狂い妻 第2部 (2/2)
前の話
仕事を終わって一杯飲む、勢いがついてそのまま悪所に繰り出すというのは昔も今も同じであって、巷言われるように、最も古い商売は売春なのであった。しかし、そのランクわけもこれまた古来どおりであって、貧乏人はアンペラの上で、一般人は、摺りきれた畳の上で、小金持ちは借り切った六畳ほどの部屋で、そして御大尽は豪華な料理を前に美姫を侍らせて夜のしじまに溶け込んでいくのだった。そのほか、男女の交いを余興として楽しむことも古今を通じて行われていた。
「唯、その美姫を留めて、交合したまひきを、一宿(ひとよ)眺めけらし」とわが国の古典にもはっきりと記されており、江戸中期のものの本によると、千両、万両の交合役者カップルがいたという。
そんな、妖しい世界にあって、江戸初期に今で言うシロクロショーの男側、竿師の需要が生まれた。一般的にやくざものの世界はしきたり、すなわち仁義が憲法であって、その世界の住人は何人もその仁義から逃れることはできない。アウトロウにはアウトロウの判断基準があり、その特殊な世界で竿師は生きているのだった。そして、その竿師の伝統をしっかりと守ってきたのが峰岡の一統ということになる。
「つまり峰岡は、現役の、本物の竿師というわけでな」
青山さんはそこで言葉を切り、ちらと黒田に視線を這わせてから、気の毒そうな表情を浮かべて続けた。
「つまり奥さんは、真紀子さんは、峰岡にスカウトされたわけだよ」
7
北新地には行きつけの店が一件だけある。青山さんが後援していた元幕内力士陣内川が経営しているちゃんこ屋で、新地のママを呼び出し、そこで食事をしてから高級クラブに繰り出す、という遊びを青山さんとよくやった。店に着くと鍋のいい香りとともに、いつもの人懐こい笑顔で女将が出迎えてくれた。そして客人はもう来ているという。慌てて二階にあがると部屋で男がビールを飲んでいた。一見すると、どこにでもいる中年だ。しかし、こちらを見上げたその顔色はどす黒く、この男の日常がよくわかるというものだ。後ろに撫でつけたオールバックはよく似合っていたが、でっぷりと太った腹にズボンのベルトが醜く食い込んでいる。この男は青山さんから紹介された情報屋の江上だった。東京を根城として、関西と東京を行ったり来たりしている男と聞いていた。
「おお、江上だ。今日は蒸し暑くっていけないね、先にやらしてもらってるよ」
「青山さんから紹介いただいた内村といいます」
「ああ、聞いてるよ。適当に肴はたのましてもらった。暑いから鍋は断わったよ。まあ、あんた、座りなさいよ」
こいつは俺がこれまであったことのない人種だった。べっとりとなでつけたオールバックの整髪剤からは強い臭いがただよってくる。アウトローの世界の周辺で蠢く者のしたたかさの芳香のようだ。坊ちゃん育ちの青山さんとはおそらく金だけのつながりだろうが、しかしこの年まで情報屋として生きてこられたということは、それだけこの男の持つ情報は正しいということの証なのだろう。ついでくれたビールにひとくち口をつけてから俺は言った。
「実は青山は私の上司に当たりまして、」
「ああ、それも聞いている。俺と青山氏ももう長い付き合いでね、ほら、あの人、金払いがいいから」
そう言って笑った口腔は何本か歯が抜けていた。
「で、なんか、成橋屋の件で聞きたいことがあるって話だったが」
「成橋屋?」
「峰岡のことだよ。あんたが探しているという男はね、極道の世界では由緒ある系譜に繋がるものなのさ。江戸時代にはね、成橋廣右衛門としてずいぶん喝采を博したらしいよ。で、今も、その系譜が続いていてね、峰岡はその立派な跡取りということだよ。青山さんから聞いたが金玉が当たるぐらいの太股の場所に簪の彫り物があるんだろう。間違いないさ、あんたの探している峰岡という人物は、おいらたちの世界にいる竿師の峰岡だよ」
ちょうど運ばれてきた白子のあぶりとアマダイのみそ焼きをおいしそうに頬張りながら、仲居に冷酒を注文し、卑猥な冗談を投げつけている。顔を赤らめた仲居が退出するのを待って続けた。
「峰岡は、こっちの稲生組の傘下だね。戦後の東京で仕切っていた菱山会の流れをくんでるんだがね」
黒田の自宅で会ったあの物静かな男。口数の少ない、どこにでもいる酒好きの男に見えたが、俺たち普通の人々のいる世界とは遠く離れた場所で生きている男だったのか。俺は少々うすら寒いものが背中を這い上がってくるのを感じた。
「その稲生組にとっても彼は客分扱いさ。極道連中はみな成橋屋さんと呼んでるぜ。なにせ、あんた、かなりの金額を、安定して稼ぎ続けてくれる金の卵だからね」
「そのお、繁華街でやっているいわゆる、」
笑いながら俺の言葉をさえぎり
「あんたね、ただのシロクロショーに大枚はたく客なぞ、今どきいないぜ。きれいな女の出ているAVビデオが出回っている時代だよ。つまりね、成橋屋一門にはいくつか売り物があって」
「売り物?」
「そう、まず相手はあそこがどす黒い玄人女なぞじゃなくてね、素人も素人、それもとびきりの美人のね、女を相手にするわけよ。それと常連客が調達してきた女、それも峰岡の眼鏡にかなわないことには相手にしてくれないわけだ。超一流よ。モデル、役者、アナウンサー、スッチー、それこそ様々だ。ちゃんと自分のかかりつけの病院で相手にもAIDSの検査なんか受けさせてね、それでショーを執り行っているのさ」
突然江上がくすくすと笑いだした。
「いや、半年ぐらい前、九州の大物さんをそのショーに案内したら、峰岡の相手が清純派で鳴らす女優でよ、その女が昨日ホテルで見た、何とかいうサスペンスドラマに出ていたんでな、ふと思い出したわけよ。殺された義父のことを思ってさめざめと泣く嫁の役をやってたがな、お座敷ショーでは峰岡から責めたてられてすごい勢いでケツ、振ってたな。ま、そんなことをやっているのが峰岡というわけだ。しかもだ、例えばだよ、こっそり写真かなんか撮ってだな、マスコミに売りつけたりする阿呆がいるとするな。そうすると怖いお兄さんがたくさん出てきて、となるんで秘密も守られるというわけだ。うまくできてるよ。ビジネス、ビジネスね」
またくすくすと笑う
「そうですか・・・・・・。峰岡はそんな奴だったのですか」
グラスの冷酒を口に運びながら、今までとは違う表情で江上が口を開いた。
「その、何だ、あんたの友人の奥さん、地は淫奔な女だったんだろうが、峰岡と会わなきゃその血も騒がなかったわけだ。峰岡は何でも一流好みらしいね。女が虜になって、しかもとっかえひっかえ。まったくうらやましい話ではあるね。そのうえケツモチが大物組長のとこの稲生組だろう。もう手が出せないねえ。まあ、しかし、誘拐じゃないんだし、警察も動かないだろうね。なんつーか、こういっては何だがね、奥さんも満足しているんじゃないの」
確かに力づくで拉致していったわけではないし、法律上はどうしようもないだろう。しかし、知性もあり、普通の人以上に教養を身につけた女性である真紀子が、見知らぬといってよい男の下半身に狂ってしまうということが本当にあるのだろうか? 目の前にその事実があるわけだが、俺にはどうしても信じることができなかった。
「今日はすっかり御馳走になっちまったな。ここ、高いんだろう」
そう言いながら江上はぐるっと部屋を見回した。ええ、まあ、とか何とか俺が相槌をうっていると、なんだか言いにくそうに「で、ほれ、これが女と住んでいる住所。で、ま、あれだ」
そこで俺ははっと気づき、テーブルに投げ出されたメモ用紙を手にとったあと、封筒を差し出した。この際十五万円という金額が高いのか安いのかわからなかったが、しかしこの男がいなければ、何も進展はなかったわけで、まあ俺は黙って払うしかないわけだった。
「悪いね。俺も素人さんと仕事で絡むのはあまりないんでね。また何かあったら、連絡してよ。普通では調べられない携帯の電話番号もわかるしな、他人が閲覧できない戸籍、住民票、そんなでも調べられるし、例えばだ・・・・・・」
江上は上機嫌に話し続けている。俺はと言えばそんな江上の言葉などもう耳に入らなくなっていた。現金と引き換えに江上が渡してくれた紙に書かれている住所、そこで峰岡と真紀子はどうやって暮らしているのだろう、俺が訪ねて行ったら真紀子、いや峰岡は会ってくれるだろうか、黒田は連れて行くべきだろうか、そんないろいろな考えがぐるぐると、とめどもなく俺の頭を駆け巡っていたからだった。
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京阪本線の枚方公園駅は急行が止まるようではあったが割と静かな駅だった。駅を出ると大きな病院が見え、江上のくれた住所はその病院の近くだった。今は住所さえ分かればスマホのグーグルマップでたどり着くことができる。またく便利になったものだ。駅から徒歩で五分ほど歩くと目的のマンションに着いた。高層マンションではなく、やや小ぶりと言っていいだろう。しかし、どんなに控えめに見ても高級の上に超がつく立派なマンションだ。お定まりのオートロック式であったので、俺はしばし思案にくれた。そうしている間にも昨日の黒田との電話でのやり取りが思い出された。黒田は真紀子の出奔以来憔悴しきっており、気が触れたようになっていた。電話口でもうわ言のように、早く帰ってくるよう伝えてほしい、と繰り返すばかりで、埒もないことだった。その黒田のことを思い、思い切って教えられた部屋番号のボタンを押した。
「こちら峰岡さん?」
「どなた」
「東京の内村ですよ。黒田の」
そこまで言うと息を呑む感じがあり、「何でここが、」
私はすかさず続けた。
「いやね、お宅らをどうこうというわけではなくてね、まあ、黒田のことも考えてもらってさ」
「でも、峰岡さんもいないし、」
真紀子としても俺を得体の知らない相手と思っていることだろう。そんな相手をやすやすと家に入れるわけはない。
「じゃ、こうしようじゃないか。あんた、峰岡さんに連絡をとってくれ。江藤と俺の関係なんかも話してね。それから、俺の携帯に連絡してくれよ。どうしてもあってくれないならしょうがない。あんたが元気に生活していることを江藤に伝えるさ」
しばらく思案しているような間があったが、「わかったわ。峰岡さんに連絡して相談するわ。それからあなたに電話する」
俺は内心ホッとしていた。怖かったのだ。ヤクザの庇護のもと生きてきた峰岡だ。腕力はからっきしという俺にとって、やはり恐怖は感じる。江藤の友達だとは言っても、現にその妻を寝とるぐらいの酷薄な男だ。俺の腕をへし折るぐらいなんともないだろう。峰岡がいないときに会ってどんな因縁をつけられるかもわからない。そう考えてみるとあいつがいる時にあった方が良さそうだ。エントランスを出ると俺はマンションを見上げた。屹立するそれの中で真紀子は毎日、峰岡のために足を大きく広げヨガっているのだろうか? 黒田のことを思いは何とも言えない気持ちになって、俺はもときた道をとぼとぼと帰って行った。
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マンションの扉を開けると女が立っていた。確かに真紀子なのだろうが、おれは一瞬自分の目を疑った。長めだった髪はショートカットにしている。幾分ふっくらとしたようだ。バッチリメイクを決め込んで塗りこんだ赤い口紅がこの女の魔性を表しているようだ。俺はしばし真紀子に見とれた。磨きがかかった美しさとほとばしり出る女豹の色気。一瞬、俺はこの女にのしかかりたい衝動を覚えた。
「どうしたのよ? 内村さんだっけ? 確か何度か黒田のうちで会ったような?」
俺のことなど全く覚えていないのか。
「まあ、おはいんなさいよ。もう少しで峰岡さんも帰ってくるわ」
招じいれられた部屋は二十畳ほどのリビングで、南面には大きな窓がとってあった。調度品は見るところ一流品ばかりで、壁面には五十インチの液晶テレビが掲げられており、その下にはJBLのモニタースピカーが設えてあった。勧められて座った、中央におかれた相撲取りが座るような立派なソファーからは大阪の夜景と液晶テレビがちょうどいい具合に眺められた。香りの良いコーヒーを運んできて座った真紀子が、口を開く。
「あなたがどんな目的でここにきたのか知らないけれど、もう私はあなたたちとは縁のない女よ。そこのところははっきりさせておかなきゃね」
「いや、それはまあそうだ。しかしな、もう家を出ていきます、はいそうですか、なんてもんじゃないだろう。黒田はあれだけあんたに惚れていたんだ。いまでは気が触れたようになっててね、それで探しに探してやっとここまでたどり着いたんだ」
俺はもう一度ぐるりを見回し、「まあ、しかし、ずいぶんと幸せに暮らしていることがわかっただけでも、収穫というもんさ」
真紀子は穏やかな顔になってコーヒーに口をつけ足を組んだ。このおんなはレギンスが好きなようで今日もブラウン系の本当に色っぽいものを履いている。生足よりよっぽど色気を感じた。
「黒田には悪いと思っているわ。でも、知ってしまった以上、」
「知ってしまった? 何を知ったんだ?」
「それは峰岡さんのことを、」
真紀子はうっとりした表情になり目をつぶった。
「知性も教養もあるあんたが、見ず知らずの男とこんな大それたことをしたことがどうも解せないんだ。男に一発やられ、その味が忘れられなくなる、そんな映画のような空想話が本当にあるのか?」
真紀子はふっと笑を浮かべた。何も知らない俺を嘲笑しているようにも見えたし、峰岡との逢瀬を思い出したのかもしれなかった。
「最初にいきなり五時間ほど可愛がられて、あたしどうかしちゃったのね。初めてのことだったので、あたしその時のことを思い出すと今でもここが溢れ出しそうなのよ」
そう言って真紀子は自分の下半身を指差した。まさに驚愕するとはこのことだろう。最初にあった時真紀子は俺にニールサイモンの話をし、演劇におけるなんとかかんとかと、小むづかしい話をしたはずだ。それが今やいきなり「溢れ出す」だと!
「しかし、あの夜は俺もあんたたちに招待されていた。確か俺の方が先に帰った気はするが、」
まるで昨日見た映画を話すような調子で、悪びれる風もなく、真紀子は話を続けた。
「あなたもご存知の通り、黒田はあまりお酒がすすまないでしょ。あの時はずいぶんと酔っ払って、とうとう酔いつぶれたのよ」
「その後、五時間もやられたのか?」
「そういうことね。最初にあそこに口づけされて、もうどうしていいのかわからなくなった。私のあそこを時間をかけてゆっくりとかわいがってくれたのよ。彼の舌の動き、指の使い方、ああ、忘れることができないわ」
またそこで目をつぶりしばらく陶然とした表情を見せた。
「一番敏感な女の部分を彼は優しく愛撫してくれた。実は本当に夢心地になってよく覚えていないのだけど、何度も何度も気をやったわね。峰岡さん、行為を録画するのが趣味で、その時もこっそり撮られていたのだけど、そのビデオも見たわ。いきまくって、大声出して、何度も何度も絶頂に達している自分が映ってたんで、なんか恥ずかしくなっちゃったぐらい」
少し潤んだ目でそう口にする真紀子は俺のことなどお構いもせず、いきなり乳頭を揉みしだいた。
「ああ、たまらない。彼との行為を思い出すとたまらないわ」
そうしてまた目をつぶり、小さくではあったが、とても切ないため息をついた。また驚いた俺は、振りしぼるように言った。口の中はカラカラだ。
「あんた、ずいぶんと変わったな。このままでいくと峰岡の餌食になって、どこぞのお座敷で金持ちどもの前でシロクロショーのお相手をさせられるぞ!」
俺は黒田が可哀想になり、思わず怒気を含んだ声でそう言った。と、それを聞いた真紀子は突然笑い出した。
「何を興奮しているわけ? もう、とっくにお相手はしているわ」
「な、なんだと!?」
「一昨日もキタにある料亭で峰岡さんにたっぷり可愛がってもらったわ。もう何回目かしらね、ショーに出るのは。とにかく、私にとっては彼との生活は、お座敷ショーを含めてもう日常ということよ。一等最初は、そりゃあね、恥ずかしかったけど、それも最初の五分間だけ。愛する峰岡さんのためだと思って晒し者になる覚悟を決めて横になったけど、ここの寝室でやってることと同じことよね。最後は私の方から、入れて入れてって、絶叫したらしい。そのあと峰岡さんに突かれて突かれて、とっても激しく腰を振って果てたのよ。あとで聞くと私が最初に出演した時のお客さんからはずいぶんと好評だったそうで、峰岡さんのお役に立てて本当にうれしかったわ」
そしてまた目を閉じ、今度はゆっくりと太腿を触っている。それはもう俺の知っている真紀子ではなかった。
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高級魚の刺身の大皿と特上のすしが届けられてからすぐ、峰岡は帰ってきた。改めてこの男を観察してみても、女が離れられなくなるなどとはとても想像できない。しかし現に峰岡が帰宅すると真紀子は心底うれしそうに峰岡の世話を焼き始めた。かいがいしく働き、食卓に晩餐の用意を始めている。
「あんた、確か黒田のところで会った人ですね。まあ、俺は殴られてもしょうがないことをやったんだが、あんたは見たところ殴るつもりもないらしいし、ひとつ今日は楽しく酒でも飲みましょうや」
そう言ってなんだかさえないジャケットを脱いだ。背丈はまさに中肉中背だ。ただし腹は出ておらず、胸元も厚い。裸になれば立派な体をしているのかもしれない。
真紀子が持ってきたビールは生だった。ちらと奥をみると台所の端に生ビールのサーバーが置いてある。さっきのとても美味だったコーヒーといい、部屋にあるなかなか渋い調度品といい、いろんなところにこだわる男なのか。
「真紀子さんを連れ戻そうとか、謝ってほしいとか、そんなことできたんじゃありません。いまだ法律上は妻である女性を必死で探している友人が哀れでならないので、ここに辿り継いだわけでね、それだけですよ」
仲良く並んで座った二人を見ながら話す俺だったが、なんだか居心地が悪い。
「それはそうだけれども、実際真紀子には帰るつもりはないんだし、彼女が送った離婚届はもうハンコを押すしかないんじゃないだろうかねぇ」
ぐいぐいビールを飲みながら峰岡は話し続ける。
「真紀子がどこまで話したかは知らないが、俺は暴力団構成員ではないよ。まあ親会社が暴力団といってもいいが……。このマンションだって自力で買ったし、お天道様のもと汗を流して働いているとは言わないが、誰かを搾取しているわけじゃない。黒田には気の毒だが、現実を受け入れることしかないんじゃないかな」
そんな屁理屈を峰岡はしゃべり続けた。その峰岡の隣に座る真紀子には先ほどの饒舌さは影を潜め、じゃれつく仔猫のように峰岡にしなだれかかったり、腕をからませたりしながらビールに口をつけているのだった。
「ところで、あんた俺の仕事を知っているんだろう」
突然峰岡が言った。だいぶ出来上がってるようだ。
「席料は一人十万円、俺の取り分は四割、四万円だ。大体三〇人は入るからね、一晩のお座敷で百二十万円、おおよそ月の営業が二十日、これはその辺のサラリーマンと同じってわけだね。とすると、毎月組に入る金は三千六百万円で、俺には二千四百万円ということになる。しかも税金なしときたもんだ」
それから天井を見上げキチガイのように笑った。
「さあ、真紀子、いつものやつだ。ただ今日はだいぶ端折ってやろう。俺とお前の素晴らしさをすぐに内村さんに伝えないといけないからな。よし、久しぶりに俺も燃えてきたぞ」
それを聞いた真紀子は顔をぱっと輝かせ、立ち上がった。ほとんど同時に峰岡も立ち上がり、二人は俺の前で唇を合わせた。驚いた俺が茫然とその様子を見ていると、一瞬真紀子から離れた峰岡が俺を見ながらにやりと笑い「あんた、十万円、持っていないだろうね」
笑い声を上げたあと、峰岡はまた唇を合わせ、乱暴に真紀子のスカートをはぎ取った。真紀子はいつの間にかプリーザーのハイヒールをはいており、その美しい足にはいたレギンスとほんの申し訳程度に茂みを隠している黒のスキャンティが目のやり場に困るほどいやらしい。腰から太ももにかけては熟した女の色香があふれ出ていた。形の良い乳房は豊満で、乳頭がもう張っていた。真紀子はこれほど色が白かっただろうか?なめらかな肌が少し紅潮しピンク色になってきた。俺もこの女体に覆いかぶさりたくなり、その思いを必死に押さえた。
真紀子の呼吸が荒くなっている。俺の存在などとうに忘れているようだ。唇をむさぼるように重ねた後、峰岡の前に跪いた。続いて峰岡が洋服を脱ぎ棄てる。その峰岡を見て俺は目をむいた。予想したとおり峰岡の体は素晴らしいものだった。だが、俺が本当に驚愕したのは彼の一物についてだ。巨根だ。一般男性のものとは比べ物にならない。しかし、それ以上にすばらしいのはカリ首だ。ほれぼれするような張り具合で、相当の腕前の彫刻家が大理石を丹念に削って作ったような造形美を感じた。おそらく、これをぶち込まれ、その長さで一緒にクリを刺激された場合、女は夢見心地になるのだろう。真紀子はまずそのカリの部分にチロチロと舌を這わせ、それに続く屹立した男根にも舌を這わせている。優しく袋を口に含み、ひとしきり舐めまわすとまた亀頭部分に戻る。それからゆっくりと、そしてだんだんと早く、峰岡のものをしゃぶり出した。イチモツは真紀子の唾液でぬめっている。真紀子がイチモツを口に含み激しく頭を揺らしているが、峰岡といえば、その真紀子の頭を軽く押さえながらじっと見下ろしている。峰岡に気をやらせようとでもいうようにさらに激しく頭を振りだし、真紀子の唇と峰岡の肉棒がこすれあう、チュッパッ、チュッパッという音がだんだん大きくなってきた。と、峰岡は真紀子の口を己のイチモツからはなさせ、耳元で何か小さく囁いている。頷いた真紀子は角度的に俺にクリが見えるような位置で四つん這いになった。冷たい眼をした峰岡は私に一瞥をくれると、犬のような姿勢の真紀子のレギンスとスキャンティを剥ぎ取った。そしてそのまま怒張したモノをゆっくりと挿入した。最初、うっ、という声を上げた真紀子は「ああ、これよ。峰岡さんすごいわ、もう私、きてる、ああ、本当にすごい」
甘い声を上げ、「続けて! とにかく、このままつづけて! 濡らして、もっと濡らして。たまらないわ」
絶叫に近い、大きな声だが心のそこから振り絞ったような甘い声だ。俺はそれを聞いて自分の下半身がさらに熱くなるのを感じた。峰岡はといえば、真紀子の声、動きに呼応するように冷静に律動を続けている。
真紀子の声がひとしきり大きくなってきた時、峰岡は真紀子の右足を少し持ち上げた。そうすると真紀子のぱっくり割れた秘部がはっきりと見えた。俺に見せるようにそうしているようで、男根がずぶずぶとピストン運動を行っているのもはっきり分かる。真紀子のソコはじっとりと濡れて峰岡をスムーズに受け入れており、あふれだした愛液が太股を濡らしている。峰岡が動く度にあの簪の入れ墨が見え隠れし、竿師の本領を見せ付けているようだ。真紀子はもう激しい息遣いになって諦泣を漏らし始めた。お願い、いや、やめないで、すごいわ、奥まで、もっと奥まで、続けて、続けて、という真紀子の切れ切れの甘い声が漏れ聞こえる。こんな風に5時間も責め立てられるのか? 俺は自身の下腹部がもう張り裂けそうに膨張しているのを知った。その時俺の興奮を知ったかのような峰岡が「あんた、参加しないか?」
「な、何を言って、」
驚いた俺が返事すると、「真紀子のクリトリスを触ってみろよ。大きくなってるぜ。その後あんたも真紀子のここを味わってみればいい」
そういうとぱっくり割れた真紀子のそこに右手を這わせた。真紀子はまた大声を上げ「いく! またいく! ああ、続けて」
真紀子は絶叫しながら峰岡の動きに合わせてさらに激しく自分の腰を振り始めた。峰岡の動きも激しくなり、「どうした、こないのか?」
「内村さん、お願いよ。峰岡さんの言うとおりにして! 私に触って。そしてもっと感じさせて。凄いの! たまらない、本当にたまらないの!」
真紀子が切れ切れに懇願するようにそう言い、いっそう激しく腰を振った。こんな風に五時間も責め立てられたのか? そうして女は峰岡の虜になり、快楽の無間地獄に堕ちて行くのか?
超一流の大学院で演劇論を専攻しニューヨーク大学にも留学した女。ニール・サイモンを論じ、俺に演劇論を挑み、実家の蔵書は数千冊とのたまわった女。そんな女が今犬のように四つん這いになって激しく男からイチモツを打ちつけられ、自分も快楽の虜になってキチガイのように腰を振り、獣のような咆哮を上げながら喜びで全身を震わせている。それに気づいた時、俺は恐怖を感じた。そして俺は傍らの鞄を取り上げ玄関を探した。
「あんた、どうした? 帰るのか? そうか、じゃ、黒田によろしくな」
峰岡は真紀子をさらに責めたてながら天井を向き、大声で笑い出した。その笑い声の合間に真紀子の悲鳴のようになった声が混じる。俺は玄関のドアを開け、何とか早くこの場を逃げ出したいと考えた。そのとき、また背後に峰岡の気のふれたような大きな笑い声が聞こえた。俺はたまらずそこに座りこんだ。
「黒田を連れてこなくて、本当によかった・・・・・・」
俺はただそう呟くしかなかった。
了
狂い妻 第2部 (2/2)
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