兄嫁は二十八歳 第九章 恐ろしき姦計 ~ 第十一章 麗わしき菊門 (5/5)
前の話
第九章 恐ろしき姦計
忍には、杏里に対してたかをくくった部分があった。つまり、どうにかなるという甘い気持ちを抱いていた。
杏里は、陰湿な性格の持ち主だった。忍はそこを見逃していたことになる。
忍は抱かれたいと思うと、すぐに大樹を誘いだした。大樹から三度に一度は断られても、やむを得ないと受けとめた。しかし大樹と会っていても、どこか以前と違うことをはっきりと感じていた。
誰か私の他に好きな女がいるの?……
会えばその言葉が口から出かかるが、かろうじて喉の奥に封じこめた。
「おい、ちょっと用があるんだ」
大学の図書館から出てきた忍は、珍しく待っていたらしい大樹から声をかけられた。
二人は大学を出ると、近くにある公園へ行き、ベンチに座った。
「何かお話?」
深刻な顔をした大樹を見るのは、忍にとってもつらく悲しいことだった。
大樹は忍に、ポケットから出した一通の手紙を手渡した。
「!?…………」
「読んでみろよ」
忍は、大樹あてに出された封筒から中身を抜きだした。二枚の便箋に、わざとらしいギクシャクした字がびっしりつまっている。左手で書いたものだろう。
読んでいるうちに、忍の顔色が変わった。内容はざっと次のようなものだった。
--お前は同じ大学の佐伯忍という女子学生とつき合っていながら、もうひとりの女と深い仲になっている。その女は、こともあろうにお前の血縁関係の者だ。お前のハレンチな行為に警告する。お前は二人の女ときちんと手を切るべきだ。もしこの警告に従わなければ、お前の現在つき合っている二人の女に、お前の恥ずべき行為をすべてバラすことにする……。
忍は内心の動揺を悟られまいと、つとめて平静を装った。やっぱり他につき合っている人がいたのかと納得したものの、心の揺れは大きい。
それに忍には、この手紙を出した主がおぼろげながらわかっていた。
「これはノブが書いたの?」
大樹の思いがけない言葉に、忍の動揺はさらに大きなものとなった。
「ち、違うわ! 神に誓ってもいいわ」
「そう……」
「あなた、本当に私だと思っているの?」
「今まではね。でも、ノブがはっきり違うと言ったのだから、それを信用するよ」
「ありがとう……でも……」
忍には聞きたいことがいくらでもある。
「この手紙に書いてあることは本当なの?」
他につき合っている人物のことを、今のうちにちゃんと聞いておきたかった。
「ああ……」
大樹の返事は忍の予想したものであったが、それでもやはりショックだった。
「この際だからはっきり言うよ」
忍はまばたきもせずに、大樹を見すえた。
大樹は名前は出さなかったが、手紙に書いてあることの大筋を認めた。
「……だけど」
大樹は美登利との残された日々が、もうわずかしかないことを決して忘れてはいなかった。そして、その日が二人の仲がすべて解消する日であることも。
「おれはその人ともう別れなければならないんだ。勝手な言い分だが、ノブだけが唯一おれに残されるんだ。気に入らなければ、去っていってもかまわない。今のおれにはつらいことだけど、おれはあまりにも手前勝手すぎたからね。それくらいの試練は当然のことだと思ってるよ」
「私も、あなたに何かあるって感じていたわ。でも、もうこれ以上あなたから聞く必要はないわ。聞けば悲しくなるもの。私は、あなたさえよければ、今のままでいたいの」
二人の間に、わだかまりが何もなくなったわけではないが、少なくとも今の時点で、合意の方向に傾いたのは間違いなかった。
「これは、ただのイタズラだろうか? それにしては、よく調べてあるからね」
忍は、手紙の送り主が草野杏里であろうと見当をつけた。杏里は嫉妬深い女の子である。忍と大樹のことを知っていると告白したが、杏里のことだから、大樹についても調べたであろうと推測がつく。
私と大樹さんの仲を裂くつもりで、こんな脅迫的な手紙を送りつけたに違いないわ……。
この思いは、次第に忍の心のなかに確信となってひろがった。
それにもう一つ。忍は、封筒に貼ってある切手が、普通に売られているものではなく、『馬と文化シリーズ』という記念切手であることに気づいた。忍を呼びだした杏里からの手紙の切手も確か同じものだった。
「私、この手紙を誰が書いたか、見当がついているの」
大樹が疑わしそうに忍を見た。
「私じゃないことだけは信じて。詳しく言いたくないけど、私もあなたに隠していたことがあるの。異性じゃないわ。それしか言えないの……とにかく、それをきちんと精算しなかったからいけなかったんだけど……」
「それはおれも同じさ。だから今になってこんな問題が……」
「もうこんなことがないように、きっちり話をつけてきます。どうしても詳しいことを知りたいというのなら、すべてを話してもいいけど……」
「いや、その必要はないよ。それをおれが望むなら、まずおれが何もかも話さなければならないんだから」
「私にまかせてくれる?」
といって、忍にいい考えがあったわけではない。忍は大樹と別れた後、草野杏里にどういう対応をするか、考えぬいた。
あの娘のことだから、大樹とその周囲の人に対して、常識では考えられない手段をとることも有り得る。忍は大樹に、すべてまかせてほしいと約束した以上、すぐにも対策を考えなければならない。ようやく自分のものになった大樹への愛の証しのためにも。
杏里は、忍から昼すぎにマンションへ来るという電話をもらい、有頂天になっていた。
「そろそろ生理がはじまる頃ですものね」
そう言われたときも、やはり忍が自分に対して、細かいことまで忘れてはいないのだという思いが強かった。
生理の前後になると、いつもより人肌が恋しくてたまらなくなる。人肌といっても、杏里の場合は忍そのものである。
杏里は、忍に言われた通り、ドアの鍵をかけずに待っていた。途中で電話があると気が散るから留守番にセットしておく。こうしておけば、相手が話せばモニターで聞くことができるから、本当に必要なときだけ電話に出ればいい。
そろそろ来る頃だわ……。
大きな姿見の前に立った杏里は、真新しい下着姿の自分自身をうっとりと見つめた。半年前にヨーロッパ旅行をした際に買い求めたアンドレ・サルダの淡いブルーカラーのパンティは、挑発的でセクシーだった。
杏里はわざとブラジャーをしないで、パンティ姿の上にバスローブだけをまとった。体は期待でとにかく熱い。さりげなく股間の周辺に、エンリコ・コベリの香水を軽く振った。
さあ、いつ来てもオーケイよ……。
壁掛時計を見ると、約束の時間はもう間近だった。
ドアが開いたので、杏里は玄関口に飛んでいった。そこに、若い人気俳優によく似た男が立っていた。身なりもきちんとしているので感じは悪くない。ただ、杏里は忍とばかり思っていたから、ちょっとがっかりした。
「何か御用?」
セールスや新聞の勧誘にしては格好がよすぎる。ひょっとして忍の使いの者かもしれないと思った。
男は無言で微笑すると、いきなり室内にあがってきて、杏里の口に用意してあったガムテープを貼りつけた。
恐怖が全身を駆け抜けた。
奥に逃げこんだのは、杏里の誤算だった。ベランダに抜ける硝子戸はロックしてあったし、たっぷり余裕のとってあるレースのカーテンがかかっている。
男の動きは敏捷で、杏里はベッドの上に押さえこまれてしまった。
男は細身のくせに、ずいぶん力が強い。跳ねかえそうとして手足をバタつかせているうちに、杏里はヘトヘトに疲れてしまった。
男は涼しい目で、上からじっと見ていた。荒い息を吐いて杏里が睨みつけると、男は難なくバスローブの紐をほどき、それで細い両脚をきつく縛った。
杏里はまだ自由な手を使おうとしたが、男が体重をかけて馬乗りになり、バンザイのような形で両手を押さえつけられると、身動き一つできなくなった。理不尽な相手に怒りをぶつけようにも、すべてを束縛された杏里には、もはや自由を回復する手だては何もなかった。
おねえさま、早く来て!……
杏里は壁掛時計を見た。約束の時間を少しすぎている。
もうそろそろ来る頃だわ……。
杏里は心のなかで、今に見ていなさい!……と復讐のことを考えた。
その間にも男はズボンのベルトを引き抜き、杏里の両腕を後ろ手に締めあげて自由を奪うと、脇に座って一服つけた。おとなしくしていれば、暴力をふるうことはなさそうだった。
そのとき電話が鳴った。留守録にしてあるので、しばらくテープがまわっている。杏里が吹きこんだ声を相手が聞いているのだ。
その時間がすぎると、相手の声が聞こえた。
「私、忍です。どうして留守番電話なのかなァ……買物にでも出かけてるのね。ところで、急用ができちゃったの。だから悪いんだけど、約束の時間より一時間ほど遅れそう。ごめんね。じゃ、あとで」
電話が切れると、杏里は絶望的な気持ちになった。あと一時間、忍は来ない。その間に何も起こらないということは有り得ない。
男は煙草を揉み消すと、自分の腕時計を見た。そして小さく呟いた。
「あと一時間か……」
男はバスローブの前を開いた。杏里は身をひねって防ごうとしたが、まったく無駄だった。
男はしばらく、杏里の裸を眺めていた。それからおもむろに乳房に貼りついた。
体を踏ん張ったぐらいでは、男を跳ねのけることなどできない。
侵入者の舌の使い方は巧妙だった。杏里は、男というものに嫌悪感を抱いていたはずだったのに、いつの間にか拒む気持ちをなくしている自分自身に気づいて狼狽した。
暴れることは不可能だった。疲労が絶望感とともに忍び寄った。
男は杏里の乳首が次第に硬くなっていくのをニヤニヤと眺め、そのままずりさがっていった。
杏里は縛られていることを感謝した。両脚がきつく閉ざされているので、じかに女の大事な部分を触られることはない。たった一枚の薄いパンティでも、杏里にとってはこのうえなく重要な防御壁であった。杏里は必死で股間に力をこめた。
男はつとめて乱暴を避けているようなところがあった。
杏里に恐怖心がなかったといえば嘘になる。しかし、当初に感じていたような、殺されるかもしれないという不安は消えていた。それに、どこかで会った気がする。おとなしくしていれば、相手はわりと紳士的に接してくるかもしれないという感触は確かにある。
あと一時間、忍が来るまで、体を守りきれるかどうかが問題だった。
男がヘソの窪みを舌先でくすぐった。投げやりというのではないが、熱心というわけでもない。そこにあるからやっているといった感じである。
何者なんだろう?……
少しずつ気持ちが落ち着いてくると、不意の侵入者をそれとなく観察した。杏里好みのタイプである。会ったとしたらどこで?
それがなかなか思いだせない。
好みのタイプとはいえ、杏里は忍に熱をあげている最中だったから、男に対して気持ちが揺れ動くことはなかった。ましてや相手は犯罪者である。
男が上半身を起こした。ジャケットを脱ぐと、すぐにマドラス風のシャツも脱ぎ捨てた。スリムだが、むだな肉のない筋肉質な体をしている。
男と目が合った。男が優しい顔で笑った。
二十一、二十一歳で、学生風である。
杏里は目を閉じた。男がズボンを脱ぐ気配がした。
二十一歳で担任教師にほとんど暴力で処女を奪われて以来、杏里は数人の男と肉体関係を持った。しかしどの男ともうまくいかなかった。初めてのときの恐怖心が、その瞬間になると鮮烈に甦るのである。
杏里は同性に興味を示すようになった。男とつき合うときに抱く恐怖感はないが、どこかに虚しさがつきまとった。そんなとき忍と知り合った。
忍とは一番波長が合う。快感をはっきりと意識した。溺れた。
だから、この侵入者が杏里好みというのは、実に皮肉なことだった。
初めてのときに、こんな男に出会っていたら……。
そんな感慨が湧いたものの、あわてて打ち消した。忍が待ち遠しい。
男がまたも下半身に貼りついた。今度はヘソから下だ。
あっ……。
思わず腰が揺らめいた。
男のねっとりした舌が、ソロソロとパンティの中心を掃く。しかし、厳密にいうと、そこは陰阜のふくらみの上で、決して女の中心である割れ目ではない。足首を縛られているという関係から太腿がきつく閉めつけられているので、このままの状態では秘裂に舌が届くということはない。その点だけは安心できる。舌は飽きることなく同じ箇所を這いつづけた。
杏里は薄目を開けて、そっと男を見た。黒い髪の毛だけが下腹部の上で静かに動いている。パラリと前に垂れた感じがとてもいい。
杏里は、自分自身の心の揺れに驚いた。相手がいかにも女を襲うにふさわしい粗暴な男だったら、杏里は心から憎悪していたに違いない。
変なめぐり合わせね……。
少し落ち着いた杏里は、心のなかで呟いた。しかし、そうした余裕めいたものは、次第に失われていった。女として明らかに感じる状態に追いこまれたからだ。
単調な舌の動きに反応するはずがないと思っていただけに、内心の狼狽ぶりは著しいものがあった。ヴィーナスの丘を舐められているだけなのに。しかも、薄いとはいえ、パンティという遮蔽物まである。それなのに体がもじもじしていた。
いけないと思うと、全身が緊張する。
杏里の体がピリリッと硬直するのを、男は見逃さなかった。感じさせてしまえば思うツボである。あわてることはない。忍は一時間後に訪問すると留守番電話に言ったが、実際は、男がすべてを果たすまで、外で待機する手はずである。
男は、忍とは別の大学の四年生である。大学対抗のテニス試合で知り合ったのだが、そのとき男は、忍と同伴で来ていた草野杏里にひと目惚れした。何度か橋渡しを頼んだにもかかわらず、その都度ていよく断られた。
それが数日前に忍から電話があり、少し荒っぽい方法だが二人の橋渡しをするといってきたのである。杏里を抱けるという言葉に勇気づけられて、男は危険を冒すことにした。
忍には忍なりの計算があった。対抗試合のあと大学の選手や応援の何人かが記念写真を撮った。忍はなにげなく、杏里の好みのタイプを聞いてみた。
「この人かしら?」
そのとき杏里は少しも迷うことなく、その男を指差した。忍にしてみれば、それが今になって役に立ったというわけである。
もし杏里が男のことを思いだしたとしても、すべてが終わった後ならば、彼女はメンツを重んじて、訴えたり騒いだりするようなことはないと読んだ。
忍はマンション近くの車のなかで待機していた。刻々と時間はすぎてゆく。あとは適当な時間に部屋の前に立ち、ドアを開けて声をかければいい。
どの程度進行したかしら?……
忍は、女には自信があると言った男の言葉が真実であることを心から願った。
杏里は完全なレズ愛好者ではない、というのが忍の見解だった。男が恐いだけなのだ。恐怖心さえ払拭してしまえば、自分よりもよっぽど男好きではないかとさえ思うときがある。忍の狙いはそこにあった。
自分に向けられていた目を、杏里好みの男のほうに向けさせる。
彼女を正しい方向に導くための荒療治なんだから、それも仕方がないわ……。
それが忍の大義名分だった。
忍は時計の針を睨みながら、ただひたすら待った。
その頃、男は杏里の激しく悶える姿を絶対の自信をもって眺めていた。
パンティは全体がぐしょぐしょに濡れそぼっていた。男は足首を縛っていた紐を解くとパンティを引きおろして、手早く脱がせてしまった。
「!?……剃ったんだな……可愛いよ」
男は杏里の股間に毛がないのに一瞬、驚いたようだが、ポツポツと短い毛があるのを確認して、忍との関係を納得した。
本能的に両脚をすぼめたものの、男の温かい手が内腿に入ってくると、だらしなく開いてしまった。
男の手は、決してせっかちにならなかった。それだけに、ふつふつと時間をかけて湧きあがった性感は強烈で、杏里はいつしか陰阜をせりだし、男の手の接触と摩擦を求めて、切なく喘ぐばかりだった。
男は杏里がまったく警戒心を解いたのを見きわめると、燃えるように熱い淫裂に初めて柔らかい舌を優しく押しつけた。
杏里の体の奥で一挙に溶けだした歓喜のしるしが男の舌を潤すには、大して時間はかからなかった。杏里の脳裏に、シリコン製の擬似ペニスが浮かんだ。それが欲しいと思ったが、すぐに曖昧に本物のペニスにすり変わった。本来なら恐ろしくてならないはずなのに、それが欲しくてならない。疼く股間の柔肉が求めていた。
そのとき突然、玄関でドアチャイムが鳴った。
やっと来てくれたわ!……
そう思っていいはずなのに、杏里はむしろ、ああ、来てしまった……という漠然とした気持ちを抱いた。
「杏里?……」
ドアが開いて、忍の声がした。
杏里は口を塞がれているので、何も答えられない。こんな姿を忍に見られたくない、と思った。男に屈している姿を大好きなおねえさまの眼にさらしたくなかった。
男はあわてずに杏里を抱きあげると、脱ぎ捨てた着衣をかかえて、クロゼットに隠れた。タイミングよく、忍が「どこにいるのよ」と言いながら部屋に入ってきた。
すべてがシナリオ通りだということを知らない杏里は、クロゼットのなかで不自由な格好を強いられながら、ただじっとしていた。呻いたり体を動かしたりすれば、外にいる忍が気づくに違いないのに、それをしなかった。ブリーフを突き破らんばかりに勃起した熱い剛直が背中にグイグイ押しつけられるのを、杏里は心地よく感じた。
「トイレにでもいるのかな」
忍はそんなことをひとりごちながら、部屋のなかを歩きまわった。しかし、神経はクロゼットに集中していた。そこが絶好の隠れ場所だから、玄関口で声をかけたら隠れるように教えたのは、他ならぬ忍自身だった。
忍は所在なさそうにハミングした。
クロゼットのなかで男はいきなりブリーフから硬化したペニスを取りだすと、ゆっくりと杏里の背後からインサートした。膣はすでにぐずぐずに濡れて、すっかり用意ができあがっていたから、すんなりと男のものを受け入れてしまった。
杏里は、擬似ペニスでは味わえない本物の柔軟さに、声を忍ばせてよがり狂った。状况が状况だけに、異常な昂りをみせて悶えた。
クロゼットの外では、忍が呑気にハミングしている。
早く帰って!……
杏里は心のなかで深く願った。
「しようがない子ね。私、帰ろうっと」
忍の声がした。杏里は正直なところ、ホッとした。
ドアの閉まる音がすると、男は体を繋げたままクロゼットの扉を開けた。
杏里は、奇妙な形で一つに繋がっている自分たちの姿を、大きな姿見のなかに見つけて、いたたまれないような恥ずかしさを覚えた。そして同時に、突きあげるような歓びも感じた。男の抽送で、杏里は初めて本物のペニスの素晴らしさを知った。
すべてが終わった後で、杏里は男から正体を打ち明けられたが、そのとき、「道理でどこかで見たと思ったわ」という、親しみのこもった言葉を吐いて、今度は自分から体を重ねていった。
第十章 愛らしき花蜜
大学が夏休みに入ると、杏里から忍への連絡はピタリと途絶えた。
忍は自分の希望通りに事態が運んだものと確信した。だが杏里との関係については、大樹に話しはしなかった。杏里が危険な手紙を大樹に出さなければ、それですむことである。
しかし、まだ忍にとって気がかりなことは残っていた。大樹の相手は誰か、ということである。
大樹は忍に、「相手とはきちんと話をつける」と約束してくれた。それでも、今や完全に大樹に対して恋愛感情を抱いてしまった忍は、大樹を夢中にさせた女が誰なのか、知らずにはいられなかった。夏期休暇に入って顔を合わせる機会が少なくなったのも、そう思いつめさせた理由の一つとなった。
「明日、帰省するわ」
それを理由にして大樹と会った忍は、しっかりと愛を確かめたかった。
だが大樹には、深刻な悩みがあるらしく、会っても心ここにあらずである。兄夫婦が、まもなく次の赴任地アフリカに出発する日が近づいているからだ。残された日はもう何日もない。家族の目を盗んで、毎日でも兄嫁を抱きたかった。いや、ほとんどそうしていた。
「夕方までしか時間はないんだ」
「あら、泊まっていけないの? 私は明日、故郷へ帰ってしまうのよ」
「三時間もあれば東京へ出てこられるんだ。いや、おれからノブの実家へ行ってもいい。温泉めぐりをするのもいいじゃないか」
大樹は、美登利とあと数日しか肌を合わせられないことに、いたたまれない焦りを感じていた。だから、志津江が関西のテレビ番組の美容コーナーにゲスト出演して明日まで帰らないのと、兄の克也が歓送会に出席するので深夜の帰宅になるのを幸いに、強引に美登利をシティホテルに誘いだす手はずを整えておいたのである。その時間が六時なので、どうしても忍のマンションを五時半頃には出たかった。
忍は不服そうに頬をふくらませたものの、大樹が休みを利用して故郷へ訪ねてくるというと、すっかり機嫌を直した。
大樹は、兄夫婦が日本を発ったなら、それこそ忍に夢中になって、美登利との思い出を過去のものにしようと思っていた。兄嫁に対する恋情をきっぱり捨てるには、それが最良の方法だという気がした。
忍にはすまないことをしている……。
心底からそう思っていたので、その日は特に優しかった。
浴室で大樹は、忍の体をボディソープで丁寧に洗った。忍はそれだけで感じるのか、大胆に大樹のペニスに手を伸ばし、一向に離そうとしなかった。
大樹は忍の気のすむように膨張したこわばりを委ねて、赤ん坊に対する母親のように、てのひらで繊細な忍の肌を撫でまわした。
「ユー・アー・マイン……」
いきなり英語が大樹の口から飛びだしてきた。陶酔気味にすべてをまかせていた忍には、何を言っているのかさっぱりわからない。
「え!?」
「君はおれのものだってことさ」
「ああ……」
納得したようにうなずいた忍は、自身の体にたっぷり塗りこめられているソープの泡をてのひらですくうと、肉棒に擦ってさやさやと摩擦した。
「おかえしはいいよ」
「だって、こうしたいんだもの」
「すぐに爆発しちまうぜ」
「いいわ。あなたの好きにして」
「回復しないうちに、帰る時間が来たらどうするの?」
「いやよ、そんなの……ちゃんとしてくれないと……」
「だったら、あんまり刺激しないでくれよ。ノブはうますぎるからね」
「あなただって、急に上手になったわ」
そう。どうして急に上手くなったのか、忍はその理由が知りたかった。何か秘密があるとしたら、杏里の手紙にあったように、身近な女から学んだに違いない。
ひょっとして、私以上にその人とは深いかかわりがあるのでは……。
大樹は近いうちにその女との関係を清算すると言ったが、果たしてすべて鵜呑みにしていいものかどうか。疑念が、夏空にひろがる積乱雲のようにムクムクと湧いた。
反面、大樹からはしみじみとした優しさを感じていた。その優しさを本物の愛と信じたい。
忍は大樹に抱かれたままで、全身をくまなく撫でられていた。それは、ボディソープをつけているにもかかわらず、洗うという感覚をはるかに超えた、愛撫といっていいものだった。
全身を男の手に委ねながらも、忍は握り締めたペニスを離さない。大樹の一物は、今も熱く脈打っていた。
心の繋がりを愛情の第一歩という人がいるが、忍にしてみれば錯覚ではないのかと思う。肉体がすべてとは言わないけれど、それが最初ではないだろうか。肉体の合意があってこそ、心が許せるのではないのか。
私は初め、彼を愛していたわけじゃなかった……。
にもかかわらず離れ難い愛が芽生えたのは、完全な肉体の結合をみてからである。
充分に忍を高めた大樹は、バスタブの湯を汲みあげると、泡を洗い流した。男の手で十二分に慈しみを受けた二十一歳の肌は、綺麗な桜色を呈して、さらなる愛撫を求めてひっそりと息づいていた。
大樹の右手の人差し指だけが、首筋から乳房、下腹の窪みに向かって,まるで文字を書くように、ゆっくりとくだっていった。忍は潤んだ目を宙に向けている。恥丘の上を指が這った。自然に両脚が開く。恥毛を滑った人差し指は、まるで吸いこまれるように谷間の肉裂に消えた。
そこには愛蜜がこんこんと湧く秘められた泉があった。
「あっ、あーん……そこ、いいっ」
明るい浴室のなかにもかかわらず、忍ははしたなく両脚の角度を大胆にひろげていった。大樹の人差し指に中指が加わって、熱っぽく疼く柔襞の奥に潜った。
いやらしくせりあがる陰阜を眺めているうちに、大樹は今までになく血が騒ぐのを覚えた。二本の指は息づく陰唇に囲まれて、完全に女の胎内に消えている。その陰唇の周囲に、淡い草むらが生え、ヘソのほうに向かって縦に長く伸びていた。
この黒いアクセサリーがなかったら……。
初めは単なる思いつきでしかなかったが、考えはまたたくまに一つの欲求として形を整えていった。それは美登利にも抱いていた独占欲の表われの変形ではなかったか。
美登利が兄嫁という立場でなかったなら、大樹は強要していただろう。兄、克也の存在がそれを阻止した。忍が本当に自分のものならば、彼女はそれを拒む理由はないはずだ。美登利は間もなく去っていく。孤独に耐えられないであろう大樹は、美登利を忘れるために、忍にのめりこんでゆくことは明白だった。
なんて自分勝手な男なんだと思いながらも、大樹は、いま自分がしたがっていることを忍に耳打ちした。
「ノブのここの毛、剃っていいかい?」
忍は虚を突かれたように、閉じていた目を開けた。
自分が杏里にしたことを、今度は自分が受身の立場でやられようとしている。剃毛されることにこだわりはなかった。むしろ、これで大樹だけの女になれるという安堵感さえ抱いた。
忍が小さくうなずくのを見た大樹は、もぐりこませていた二本の指をそっと抜こうとした。
そのとき忍が、待ってというように、手首を押さえた。忍の表情が歪んでいる。二本の指に圧迫感が加わった。
「あっ……締めたのか」
忍が恥ずかしそうに首を横に振った。
「でも、きつくなったぜ」
「あなたが変なこと言うから、急にイキそうになったのよ」
「毛を剃るってこと?」
「ええ……」
「抜くよ」
指には、ねばっこい蜜汁がたっぷり付着して、糸を引いていた。大樹はそれを乳首の周囲にゆっくりと塗りこめた。勃起した乳首がうれしそうに震える。たったそれだけの愛撫なのに、忍の感じ方はかなりのもののようだった。
大樹は忍をタイル張りの壁面に寄りかからせると、彼自身のために備えてある男性用のT字型剃刀を用意した。女性用と違って、いかにも硬質な感じのする刃がキラリと光った。
忍は、杏里の立場になった自分が、被虐的な歓びに浸っていることをはっきりと自覚した。柔肉が小刻みに震え、生温かい愛液が疼きと一緒に膣口へ押しだされてゆく。
大樹はまず自分の手にシェービングクリームを噴きつけ、それから用心深く恥毛の上に塗った。ぴたりと陰阜に貼りついた黒い翳りは、びっくりするくらい少ない。ふくらみの肉を分けた割れ目がはっきりと見える。
指先でその頂上を撫でると、恥毛に隠れていた肉芽に触れたらしく、忍が小さく叫んで五体を震わせた。
「暴れると傷ついちゃうぜ」
「だってェ……」
甘い震え声をもらしながら、忍はもがくように腰を揺さぶった。歪んだ秘口から、トロリとした秘液が次々と湧いて、内腿の裏に流れ落ちる。
「動かないでくれよ」
忍の全身に緊張感が走った。冷んやりとした感覚に忍は震えた。刃が走った部分だけが、やけに冷たく感じられる。
「ああ……」
忍は爽快感に包まれて、思わず呻いた。新たな媚液が湧くのが、はっきりとわかった。
「大丈夫かい」
「ええ……」
陰阜をことさら突きだすようにして、忍は朦朧と大樹を見た。燃えるような目と、下腹にピタリと貼りついた怒張が、忍の興奮をいっそう煽りたてた。たてつづけに濃厚な愛液が溢れた。
大樹は、忍の異常なまでの昂りに驚きを禁じ得なかった。驚きはすぐに歓びに変わった。
一条の剃り痕が生々しい。そこを指先で上から下になぞる。ツルリと滑る。逆に下から上になぞると、表面は真っ白に見えるのに、指先に強いざらつきが感じられる。
「は、早く剃ってェ」
剃刀の刃の行先を見つめながら、忍が重く沈んだ声を出した。赤く染まった体や、潤んだ目から察するに、忍が思った以上に性的興奮の渦中にあることは明白だった。
大樹は剃らなかった。下半身を湯で流すと、陰毛の右半分だけ剃られた恥丘が露出した。
「どうしたの?」
不審そうに見る忍に返事もせず、大樹はいきなり女体をタイルの上に押し倒した。
大樹の意を察したのか、忍がせっかちに両脚を開いた。
大樹の体内に荒々しい血が駆けめぐった。
「入れろよ!」
忍は下腹に貼りついた肉棒を剥ぎ取るようにして、膣口に導いた。そして剃り痕のついた恥丘を見つめながら思いっきり押しこんだ。肉棒がズルリとめりこむと、その分だけ恥丘が盛りあがるように膨らんだ。
「ノブ!……あああっ、ノブッ!」
大樹の腰づかいは、かつてない速さで進められた。だから、終局は実に呆気なく、突然に訪れた。
忍は膣のなかが急速にひろがるのを感じたとき、次に起こることを予測して、力いっぱい大樹の腰を引きつけた。
「ううっ……」
短い呻き声とともに、膣奥に熱い火花がはぜた。忍は第二、第三のほとばしりを受けても、イクまでには至らなかった。けれども不満はなかった。愛する男の荒い息が耳の奥に快く響いた。
忍は、大樹の異常な昂りがうれしかった。自分が与えた思いがけない発見に、忍の心も躍った。
聖母のような優しい忍の抱擁から身を起こした大樹は、幼な子のようにあどけなく笑うと、小さく萎えつつあるペニスを抜いた。白い濁り水が女の下口から流れでた。
「そのままにしていろよ」
大樹は再びてのひらにスプレーを噴きつけると、剃り残しの恥毛に撫でつけた。
忍は身動きひとつせずに、大樹の手もとを見つめた。剃刀が触れてから数分もしないうちに、ヴィーナスの丘は新雪の清らかなスロープに変貌した。
「綺麗になったよ。見てごらん」
大樹が洗い流すと、忍は自分の下腹部に視線を向けた。陶器のような白い肌に、忍は言い知れぬ感動を覚えた。
「あなたと私だけしか知らない秘密ね」
その言葉で、二人は共同体であることを大樹に伝えたかった。
「あら?……」
そのあとで、忍は小さく叫んだ。大樹の分身が見事に復活して、先端から早くも透明の露を分泌していた。
さっきの結合でオルガスムスを得るまでには至らなかった忍は、昂りを抑えきれずに腹這いになると、そそり立ったペニスを口に含んだ。めいっぱいひろがった口腔に、塩っぽい味がほんのりと漂った。
舌先でその味を確かめるように、鈴口をすくった。かすかに粘り気のある露が、舌の上に転がった。大樹の呻き声に気をよくした忍は、同じ行為を繰りかえしながら、ゆったりとフロアに垂れている袋を揉んだ。
目の前で下腹の薄い筋肉が、心地よさそうにピクピクすると、忍の柔肉も呼応するように蠢いた。
「ねえ、ベッドに行きましょうよ」
リラックスした気分で、思いきり楽しみたかった。
「それもいいけど、ここならどんなに汚れてもいいじゃないか。汗まみれのオマ×コも悪くないよ」
忍は震えた。戦慄のような震えだった。卑猥な言葉ではあったが、二人の愛を確かめるのに、これほどふさわしい言葉があるだろうか。
「その通りね……フフフ、上になってもいい?」
「好きにしたらいいさ」
「私、見ながらしたいの」
声が高くなっていた。
浴室のタイルの上に長々と寝そべった大樹の体を、忍ははにかみながらまたいだ。
「そのまま動かないで!」
大樹の刺すような視線が、パックリひろがって宙に浮いたままの割れ目に突き刺さるのを見てとった忍は、はしたなく媚液を噴きこぼした。それは、幼児が小水をほとばしらせるときの爽快感に通じるものがあった。
「感じてるんだね」
「だってェ……いやらしい目で見るんだもの」
「ノブも見たらいい。ヘアがないから、まるで学生が感じすぎて垂れ流しているみたいだ」
忍は言われるままに見た。奇妙な感じにとらわれた。確かに大樹の言ったように、おませな学生が性的興奮に駆られているかのような趣きがある。声こそあげなかったが、身心ともに突きあげられるようなショックが女体を走り抜けた。
白いふくらみと、そこに突き刺さらんとする肉棒のオブジェに、忍は目まいを起こしそうになった。子宮のあたりで熱いものが溶ける。それが男の剛毛の上にポタポタと落ちた。
大樹は肉棒を支え持つと、まるでレバーを操るように肉の裂け目を擦った。ペロリと剥けた陰唇が、今にもこわばりを呑みこみそうになる。
そのたびに、忍は腰を沈めそうになった。染みるような快感に耐えられそうもない。視覚から受ける興奮も並み大抵のものではない。自分の体の奥に秘められた淫らなものを、目の前に突きつけられたような気持ちである。
「とてもスケベな形をしているな」
「ああっ、言わないで」
端的な表現でズバリと指摘された忍は、その言葉にさえ鋭く反応して、女陰全体をいやらしく収縮させた。
「お願い。もういいでしょう。入れたいわ……入れさせて!」
大樹の返事を待っている余裕はなかった。そのままズルリと腰を沈めると、雁首の丸い部分が肉を割って膣奥にのめりこんだ。それは大きな鯉が餌をパクリと咥えるのに似ていた。
「ああっ、いいっ」
忍は胎内を穿つ亀頭の感触を確かめるように、二度三度と腰を振った。そのたびに膣口が変形して、肉棒を咥えた隙間からじとじとと淫水が滲みでる。
恥毛がすっかり剃り落とされているから、挿入された状態がはっきり見える。二人の興奮はぐんぐん上昇した。
大樹は、大きく飛びでているクリトリスを下から指先で擦った。
「ひいーっ!」
忍が全身を硬直させると、咥えられている亀頭のくびれた部分が、キューンと締めつけられた。
「おうっ……」
大樹も呻いて、さらに強く肉芽を押した。腰肉を痙攣させながら、忍がそのままズルズルッと沈んだ。肉棒の幹がすべて秘肉に呑みこまれると、二人の性器は寸分の隙もなく密着した。
剃られた陰阜に、大樹の剛毛が擦れる。忍がやるせなさそうに大腰をつかいはじめた。肉棒を軸にして次第に激しくグラインドするにつれ、奥では膣壁が摩擦されて熱を生じ、外ではクリトリスが恥骨に擦られて、そこからピリピリするような快感が湧く。
あまりに素晴らしい感覚に、忍は長く耐えることはできなかった。ぐしょぐしょに濡れた割れ目を狂おしげに押しつけて擦るうちに、最高の快楽の瞬間が刻々と近づいてきた。全身に燃えひろがった炎が、急速に下半身の一カ所に集中した。
「ああっ……あなたァ……」
忍が叫んだ。そこでようやく大樹が、下から力強く腰を繰りだした。女の胎内で巨大な雁首が子宮を突きあげた。
「あっ、あーっ!」
膣奥に硬い高まりの存在をしっかりとらえながら、忍は爆発しそうになる自分自身を感じた。もう待てない。待つ必要もなかった。
擦れ合う肉棒と女の谷間から、淫らな音がたてつづけに起こった。大樹の両手が大きく張った忍の腰をがっちりと掴む。
「ああっ、イクわっ……もう駄目。出して。私、イクッ……イッちゃう! あああっ!!」
高々と歓喜の声を放ちながら、忍が五体を震わせたとき、胎内に男の力強いほとばしりが奔流のように放たれた。
「そうよ。そうよ……あーっ、たまんない!」
二人の頂点がものの見事に一致した充足感にどっぷり浸りながら、忍は本当の幸せを感じるのだった。
約束の時間ぎりぎりに、大樹は兄嫁と待ち合わせたホテルに到着した。
家のなかで人目を盗んで抱くのも悪くないが、やはり二人だけのホテルのほうが、はるかに落ち着く。
最近、とみに美しさを増した美登利は、別れる日が近づくにつれて、優しさもまた増したように思えた。
大樹は兄嫁を愛しつづけた。そのすべてに美登利は応えた。それだけに、かえって大樹は、別れという間近に迫った現実が、つらく恨めしいものになった。
第十一章 麗わしき菊門
忍は自分の周辺から杏里の影が消えたことにホッとしたものの、今度はその不安がなくなった分、自分の気持ちの大半が大樹で占められる重苦しさを味わっていた。それは恋する者だけが知る苦しみであった。
大樹と一緒にいるときには感じない不安を、一人になるといやというほど感じた。
大樹にとっても忍の存在は、欠かせないものになりつつあったが、克也夫婦が同居している間は、美登利に気持ちが傾くのは当然のことであった。残り少ない日々を毎日顔を合わせる喜びと、刻々と別れが近づく哀しみにおののきながら、昼間、大樹は梅子の目を盗んでは美登利を追い求めた。
美登利は、以前のように決して拒んだりはしなかった。むしろ嬉々として、大樹の行為を受け入れるようなところがあった。
それは年長者としての美登利の気配りの表われであった。アフリカに赴任する夫に従って日本を離れてしまえば、また何年かは姑や義弟と接する機会はないだろう。その間に美登利は子供を産む計画をたてている。
日本への再度の帰国が決まった時点で、本格的な子作りに励むつもりで、今度日本の土を踏むときには何カ月かの身重になっているはずである。
その間に、日本では大樹も大学を卒業して社会人となり、もしかすれば結婚しているかもしれない。二人の生活環境は大きく変わっているに違いない。美登利はそこまでちゃんと計算していた。だからあと残された日々を、無難に乗りきることだけを考えていた。
夫に対する、やむにやまれぬ裏切りに終止符を打つ日は近い。ただひとつ、美登利を困惑させたのは、夫よりも大樹に、自分の肌が馴染んでしまっていることだった。
志津江や克也に気づかれないように、食事の席でも大樹が物欲しげに熱い視線を向けてくることがある。それを意識すると、美登利の体は条件反射を起こしたように火照り、股間がじっとりと潤いを増す。一番気になるのは、克也に抱かれている際、大樹の姿が浮かんでしまうことだった。それに、廊下で大樹が部屋のなかの様子をうかがっているような気がしてならない。
「ねえ、もうこれっきりで海外の長期出張はおしまいなんでしょうね」
いよいよ明後日に成田をたつという日、久しぶりに早く帰った夕食の席で、志津江は美登利にワインをすすめながら聞いた。
「ええ、克也さんからはそう聞いてますけど。今までの例でも、若いときの長期出張や赴任は二回と決まっているんですって」
「私もそろそろ孫の顔が見たいもの」
「あらあら、お義母様はおばあちゃんになるのを、あんなにいやがっていたじゃありませんか」
「そりゃ、おばあちゃんなんて呼ばせたりはしないわ」
大樹は和やかな二人の会話を聞きながら、美登利とすごす日は今夜だけしかないことにこだわっていた。成田出発は明後日であるが、フライトが早いので、明日の午後には空港近くのホテルにチェックインすることになっている。
「克也は今夜も午前様なのかしら?」
志津江が気の毒そうに美登利を見た。
「そうなるはずです。歓送会で徹底的に飲まされそうだと言ってましたから」
大樹が咄嗟に口を挟んだ。
「美登利さん、買物につき合って欲しいんだ」
「…………」
美登利にはすぐに、その言葉の意味がわかったようだった。しかし返事をせずに志津江を見つめた。
「どうしてこんな時間に?」
志津江が怪訝そうな声を出した。
「兄貴にプレゼントさ。まだ七時前だぜ。明るいじゃないか」
確かに窓の外は完全に暗くなってはいなかった。
「お母さん、留守番頼むよ」
大樹は、志津江も同行しそうな気配を察して機先を制した。
「わかったわ。じゃあ行ってらっしゃい」
大樹に甘い志津江は、すぐに承諾した。
外に出るなり、美登利は小声で「強引な人ね」と言ったものの、非難の響きはこめられていなかった。むしろ甘えた感じさえあった。
商店街で新柄のネクタイを買い求めた大樹は、タクシーをとめると、押しこむように美登利を乗せて、道玄坂裏のホテルに直行した。
「これが本当に、最後の最後ね」
美登利の言葉に永遠の別れを覚悟した大樹は、何も言わずにコバルトブルーのワンピースを脱がせた。同色のブラジャーとパンティを取り去る間も、美登利はただ、されるがままになっていた。
「シャワーを……」
股間を片手で隠しながら、美登利は浴室へ行こうとした。大樹がそれを許さなかった。大樹はベッドに美登利を横たえると、その前で素早く裸になった。
美登利は自然に手を伸ばして、まだ縮んだままのペニスを指先で優しくいじった。指のなかで分身はすぐに膨らんで、雄々しく立ちあがった。
「どうして欲しいの?」
美登利に聞かれても大樹は無言のまま、兄嫁の胸のあたりにまたがった。大きく脈打つ肉茎が、美登利の顎の上で宙を睨んだ。
美登利は舌先で唇のまわりを湿らせると、右手でこわばりを握り、唇を寄せた。
大樹は卑猥な構図を見おろした。上をあおぎ見た美登利の視線とぶつかった。
「うちの人にもこんなことはしたことがないのよ」
「嘘だ!」
「嘘じゃないわ。それだけに、真面目なあの人を裏切りたくないの。あなたもお兄さんを好きでしょう。私もあの人を愛してるわ。だから、こんなことは……」
「もう言わないでくれよ!」
美登利の舌先が鈴口から滲みでた透明の露をすくった。
大樹は腰を震わせて呻いた。ゆっくり押しこむと、柔らかい舌がくびれた周囲を掃き、裏側の肉の結び目を這った。
塩っぽい味と男の体臭がミックスされて、美登利の体に流れこんだ。美登利は舌だけでなく指先で表皮をソフトに摩擦した。その結果がもたらすものを、美登利は百も承知していた。
ペニスが口のなかで一段と逞しく膨らんだ。義弟の呻き声と表情を確かめながら、柔軟な表皮を根元まで引っ張った。鈴口がめいっぱいにひろがった瞬間、美登利の口腔は、ほとばしる男の汁で満たされた。
美登利は呑んだ。激しい奔流に圧倒されながらも、夢中で喉を鳴らして吸引した。男の溶液が出つくすまでかなりの時間がかかったが、美登利はいとわなかった。
大樹の分泌物は量が多かった。口のなかでゆっくり萎えてゆく肉茎を丹念に舌で拭き清めてから、ようやく吐きだした。
さすがに苦しい。美登利はぜいぜいと荒い呼吸をして、大樹を見あげた。
「今日の美登利さん、すごく優しいな」
大樹は自分のわがままと欲望の生贄になった兄嫁の心の内を察し、心から申しわけない気持ちでいっぱいになった。それは、あと一日で別れなければならないという、感傷的な精神状態からくる一時的なものではなかった。美登利に対するすまないという気持ちは、同じように兄の克也に対しても向けられた。そして当然、こっそりと裏切りつづけてきた母の志津江に対しても。
大樹は美登利の横に添い寝するように、ぴたりとくっついた。
「お義姉さん……」
いつも「お義姉さん」と呼ぶときには、その裏に残酷さや横柄さがこめられていた。だが今の呼びかけにこれまでとは違った響きを聞きとって、美登利は大樹のほうに向き直った。
大樹は素直な気持ちで、自分のこれまでの一方的な非常識の行動を詫びた。
「何も言わないで。今のあなたの気持ちは、夫に対する私の気持ちでもあるの。罪深いのは私も同じよ」
二人はどちらからともなく抱擁し合い、唇を合わせた。お互いの和んだ気分がそうさせたのだろう。親愛の情のこもったキスは、長い間つづいた。キスを交わしている最中に、美登利の手が自然に大樹の分身をとらえた。
「あっ……」
五本の指が、まるで慈しむかのように優しい刺激を与えると、大樹はその心地よさに身を委ねながら、兄嫁の乳房に手を這わせた。
「これで本当のお別れね」
指先が頼りないほど柔かい表皮を撫でまわすうちに、血管が少しずつ浮きあがる気配がした。美登利はゆっくりと角度をもたげてくる肉棒の感触を五本の指で確かめた。ひとたび血液が流れこんだ海綿体は、容易なことで小さくならない。
大樹が兄嫁の手を遮った。
「どうしたの?」
「今度はぼくがするよ」
「でも……」
大樹の手がスーッと股間に伸びる。美登利は反射的に両脚を開いてしまった。果肉はたっぷりと潤い、これから先の激しい行為を期待して蠢動していた。
「お義姉さん、濡れてるよ」
「ええ……」
美登利は素直だった。
「それが怖いの。主人よりもあなたの指に馴染んでしまうことが怖いのよ。うちの人に抱かれるとき、私、とんでもないことに気づいて、びっくりすることがあるの」
美登利はそこで言葉を切った。
「とんでもないこと?」
「ええ……主人に抱かれながら、あなたに抱かれているような錯覚に陥るの。あなたの名前を叫びそうになったこともあるわ」
大樹は言うべき言葉を失った。すべての原因は自分にある……。
大樹はそのままゆっくりずりさがった。
「本当にこれが最後ね」
頭の上で、泣いているような美登利の声が聞こえた。
大樹は柔らかな兄嫁の草むらを見つめた。
いよいよ訣別のときがきたんだ……。
大樹は恥毛を指先で撫でまわした。繊毛の下に、深く切れこんだ一条の溝が濡れている。そこに若者の指は難なく滑りこんだ。
美登利の閉じた瞼の裏で、パッと光がはじけた。美登利は、これまでよりもずっと、自分の感覚が鋭敏になっているのを知った。感受性の強い小さな肉の頂きが、大樹の中指の腹に押さえられて、反発するように膨張した。
美登利は喘いだ。すると股間に顔を突っこむようにして、大樹が湿った舌を押しつけた。
「あああ! あーっ……」
美登利の体は淫蕩な液体で満たされようとしていた。
舌は熱心に動きまわり、女が感じるすべての箇所を行きつ戻りつした。美登利の体の筋肉は、ぐっと迫ってくる快感に呼応して、ピリピリと震えたかと思うと、次には力を失い、全身が気だるさに支配されてしまう。
美登利のいつにない激しい反応は、若い大樹を狂喜させた。夢中であることには変わりないが、より慎重に舌を駆使した。茂みに覆われた丘のふくらみを這い、鼠蹊部の窪みを探り、愛の肉芽を掃いた。そして女が一番望む泉の奥をすくった。
美登利の五体は狂おしく燃えあがり、多量の淫水が肉溝に溢れた。
「あああっ、お願い……」
短い言葉は、女の本能が言わしめた真実の叫びにほかならない。
大樹は音をたてて女の生命水を啜った。それがまた新たな快楽の波を引き起こして、美登利に襲いかかった。
大樹の顔は唾液と愛蜜で油でも塗りたくったように光り、性臭を漂わせていた。それは美登利だけが持つ悩ましい体臭であった。
大樹は枕を手にすると、豊かな美登利のヒップの下に置いた。
「ああ……」
美登利が恥ずかしいという言葉を口に出さないうちに、大樹の顔が中心に貼りついた。機先を制せられた美登利は、またしても舌の洗礼を受けて息を荒げた。
兄嫁の従順さは、すぐに大樹に伝わった。
今夜は本当の意味で、美登利さんと一体になれる……。
こみあげてくる歓びに突きあげられながら、大樹はまじまじと兄嫁の股間を眺めた。茂みに彩られた女肉のふくらみから、真後ろの尾てい骨まで、何もかもが完全に露出し、大樹の目を充分に楽しませた。
秘肉の奥から押しだされるように溢れた分泌物が、少し黒ずんだ感じがする会陰部に流れだした。まるで水飴のように濃い溶液の速度は、きわめて遅々としている。むず痒いのか、美登利がもぞもぞと腰を動かした。するとその動きにつれて、肉の裂け目が、ミミズが這うようにくねくねと歪む。
大樹は舐めたいのを堪えて、愛液の流れをじっと見つめた。それは火口から噴きでた溶岩が、山裾に向かってゆっくり流れていくように、徐々に真後ろの小さな肉のすぼまりをめざした。
可憐な菊の花の蕾を間近に見た大樹は、最後の別れにふさわしい兄嫁からのプレゼントがそこに息づいていることに、今ようやく気づいて、心のなかで快哉を叫んだ。
小さな皺の集団に愛液が到達すると、アヌスはまるで別個の生き物のように、小刻みに収縮した。
大樹は再び女のシークレット・ゾーンに顔を埋めた。アヌスに触れるようなことはしなかった。しかし、大樹の神経の大半は、まぎれもなく美登利のアヌスに集中していた。
口に出すべきか、あるいはさりげなく不意を襲うべきか……。
なにしろ初めてのことなので、大樹の心は揺れ動いた。ともかくそこの反応をうかがうことにした。
興奮のためにパックリ割れた秘裂の縁どりを舐め、美登利の快感を十二分に引きだしてから、舌先を先遣隊として会陰部に送りこんだ。大胆に舌を使うのではなく、溢れだした溶液をチロチロと掃くように舐めるやり方である。
初めのひと掃きのときだけ、ピクリと美尻の筋肉に緊張感が走った。けれどもあとは舌にまかせっきりである。兄嫁が安心して快感に浸っているらしいことは、大樹にも理解できた。
次第に舌の圧力を強めながら、アヌスに近い粘膜にまで這わせていった。いやがっている様子はない。いや、むしろ歓迎するように、腰が大きく揺れだした。それに秘唇から溢れでる蜜の量も多くなったようだ。濃度も匂いも、心なしかきつくなった気さえする。
美登利さんが感じてる!……
大樹は女体についての新しい発見に小躍りしたい気持ちだった。だから舌の動きは大胆になった。しかし用心するにこしたことはない。
舌だけでなく、指も動員した。指戯はもっぱら前門に集中させた。クリトリスをつまむ。陰唇の端をくすぐる。鼠蹊部を掃く。女陰全体を揉む。あらゆる方法で、美登利のすべての快感を引きだそうと努力した。
「あーっ……いいわ……それ、いいの」
さっきよりもはるかに強烈な快感に見舞われて、美登利は妖しく女体を軋ませた。一度火のついた体は、あとは燃えつきるまで官能の炎にあぶられるしかない。
「あなた……ああっ、たまんないの……して! それ、もっとして」
若者の舌は、とうとうアヌスの皺をとらえた。用心に用心を重ねて、大樹は空気をそよがせる程度の接触しか試みなかったので、前門から湧く快感に夢中になっていた美登利は、曖昧な気持ちのまま新しい行為を見すごしてしまった。
ところが、アヌスから生ずる異質な快感に、美登利は次第に戸惑いと混乱を覚えるようになった。
お尻が感じるなんて……。
それは新しいオルガスムスを迎えるプロセスの一つになりつつあった。夫が決して触れようとしない部分を大樹の舌で刺激されている……美登利は、初めて大樹を愛しいと思った。前と後ろから、官能のすさまじい嵐が吹き荒れようとしていた。
膣口とアヌスを8の字に結ぶ括約筋が、ピクピク震えた。それだけにとどまらず、ひとりでにぐぐっと締めつけを開始する。しかし、肝心な膣は空き家のままなのだ。美登利の切なさ、やるせなさは、言葉に言い表わせないほど苛酷なものであった。
「ねえ……ああ、なんとかしてェ……変になりそうなの……ああっ、駄目ェ……いやっ」
狂ったように身悶えながら、いつしか美登利は、自分の手で乳房を揉みしだいていた。
大樹は乱れに乱れる兄嫁の姿を、新鮮な驚きをもって見つめた。
とうとう膣口に二本の指が侵入した。ともかく硬いものが入ったことで、美登利はホッと一息ついた。
だがそれも束の間、指が無惨なまでに胎内をかきまわすと、それによって生ずる摩擦感に美登利は新たな泣き声をあげた。しかも、時を同じくして、肛門に貼りついた舌は皺々の粘膜を舐めるだけではなく、強引にそこを穿って奥まで侵入しようとする。二重三重の肉の歓びに溺れて、美登利はとうとうあられもなく叫びたてた。
「入れて! もう駄目。して! 早くなかに入れて!……あなたの太いのを、私のなかに……お願い、たまんないの。して! いっぱいして!!」
大樹は、美登利の体が二つに折れるのではないかと思うほど、腰を軸にして曲げてしまった。本来の男を受け入れる前門は水平になり、後ろのアヌスが男を迎え入れるのにちょうどいい角度で現われた。
今度は三本の指をまとめて、膣に突き刺した。
二本よりははるかに充実感があったので、一瞬、美登利は本物のペニスが挿入されたのだと錯覚した。股間を恥ずかしげもなく突きあげて、喜悦の声を放った。
激しく抜き差しするうちに、美登利は我れを忘れた。
大樹は狙いすましたように、ひくつくアヌスに硬い一物を当てがった。
官能の大波にさらわれながらも、美登利は疼く肛肉にその熱さ、硬さを感じて、大樹の意図を察した。
お尻を犯される……。
しかし、恐怖心、忌まわしさはほとんどなかった。むしろ、雑誌で読んだことのある肛門性交の悦びを初めて味わえるのだという期待でいっぱいだった。美登利はそこまで淫らに高まっていた。
大樹との関係はこれで最後だという事実が、美登利の心を軽くし、奔放にさせたのだ。その一方で、やはり別れの感傷が、美登利を限りなく優しい気持ちにさせていた。
ここ一カ月の禁断の情交が次々と脳裏に浮かびあがってきた。旅館のダンス・フロアで大樹にこわばりを押しつけられ、射精させてしまったこと。犯された夜の屈辱。あんなにいやだったのに、次第に大樹の肌に馴染んでいった……。その果てが、アヌスセックスなのだ。
入れていいのよ、大樹さん……もう抵抗しないわ。ここは義姉さんからの最後のプレゼント。克也さんにも許したことのないお尻の処女を、大樹さんにあげるわ……。
美登利の内心の声に応じるように、大樹が押し入ってきた。美登利は迎え入れるように腰を突きだした。
「ひいーっ!」
覚悟はしていたものの、すさまじい激痛が肛門から火花のように散った。しかし、一度は跳ねかえされそうになった肉茎も、先端が粘膜を割ると、充分なひろがりをみせたアヌスにスッポリとおさまってしまった。
狭小なホールの締めつけは予想以上に強力で、潜りこんだペニスは未知の快感に震えて、すぐにでも爆発しそうであった。だが、大樹は美登利の受ける苦痛を思いやり、前門の指だけの抜き差しに終始した。
美登利はそんな大樹の優しさを察すると、激痛を堪えながら、積極的に腰を揺さぶった。肛門の苦痛と膣の快感がないまぜになり、被虐の官能が燃えあがった。少しずつ肛痛は簿れていった。
兄嫁がアヌス性交で感じたのを知った大樹は膣から指を抜いた。美登利は何も言わずに腰を振りたてている。
大樹は新しいセックスを知った歓びの反面、これが美登利からの別離のはなむけかと思うと、いつまでもいつまでも精を放つことなく、次第に熱っぽくなる兄嫁の肌を抱き締めていた。
二人がホテルを出るのを、佐伯忍は道端に停めた車のなかから、まばたきもせずに見つめていた。忍は大樹の言葉を信用しないわけではなかったが、やはり杏里が調べた女の存在は大いに気になった。だから実家に帰ると言っておきながら、ここ数日、ずっと大樹の行動を見張っていたのである。
家を出た大樹は女連れだった。家族について多少の知識のある忍は、その女が大樹の兄嫁らしいことはすぐにわかった。二人が一緒にホテルに消えるに及んで、頭のなかが混乱した。
辛抱強く外で張りこんでいた忍の前に、また二人が現われた。二人はタクシーを拾うと大樹の家の前でおり、普通の顔をして家のなかに消えてしまった。
不倫、それも兄嫁との不倫と知った忍は逆上した。大樹は自分だけのものという強い思いに駆られた忍は、警告を発するという意味合いのもとに、その夜、文面を練り、手紙を書いた。
翌日、忍は百瀬家の近所の商店で兄嫁の名前を聞きだした。
その頃、大樹は母親と一緒に、克也夫婦を成田のホテルに送りとどける車のなかにいた。
数日後、兄嫁との思い出に浸っていた大樹は、梅子から郵便物の束を受け取った。そのなかに、金釘流の文字で書かれた美登利あての手紙があることに気づいた。
差出人の名は書かれていない。そのまま兄の任地まで送ろうかと思ったが、兄嫁のことならなんでも知りたい大樹は、手紙を開封してしまった。
文面を読んだ大樹は、忍の仕業だろうとおおよそ見当をつけたが、手紙を引き裂いただけであった。
果たして忍に誓ったように、これから彼女ひとりを愛していけるかどうか自信はなかった。それでも、忍だけを愛することが、美登利と別れた苦しみから逃れる最良の方法であることだけは間違いがないような気がした。
(完)
兄嫁は二十八歳
2011/11/1 電子版発行
著 者 高竜也
発 行 株式会社フランス書院
東京都千代田区飯田橋3-3-1
本データには購買者を特定できる個別のシリアル番号が刻印されています。複製・頒布・転売等、著作権を侵害する行為は法律で禁じられており、違反した場合は刑事罰および民事罰を招来することになります。
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兄嫁は二十八歳 第九章 恐ろしき姦計 ~ 第十一章 麗わしき菊門 (5/5)
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