『僕は天使じゃないよ』は、2005年4月28日に130cmから発売されたアダルトゲームである。大正末期から昭和初期の日本を舞台にした懐古調のBDSM作品で、退廃と憂鬱、救われない結末から鬱ゲーとして知られる。テキストは台本のように書かれ、心情はかっこ書きになる。キャラクターデザインはさっぽろももこ。『檸檬 〜影絵亭ノスタルジヤ〜』や『かなりあ』三部作を手がけた絵師である。音楽はさっぽろとBIGたあぼう。2017年12月、ビジュアルアーツのアプリマーケット「アニゲマ」からAndroid移植版が出た。
マスカレヱドと、倒錯の日々
主人公・北見市蔵は、上得意の古物商を通じて会員制の秘密倶楽部『マスカレヱド』に入り、見世物として現れた女・柘榴に興味を抱く。倶楽部で出会った翠子とその同行者ローザにも目を留め、一方で孤児院・ロザリオ園の百合乃とは手紙の交流を深める。主催者が事業失敗で引退せざるを得なくなり、市蔵は主催者の座と柘榴を手に入れる。やがて百合乃をも手に入れ、恥辱を与えたときの美しさに見とれる。不安と絶望にさいなまれた倒錯の日々が続く。
百合乃ルートのトゥルーエンドでは、百合乃がロザリオ園の運転資金を得るためマスカレヱドでM嬢の仕事を引き受ける。プレイの衝撃で精神退行を起こし、市蔵に連れ出される。市蔵はいったん彼女を殺すことを考えるが、最終的に園へ戻す。市蔵と離れたくない百合乃は、園に放火する形で焼身自殺する。柘榴ルートのトゥルーエンドでは、市蔵が小梅と引き換えにマスカレヱドから柘榴を救い、二人で満州へ移住するが、市蔵は病む。柘榴が薬代のために日本兵へ身体を売っていたことを知り、市蔵は悲しみ、愛情に気づく。翌日、北へ向かうそりのなかで、柘榴は寒さを感じる。
市蔵と、倶楽部の女たち
北見市蔵は裕福な家の長男。入り婿の父を嫌って家を出たが、金を無心に戻ることはある。西洋の精神医学を研究中と言いつつ労働意欲はなく、SM系雑誌へ投稿し、同じ趣味の者と文通する自堕落な生活を送る。気まぐれでロザリオ園に寄付したことが、百合乃への関心の入口になる。丘百合乃(声: 朝咲そよ)はロザリオ園の修道女。八年前に捨てられ、のちの現院長に拾われて園で育った。寄付の礼文を書いたことがきっかけで市蔵と手紙を重ね、本性を知らぬまま足長おじさんとして慕う。柘榴(声: 田中美智)はマスカレヱドの見世物の女。二つにしたお団子頭と、背中の龍の刺青が特徴。国籍は明かされず、柘榴が本名かどうかも不明。芳野翠子(声: 森ちさと)はパトロンと倶楽部へ来る美女で、銀座の高級カフェーのホステス。美貌を武器に男を翻弄し、人心掌握に長けて倶楽部内の影響力を高めていく。過去はあまり語らないが、時折関西の方言が出る。ローザ(声: 森川陽子)は翠子の連れで、金髪碧眼の若い女性。人形のような美貌の裏に、触れた男を爪で傷つける獣性がある。田辺小梅(声: 佐々木あかり)は市蔵の身の回りを見る盲目の女性。無口だが家事は確か。もともとは父の女中の一人で、市蔵の妹分でもある。
暗い時代に華々しく終わる
原画・キャラクターデザインはさっぽろももこ、音楽はBIGたあぼうとさっぽろ、シナリオはうつろあくた。関連小説は沢野翔著、2005年8月1日発売。原案はさっぽろが作った。同じ絵師が参加した『檸檬 〜影絵亭ノスタルジヤ〜』とは対照的に、コンセプトは戦争へ向かう暗い時代に据えられ、各キャラクターの物語にも救いのない結末が用意されている。うつろあくたはGalge.comのインタビューで、各話を「華々しく終わる」という方針で書いたと述べ、「ハッピーエンドではないが、バッドエンドだとは思っていない」としている。『ノラと皇女と野良猫ハート』のシナリオライター・はとは、本作のテンポ感を評価した。Lenekoはおたぽるに、人によっては完全に拒絶するタイプだと断ったうえで、「鬱ゲーが苦手でも、エロゲーの歴史を知るうえでは重要な作品なので、プレイ候補の末端には入れてほしい」と書いた。マスカレヱドの見世物と、手紙の修道女と、満州のそり——2005年の130cmが、懐古のBDSMを鬱の側へ振り切った作品である。











