いてあったリボンのクリップを一つとった。
「最初はどこがいい?」
ミュウは、まだ涙が残っているような瞳で甘えるように僕を見上げ、「胸……」
と、小さな声でいった。
僕は微笑んで、ミュウの白い胸の先にリボンをとめた。
「あああー!」
もう片方にもリボンをとめてやると、ミュウは僕の腕からこぼれ落ちそうに背を反らせた。
「ああ、あああ、イヤー! 痛い!」
たぶん、想像以上に痛かったのだろう。あまりにも痛がるミュウに、「もう、許してほしい?」
と訊いてやる。
ミュウはしばらくシーツをつかんでうめいていたが、やがて首をふった。
「……イヤ……許さないで」
絞り出すようにそういうと、また耐え始める。
僕は彼女にキスを一つすると、今度はクリトリスをハート型ので挟んだ。
「きゃあああー!」
絶叫に近い声が出た。
「はずす? うん? ミュウ」
もう一度訊いたが、こんどもミュウは首をふった。
もはや言葉もなく、ひたすら耐えている。
僕は彼女の望みどおり、さらに責めてやる事にした。
「じゃあ、次はラビアだ。もう少し足を開いてごらん」
痛みにこわばった足を開かせると、そこにはもう蜜があふれていた。
「ミュウは、可愛いな」
僕はまたキスをしてやり、星のクリップを二枚の花びらに一つずつ止めた。
「きゃああああー! あああ! い、ああ、あああ!」
さらに蜜があふれだす。
最後に残ったハート形のクリップは、叫び続けるミュウの舌を引き出し、先端にとめた。
「えあ、あ、ううわ……」
はっきり叫ぶ事もできなくなったミュウは、ただシーツをつかんで身もだえた。
「ミュウ、お散歩だ」
僕はそういうと、舌にとめたハートのクリップをつかんで引っ張った。ミュウは慌ててついてきて、ベッドをおりた。シーツには大きなシミがついていた。
「四つん這いになりなさい」
言われたとおり四つん這いになったミュウの舌を、ゆっくりと引っ張って歩かせた。ミュウは、少しでも痛くないように必死で頭をあげ、ついてきた。
「え、え、ああ、うわ……」
奇妙な声をあげながら、舌を出し、四本足で歩く不思議な動物……
もう、人間とは言えない生き物になったミュウの目には、とろけるような光が宿っていた。
彼女の示す悦びに、僕は久しぶりの高揚感を覚えた。
舌ばかりでなく、胸やラビアも順番に引っ張ってやる。クリトリスは、クリップの上から強くつまんで、あの奇妙な叫び声をさらにあげさせた。
そうやってベッドのまわりを二回りし、ミュウをたっぷりいじめたあと、クリップをはずして普通のセックスをした。
ミュウは何度でもイキ、僕のからだのあちこちに爪を立てた。
(もしかしたら、運命かもしれない)
と、らしくない言葉が頭をよぎる。
いずれにせよ、この可愛い子猫のようなミュウを、当分手放せそうにないと思った。
八
ミュウが、僕の膝のうえに座って、キーボードを叩く。僕はミュウを抱えたまま、二人羽織よろしく、うしろから腕をのばしてマウスでクリックしてやる。
今日は二人で、アダルト・グッズを注文しているのだ。
「ラバーの手枷と足枷は欲しいなぁ……あ、このギャグボールも、ちょっと欲しい」
と、ミュウがいう。
「興味あるの?」
「うん」
そういって、ミュウは頬を染めながらうつむいた。
「なんかね、無理矢理こういうのされるのって、ぞくぞくするの」
「小さい頃、悪者に誘拐されて拷問される自分を、よく想像してたっていってたよね。猿ぐつわとかもされてた?」
「うん。猿ぐつわされて縛られて、ムチでうたれたり、血が出るほど犯されたり……」
「でも、誰も助けにきてくれない」
「そうそう。もう、この状況からは逃れようがないんだってことが、ますますよくて」
ミュウはそういって、はじけるように笑った。
「よくて、感じて、濡らしちゃったんだミュウは……それ、いくつのとき?」
「学校五年生くらい。早すぎ?」
「そうでもないだろ。僕がSに目覚めたのは、二十一歳の時だったから」
「それ、早すぎ! 絶対ヘン! どうしてぇ!」
「どうしてって、親父の持ってたアダルト雑誌に、そういう責め絵がのってたんだよ。セックスのやり方も知らなかったくせに妙に興奮して、以来病み付きになった」
ミュウは大笑いした。
「ませてるぅ! でも可愛い!」
僕は笑って、ミュウの希望通りギャグボールにもチェックを入れる。
それからアヌスをもっと調教してほしいというミュウの願いを入れて、それ用のローションとプラグ型のバイブも買う事にした。
さらに先を見てゆくとコスチュームのコーナーがあって、Hな下着やメイドの衣装などをミュウは面白そうに見た。
「あ、これ買おうか」
といって僕が示したのは、猫耳のカチューシャと丸いしっぽ付きのミニスカートだった。
「あっ、可愛い!」
「奴隷の間は、いつもこれをつけてご主人様にご奉仕する」
「うん、それいい! そうさせて!」
ミュウもすっかり気に入ったようなので、その猫セットを購入した。
「ねえねえ、そしたら、首輪も欲しい」
前にいるミュウが、僕を振り返っていう。
「何色がいい?」
「スカートや猫耳が黒だから、赤がいい」
僕はミュウの首を片手で軽く締めた。
「ああっ……」
ミュウの腰が揺れる。
「ミュウに、よく似合うかもしれないね」
僕のささやきを、ミュウは吐息で受け止めた。
注文したグッズは翌日にはもう届き、ミュウは裸になって、さっそくつけ始めた。
フリルとシッポのついたミニスカートをはき、寝室から持ってきたスタンドミラーに、角度をかえながら全身を映す。黒いサテンのスカートから伸びたミュウの足はきれいで、全部見えている時よりむしろ扇情的だった。
自分ではうまくつけられないラバーの手足枷を僕がつけてやると、ミュウは猫耳もつけてくれといった。
「ご主人様のお好きなように、つけてください」
なにやら神妙な面持ちでそういうミュウは、僕が思った以上に、猫耳に対する思い入れがあるようだった。
僕はどう見ても安っぽい作りのおもちゃを、もったいぶって取り上げた。
「では、ミュウ、誓いなさい……ミュウはご主人様の奴隷になります」
「ミュウはご主人様の奴隷になります」
ミュウは素直に反芻した。
「ご主人様のご命令には、どんなことでも従います」
「ご主人様のご命令には、どんなことでも従います」
「ミュウのすべては、ご主人様のものです」
「ミュウのすべては、ご主人様のものです」
言っているうちに、ミュウの目から涙がこぼれ落ちた。
僕は黒い猫耳をミュウの頭にのせ、一番可愛く見える位置にセットしてやった。
ミュウは僕に抱きついてきて、静かに涙をこぼし続けた。
猫耳をつけたころから、ミュウは僕の机の下に棲むようになった。
机はもともと僕の祖父が使っていたもので、イギリス製のかなり大きめなものだ。一度机の下にもぐらせ、仕事中の僕のものをしゃぶらせたところ、そこの狭さがミュウのM指向に合ってしまったらしい。いってみれば、檻の代わりだった。
僕は、昼寝用の小ぶりなマットと、大きめのやわらかいクッションを買ってきてミュウの「檻」に入れてやり、首輪につけた鎖を机の足の一つにつないだ。
僕が仕事をするとき、ミュウは足にまとわりついてきて指先にキスをし、フェラチオをせがむ。
僕が机を離れると、そこで丸くなって眠ることもあった。
食事はダイニングのテーブルで、僕の足元に座ってとることが多かったが、排泄は大抵机のそばの鎖の伸びる範囲でした。
むろんその時は、「ご主人様、おしっこをしてもよろしいでしょうか」
と許可を求め、僕が許せば、「ご主人様、ミュウの恥ずかしいところを見ていてください」
といってし始めるのだ。
仕置きのために、机の下を使う事もあった。
たとえば、ミュウが僕にだまってスカートの下の性器をさわってしまった時など、手足を机の四方につなぎ、曲げる事ものばす事もうまくできない状態にしておいて、ヴァギナとアヌスを責める。ギャグボールと乳首クリップを追加してやると、ミュウはあまりの悦楽に、イッたあとしばらく動けなくなる事さえあった。
自分の居場所をみつけたミュウは、奴隷としての心得も急速に理解していった。
九
一度、ネット上に掲載された英文の「Master & Slave Rules」というのを、ミュウに見せた事があった。
「奴隷のよろこびは、主に仕えることであり、奴隷は主にすべてを委ねる」というような大雑把で観念的なものから、「主に所有された証として、主が望む場所に、入れ墨、焼き印等の刻印を入れる」「奴隷の口はヴァギナと同じであり、主の求めに応じていつでも提供する」といった具体的な事まで、百項目以上にわたって書かれたものだった。
英語の勉強をしたいというだけあって、ミュウはたまに辞書を引くくらいで、それを読みこなした。
分かりにくいところやSM用語などは僕が訳してやり、読み終わると彼女は質問してきた。
「なにもかもマスターに委ねるといっても、マスターが奴隷の気持ちをすべて分かっているとは限らないでしょ?」
猫耳はつけていないから、今は現実世界の会話だ。そういう時の二人はもちろん対等である。
「それはそうだよ。最初はマスターも手探りさ。僕だってミュウが何を求めているか、全部分かっているわけじゃない」
「じゃあ、奴隷はどんどん希望をいっていいの?」
「いいよ、今のところはね」
「今のところは、って……そのうち、希望を聞いてもらえなくなるの?」
「そうじゃない。調教がすすむと、主の望みが奴隷の希望とイコールになってゆくんだ」
「奴隷は、自分の望みを持たなくなるの?」
「そうとも言えるね。主の望みに沿うこと自体が奴隷の願いになってゆく」
「それって、嬉しいのかどうかよくわからない」
「そうだね。これは一番むずかしいところだろうな。
痛めつけて、そこから快感を得させる事は比較的簡単だ。それを望んでいる奴隷も多いしね。だけど、本当の奴隷のよろこびというのは、物理的な刺激の中にあるものじゃないんだ。
主従関係を結ぶ本当の意義は、自分のすべてを主にゆだね、服従することよって得られるやすらぎのなかにある」
「服従する事によって、安らぎが得られるの?」
ミュウは、首をかしげてちょっと唇をとがらせた。
「この感覚は、言葉で説明してもよくわからないかもしれない。自分で体得しない限りね」
「でも、もう少し説明して」
そうせがむミュウを、僕は膝の上に抱き上げ、両腕で包んだ。
「僕にこうされて、今どんな気持ち?」
「うれしい。安心する。暖かい。いい匂い……しあわせ」
ミュウは単語を連ねながら、僕の腕の中で首をすくめて笑った。
「僕以外の事を、何か考えてる?」
「ううん、ぜんぜん! 久我さんの事だけ思って、久我さんのぬくもりだけを感じてる」
「ほかの事を考えたいとは思わない?」
「思わない! こんなにしあわせなのに、ほかの事なんか考えたくない……あ、そうか!」
ミュウは、なにか悟ったようだった。
「ほかに何も考えなくていい状況を、ご主人様がつくってくれるのね。だから奴隷は、すべてをご主人様にゆだねていればいいんだ」
「そう思えるようになるまでには、時間をかけて信頼関係を築く必要があるけどね。
あんまり信用できないヤツに、そう簡単に自分はゆだねられないだろ?
主従の信頼関係は、普通の恋人同士よりも純粋で強固なものだからね」
「そうなのね……なんとなく、わかった気がする」
「むりして奴隷になろうとしなくていい。ミュウができる事からやっていけばいいから。
もちろん、僕も黙って見ているわけじゃない。ミュウが迷わないように、しつけやお仕置きで向かうべき道をそのつど示す。それが調教ということさ」
僕の言葉に納得したのか、ミュウは「うん」と真面目な顔でうなずいた。
その事があって以来、ミュウは少しずつ変わってきた。
責めを求めるばかりでなく、奉仕に対しても積極的になり、僕のからだをくまなく舐めてきれいにすることも、上手にできるようになった。
最初はとまどっていた「便器」での食事も、すぐに抵抗なくするようになった。試しにおしっこのあと洗わずにご飯をいれてやると、涙をぽろりとこぼして僕を見上げた。
「つらい?」
と訊くと、「わからない」
と、首を振る。
「食べなさい」
と、主の声で命ずると、ミュウは「はい」と泣きながら言って食べ始めた。
見守っていると、ミュウは目を閉じ、時折溜め息をつくようになった。
自分は奴隷であり、ご主人様からいただくものはなんでも食べるというシチュエーションに、完全に入り込んだのだ。
悪くない感触を得た僕は、ときどきそれをやるようになった。
そしてある日、こういってみた。
「もう、ミュウはなんでもできそうだね」
「はい。ミュウはご主人様によろこんでいただけることが、一番のよろこびです」
ミュウがうなずくたびに猫耳がゆれる。
「そうか」
僕は、机の下の暗がりから、澄んだきらめきを返してくるミュウの瞳をみつめた。
「じゃあ、ご主人様の便器にもなれるかな?」
ミュウは、ちょっと小首をかしげた。
「僕のおしっこを、飲んでごらん」
椅子に座って、ミュウの目の前にコックを出してやる。ミュウはためらっていたが、おずおずと口にいれた。
「無理しなくていいから。飲み込めなかったら、ボールに吐き出しなさい」
奉仕プレイの中でも、飲尿はかなり上級の部類に入る。僕をよろこばせたいという気持ちはあっても、そう簡単にできるようなものではない。
「ミュウは、ご主人様に仕える奴隷だ。ご主人様の命令があれば、いつでもどこでも口を開けて便器の代わりをする。ご主人様から出たものは、ミュウのからだの中に入り、吸収され、やがてミュウの体液となる……」
僕は簡単なストーリーを語ってやって、ミュウの想像力を刺激した。
主従関係は、所詮幻想の産物だ。シチュエーションを感情で納得できれば、大抵のことはクリアできる。そのためにMの想像力は必要不可欠なのだ。幸い、ミュウはそれに恵まれていた。
「………」
彼女は目を閉じて、僕の言葉を聞いていた。その表情から、最初の戸惑いが消えた頃を見計らって、僕は放尿を開始した。
「ん!」
ミュウが眉をひそめる。ノドの奥にたまり始めた渋くて塩辛い液体をもてあまして、首を振る。
僕は水栓をとじて、コックをいちど抜いてやった。
ミュウは、かなり苦労して……まさに意を決してというような顔をして、たまったものを飲み下した。
「できたね」
と、僕は猫耳のすぐ後ろをなでてやった。
「まだ……ご主人様、ぜんぶ出して…ない」
ノドを通った液体にむせてか、ミュウはとぎれとぎれにいって、僕を見上げた。
「じゃあ、もう一度口を開けなさい」
奴隷の意欲は活かしてやらなければいけない。
ミュウは再び僕のコックをくわえると、目を閉じた。僕はすぐに水栓を解放した。
ミュウの飲み込むスピードに合わせ、少しずつ出してやる。だが、どうしても大量には飲めなくて、ミュウはまもなく首をふった。僕はまた、コックを抜いてやった。
ミュウは床に両手をつき、背を丸めて吐きそうになりながら、やっと飲みこんだ。
「……ごめん……なさい」
荒く息をつぎながらそう言うミュウに、僕は、「そのうち、もと楽にできるようになるよ。慌てることはない」
ミュウは、激しく首をふって、「ううん、ミュウはご主人様のことこんなに好きなのに、全部飲めないなんておかしい。きっと、まだ奴隷になりきれていないの!……ごめんなさい」
そういって、涙ぐんだ。
「ミュウ……」
僕は、ミュウの頬を、両手で包んでやった。
「誰かを受け入れる事は、普通でもとても大変な事だ。まして〝ご主人様〟という存在のすべてを受け入れなければならない奴隷には、精神的にも肉体的にも相当の負担がかかる。ミュウに僕を受け入れたいと言う気持ちがあれば、いずれなんでもできるようになるよ」
「いずれじゃダメなの。今すぐじゃないと……」
ミュウはそういって、あとの言葉を呑み込むように黙った。
いつになくかたくななミュウに、僕は苦笑した。
積極的なM女は、プレイに対して貪欲になる。ミュウの熱意はうれしかったが、調教はゆっくりのほうが長く楽しめる。
僕は「出ておいで」とミュウの濡れた頬を軽くたたき、「お茶にしよう。さっき、チーズケーキを買ってきたから」
といった。
十
ミュウは飲尿が不調に終わって以来……初めてにしては充分な成果だと、僕はいってやったのだが……自分にできることとできないことを、「Master & Slave Rules」を見ながら、書き出し始めた。
僕は、ダイニングのテーブルでプリントアウトしたそれとにらめっこしているミュウに、日本とアメリカでは主従のあり方や感覚がちがうから、そのまま鵜呑みにしないよう注意した。
「基本的に、傷が永遠に残るようなのはやめなさい。アヌスを極端に拡張するのもダメ。年とってから、お漏らしするようになるから。一生アナルプラグをはめていたくはないだろう?」
「一生アナルプラグ」と聞いて、ミュウはしょっぱいような顔をした。
最近ミュウはアヌスでも感じるようになって、密かにもっと拡張してほしいと思っていたらしい。
「僕のが入れば充分だよ。今度は浣腸する量をふやしてやろう。我慢する時間も延長だ」
ミュウは、まだ排泄に対する羞恥がつよく、浣腸のあとがスムーズにいかない。
「ミュウが浣腸をおねだりするようになるまで、これからは毎日してやろう」
ミュウは、腰の辺りをもじもじさせて、可愛く鼻をならした。
僕は仕事を一時中断すると、「Master & Slave Rules」とミュウを抱えてリビングのソファーにすわった。
プリントの欄外には、○と×と△がついている。○ができる、またはしてみたいで、×は絶対イヤ。△は、興味はあるけど出来るかどうかわからない、だった。
「浣腸は○だけど、おむつは×か。……じゃあ今度いけないことしたら、浣腸しておむつ付けさせて、そのまま外へ連れ出そうか」
「い、いや……」
ミュウは震えながら、首をふった。
「前の方にもローター入れて、ずっとスイッチを入れっぱなしにして」
ミュウは、また首をふった。
「人の一杯いるところがいいな。夕方のラッシュの電車の中とか、花火大会の人ごみとか……ミュウは、相当がまんしないといけないね」
「我慢できない! そんなの……ダメ、無理!」
「じゃあ、しょうがないから、立ったままおむつの中へするんだな」
「イヤー、イヤーッ、絶対イヤー!」
ミュウは、僕の腕の中で激しくかぶりを振って逃れ出ようとした。それをしっかりつかまえておいて、またリストに戻る。
「ロウソクは△か。どうして?」
ミュウは話題が移ってホッとしたように答えた。
「火はなんだか怖い。やけどしそう」
「SM用のは低温だから、やけどはしないよ」
「でも、火は火じゃない。もし、落っことしたりしたら、火事になっちゃうかもしれないし」
「そんなヘマはしないよ」
僕は笑って、ミュウのシッポ付きミニスカートをめくり上げ、足を開かせた。
「ン……」
ミュウは小さくあえいで頭をそらす。探ったクレバスは、充分に湿っていた。
「ミュウ、どこで感じちゃったんだ? 本当はおむつもロウソクも好きなんじゃないのか?」
「ちが……!」
僕は、とけたクレバスに指をいれてなぶった。
「ミュウのここはつるつるだから、ロウソク・プレイも大丈夫だね。……割れ目を熱いロウで埋め尽くしてやるよ。花びらをいっぱいにひろげて、クリトリスに火が触れるくらいのところから熱いのをたくさんたらしてやる。つらくても動けないように、縛ってからしようか。ん? ミュウ」
「いや……い、いやあ……」
言葉とは裏腹に、ミュウの奥はどんどん濡れてきた。
「ミュウはHだな。次に×がついている針も、案外やれるかもね」
「嫌ぁ!」
ミュウはまた暴れたが、足を開かれているので、思うように動けない。
「お願い! 針は怖い! あれは嫌!」
不自由な姿勢で、必死で僕を振り返る。
「まずは、ラビアかな。次が、ミュウの大好きな乳首。それからクリトリス」
泣き始めたミュウの訴えを無視して僕は続けた。
「今は季節外れだけど、十二月になったらミュウをクリスマスツリーにするのもいいね。
胸やアソコや足や腕……いろんな所に鈴や星をつけた針をたくさん刺して、上からシャンパンを振りかけようか。それともご主人様のおしっこの方がいいかな」
「おしっこ」といったところで、ミュウのなかから蜜があふれだした。
僕は指を三本にふやし、「振りかけるより、飲む方がいいか?」
と、ささやいてやる。
ミュウはもう焦点の合わない目で、かすかにうなずいた。
「じゃあ、ご主人様のシャンパンはぜんぶミュウのものだ。開口器を買って、口を閉じられないようにしてから、胃がいっぱいになるまでそそいでやろう」
「ああ……」と歓びの吐息をこぼすミュウの花筒はすっかり柔らかくなって、指を四本にしてもまだ余裕があった。
「ずいぶん広がったね。そのうちミュウはフィストも出来るようになるかもしれない」
「フィ……スト」
「僕の手を全部のみこむんだ。最初は、少し裂かないと無理かな」
ミュウがゾクリとふるえた。
「裂けても……いい。ミュウを……裂いて……ください」
ミュウは泣いて、もどかしげに身をよじった。
「裂いて! ミュウを、そこから裂いてぇ!」
僕の手を振りほどいて膝からおりると、リビングのテーブルにからだをのせて、自ら足を大きく開き両手で抱えた。
「ご主人様をください! ミュウのここに、ご主人様をいっぱいください!」
言葉なぶりで、いいかげん高まっていたのだろう。ミュウは普段見せた事がないほど、奔放に僕を求めた。
僕が命じると、小ぶりなラビアを広げ、指を左右二本ずつ入れて入口を開いた。僕はそこに、再び指を四本ねじこんだ。
「ああん、あ、あ、あ」
「もう、入り口も奥もグチュグチュだ。本当に裂くぞ。いいか、ミュウ?」
「裂いて! 裂いてください!」
「ようし、裂いてやる」
僕は四本の指を根元までゆっくりと押し込み、次に愛液の滴りでたっぷりとぬめっているアヌスにも、指を二本入れた。前を限界まで開かれたミュウにとって、これはかなりきついはずだった。
「ひっ、あああー!」
切羽詰まった悲鳴があがる。
「前とうしろ、一緒に裂いてやる」
僕はそういって、うしろの指をもう一本増やした。
「ああああー!」
ミュウの可憐な花は、二輪とも無惨に開かれて今にもピンと切れそうになった。
僕は挿し込んだ手を、ゆっくりと前後に動かした。
「ひどいな、ミュウのヴァギナ。古くなったホースみたいにのびきって、中の粘膜まではみだしてきそうだ。お尻なんか、三本くわえてもまだ物欲しそうにしてる。ミュウは、いつからこうなっちゃったんだ? つい一週間前、初めて会ったときは何にも知らなくて、ここも心配になるくらい狭かったのに」
「ああ、あ……ごめんなさい。はしたないミュウで、ごめんなさい……」
「でも、もう、治らないな。調教されて淫乱マゾになったから、一生お尻をつきだしてご主人様におねだりするしかないんだ」
「はい、ミュウは淫乱マゾです。一生ご主人様のそばに置いてください」
「じゃあ僕が命令したら、いつでも足をひらくね」
「はい、開きます」
「口を開けなさいといわれたら、いつでもどこでも開けるかな」
「はい、開けます」
「僕が与えるものは、すべて飲みなさい、いいね」
「はい、ご主人様のものはなんでも飲みます」
「ミュウは、僕の専用便器だ。ミュウのからだに開いている穴のすべては、ご主人様のためにある」
「はい……ミュウの穴は、ぜんぶご主人様のものです」
ミュウはそういうと、何かをあきらめるように全身の力をぬいて、ひどく無防備になった。
「じゃあ、もっとよく僕が入るように、これから二つの穴を裂いて大きくしてやるから」
「……はい」
ミュウは、とろりとした目を半分だけ開き、天井に向けていた。
僕は、いったん両手を抜いたあと、うしろの指を四本にふやし、またそろえて挿入をはじめた。
実際は、指をいれる程度では裂けない。だがこれは、イマジネーションによる調教なのだ。
ミュウに、僕という主のすべてを受け入れる感覚を植え付けるためには、本気でそのつもりにさせる必要があったし、僕も本当に裂くつもりでのぞんだ。
「さあ、手のひらが入るよ。ミュウのからだが、僕のために形を変えられるんだ」
僕はそういって、両手の指の付け根までを、一気に押し込んだ。
「きゃああー!」
大きな衝撃が痛みとなって、ミュウの全身をこわばらせる。さらに中で指を開いてやると、薄い粘膜が限界までひろがって、ミュウを苦しませた。
ミュウはついに失禁した。
暖かい液体が僕の両手首をつたい、テーブルの縁からリビングの床へとこぼれた。
僕はそのまま、少し乱暴にミュウのからだを揺すった。
「きゃあ、ああ、あ、あ、嫌! ダメぇ、ああああ!」
尿道から小さな噴水があがった。かまわず揺すり続けると、なかの壁が強く収縮して、ミュウは絶叫した。
「あああああー!」
そうして、からだをこわばらせたまま、とうとう気をうしなった。僕の前で見せる、初めての失神だった。
十一
僕と出会って初めての里帰りの日、ミュウは離れがたそうに、いつまでもぐずぐずしていた。
「ほら、早く行っておいで。お父さんやお母さんが待ってるよ。可愛いミュウはまだかなぁって」
そういって、ミュウの頬をつついてやると、ミュウはちょっと嬉しそうに、「ミュウは可愛いの?」
「可愛いよ。出会った頃より、もっと可愛くなった。ご両親も、ビックリするんじゃないかな」
実際、ミュウはきれいになった。まだ子供っぽさの残っていた顔には、しっとりとした大人の色が浮かぶようになり、肌もいっそう艶をましてきていた。
「うん……ご主人様のおかげ」
ミュウはそういって、僕の胸に顔を埋める。僕はそのからだをギュッと抱きしめてやると、「ほら」と引きはがした。
「遅くならないうちに、行って来なさい」
ご主人様の顔でそういうと、ミュウはようやく「はい」とうなずいた。
その晩、ミュウからメールが届いた。
ご主人様、今何をしていますか?
ミュウは、ご主人様を想っています。
ご主人様に出会えた事は、ミュウの一生分のしあわせです。
アキちゃんのお店で初めて見たとき
「こんなに素敵な人もいるんだ」と、ドキドキしてしまいました。
ショーを見て、いつもより感じてしまったのも、ご主人様が隣にいたから……
そんなの、ご主人様は
とっくにお見通しだったみたいですね。
ミュウは、自分がMだとわかって以来、ずっと「ご主人様」を探していました。
でも、どこかで諦めてもいました。
相談にのってくれたアキちゃんも、「良いSにめぐり逢うのは、すごく難しい。
焦ってヘンなの捕まえるくらいなら、一人でいた方がましだから」
といっていましたし。
でも、ミュウはご主人様にめぐり逢えました!
お仕事をしている真剣な顔が好き。
お料理上手なところが好き。
背の高いところが好き。
きれいな形のお鼻が好き。
命令する時の低い声がすき。
時々イジワルするけど、ちゃんとフォローしてくれるから好き。
ミュウができないとすぐに許してくれて、でも許してほしくない時は、きつくお仕置きしてくれるから好き。
ああ……
どんなに言葉を重ねても、ミュウの気持ちはとても言い表せません。
『リア王』のコーディーリアのように、何もいわずに、ただご主人様を想っているしかないのかも。
まだできない事ばかりの奴隷ですが、どうぞこれからも、見捨てずに調教してくださいね。
ご主人様の机の下が恋しい ミュウ
その飾り気のないメールは、僕を微笑ませた。
ミュウは、あきれるほどまっすぐだ。駆け引きというものを、ほとんどしたことがない。
『リア王』が出てきたのは、僕がうっかり机の下へ落とした翻訳本を、ミュウが拾ってくれたことがあったからだった。彼女はパラパラとめくって、「今度これを訳すの?」
と訊いてきた。
「うん。新しい感覚でやってくれという注文なんだ。他の人がどう訳しているかも、一応見ておかないとね」
「シェイクスピアって、原文難しい?」
「難しいよ。ラテン語とか出てくるし、研究者でも迷う時がある」
「ご主人様、研究してたの?」
「……そうだね。一時は没頭してた」
僕は笑った。答えるまでに少しあった間を隠すように、できるだけはっきりと笑った。
「あっ、これ有名なところ!」
「どこ?」
「えっと、ほら、リア王が三人の娘に自分をどのくらい愛しているか訊ねるところ。それで上の二人は言葉をつくして、こんなにも愛してますってアピールするんだけど、末娘のコーディーリアだけは、何もいわなくてお父さんの怒りをかっちゃう」
「ああ、冒頭のシーンね」
ミュウが机の下から指差したのは、領土を少しでもよけいに分けてもらおうとする二人の姉達の言葉を聞きながら、コーディーリアが「何といったらいいのだろう……」と独白するところだった。
「この、『愛するだけ、黙っていよう』っていうところ、原文ではなんていうの?」
「Love, and be silent.」
もう何年も前に読んだものだったが、案外覚えているものだ。
「ご主人様は、なんて訳すの?」
ミュウは窮屈な机の下から、好奇心いっぱいに僕を見上げている。
僕は彼女の猫耳の頭を抱き寄せると、前をあけてコックを取り出した。
ミュウはすぐくわえにきて、おいしそうにしゃぶりだした。
「そうだなあ……」
ミュウのいる場所から立ち昇ってくる、濃厚なMの薫りをかぎながら、僕はいった。
「ただ愛するだけ。でも、その事は胸にしまっておこう。言葉ではとても言い尽くせないから」
これが試験なら、僕の回答に点はほとんどつかないだろう。だが、日本語の文章としてみた場合、このくらい補って訳した方が分かりやすい。
ミュウはくわえていた僕を一度はなして、感心してみせた。
「すごい! 素敵な訳! 絶対それの方がいい」
無邪気に感心するミュウが、なぜか癇に障った。
「お褒めにあずかり、光栄です、ミュウ姫」
僕は片手を胸に当てて大げさに礼をとると、ミュウをその場にころがし、股間を裸足で踏みにじった。
「ああ、あ、いや、あああ」
ミュウは、すぐに嬉しそうな声をあげた。
「足を抱えなさい」
命ずると、狭い場所でからだを曲げて両足を抱え、股間がよく見えるように突き出した。
かかとで強く突くようにしてやると、なかからじわりと愛液がにじみでてきた。クリトリスもラビアもつぶすように踏みつけ、胸の方にも足をのばして踏んでやる。
尻も腹もかまわず、いたぶるように両足で突き上げたり揺らしたり蹴ったりしてやると、ミュウは、ただなぶられるだけの肉のかたまりになっていった。
「はあ、ああ、うっ、くう……」
僕は、いつもより執拗になぶった。ミュウの頭が壁や机の足にぶつかるたびに、ごつんと音がする。そのうち、ミュウはあまり声も出さなくなった。
「もの扱い」される事に陶酔し始めたのだろう。時折「うっ」というような、くぐもったうめきだけが聞こえてくる。親指を突っ込んでやると、中から粘液があふれでてきた。
「いやらしいな。グチョグチョじゃないか……こんどアキちゃんや佐久間呼んで、見せてやろうか。ミュウは、こんなに変態になりましたって。蹴られたり踏まれたりするだけで、こんなに感じちゃいますって」
僕は親指を乱暴にうごかして、ミュウの柔らかいところをかき回した。
「ひ、う、う、ああ」
「いってごらん……私は、いやらしい穴の開いた、醜い肉のかたまりです。ご主人様に使っていただく事が、何よりのよろこびです」
そう命じておいて、ミュウの口にもう片方の足の親指をつっこんだ。ミュウは乱暴に突き上げてくる親指を懸命に受け止めながら、なんとか僕の命じた言葉を言おうとした。
「ああいあ……いえあいい……ああお……あああ……」
不明瞭な母音にしかならない。それでも最後までいわせると、僕はミュウを安住の地から引きずり出し、自分の座っていた椅子に逆さにしばりつけた。
「ああ、あ、うん!」
ミュウが人間らしい声で鳴く。
宙へ、とっかかりもなく伸ばされた内腿も、ヘアのないデルタもぐっしょりとぬれて、午後の陽射しをヌラヌラとはねかえす。
僕はそこへバイブレーターとアナルビーズを入れ、縄で固定して勝手に吐き出せないようにすると、何も言わずに外へ出た。
近くの公園へ行くと、木陰のベンチに老人がすわっていた。
白い化繊のシャツに、薄茶のズボン。杖を脇に立てかけ、丸い老眼鏡をかけた目は、乾いた地面の一点をみつめて動かない。
僕はブランコの一つにすわって、彼を横からながめた。
深いしわの刻まれた顔は、ずいぶんと日に焼けている。シャツの下の身体は、ヨガの行者のように痩せていた。
子供さえクーラーの効いた室内に閉じこもる夏の昼下がり、彼にはほかに行くところもないのか、何をするでもなく、ただじっとすわっている。
蠅が飛んできて、老人の頬にとまった。彼はそれでも動かない。もはや、現世の事などどうでもいいのかもしれない。彼には、自分と蠅の区別も、もうないのだろう。
僕は、現実と虚構が入り交じる自分の部屋を思った。そして、虚構の淵に打ち捨てられた哀れなミュウを思った。
大学院をやめて研究者の道を自ら閉ざしたことに、僕は自分で思うよりずっとこだわっていたらしい。ミュウの何気ない言葉に刺激され、「主」の感情を越えたところで、ミュウをなぶることになってしまった。
「We two alone will sing like birds in the cage. When thou dost ask me blessing,I, ll kneel down, and ask of thee forgiveness. So we, ll live, and play, and sing, and tell old tales………(おまえと二人だけで、籠の中の鳥のように歌おう。お前が私に祝福を求めるのなら、私はひざまずいてお前に許しを乞おう。そんなふうに生きていこう。祈って、歌って、昔の話をして)」
再会したコーディーリアとともに、敵方の捕虜となってしまったリア王がいう台詞だった。
僕はもう一度、木陰の動かない老人に目をやり、ブランコを離れた。
マンションに戻ってみると、椅子の背から上に伸びて折れ曲がったミュウの足が揺れていた。
そばへ行くと、泣きつかれたような瞳で僕を見あげてきた。
「……もう、もどってこないかと思った」
かすれた声が、涙まじりになる。
「放置プレイは、お気に召さなかったか」
僕が笑うと、ミュウは盛大に泣き出した。
僕は謝るかわりに彼女の縄を解き、椅子からおろすと、その場で強く抱きしめた。
しがみついてくるミュウに、長いキスをする。
そのまま二人で倒れ込み、むさぼるようなセックスをした。
床に汗がしみるほどした後は、ベッドへ移動して、窓の向こうが真っ暗になるまでもつれあった。
SでもMでもなかった。
ただ、お互いの存在をありのままに、激しく求め合った。
そうして、口もきけないほど疲れ果て、二人抱き合って眠った。
ミュウが、自分の夢見た理想の人物ではなく、現実に生きている僕を受け入れたのは、たぶんあの時だったのだと思う。
それは、僕も同じだった。
あとがき
これは、SM小説を書き始めたごく初期の頃の作品である。『佐伯香也子小説集一』(二○一○年/絶版)に収められた。
若い男女が出会って、お互いの気持ちを寄せ合いながら、理解を深めてゆく。けんかもすれば、相手の気持ちの不確かさに怯えて心を閉ざしたりもする。
かなり濃厚なSMプレイは出てくるが、ストーリーとしては恋愛物語である。
SM主従というのは、普通の恋人同士のように貞操を求められない。だから観念的な遊戯のようなところがあって、会ったときだけの体の関係だけでも成り立つドライなものだと、この頃は思っていた。
既存の小説も、強烈なフェティシズムを描いたものか、上品な令嬢や奥様が下品な男に貶められるようなものばかりで、普通に愛し合う者たちの話がなかった。
私は、それをとても物足りなく感じた。そして、自分が読みたいと思うものを書いてみようと思った。
女性には絶対共感してもらえるだろうと思ったが、意外な事に男性にも評価していただいた。
「いつまでも忘れられない名作に出会えました」(室井亜砂二氏)「素晴らしい傑作ですね!」(男性読者)など、嬉しいお言葉をいただいた。
物語は下巻で意外な展開を見せる。ミュウと久我のラブストーリーは、アキや佐久間も加わって、ますます深みをましてゆく。もちろん、プレイ内容も大進化する。
相変わらず良いお仕事をしてくださる制作の
二木寸志
さんには、重ね重ねお礼を申し上げたい。下巻も乞うご期待である。
机の下の楽園 上
佐伯香也子
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