便所虫の歌 第5部 (5/5)
前の話
「うっ、痛い、酷い」
泣いていても、笑われるだけ。
こんなにわたしが苦しんでいるというのに、みんなはなんとも思っていないのです。説明さえしてくれません。
いつからリンチが許されるようになったのでしょう。警察はなにをしているのでしょう。
エレベーターがようやく来て、連れ込まれます。ぎっちりと人が乗り込み、見知らぬ男たちまでも、わたしの体を触りにきます。
「ああ、や、やめて。お願いです。やめて……」
この人たち、ゾンビなのかもしれません。気が狂ってるのかもしれません。なにか恐ろしい伝染病かなにかによって?
無遠慮にお尻の割れ目に手を差し込んでくる人がいます。逃げたくても逃げられません。鼻をつままれ、思わず口を開けたところに、ツバを吐きかけられました。
「飲めよ」
顎をおさえられます。吐き出したいのに、息もできず、もがいているうちに、飲んでしまいました。
体が臭いツバで汚染される……。彼らの病気が伝染するのではないでしょうか。こんな人たちのようにはなりたくない……。
息をするために口を開くと、また「ぺっ」と吐きかけられました。
なんで、こんなことをされないといけないのでしょう。必死で逃げようとしますが、直接肌を触られ、つかまれ、いじられて、ふりほどくことができません。
「おれたちの痰壺になれ」
膝を折られ、口を開いたまま低い姿勢にさせられると、つぎつぎとツバを口の中に吐きかけられて、それをすべて飲まされたのです。
「はああ!」
乳首に爪を立てられ、ちぎられそうになります。
鼻から指を離し、ついでに頬を思い切り叩かれました。
「もう叩かないで、お願い」
脳は痺れています。自分というものが、いま、どこかに飛び散ったような気がしました。
「どうしたんだ。もっと便所虫らしく、楽しそうにすればいいだろう。それとも、そんな自分が嫌になったのか?」
自分が嫌になる? 意味がわかりません。
なぜ、こんな暴力を受けなければならないのでしょう。ここは先進国。法治国家。差別のない社会……。
「たすけて……」
お尻の手は、肛門を探り当て、指をねじ込んできました。
排泄する器官です。指を入れるなんて。
「やめてください!」
叫んでも誰も助けません。エレベーターの壁に押しつけられました。暴れようとしたのに、何人もが踏み込んできて、足を持ち上げ、宙に浮かされます。
「いやああああ」
頭が天井にぶつかります。抱え上げられています。
「ほら、おまえの好きなカンチョーだぜ!」
「いたいっ!」
指でしょうか。思い切り下から突き上げられ、穴の奥まで突き通ったのです。
「でっかいケツ穴だな。根元まで簡単に入っちゃったぜ」
そのまま引き抜かず、ぐりぐりとえぐられています。
人間の大切な排泄器官。不潔ですし、そこを壊されたら日常生活ができません。
ただでさえ、いつもお尻は痛いのです。意味のわからない痛みに加え、おそらく事務仕事が多く、長時間座っているせいだと思います。
ときどき、腫れたようになることもあります。薬局で痔の薬を買ってつけたりもしますが、なかなか楽になりません。
その患部をえぐられているのです。
「痛いぃぃぃ、酷い、たすけて。手をどけてください」
エレベーターの壁に押しつけられてお尻をえぐられるなんて……。
「そのまま手首まで入れちゃえば?」と女子。
「よーし」と男は、引き抜くどころか、さらにぐさっと手を押し込んできました。
「ひー」
そんなことができるわけがないのです。お尻に手が入るわけがありません。むりやり押し込まれたら、裂けてしまうでしょう。
「だめだめ……」
「なにがダメなんだ。もうすっかり両手が入っているんだぜ」
「ええええ!」
がっちりとお尻に突き刺さっている男の腕。
気が遠くなってしまいます。なぜわたしがこんな辱めを受けるのでしょう。なにをしたというのでしょう。誰かと間違えているのではないでしょうか。
B級のホラー映画のように、救いのないエンディングなのではないでしょうか。
「見ろよ、お汁があふれてきたぞ」
「まあ、いやらしい。マリカ汁ね」
「見ないで!」
女子たちも無遠慮に、拡げられた性器を眺めているのです。腕がお尻に突っ込まれて、そのせいで性器は押し出されるようにパックリと開き、中から透明な液体がだらりとあふれました。
「いやあああ」
エレベーターがようやく到着し、担がれるようにして、お尻に男の手を突っ込まれたまま廊下を進みます。廊下の先には総合受付があり、お客様や受付嬢がいるロビーになっています。
そこに、こんな恥ずかしいかっこうで担がれていくなんて……。
泣きながら、なんとか担ぐ人たちから逃れたいのですが、お尻に深く刺さった手も抜けず、体が自由になりません。
「だめー、たすけてー」
泣き声は惨めです。それに声も弱々しくなっています。
高いところから受付を見下ろすカタチになりますが、お客様たちが驚いています。受付嬢は嫌な顔をしつつも、平然と冷たい視線です。
誰も助けてくれない……。
「おろすぞ」
みんなが床にわたしを押しつけました。腹ばいで、お尻に腕が入り込んでいます。
「この便所女。まだ、とぼけてるんですよ」
「こんなことをされても平気なくせして」
平気なわけがありません。
「わざとじゃないか?」
「そうだ、やって欲しくて、おれたちを怒らせて楽しんでるんだろう」
「ほら、どうなんだ」
チクチクとするカーペット。そこは誰もが土足で歩く場所です。素肌で触れるだけでも嫌なのに。
足を持ち上げる人たち。暴れようとしても、彼らの力はすごく、どういうわけか思ったように足に力の入らないわたしは、逆らえません。
とうとう、手だけで体を支えるほど持ち上げられました。手押し車と呼ばれる運動のように。
「あぐぅあぐぅ」
苦しくて言葉が出ません。ぐいぐいとお尻を突かれて、前に進むしかないのです。腕の力もかなり弱くなっています。全体的に体力がかなり落ちていて、自分の体ではないみたい。
「ずっと便所にされていたんだから、鍛え直さないとな」
「そうよ。こんなことぐらいで、文句言っているようじゃ、OLは務まらないわ。辞めてもらうしかないわね」
みんなでわたしを辞めさせようというのです。
「オッパイをぶらぶらさせやがって」と、ある女性職員が、尖った靴先で乳房を横から蹴りました。
「うぎっ」
力が抜けて、崩れました。
「なにやってるのよ」
肩と顔がカーペットについています。その顔に靴がのってきました。
「さっさと歩きなさいよ」
腕に力が入らないのです。職場のいじめどころか、これはリンチです。こんなことをして許されるはずはありません。
「うがあああ」
お尻に深く入り込んだ腕。その腕で腰を引っ張りあげられました。
「やめて! 裂ける!」
必死で這いずる、わたしは虫ケラなのでしょうか。
厳しい拷問
見慣れたオフィスなのに、わたしは居場所を奪われ、服も奪われ、すべての権利を剥奪されようとしていました。
わたしの席に置かれた古いパソコン。暗い画面が映し出されています。
『便所虫の歌』というタイトル。
虫。なんだか心に響くのです。やっぱり虫なんだ。
「知っているだろ?」
「え?」
「いい加減、とぼけるなよ」
裸のまま、事務用のイスに縛り付けられました。足をめいっぱいM字で開くようにして。
こんな恥ずかしいことをされる理由がわかりません。
「見たくない……」
それはエロサイト。恥ずべき行為をひと目に晒すことで快感を得ている人たちが、変態的な行為をこれみよがしに繰り広げています。
そこに出てくる女は醜く、恥ずかしげもなく肉体を男たちに与えています。信じられないような虐待を受けているのに、うれしそうな表情。
ありえません。こんな映像を見せられて、わたしを侮辱する。まさにセクハラそのものです。
職員みんなが、ネットの中でいたぶられ、もだえ、血を流し、喜悦している女へと、わたしを追い込もうとしている……。
「見ろよ。これが本当のおまえなんだぞ」
違う。絶対に違う。マリカなんて名前じゃない。
わたしはただのOL。まじめなだけが取り柄。辛抱強く、寡黙で、仕事に集中する。だから勤務時間が終われば気が抜けたようになり、週末はぐっすり眠って過ごす。クタクタになっているから……。
なんの罪もないわたしにこんなことをすれば、全員、罪に問われるでしょう。
「お願いです。いまからでも遅くありません。この縄を解いて、服を返してください。ここを辞めろというのなら、辞めさせていただきます。みなさんを訴えたりはしませんから」
そう叫んでいましたが、わたしの言葉にみんなが大笑いしています。
狂った世の中……。
逃げなければ、こちらまでおかしくなる。感染してしまう。
「どれだけとぼければ気が済むのかしら」
「まったくだ。おまえがこのマリカなんだぞ」
画面が変わると、掲示板の中には小柄な女になっていました。百歩譲って、さきほどまでは、たしかにスタイルや顔、髪の毛などわたしに似ていなくもありません。画面が小さいから見間違えたとしても不思議ではないかもしれません。
ですが、今度の画像はまったくの別人。似ても似つかないのです。
「こ、この人もわたしだって言うんですか」
「違うさ。おまえはこの地下室で、足をコンクリートで固められて便器にされていたんだからな」
「そんな……」
「そのせいで頭がおかしくなっちゃったんだわ」
「どっちにしろ、病院に連れて行くか?」
まじめな議論になるかと思えば、そこでもみんなが笑うのです。
「こんな変態、治るわけないわ」
「まったくよね、あれだけ普段、まじめなフリをしていたなんてね」
「二重人格なんじゃないか?」
「あるかも。だって、あんなこと、フツーの女はしないもの」
目の前のわたしの机に、男たちがつぎつぎと見たことのない道具を並べていきます。
「十五種類ぐらいのバイブがあるぞ。これは浣腸器。こっちは長い針の入ったケース。こっちは注射針の入ったケース。ナイフ。洗濯挟み。消毒液。紐。クリップ。コンドームもあるし」
「どこにあったの?」
「こいつのロッカーの中さ」
「そんなわけありません!」
濡れ衣どころか、どんどん、わたしはマリカに仕立てあげられていく。こんなものをロッカーに入れるわけがない。見覚えもありません。
「体はウソをつかないわ。さっきだって」
「そうよ。お尻で男の腕を飲み込んだのよ」
「自分の体がフツーじゃないってわかれば、少しは思い出すんじゃない?」
「なにを言ってるんですか!」とわたしは叫んでいました。「ここはオフィス。職場じゃないですか。こんなことをして、なんになるっていうんです」
上司たちがやってきました。滅多に顔を出さない上層部までいます。
「強情なんだな」
突然、上司が髪をつかみました。
「ひっ」
「おまえ、自分のことぐらい、ちゃんと覚えておけよ」
ぐいぐいと引っ張ると、イスごと動くのですが、とうとうイスが机の角に引っかかり、そのまま斜めになっていきます。
「た、たすけて」
「うるさい」
イスごと床に倒れました。頭を打ち付けました。上司の手にわたしの髪が一束、残っています。
「体がそうとう弱ってるんだよ、おまえは。見ろ。簡単に抜けてしまったぞ」
「いっそのこと、丸坊主にしちゃったら?」と女子。
「まあ、まて」と上層部が止めてくれます。
仰向けに倒れ、足を開いたままで、みんなから見下ろされています。
「マリカは拷問好きなんだろう? 大好きなことをしてやればいい。思い出すはずだからな」
知らないものは知らないのです。記憶が混乱しているのは事実です。曖昧で自分でも怖いのです。だけど、それとこれとはまったく違います。ネットの中にいる女のようなことをわたしが自ら進んでやるはずがありません。
「用意できましたよ」と声がした。
「よし。連れて行け」
イスごと起こされ、背中を誰かが押しながらオフィスの中を移動させられました。隣の小さな会議室は、昼にOLたちがお弁当を食べる場所です。外部の人は入れません。
そこにペンキも塗られていない材木で作られた机が用意されていました。ソファなどはどこかに移されたようです。机は急ごしらえの日曜大工のようで、適当に組み立てられたものでしょう。
イスのままその机に押しつけられました。男たちは、わたしの乳房を物のようにつかむと、机の上にポンと置きました。ざらざらとした材木の表面。
「押さえてろ」
真新しい銀色に光る釘が机の上にぶちまけられます。
「おまえって、こういうことをすると感じるんだろ」
「なにするの! やめてください!」
狭い会議室に主な職員がぎっちりと入っています。これから目の前で行われることに嫌悪と期待を抱いているのです。
黒いハンマーがゴトンと机の上に置かれました。
「楽しみだな、マリカ」
上司は革の手袋をしています。自分はケガをしたくないのです。板のササクレでさえも肌に触れたくないのでしょう。
乳首を指でつままれました。それをぎゅーっと引っ張ります。
「くうぅぅ、やめて、やめて、やめて」
「見ろ。おまえのオッパイだぞ。どうしてこんなに傷だらけなんだ。ここにも痣があるし、ポツポツと残っている跡は、いったいどうすればできるんだ」
「知りません!」
恥ずかしさで真っ赤になりました。
体の傷や痣がなぜできるのかはずっと不思議でした。でもわからないのです。こういう奇病なのかもしれないと思っていました。こんな恥ずかしい体を、他人に見られたり、触られたりするなんて……。
「いつまでとぼけるんだ」と職員が怒鳴りました。「そうよ、ふざけないでよ」と悲鳴のような声が続きます。わたしの言葉は誰も聞いてくれないのです。
背後から職員たちに押されるように机に押しつけられ、身動きできなくなりました。
上司が釘を手にして左の乳首に、その鋭い先端をのせました。
「こういうことはしたくはないが、こちらにも責任があるからね」
まさか。そんなことを。
ガツンとハンマーを振り下ろしました。
「ぎゃっ!」
一瞬で釘が乳首を貫いて材木に突き刺さっていきました。敏感な部分を押し潰し、引き裂いていったのです。トントンとさらに打ち込んで、長い釘の半分ほどが机に埋没しました。
歪んだ笑みを浮かべた上司。
「こっちもだ」
「お願いです。なにかの間違いです。こんなことを……」
ガンガンと右の乳首にも釘が打ち込まれていきます。ショックのあまり、ただ震えているだけです。
「よーし、これでおまえはもう動けないぞ。動けば乳首がちぎれるぞ」
信じられない光景。なにかの標本のように、引き伸ばされて打ち付けられた乳房。たしかに、その肌は傷や痣、ポツリポツリと虫に食われたような跡のある醜いものです。
「これは、病気なんです。お願いです、もうやめてください」
誰も聞いていません。上司が釘を手にしているからです。
「なんの病気なんだよ」
「淫乱ってことよね?」
職員たちがヤジを飛ばしています。わたしは皮膚のことを言っただけなのに。薬をつけたり、いろいろしたのですが、きれいに消えるどころか、いつの間にか新しい傷や跡がついている不思議な肌。それも、乳房だけではないのです。
ほぼ全身。鬱血、痣、擦り傷、切り傷、打ち身……。いつからか、気にしてもしょうがないので、薬をつけたり湿布はしますが、詳しくチェックさえしなくなっていました。
あまりにも恥ずかしく、そして恐ろしいので病院にも行けません。
でもこんな体質だからといって、みんなから暴力をふるわれる理由にはならないはずです。
「まだ足りないな。もう少し補強しておくか」
「酷い、酷すぎます、許してください!」
乳輪の部分にさらに二本ずつ、釘が打ち込まれていきます。
ガクガクと震えながらその激痛に、あふれる涙を飲み込んで嗚咽するしかありません。
左右に三本の釘。血は出ていません。でも、わたしの中のなにかが吹っ飛んでしまったようです。
「どうだ。気に入ったか? 言葉もないか?」
口を開いて、あえぐだけです。
男たちが、体の縄を解いていきます。腕は机を抱えるように縛り直されます。
イスが外されました。中腰で立っています。その足首に角材を縛り付けて、足を閉じることができなくなりました。その角材を机の脚に縛り付けました。
「どうだ、濡れてきたか」
股間をまさぐられます。
「まだですね」
手で拡げられたお尻の穴。そして性器。この姿勢なら、いつでも犯されてしまう。
「もう言葉はいらないね」
青いボールのついたベルト。ボールを口に押し込まれます。そしてベルトを耳の後ろで締められると、言葉を発することができなくなりました。
乱れた髪を女の指が引っ張り、後ろにまとめあげていき、頭にもベルトを取り付けました。タテにヨコに。額も側頭も締め付けられます。
「拷問といっても、おまえから聞きたいことなんてないんだ。お上品ぶってる正体を自分自身でも思い知るんだな」
赤いフック。なにをするのかと思えば、それを鼻に入れるのです。
「ブタ鼻がよく似合うよな」
頭のベルトとフックについているベルトが一体になり、強烈に引っ張られました。
「ぐぐううう」
言葉を失い、自由を失い、ただ凌辱されるだけの存在になっていく……。
「もうそろそろ自覚してきたか?」
「まだ濡れませんね」
「いい加減に認めろよ。おまえがマリカなんだろ?」
「徹底的にいたぶらないと、思い出さないのよ」
上司は女子職員に長く細い針を配っています。
「君たちもやりたいだろ」
逃げたいけど逃げられません。彼女たちはなにかに取り憑かれたような表情で、針を乳房に向けてきます。
銀色に輝く凶器。
「やってごらん、楽しいぞ」
ブツッと皮膚を破り、針が乳房に入り込みます。
「ぐぐううう」
もだえ苦しみますが、この机の脚のところには大きなコンクリートブロックがのっていて、びくともしません。日曜大工のような適当な作りに見えましたが、重要な部分は金具とボルトでがっちり止められていて、きしみはしても、バラバラにはなりません。
目でどれだけ懇願しても、彼女たちは無視します。
一本、また一本。銀色の針を突き立てていきます。それが仕事でもあるかのように。
そこは女性なら誰でもわかる、大切な肉体の一部。女性らしさの象徴。なのに、彼女たちは目をギラギラさせて突き刺すのです。
針の先端は机にまで達しています。
そのとき、背中を切り裂くような痛み。
「ががああああ」
振り返ることができませんが、男たちが背中に棒のようなものを叩き付けたのです。細く、鋭くしなやかなものらしく、ヒュンと甲高い音を立ててから背中を打ち据えます。
巨大なネコの爪で引っかかれているような衝撃。
「どうだ、ピアノ線の鞭の味は?」
上層部の男たちが、鞭で打ち据えているのです。
「ぐううぐうう」
乳房はあっという間に銀色の針だらけにされ、背中もズタズタです。
「どうだ」
膣と肛門を触られます。
「少しは濡れていますよ」
「ホントか」
何人かの指。
「たしかにそうだな。この程度ではまだダメなんだ」
「もっとやれってことですか」
「もちろんだ。彼女が掲示板に出ているマリカと同一人物であることは間違いない。しかし、確認をしなければ」
と言うと、股ぐらを靴で蹴り上げられました。
「がっ!」
飛び上がるほどの衝撃。だけど机に縛り付けられ、打ち付けられています。
「ははは。おもしろいね」
バチン、バチンと男たちが股間を蹴り上げます。靴のつま先が大切な部分に食い込んできます。
何発も何発も。
女たちはロウソクに火をつけると、針山になっている乳房に近づけてきました。
「定番だものね。欲しかったでしょ?」
欲しいわけがありません。ボタボタと熱い蝋が、傷ついた乳房を焼いていきます。
いきっぱなし
「ぐうぅぅぅ(たすけてぇぇぇ)」
吐き出すように懇願しても、仕事に熱中するように、職員のみんなはわたしに対する拷問をエスカレートさせていきます。
「どうだ、スースーするんじゃないのか?」
性器に入れられた銀色の器具。それが膣を裂けるほど拡げています。肛門には一メートルほどもあるシリコン製のペニスを模したオモチャが入れられます。彼らは全部、体の中へ埋め込むつもりなのです。
「まだ入るだろう」
「一本じゃ足りないんじゃないか」
ぐりぐりと腸の中へ器具が入り込んできます。
「この程度じゃね」
と、女子職員が言い出し、乳房の針を何本か引き抜くと、蝋涙を引き剥がし、赤くなっている皮膚を剥き出しにしました。
「これを突っ込んでやろうよ」と女の人たちが、大小の木ねじを机にバラ撒きました。
「お情けよ」とそこにスプレーの消毒液を吹き付けます。
電動ドリルを回してみせます。
「オッパイをもっときれいにしてあげるわ」
同じ女性なのに、よくそんな残酷なことができるものです。
「あああ」
言葉になりません。
「このあたりから順番にやってみましょうよ」
釘で打ち抜かれた乳首、乳輪のところに、細く小さな木ねじをあてました。
「楽しいでしょう?」
一瞬でした。ギュンとドリルがうなると、もう木ねじは乳首の付け根を貫いて机に食い込んでいました。
「むぐあああ」
「わたしにもやらせて!」
女子たちは、乳房を机にびったりと打ち付けるように、木ねじを打ち込んでいきます。何十本も。
まるで、できそこないの靴のように、机にびっしりと貼りつけられた乳房。強烈な痛みに、おしっこを漏らしていたと思います。
ですが、彼らはそれを激痛によるものだとは思わないのです。
「マリカは感じているぞ」
「こんなことをされるのが大好きなのよ」
板に血が染み込んでいきます。
「もう彼女のオッパイ、元に戻らないわね」
木ねじを彼女たちはキレイに打ち込んだわけではなく、失敗も何度もしています。そのせいで、何カ所も皮膚はちぎれ飛び、肉は削がれています。
「飲み込んだぞ」
お尻の中に一メートルもの長いオモチャが入れられたのです。
「引きずり出してみろ」
「ぐうぃぃぃぃぃ」
腸が引きずり出される……。
暴れても机が多少、きしむ程度です。あまり動くと乳房がちぎれてしまいそうです。
「どうだ、感じるか?」
ずるずると出ていくオモチャ。こすり上げられ、めくりあげられていくお尻。そこから得られる苦痛が、体を痺れさせています。
「あっ、あっ」
得も言われぬ快感が、背筋で爆発し、脳髄に飛び込んでいきました。
これはいったい、なんなのでしょう。
そんなはずはないのです。これだけの暴力を受けていて、快楽などありえません。
それなのに。
あの脳の中でスパークする光はなに? まるで天国の入り口がそこにあるかのように。
絢爛豪華な光の明滅。スノードームの中のように飛び散った光の粒子が、脳の中を鮮やかに真っ白にしていくのです。
「こんなものも使えませんか」
「なんだ、それ」
「模型用の電源ですよ」
箱形の機械にダイヤルがついていて、赤い鰐口クリップのついたコードが伸びています。
そのクリップを木ねじの頭に取り付けました。
「いきますよ! 離れて」
ダイヤルをゆっくり回していくと、ジワッとなにかが体に注がれるような不気味な感触がありました。それはやがて筋肉を硬直させ、体を痺れさせ、細胞を沸騰させていくような激痛になっていくのです。
スノードームが乱暴に揺すられ、赤やオレンジの光が混ざってきます。ゾッとするような青い光も。
「けっこう痺れるんじゃないですか?」
「見ろ。髪の毛が逆立っているぞ」
全身の血が噴き上がるような強烈な電流。
粉雪は血で染まり、脳内は真っ赤です。
「がああああああ」
叫び続けることもできなくなりました。口の中のボールをくいしばるしかないのです。
電流が止まります。
「ひゅー、ひゅー」
やっと息ができました。痺れています。目が飛び出てしまうような感じです。
「マリカ。どうなんだよ、え?」
「ぐううう(違う。わたしはちがいます)」
そんな異常な女ではないのです。ごく普通のOL。働いて、眠って。
本当にそれだけの生活。
職場と部屋。毎日、行ったり来たり。
「そろそろ本性を現すぞ」
電流の装置に手がかかっています。今度はいっきに電流が突き刺さってきました。
「ふひぃぃぃぃ(やめてええええ)」
またしても言葉はそこで途切れ、ひたすら耐えます。
「いぎぎぎっ(死んじゃう)」
全身をきしませながら。
「はー、はー、はー」
電流がふいに止まると、痺れた体というのに、男たちが肛門の器具を再び腸内に押し戻しているのを感じました。
「ふうう(やめてぇぇぇ)」
「感じてるくせに。いい加減、認めなさいよ。変態のマリカ」
首を左右に振ります。
「休みの日はなにをしていたのか、言いなさいよ!」
またしても電流が……。
真っ赤だった頭の中が、再び白くなっていきます。氷河の古い氷の層のように、青ざめた白。
こんな苦痛を何度も食らうなら、嘘をついてでも認めてしまいたい。言葉はいりません。うなずけばいいのです。
ですが、この拷問はあまりにも酷い。マリカと認めるまでやらされて、マリカと認めたら、わたしは拷問好きの変態女になるわけですから、やっぱりいま以上の苦痛が続くのではないでしょうか。
どちらにせよ地獄。
「マリカはね。この『便所虫の歌』という掲示板によれば、金曜日の夜から街に現れる。掲示板で申し込んできた人と待ち合わせて、どんなことでもする。日曜日の深夜。月曜の早朝までだ」
上司が裁判長のような顔をしています。
「今日は金曜日じゃないか。夜になれば、おまえはどうせマリカになるんだ」
やっぱり顔を左右に振ってしまいます。汗、涎や涙が飛び散ります。塩をふられたナメクジのように、このまま干からびて死んでしまうかもしれません。
いやです。死にたくはないです。でも、もう終わりにしたい。
「いま認めてしまったら、そのほうが楽しいんじゃないのか?」
男たちがお尻の器具を引き抜いていきます。
「ううううううう」
「どうだ。気持ちいいんだろう。認めてしまえ」
苦痛。そして耐えられないほどの激痛。それでもなにか、特別なものがあります。そんなもの知る必要はなくて、むしろ知ってはいけないのです。人間として生きていくには、知らなくてもいいことなのです。
「しぶといな」
「この女、もうマリカになってるんじゃないの? わたしたちに責めさせて、楽しんでいるんじゃないの?」
女子たちが不快感をあらわにしています。
違います! どうか信じてください。しゃべらせてほしい。
「見て! この床。見せてあげたいわよ」
床? 床がなんだというのでしょう。
「あんたが何度も潮吹きするものだから、びちゃびちゃになってるのよ」
それは激痛のあまりおしっこを漏らしたのでは?
「いまも、ダラッダラに出まくりだわ。こんなの見たことないわよ」
嘘だ。わたしがそんな人間だなんて。
「ああっ、ああああああっ」
膣を大きく拡げてる金属のクスコ。そこに男たちがハンドマッサージャーをあててきたのです。
ガガガッと金属にぶつかり、道路工事のような振動となって、下半身を震えさせます。
「交互にやってやろう」
電流。マッサージ機。電流、マッサージ機。その間に、お尻の器具が出し入れされて……。
「見てよ、真っ赤になってきたわ、あの肌」
「ホントだわ。感じてるのよ」
違う。そんなんじゃない。これはなにかの間違い。激痛。苦痛。激痛、苦痛……。
「あぎゅええええええ!」
なにかが噴き上げていく……。
時間が止まり、脳内は空っぽになりました。
なにもないところを漂っています。こんなに肉体はがっちりとくくりつけられているのに、わたしはいま異次元を飛行中なのです。
どれぐらい飛んでいたのでしょう。
顎をつかまれて、揺さぶられました。上司の厳しい顔が間近にあります。
「わかったか。自分のことが」
いまだにわかってはいません。
「いま、失神していたんだよ。あまりの快楽のせいで」
そんなはずがないと思いながらも、まだその余韻が体を震わせています。
「白目剥いていたから、慌てて外したんだけど」
口に入っていたボールは外されています。ベタベタになって、歯形がついて、血もついて、ボロボロの乳房の間に転がっています。
「どうなのよ。あなた、誰なのよ!」
女性が怒鳴りました。
みんなが見ています。
なんて当たり前のことを聞くのでしょう。いつからここに呼ばれたのでしょう。脂ぎった男と女。その吊り上がった目に、ゾクゾクしてしまいます。
「わたしは、マリカ……」
そう呟いてみると、なぜか、しっくり来ました。本当の名前はなんだったのでしょう。思い出せません。響きが水滴のように、艶やかなのです。
「マリカ……」
その言葉は懐かしく、口にするだけで気分が高揚して、自分の中に隠されていたスイッチがつぎつぎとオンになっていくのです。
マリカ、マリカ、マリカ……。
熱い。それでいて冷たい。
「ああっ、もっと、もっと……。マリカを自由にしてください」
見知らぬ彼らは、狭い会議室で険しい表情を見せています。
「よーし。じゃあ、おまえがホンモノのマリカであるかどうか、確認していこうじゃないか。覚悟はいいか」
「はい。お願いします」
お尻から長大なディルドが引き抜かれました。かわりに、無骨で巨大なフックを見せつけられました。
「吊してやろう」
お尻にそれが入り込んでいきます。
フックにはしっかりとしたロープがつながっています。わたしの背中を通って、女子や若手の職員たちが、そのロープをわたしの正面で受け取りました。
「引っ張ってみろ」
彼らがそれを引きました。
「ぐえっ!」
お尻が裂ける……。フックが食い込み、そのままお尻が持ち上がっていきます。ですが、わたしは机に縛り付けられ、乳房は釘と木ねじで打ち付けられています。
机には簡単には動かないように重石がつけられているのです。
「もっと引っ張ってみろ!」
「うぎぃぃぃぃ」
お尻が持ち上がっていくと、重石を支点として机ごと斜めになっていきました。
お尻の穴は裂けてしまっているのではないでしょうか。
「すごいぞ、こっちから見てみろ。あのケツの穴のでかさ」
「さすがダブルフィストができるだけのことはありますね」
「このまま持ち上げたら、あそこから裂けてしまうだろうか?」
「さあ、どうでしょう」
上司や幹部たちは、何度も突き刺してヌルヌルになっている一メートルのディルドを、フックであんぐりと口を開いている肛門にねじ込みはじめました。
「すげえ、入るぜ」
いったん、引っ張りが中止されました。
彼らは机を解体しはじめました。別の器具が運ばれてきます。倉庫で使っている手動式のリフトです。キャスターがついており、爪は二メートル、つまり天井いっぱいまで上がります。
男たちがワイシャツになって、活動をはじめました。
机はボルトとナットを外すとバラバラになっていきました。ただ、乳房が張り付いてる天板だけが残されました。
そこに余った木ねじが取り付けられ、ロープでわたしの首の後ろを通して、駅弁売りのように吊り下げるかっこうになりました。
手は後ろ手に縛りあげられました。
そして乳房の根元にもロープが通されてギュッと締め付けられると、そのロープとお尻のフックのロープが、リフトの爪の部分に通されていきました。
リフトのハンドルをくるくると回していくと、そのロープがぴーんとなっていき、わたしの体が引き上げられていきます。
「ぎひぃぃぃぃ、苦しぃぃ」
乳房とお尻だけで吊り下げられたのです。
ボロボロに傷ついた乳房は、重い天板をぶら下げています。ちぎれそうです。お尻からは尻尾のようにディルドが垂れ下がっているでしょう。
「どうだ。ステキだろう。誰か写真を撮ってやれ。掲示板にのせるんだ。マリカが復活したとね。ホンモノのマリカだ」
わたしを囲む人たちは、増えたり減ったりしています。
吊り下げられたわたしを、彼らは電流や鞭でいたぶります。
乳房の打ち付けられた板を、ハンマーでガンガン叩く人もいます。
足は棒がつけられて閉じることができなのですが、彼らはその棒をリフトの下部にロープで結んだので、体が引き伸ばされるような苦しみです。
お尻や背中は鞭で腫れ上がり、太ももを蹴られ、電流を通され、マッサージ機を膣の中に押し込まれます。クスコで開かれた中に突っ込んでいき、ガムテープで落ちないように止められ、しばらく放置されました。
見知らぬ職場に呼ばれたようです。自分でここに来た記憶がありません。でも、金曜の夜は呼ばれたらどこへでも行き、命じられるままに過ごすのです。
記憶など意味のないことなのです。
いまの苦痛と、いまの快楽だけ。感じていることだけがすべて。
もしこのまま死ぬのなら、マリカとして死ぬのなら、それでいいのです。その遺体はどこかに捨てられてしまうことでしょう。ゴミとして。
一瞬、どこかのビルの地下の光景が浮かびました。瓦礫の中に埋められるのかもしれません。しょせんは便所虫。便所に埋められるのが相応ではないでしょうか。そんな適当な場所が、きっとこの世にはあるはずです。
生き埋めでもかまいません。死ぬ直前まで、恥ずかしいまでに狂おしい快楽にもだえていたいのです。
まだ夜ははじまったばかり。それなのに、わたしの周囲にいる人たちはどんどん減っていきました。
男たちの手で床に降ろされました。
明らかに彼らとは違うタイプの男が立っていました。見覚えのあるような、ないような。
屈強そうな体つき。岩のような表情。作業着のような服。異質な人です。
「そういうことなんですか」とみんながしきりにうなずいています。
どんな話がされたのかはわかりません。
「よかったな、マリカ」
がっちりとした骨格の男は、革の手袋をしています。どこといって特徴のない人。背格好。だけど懐かしく、親しみを感じます。
彼は乳房の木ねじを外していきました。乳房が血だらけになっていきます。もう、わたしのオッパイは壊れてしまったようです。
「いとおしいよ」と男は言い、タオルで血を拭ってくれました。かろうじて紫色の乳房は自分の一部として保たれているようです。
手のいましめはそのままで、お尻のフックとオモチャを引き抜いてくれました。どちらも血がついていました。マッサージ機を外すときに、ビュッと透明な液体を噴き上げました。
「はうぅっ」
のけぞってしまいました。
「いきっぱなしだな」
男が笑っています。つられて微笑んでいました。
別の人の予約時間になったのでしょう。
クスコが引き抜かれていきました。
床は汗と血と、体から噴き出した大量の液体でべとべとです。
「おれのこと、わかるか?」
「いえ。すみません。ごめんなさい」
「いいんだ。連れていってやろう」
「お願いします」
生まれながらの便所虫
週末のことをはっきり覚えています。
そしていま、新たな月曜日がはじまったことも。
「気をつけるんだよ、マリカ」
男はメガネをかけていました。セーターにジャケット。彼も仕事に行くはずですが、わたしよりは遅いのです。
玄関まで送ってくれました。
「行ってきます」
男に告げました。ごく自然なことです。
「やっと自分を取り戻したようだね」
「ありがとう」
「新しい職場が気に入るといいんだけど」
「がんばるわ」
「もう以前には戻れないんだよ」
「わかっています。いっぱい迷惑をかけて、いっぱい心配させて、ごめんなさい」
男は笑顔で見送ってくれました。
わたしは、コートを着て、ブーツを履いています。それだけ。
朝の混雑した電車には、マリカを待っている人たちがいます。
レディースカーには乗りません。ぎちぎちの車輛。連結近くの手すりにもたれていると、彼らがわたしの周りに集まってきます。
席に座っている男たちも、もちろん、その人たちなのです。そこは四人掛けのシート。
「戻ってきてくれて、うれしいよ」
耳元でそう囁かれました。
わたしは両手で吊革につかまっています。彼らがコートをはだけます。
「うおっ、すげえ」
写真を撮られます。金曜日の虐待で受けた乳房の傷は生々しく、醜いままです。絆創膏がいくつか貼られています。
お腹には、彼が「便所虫 マリカ」とマジックで書いてくれました。その下に「REBORN」と付け足してくれました。
「リボーン。再生か」
「かっこいいね、マリカ」
小陰唇には左右、二つの釣り針が突き通り、鉛の錘が合計四個、下がっています。クリトリスを今朝、吸引して肥大化して、タコ糸で縛りあげています。
指を膣に入れられます。
「うううん」と声が出ると、後ろの人が口を手で塞ぎました。その人はお尻を撫でながら下半身を押しつけてきました。
コートはまくりあげられ、ほとんど着ていないのと同じです。
お尻の中にも指が入ってきました。指でしょうか。ペニスでしょうか。
吊革を握る指が白くなります。
アイドルの空々しい笑顔を見せるキャッシングの広告。ハーハーと息をかけられながら、後ろから犯されています。
電車はなかなか停車せず、二人ぐらいに犯され、その後、座席の人のものをしゃぶって、自らその人の上に座って上下に腰を動かし中出ししてもらいました。
あふれた精液で足がべとべとです。
やっと目的の駅に到着。大半の人がそこで降りるので、押し出されるようにして精液臭をふりまきながら、改札を出ました。
冷たい風。
スクランブル交差点を渡り、ケヤキの街路樹の坂道を上がっていきます。大きなビルもあれば、昭和の雰囲気のする古い建物も残っています。
坂の途中を曲がり、細い路地に入ったところに四階建ての取り壊し寸前のビルがありました。
今日からそこがマリカの勤務先です。
一階はラーメン店が入っていて、豚骨の強い臭いが漂っています。
横の階段から二階へ行くと、社名の掲げられた看板があります。
「おはようございます」
中へ入ると、机が十基ほども並んだオフィス。以前の団体に比べればスペースはとても狭く、全員出社すればギチギチになりそうです。
「おお、マリカ。さっそく着替えて、掃除をしてくれ」
上司はまだ若い男。色が黒くて怖い印象です。
「はい」
着替えといってもロッカールームはありません。小さな給湯室に、衣装が置いてありました。
「はああ」
それを見ただけで切なくなります。
きっちりとした制服。ブラウス、上着、スカート。ぴったりのサイズです。下着はありませんが、それを着ると長く団体職員をやっていた頃を思い出します。
わたしは、かつて、まともなOLだったことがあるのでしょうか? そう思っていただけで、生まれながらの便所虫だったようにも記憶しています。
もっともわたしにとって、記憶はまったく意味をなしません。疑わしいものですし、いまのわたしにとっては、邪魔なだけです。
机を拭いてまわります。三階にもオフィスがあり、会議室が半分占めています。そこも掃除しました。四階はセミナールームです。営業としてここでセミナーを開催しているようです。どうせ、むりやり連れて来られたお客さんに、いらないものを強引に売りつけるのでしょう。
古いビルなのでエレベーターはありません。四階から一階まで一直線の階段です。
よくない会社なのか、まともな会社なのか、わたしにはわかりません。
二階に戻ると、社員たちが出勤していました。
朝礼で「今日からお世話になります」と挨拶をしました。
そしてパソコンを与えられ、表計算ソフトでの集計作業とチェックをするように言われました。それぐらい簡単なので、チャカチャカとやることができます。やっぱりOLだったのかもしれません。だったらいいな、と思います。もう二度と、ホンモノのOLにはなれませんが。
「またか!」
部長(あの真っ黒に日焼けした若い男が部長だと朝礼で知りました)が怒鳴ります。
「すみません」
若い男性社員が怒られています。
「マリカ! 来い!」
「はい」
いよいよ出番です。
「こいつが、昨日の客を逃したんだ。十五万円の売り上げをみすみす逃したんだ」
「まことにすみません」とわたしが謝るのです。
「謝ってすむか!」
「お気のすむようになさってください」
「ケツをこっちに向けろ」
「はい」
お尻を突き出します。
ぺっぺっと手にツバをつけて、ゴミ箱に刺さっている木刀を部長は手にしました。
「いいか!」
「お願いします」
バシッ。
「あうっ」
思わず怒られていた社員にしがみつきます。
「うわあ」と彼は逃げようとします。
「逃げるな! マリカがおまえのかわりに罰を受けているんだぞ!」
彼は逃げられなくなりました。
「数えろ! 十五万だから十五発だ!」
「いち」
わたしは涙を浮かべて数えます。バシン、バシンと部長にお尻を打ち込まれ、十五数えました。
「いいぞ。戻れ」
痛むお尻を抱えて、席に戻りました。
普通のOLじゃない――。
周囲の社員たちがわたしを見る目が変わりました。それまでは、どんな人なのかと興味を持っていたのかもしれませんが、いまやその目は便所虫を見る目です。蔑み、バカにしています。
ああ、その冷たい視線。マリカは大好きなのです。
「マリカ!」
部長が怒鳴ります。
「はい」
入力ミスをした女子社員のかわりに罰を受けるのです。
「おまえがやるんだ」と、かわいそうに震えている女子社員が、命じられるままに、平手で頬を殴ってくれました。
パーンといい音がしました。
一発で済んで、助かりました。
昼休みになっても、誰もわたしには近寄りません。
部長がコンビニで弁当を買ってきて、「マリカ、来い」と呼ばれ、上の会議室に連れ込まれました。
「ケツを見せろ」
「はい」
弁当を食べる彼の前で、スカートを落としました。剥き出しのお尻。そこに十五発の木刀の痕がついているでしょう。
「もっと近づけよ」
彼の横にお尻を近づけました。
「汚いケツだな」
「あっ」
割り箸がお尻の穴に刺さりました。釣り針の糸を引っ張り、あそこを開きました。
「感じるのか、便所虫」
「はい」
悲しいことに朝からずっと発情しっぱなしです。
「午後はもっと楽しいことをしてやろう」
「ありがとうございます」
「スカートは履くな。そのまま戻れ」
「えっ」
お尻から割り箸をはやしたまま、オフィスに戻りました。
「きゃっ」とか「おおお」といった声が起こります。
あとから部長がやってきました。
「朝礼では言わなかったが、マリカは便所虫として雇ったんだ」
昼から戻って来た社員たちがざわつきます。
「どういう意味かはわかるよな。マリカ、言ってみろ」
ごくりとツバを飲み込みました。
「便所虫とは、契約いただいたみなさまに、捌け口として肉体を提供することです。どのようなことをされても文句は言いません」
今度はみなさんがごくりとツバを飲む番でした。
「そういうわけだから。勤務中は勝手にマリカを使わないように。オレが許可したときだけ使っていい。ただし、こいつは便所虫なんだからな。これ以上は言わせるなよ」
そして、わたしは席に戻ることは許されず、下半身裸のまま、部長の横に立たされていました。
社員たちは部長に報告をあげたり、書類を渡しにくるたびに、こちらを見ています。
午前中のような厳しい表情ではなく、「なんだ、便所虫か」といった目で見られます。
そのたびにゾクゾクしてしまうのです。
汚物のように見られることが、わたしの望みだったのです。OLなんて、とんでもありません。
「ケツを向けろ」
「はい」
割り箸を乱暴に動かされます。
「あっ」
「声を出すな」
「ひぃぃぃ」
小さく悲鳴を上げます。二本の割り箸が深く肛門に突き刺さり、えぐるように動かされると、腸の粘膜がさらに表に出てしまうのです。
「まったく、だらしがないケツ穴だな」
気がすんだのでしょうか。
「こっちを向け。ブラウスをはだけてみろ」
自分でボタンを外し、乳房をポロリと剥き出しにします。
「うわっ」とそれを見た社員が驚きます。
赤、黒、青……。まだらになって腫れている乳房。それはいつか、受けた厳しい時間の結果です。それがいつ、どこで、誰によって受けたのかは、まったく覚えていません。
部長は乳房をつかみ、もみ上げます。
「もったいなよな。これだけのきれいな顔、かっこがよかったはずのオッパイ。すっかり台無しだな」
唇をひきしめて、乱暴に耐えます。
「憎たらしい」
声を出すな、と命じられたので、声は出さないようにしているだけです。
「どうだ。これが欲しいか」
書類からダブルクリップを外すと、それを乳首につけました。
「ぐぅぅぅ」
とても痛い。
「泣いてるのか?」
涙が一筋流れます。
左右の乳首にクリップがつけられました。
「おい、これからオレに報告があるやつは、マリカにクリップをつけていいぞ」
社員がつぎつぎと部長に報告しに来ます。
「よし、わかった」
部長が受け取ると、社員はわたしにクリップをつけていいのです。
社員が一巡するまでに、オッパイはクリップだらけにされました。ただでさえ痛んでいるのに……。
クリップは鼻、唇、耳にもつけられました。
さらに社員たちは大した用もないのに、おもしろがって報告に来てはクリップをつけていくのです。
お腹、脇腹、腕。
痛くて痛くて、体が震えています。
女子社員は、遠慮なく釣り糸を引っ張り、伸びた陰唇にもクリップをつけます。
「気持ちわるい」と言いながら。
何十というクリップがつけられました。
「このぐらいでいいだろう」
部長が仕事の手を止めて、クリップに紐を通していきます。すべてのクリップに紐を通して、引っ張ります。
「あがっ」
洗濯挟みではないのです。ダブルクリップの力はとんでもなく強く、皮膚が引きちぎれそうです。
「おもしろいぞ。マリカ、動くなよ」
いや、いや、いや。そんなことムリです。
「いくぞ。それ!」
「ぎゃひぃぃぃぃ」
しゃがみ込みました。大半のクリップが取れましたが、まだ残っています。耳や鼻がもがれてしまいそうに痛みます。乳房からは血が滲んでいます。
「動いたな。罰だ。オレは持っているだけだから、おまえが自分で下がって、外してみろ」
歯をくいしばります。
自分で後ろに下がっていくのです。陰唇は恐ろしいほど伸びています。
「ぎぃぃぃ」
バチバチとクリップが外れました。
「がはっ」
気が遠くなって壁にもたれてへたり込んでしまいました。
「ふふふふ。どうだ。おもしろいか。しゃべっていいんだぞ」
「あ、ありがとうございます」
「みんなの前で言えよ」
なんとか立ち上がりました。わたしはマリカ。便所虫。
「痛いことをいっぱいしていただき、ありがとうございました」
「どうだ。こんな便所女でよければ、溜まっているやつは使ってもいいぞ。ただし、仕事が終わったやつだけだ。マリカの勤務時間は五時までだからな。なにがあってもそこで終わりだ。毎日来るんだから、がっつくんじゃないぞ」
会議室に連れていかれ、さっそく部長のものをいただくことになりました。
「どうだ、マリカ。うれしいか?」
「はい」
「便所虫のくせに」
そう。わたしは便所虫だから。これからもずっとこのまま。呼んでいただいたところにうかがうのです。体が使えなくなるまで……。
「なんだ、おまえ燃えてるのか」
釣り針を外されただけで、カーッと体が熱くなってきて、もう止まらないのです。
「燃えてます。マリカ、熱い……」
「いいぞ。毎日、かわいがってやるよ」
ふふふ。あの男が許す間だけなのに。だけど、せめて今週ぐらいは、ここでいたぶられてもいいかな。
彼が入れてきました。固くて温かい……。もっと激しくしてほしい。もっと厳しくしてほしい。きっと明日はもっとすごいことをしてくれる……。
奥付
お読みいただき、ありがとうございました。
二〇一五年六月三十日刊行 第一版
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便所虫の歌 第5部 (5/5)
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