『ソドムの市』(イタリア語: Salò o le 120 giornate di Sodoma)は、1975年製作・映画祭上映、1976年公開、ピエル・パオロ・パゾリーニ監督のイタリア・フランス合作映画である。マルキ・ド・サドの『ソドム百二十日あるいは淫蕩学校』を原作とする。パゾリーニは、原作の18世紀スイス山奥の城館を20世紀イタリアに移し、権力と個人、消費社会のメタファーに作りかえた。構成はダンテ『神曲』を借り、「地獄の門」「変態地獄」「糞尿地獄」「血の地獄」の4章。完成後、パゾリーニはローマのオスティア海岸で謎の死を遂げ、本作が遺作となった。過激な性描写が多く、欧米では問題視され、上映禁止となった国も出た。単なる嗜好ではなく、現代社会への批判が込められているとされる。狩り集められた若者への暴力の中身は、ここでは書かない。
イタリアが連合国に降伏したあと、残余のファシストは北部の町サロに集まり、亡命政権(イタリア社会共和国)を作っていた。このナチス傀儡政権の権力者——大統領、大司教、最高判事、公爵の4人——が館を仕切る。公爵はパオロ・ボナチェッリ。大司教はジョルジョ・カタルディ(声: ジョルジョ・カプローニ、ノンクレジット)。最高判事はウベルト・パオロ・クィンタヴァレ。大統領はアルド・ヴァレッティ(声: マルコ・ベロッキオ、ノンクレジット)。語り部はヴァッカーリ夫人(エレーヌ・シュルジェール、声: ラウラ・ベッティ、ノンクレジット)が「変態地獄」、マッジ夫人(エルサ・デ・ジョルジ)が「糞尿地獄」、カステッリ夫人(カテリーナ・ボラット)が「血の地獄」。ピアニスト(ソニア・サビアンジュ)は日中、語り部の話の間ピアノを弾き、のちに自殺する。
B級ポルノ企画が遺作になる
原案執筆に協力した映画監督プピ・アヴァティの述懐では、企画当初パゾリーニは関与していなかった。当初は脚本家アントニオ・トロイジオらの発案で、ヴィットリオ・デ・システィ監督によるB級ポルノとして動いていた。アヴァティらがサド原作で準備稿を書くと、過激すぎて検閲を通らないと判断され、デ・システィが演出を拒否する。降板後、アヴァティがパゾリーニ脚本・セルジオ・チッティ監督の『エロスの詩』(1973年)を見て、パゾリーニの参入を提案する。二人はこの時点で初めて会った。パゾリーニの提案で時代をファシズム政権下イタリアへ移し、アルベルト・グリマルディの製作とパゾリーニ自身の演出で映画化が決まった。スカトロは現代の消費文明、とくに食物の浪費への批判であり、北イタリアの文化が貧しい南イタリアへ浸食することへの批判でもあったという。舞台をナチ・ファシスト政権下にしたのは、左翼運動に反感を抱く右翼への攻撃が意図されていた。
1975年8月26日、フェデリコ・フェリーニ監督『カサノバ』などと共に、本作のネガフィルムの一部がローマの現像所から盗まれた。パゾリーニはラッシュプリントからネガを複製して対処したが、画質劣化は避けられず、当該箇所は映像が粗い。
オスティア海岸の死
1975年11月2日、撮影を終えた直後のパゾリーニが、ローマ郊外オスティア海岸で轢死体となって発見された。警察は、パゾリーニから性的暴行を受けた少年の犯行と断定し逮捕した。遺体は全身を殴打されたうえ、パゾリーニ自身の車で何度も轢かれており、ネオ・ファシストによる暗殺とも噂された。ローマ地方裁判所は、少年ピーノ・ペロージの単独犯行は不可能だとして、未知の共犯者とともに行われた故殺とした。ローマ高等裁判所は共犯者ありの条項を破棄し、1979年最高裁は、少年に殺意はなく正当防衛として9年7ヵ月の刑を確定した。2005年5月7日、実行犯とされたペロージがイタリアRai 3のドキュメンタリー“Ombre sul giallo”に出演し、「犯人グループから家族に危害を加えると言われ、やむなく罪を被った。実際は他の数人の男によるリンチで殺された」と告白した。脚本家で長年助監督を務めたセルジオ・チッティは、「フィルム盗難も殺害犯グループが仕組んだ。パゾリーニはフィルム返還交渉のために現場へおびき出された」と証言している。
1976年の日本公開前にはノーカット試写が行われ、良くも悪くも話題になった。雑誌広告には「警視庁がカンカン!」「ヨーロッパ各国軒並み上映禁止」といった見出しが並んだ。上映館が限られ、1976年洋画配給収入トップ10には入っていない。監督はパゾリーニ。製作はアルベルト・グリマルディ。脚本はパゾリーニとセルジオ・チッティ。撮影はトニーノ・デリ・コリ。音楽はエンニオ・モリコーネ。衣装デザインはダニロ・ドナティ。サドの百二十日を、消費と権力と右翼への攻撃として撮った映画である。
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