「理科で習ったわよね。安里咲は頭がいいから覚えているんじゃない? 炎は場所によって温度が違うのよ。一番高いところは芯の外側にある青白い炎のところ。千四百度ぐらいあるというわ。だけど、炎の先端部分は九百度より少し低いぐらい。下の芯に近いところは七百度ぐらい。外側はだいたい八百度から九百度。少しは低いでしょ?」
七百度も千四百度も同じだ。焼かれたら皮膚も肉も炭になってしまう。
「千四百度では鉄が溶けるかどうか。ガラスは溶けるわね。八百度で三十分。なんのことかわかる? 人間を火葬するときの目安よ。だけどこれだと大きな骨は残る。粉々にするなら千度以上で焼かないとね」
不気味なことを言う。
「もっとも、あなたもわたしも結局は焼かれて灰になる。それもうまく行けばの話よ。災害にでも巻き込まれたら火葬したくも遺体もないこともあるでしょうから」
恐ろしい話をして最高千四百度の炎を顔の前に置かれ、ポタポタと溶け落ちる蝋に背中からお尻から覆われていく。体が熱くなってくる。痛いような痒いような、おかしな感覚。もうほとんどの皮膚を蝋が覆ってしまっているのだろう。
男たちが、背中やお尻になにかを押しつけてくる。
「じっとしていないと大やけどよ。人間シャンデリアになるんだから」
彼らはわたしの背中からお尻一面に蝋を垂らし、その上にロウソクを立てるというのだ。
「もちろん、ただ溶けた蝋だけじゃうまく立たないから、中に針を仕込んであるんだけど」
「うっ」
プツプツと焼かれた皮膚を突き破る針。その数は十を超えている。途中で数えるのを諦めた。
「まあ、きれいだわ」
会場に拍手が起こる。
少しずつ持ち上げられた。
夫人の頭より上になる。揺れている。回っている。クレーンが動き、舞台の端から端へ、ゆっくりと移動していく。下には観客がいる。彼らにも蝋涙が落ちるはずだが、この高さのせいか、彼らに達するときにはもう熱くはない。
彼らにとって落ちてくる蝋は、遊園地のパレードで浴びせられる水鉄砲よりも安全なスリルだ。
蝋の涙だけではない。わたしの涙もある。縛られた鎖からあふれた涙が落ちていくはずだ。涎も落ちる。股間からは腸に入れられた水が漏れるし、寮長や彩芽がからかうように、おそらく淫らな汁も垂らしているだろう。
それで観客たちの服を汚してやれれば少しは溜飲が下がる。ここに集まっている連中が、そんなことで不快になるとは思えないが。
「さあ、みなさま。お手元にキャンドルが行き渡りましたこと? 火をつけてくださいませ」
鎖の間から、下にチロチロと炎の明かりが灯っていくのが見える。
美しい。そして恐ろしい。
わたしの体がゆっくり降りている。
「ふがーーー」
夫人がやってきて、わたしに向けて炎をかざす。
「ぎいいいいいい」
乳房を九百度の炎が舐める。
そこを通り過ぎ、舞台より下がっていく。立ち上がった観客たちが差し出す炎の列の中へ、ゆっくりダイブしていく。
上からも下からも焼かれている……。
「あっ、ぎぃぃ! ぐえぇぇぇ」
味わえと言われたが、この苦痛を味わうことなどできるはずがない。
会場には音楽が流れている。よく知られたオペラを題材にしたミュージカルの音楽だ。もちろん見たことがある。シャンデリアが落ちてくる印象的なシーンがあった。そのあとヒロインは劇場の地下にある不思議な世界へ行くことになる。
わたしも、出口のない地獄の迷路に入っていく。そこではヒロインはわたしではない。わたしはただの奴隷……。
何本もの炎が、わたしの肌を焼いている。彼らに熱い蝋が落ちないように、ある程度の高さで移動しているのに、わざわざイスの上に立って手を伸ばし、炎を押しつけるようにしてくる男もいる。
会場をゆっくり一周し、今度はずいぶんと高く持ち上げられた。シャンデリアの高さということか。
「苦しむ娘を見ながら楽しむお酒はおいしゅうございますわよ。さあ、みなさまも、お好きなものを召し上がってください」
給仕が会場を回って酒をふるまいながら、彼らの使ったロウソクを回収していく。
わたしは焼かれた乳房や腹部の強烈な痛みと、まだ背中で炎をあげているロウソクの熱さに耐えていた。
じっくりと。じんわりと。ローストされていく。
ここにいる人たちは、わたしの丸焼きを食べるのではないか。
そう思ったとたん、恐怖のあまり失禁していた。
「まあ、ごらんになって。安里咲がシャワーを噴き出してますわ。かかった方はごめんあそばせ」
夫人は上機嫌だ。
わたしは死を感じていた。
狂乱
舞台に降ろされた。いったん、円盤から外された。
背中のロウソクを引き抜かれる。
突き通った針金を鼻と口はペンチで頭の後ろでねじられて、止められる。乳房の針金は首輪にとめられ、乳房を首から吊り下げたようになる。性器を突き抜けた針金は真ん中で切断されて、左右に開くカタチにし、お尻側でゴムベルトで留められた。
「ただいまから、みなさまの中を歩かせますので、存分にご覧ください」
マーコフが鎖を手にし、わたしはその後ろを引きずられるように、舞台から降りる。薄暗い客席に、わたしにだけライトをあてられている。
大勢の観客たちはみなドレスやタキシードを着て、目が隠れるマスクをしている者も多い。
くたくたで、足に力が入らない。
手足をまったく拘束せず、首輪だけだ。もっとも体に針金を入れられているが。
触る人は多い。針金を引っ張られるのはつらい。
彼らはそれがしっかりとわたしの体の中に突き通っていることを確認したがる。そして蝋で焼かれた背中、彼らのキャンドルの炎で焼かれた乳房や腹部も確認したがる。
火傷になっている。触られるだけで痛い。
「ビッチだわ」
見知らぬ女にツバを吐きかけられた。
お尻や乳房を叩かれる。
「ご覧になって。安里咲はまだまだ耐えられると思いますけど、いかが?」
拍手が起こる。
わたしの状態を確認させること。それは自分たちで一人の小娘をいたぶった成果をチェックするだけではなく、続けられるかどうかを決めるためなのだ。
「では、事前にお配りしたプログラムにございます最初のイベントをいたしましょう。このイベントは五人の方にご協力いただきます。そこに印刷された番号をご覧くださいね」
夫人は箱からカードを引き出し、三ケタの番号を読み上げる。当たった者はうれしそうに舞台に上がる。遠慮する者は当たったプログラムを別の人に譲っている。
興奮している男女の中を歩かせられ、わたしは彼らをさらに興奮させている。なにをしてもいい女。どんなことをしてもいい肉体。そして、彼らはとうとう、それを手に入れる。
舞台に引き上げられる。体格のいい男たちが五人、ニヤニヤしている。
マーコフたちが、わたしを再び円盤に縛り付ける。垂直に立てた円盤を抱えるように。
「念のために」と頭をすっぽり覆うマスクをかけられた。目のところにプラスチックがはめこまれ、ぼんやりと外が見える。鼻と頬の針金に触られるだけで激痛だ。
手を肘で曲げて格子に鎖で縛られる。足はしゃがむように開かされ、膝と足首をベルトで留める。足の親指が円盤の下の縁にかかる。クレーンのフックをつける位置が変更されて、引き上げられると、垂直のまま浮き上がった。高さは低く、不安点に吊されている。自然にゆっくり回転する。
わたしの周りを選ばれた五人が囲む。それぞれの手に、長い一本鞭がある。
「それでは、ご自由にどうぞ」
ヒュンと音がして、鞭の先端が肩胛骨あたりに食い込んだ。
「あぐぅ!」
痺れるほどの痛み。それを理解する間もなく次の鞭が、腰に当たった。
「ぐっ」
三発目が脇腹。それは乳房のすぐ下に当たり、食い込んだ針金をも刺激した。さきほどの腰に当たった鞭は、性器を開いている針金を狙ったのかもしれない。四発目が思わぬ角度からお尻に当たる。
しゃがむように縛られて、鞭の先がお尻から股間の、敏感な部分を巻き込んだ。針金で醜くえぐられ、粘膜を開かれているため、声も出ないほどの激痛だ。
五発目もお尻に当たる。六発、七発と、打ち込まれるたびに、ゆっくり体が回り、どこに当たるかはわからなくなる。
寮長と彩芽にやられ続けてきてわかったことは、痛みに慣れはなく、ただその性質が微妙に変化するだけなのだ。何発打たれても痛みが麻痺することはない。だから古来、刑罰や拷問に使われてきたのだ。
単純なようで鞭の痛みは骨身に滲みる。自分がこのような生物としていま生きていることを後悔するほどだ。
無防備で、対処の方法がない。気絶すれば逃げ込めると思うかもしれないが、気絶をした側からすればその間の記憶が飛んでいるだけのことで、苦痛がゼロになるわけではない。
ただ一つだけ言えることがあるとすれば、苦痛は自分という存在をすべて吹っ飛ばしてしまうのだ。
「うっ、ぐぇ、ぎぃ」
頬を貫いた針金のせいで奥歯で噛みしめることもできないが、泣きわめき続けることで、自然と気持ちはむしろ落ち着いていく。口が悪い人は「敗北者」と言うだろう。なにもしていないのに、最初から負けている。勝ち目がないだけではない。勝つことなど永遠に許されない。
壊れていく自分の中で、なにも守ることもできず、ひたすら見守るしかない。
「みなさん、とてもお上手ですわね。蝋がほとんど取れてしまいましたわ」
背中からお尻にかけて、厚く張り付いていた蝋が鞭の連打で、叩き落とされたということらしい。そのために鞭を?
「ちょっと気合いを入れてあげましょう」
冷たい水がバケツで頭から浴びせられた。ギュッと筋肉が縮まる。夜風が体温を奪っていく。なにもわたしには与えられない……。
「飲みなさい」
バケツの水を飲まされる。ヒリヒリとした頬。飲みにくいが、体が求めている。
「かわいいわ」と夫人はわたしの乳房を触る。
そのあたりも切り刻まれたように痛い。
「次のイベントも楽しいわよ」
さきほどのバケツをわたしの見える場所に置く。
「危険な浣腸をしてあげましょう。薬液が危険ね。硫酸マグネシウムとシャンプー液を混ぜてあげます。便意だけじゃないわ。粘膜が焼けただれ、長く苦しむことになると思うけど……」
破壊が止まらない。
「これは使ったことないわね?」
巨大なフックを見せつけられる。太いだけではなく、球形の瘤が先端、途中に合計三つある。先端の球形部分には小さな穴があいていた。
「とっても便利よ。あなたのような小娘を苦しめるにはね」
お尻を開いた形で縛られているため、夫人が手袋をして、股間を触ってきてもまったく抵抗ができない。
「あら、かわそう。お尻の穴にまで鞭が当たっていたみたいだわ」
会場から笑い声が起こる。おもしろいことなのだろうか。
彼女の手が穴の周辺に液体を塗りつける。ピリピリとした灼熱感。それを体の中に入れるというのだ。
「うううう」
「もうマスクはいいわね。外してあげて」
マーコフがマスクを取ってくれる。笑みを浮かべ、汗だくの額にキスしてくれた。
それはゾクッとするほど恐ろしかった。彼の唇は冷たく、わたしの体は熱い。
針金の具合を指先で確認する彼。
彼を見つめている間に、あの巨大なフックがお尻にあてられた。
「うっ」
声を出さないように我慢する。彼が薄笑いを浮かべている。大きな先端の球体部分が体内に押し込まれる。信じられないほど大きく、腸を破いてしまうのではないかと思うほどだ。お尻が裂けたら、彼らは針金で縫い閉じるのだろうか。
ぐねぐねと球体が押し入ってくる。
彼が見ている。心から楽しそうに。
そしてキスをしてきた。針金のせいで完全には閉じない口を彼は吸う。舌で凌辱する。
その間にもう一つの球体まで入ってきた。
裂けたように開いた肛門がヒクヒクしているのがわかる。
「あぶぶぶ」
叫んでいるのだが、彼の口で塞がれている。
「入ったわ。これ、お願いね」
夫人がそういうと、彼は冷たく離れていく。そして彼女から受け取ったフックの先端を握り、ぐいっと引き上げた。
「うわっ」
縛られている体が持ち上がるほど強く。
何度もされていることなのに、毎回、違う。
助けてほしい。すぐそこにいるマーコフにしがみつきたい。ここから連れ出してほしい。もうこれ以上のことはしないでほしい。
「このフック、中にチューブが入ってるから、ここから液を流し込めるんですの」
新たに選ばれた男たちがやってきて、フックから出ている透明なチューブに、バケツから浣腸液を注ぎ込む。
彼らはお尻を触ったり、針金を引っ張ったり、乳房をつねったりしながら、注射器をチューブにあてて、注ぎ込むのだ。
「ふぎぃぃぃ」
切なすぎる。マーコフはフックからのびた鎖をクレーンのフックに引っ掛けている。お尻が裂けるほどきつく引き上げられた。
「どう、安里咲。お腹の中は?」
夫人も覗き込んでくる。
焼けるような液体が腸内に到達し、どんどん広がっていく。それは寮で毎日何度もされていたグリセリン溶液とはまるで違う。腸を焼き尽くす炎のようだ。
「苦しいぃぃ」
「そうね。燃えるでしょう? おまえはこうして罰を受けるのよ」
「罰……」
夫人とマーコフが、わたしの髪を撫でる。
五人の男たちもわたしを見ながら、楽しそうに浣腸をしていく。
お尻の穴を触る男もいる。そこが巨大なフックを飲み込んでぱっくりと裂けているのがわかる。
「さあ、ではもう少し上げて」
ガクンと吊り上げられる。
「お楽しみはこれからね。みなさん、この子を味わってみて。バケツいっぱいの強烈浣腸液を飲み込んで腹ぼてになっているけど、きっと楽しめるわ」
浣腸をした男たちはズボンを下ろしている。
ゆったりとした音楽が流れている。
「ううううう」
男のものが入ってくる。針金で剥き出しにされた部分。腸内のフックと浣腸液で、膣が前に押し出されている。そこに入れて、激しく突き上げる。男たちはわたしの乳房や円盤につかまって腰を動かす。
「げえええええ」
お腹を押されて吐きそうになる。
「だめ、がまんできないぃぃ」
「そうよ、安里咲。泣くの。泣いてお願いするの。そういう娘を犯すのが楽しいのよ。もし泣きわめかないなら、もっとひどいことをしなくちゃね」
「いやいや、お願いです。苦しい……」
「どう、みなさん。苦しんでいるわよ。楽しいでしょう?」
夫人に煽られ、男たちはさらに激しさを増すのだ。
膣拡張
「いや! 痛い! だめ、もう、だめ」
何人目かわからないが、ペニスに貫かれると焼けるような痛みを感じている。
「痛い? もっと痛くしてあげるわよ」
「お願い、もう、許してください」
「あら、まだこの程度じゃ、みなさんは満足なさらないわよ。みなさま、お好きなサックをおつけくださいませな。避妊とかすべりのよさよりも、痛み中心に選びましたのよ」
さらに五人の男たちが舞台に上がってくる。いくら満足させても、つぎつぎとやってくる。しかもわたしの反応に飽きたのか、彼らは夫人が「サック」と呼ぶ器具を固くなったペニスにつけて犯してくる。
「ひぃぃぃぃ」
「安里咲、どうなの? 感触が変わったかしら?」
灼熱感はむしろ高くなる。夫人がわたしに見せつけるサックは、鋭いトゲが無数に植わったものや、サンドペーパーのようにキラキラした粒子が光っているもの、大きな瘤のついたものなど、いずれも人間のペニスとはまったく違う形状をしている。
「ぎひっ」
入れるだけでも強烈なのだが、動かされるとさらに痛い。
「どう、浣腸の苦しさを忘れられたかしら?」
パンパンの腹部。フックがお尻を引き裂いている。動けば動くほどお尻は大変なことになっていく。
しかし、膣の強烈な痛みのせいで、体を動かさないわけにはいかない。
「まあ、かわいそう」
わたしの中で果てた男が外したサックを見せつける。薄明かりの中で、それに血が付着しているのがわかる。
「あなたのおまんこが小さすぎるのかもしれないわね」
なにを言っても、無慈悲に犯される。次々と切り裂くような痛みを伴う。
「はうぅぅぅぅぅ」
自分の運命を呪うしかない。
連続で十人に犯され、おそらく粘膜は破れ、血を流しているだろう。それを見て、夫人も客席も興奮している。
「みなさま、とうとうやってやりましたわね!」
拍手が起こる。
「いかが? 健康な娘の性器を潰す感覚は? これほどのショーは滅多にないと思いますわよ。みなさまは幸運だわ」
そして、わたしは不運ということなのか。
「さあ、それではお楽しみの大噴水でございますわよ」
夫人はアナルフックを引き上げている鎖を激しく揺さぶる。だが、すぐに引き抜くわけではない。ぎゅうぎゅうと腸が鳴り、吐きそうなほどだ。
円盤を男たちが支え、吊り下げ方を変えた。
わたしは背中を下に向けて、円盤にへばりつくように吊された。
マーコフがアナルフックの鎖を外して手にする。その間にも少しずつ高く持ち上げられていく。
彼が鎖を引っ張ると、振り子のように、大きく揺れる。
「安里咲! フックを押し出すのよ!」
食い込んでいる巨大なフックを押し出せ、というのだ。彼が引っ張るときに、自然に少しは抜けていくのだが、巨大な球体が中にあるので、簡単ではない。
意地悪なマーコフ。鎖を引っ張り、勢いをつけていく。揺れは徐々に大きくなっていく。
「安里咲! あなたが押し出さないと、勢いで引き抜かれるわよ。慣性の法則を知ってるわよね! マーコフがいまの円盤の動きと逆に動いたとき、あなたのお尻の穴も壊れるわ!」
「うぎぃぃぃ、たすけてぇ!」
力を入れなくても、ある程度は引き出されている。大きな球体が直腸につかえていて、自分でいきんだとしても、お尻は壊れてしまいそうだ。入ったのだから、出て当然かもしれないが、角度と大きさによっては、不可能な場合もある。
下半身を引き出されるような苦しみだが、勢いよく頭から突っ込んでいくときに、マーコフはアナルフックの鎖を逆に引っ張った。勢いでもっとも振れたときに、アナルフックが引っ張られたので、液体が隙間から噴き出した。
観客がざわついている。
「そんなものじゃないはずよ。もっと、派手にやってくれなくちゃ」
笑いながら夫人が言う。
マーコフは今度はまさに鐘撞の要領で、最初は振幅に合わせて、ブランコでも漕ぐようにアナルフックの鎖を引っ張って、勢いをさらにつけていく。その速度が徐々に高まっていく。
「いーち、にーい、さーん」と夫人と客席でカウントする。それにつれて、わたしは遊園地の遊具のように高く持ち上がる。
これだけの勢いをつけて、逆方向に引っ張られたら……。
「ふぎぃぃぃぃぃ」
マーコフはアナルフックを引き抜いた。わたしも必死に押し出そうとしていたので、たまたまタイミングが合ったのかもしれないが、いっきに抜けたのだ。
そして大量の液体を撒き散らした。
「ひー」
舞台の上に、アヌスから噴き出したものが……。
目が回りそうで、腹部の苦痛が急速に軽くなっていくのを感じていた。
「安里咲、よくもまあ、恥ずかしくもなく」と夫人の声が響く。
なんという姿を人々にさらしているのだろうか。
振動が自然におさまるまで、長時間、放置されていた。
肛門が裂けたような鈍い痛み。
ときどき、気が遠くなっていて、記憶が途切れている。
いつのまにか、舞台に降ろされていた。男たちがデッキブラシで舞台を清掃していた。
台の上に背中から下ろされて、上に円盤がのっている。大きな男にのしかかられたような重さで、身動きができない。
「おまえがぶちまけた汚いもののせいで、舞台が台無しだわ」
円盤に足をかけた陽子夫人。
意識が遠ざかり、なんの反応もできない。生きているだけ。
「みっともないわね」
させられたことがすべてわたしのせいになる。
寮長と彩芽もいる。三人が円盤に足をかけ、わたしを潰そうとするように体重をかけている。
「ぐえええ」
「みっともないわね。カエルじゃあるまいし。まだ終わっちゃいないのよ」
彼女たちの後ろには、抽選で選ばれたらしい新たな十人の客がいた。
まだなにかをさせるつもりなのだ。
「安里咲の女性器はもう少し鍛えないといけないわね」
あれだけオモチャにしておきながら、まだ足りないらしい。
「こちらのみなさんは、あなたのお尻を楽しみにしているの。今度も楽しめるわよ」
新しいサックが用意されている。目を背ける。あんなもので犯されたらすでに裂けている肛門が、二度と使い物にならなくなるだろう。
「その間、こっちにこれを入れてあげる」
大きな茄子のようなものを彩芽が手にしていた。
「こんな感触よ」
頬に押しつけてくる。ぬめぬめした表面。ブーンと振動している。
「自動で動くの」
中にいくつものボールが入ってるようで、それが前後左右に動く。そのため膨らんだり棒状になったりもする。そしてまた、ぬめっとした液。
「安心してね。粘膜をよくするためのお薬が少しずつ出てくるから」
「うっ」
彩芽が乱暴にそれを傷ついた性器に押し込んだ。それもかなり奥へ。
「安里咲の体、すごく便利になったから」
針金をいじっている。開いたままにしていたわけだが、それを外し、今度は閉じていく。器具がどれだけ動いても、飛び出すことはない。
マッサージ器のようにその器具は奇妙な動きを体の中でしている。中で生き物が動き回っているような感触だ。
「うわああ」
「どう。気持ちがいいんじゃないの?」
夫人がわたしを覗き込む。閉じない口に向けて、ツバを吐いた。それが口の中に入った。
「楽しいわよ」
男たちが円盤を持ち上げ、今度は円盤を下にして舞台に置いた。
「さあ、みなさま、安里咲のお尻を楽しんでください」
大量の浣腸をされて、激しい排泄をさせられた穴。アナルフックを引き抜くときに裂けたと思ったのに、男が入ってくると、まだそこは器官として残っていることがわかった。
ボワンと大きく広がってしまった肛門。
不思議だった。こんな状態でも、まだ男たちを楽しませている。
「おもしろいぞ、これ」
膣内に入った器具の動きが、彼らをさらに喜ばせている。
「おお、すごい感触だぞ」
時間の感覚はない。次から次に男たちがそこを使う。
ローションのせいか、大きくなってしまった肛門のせいか、思ったほどの痛みはなく、むしろ心地よい瞬間さえあった。
膣内の器具とタイミングが合うと、快楽が高まるのだ。
「安里咲。すごいわ。あなた完全な便所女よ」と彩芽が言う。
「これで、東欧に行っても大丈夫よ、きっと」
東欧……。なんの話だろう。
「いいわねえ。観光旅行ができるらしいじゃないの」
寮長の声。
「留学はまだパルダ王国の許可が出ないからムリらしいけど、あなたの恋人、マーコフさんがぜひ安里咲を連れていきたいところがあるんだって」
「英語も日本語も通じないらしいわ。だけど、言葉はいらないわよね」
「そう、これだけの体があれば……」
「さっきも彼らにやられて、よかったでしょ? 日本で何十人も相手にしても、マーコフが連れていってくれるところとは比べられないわ。もっとでっかいものをぶらさげた体格のいい男たちが揃っているわよ」
「あー、わたしも行きたかったなあ」
彩芽がくったくなく言う。
「ひー、ひー、ひー、ひー」
わたしはひたすらお尻と膣の感覚に支配されて、なにも考えられない。
ただ、奇妙な快楽の海に浮いていた。痛めつけられ、擦り上げられ、なんの抵抗もできないままに、体をもてあそばれる。波に揺られて浮いている。しょっぱい水をかぶってしまうこともあるが、このまま死んでもいいような気分にもなる。
気持ちいい。
そう感じてしまうことが恐ろしかった。苦痛でしかなかったものがいつしか、気持ちよさの源になっていった。
この快楽の海には、恐ろしい化け物が
潜
んでいるのかもしれないけど、そのスリルも快楽になる。
いつまでもこうしていたい……。
離陸
空港の税関を抜けると、一般客の搭乗ターミナルとは違うフロアに連れて行かれた。手荷物はない。体だけ。ホットパンツとTシャツ。そしてサンダル。傷ついた素肌を見せつけながら、マーコフ、そして陽子夫人に連れていかれる。
拘束はされていないが、手を後ろで組むことを命じられていた。
「ここからは、もう大丈夫ね」
陽子夫人はその後ろの手に、手錠をかけた。
針金で開けられたすべての穴に、シリコンのビスのようなものが埋められていた。鼻も頬もだ。あまりにも奇妙なアクセサリー。
乳房を横に貫いた針金、秘部を貫いた針金のあとにも、シリコンが埋められた。
乳房はずっと痛みが残っている。
首輪をつけられた。太い鎖。足枷もつけられた。首輪からの鎖が足枷を通って錠で留められた。
ガチャガチャと音を立てて、建物から外に出た。
夜だった。
ジェットエンジンの音があちこちで響いている。
小型のジェット機が駐機していた。プライベートジェット。
そこに連れ込まれる。
「楽しい旅になるね」
マーコフと夫人はシャンパンで乾杯をした。
ぞろぞろとわたしを責めた男たちも乗り込んできた。
「安里咲は、ここに来なさい」
立って歩くには低い天井。その中央にグレーの奇妙な器具が置かれている。イスを倒したような器具だ。
「飛行機の中でもですか!」
ショックのあまり、つい口答えをしてしまった。
「ふふふ、安里咲。生意気ね。言いたいことがあれば、もっと言っていいのよ、淫乱娘のくせに」
「移動時間は、許してください……」
「安里咲」とマーコフが腕をぐいっと掴んだ。
「おまえにはそんなことを言える資格などないんだよ。見ず知らずの男たちに体を与え続け、体を痛めつける悦びにどっぷり漬かってしまったじゃないか」
「でも……」
「座るんだ」
泣きながら、その器具に、自分から体を合わせていく。
反抗することよりも、従順であること。それしか選択できない。
「いい子ね」と夫人が髪を撫でてくれた。
マーコフは手錠をした手を、器具の背中に垂らすようにし、器具についているボルトのようなものに手錠を引っ掛けた。わたしはのけぞるようなかっこうで、倒れたイスの背のような板にもたれかかった。
両足をほかの男たちが持ち上げた。
「いや」
「違うでしょ」と夫人が頬に埋め込まれたシリコンをつまむ。痛い。
「また口がきけないようにしてあげましょうか?」
そのシリコンを取って針金を刺すのだろうか。
「許して……」
「いつでも許してあげているじゃない、安里咲。いい子でいれば、すばらしい快楽が次々とあなたを包み込むのよ。みんながあなたを快楽漬けにしてあげているのよ」
「あ、ありがとうございます……」
「声が小さいじゃない?」
「ありがとうございます。みなさま。いつも安里咲をよがり狂わせ、強烈な快楽をくださり、ありがとうございます!」
「そうよ。かわいいわ」
足は畳むように、イスの脚のような部分に革ベルトでとめられた。
和式トイレでしゃがんだあと、後ろに上体を倒したような、中途半端な姿勢。お尻は宙に浮き、自分の股間を自慢しているように突き出したかっこうだ。
夫人と男たちは、当然のようにわたしの穴をチェックしている。
「はっ、うっ、触らないで……、痛いから……」
泣いても懇願しても、彼らは無視する。針金を通されたところは、触るとうずく。
「なかなかいいじゃないか」
ホットパンツはファスナーがある。普通のものと違うのは、ファスナーが背中まで回っていること。つまりファスナーを開くと、股間が剥き出しになってしまう。
性器もお尻も、うっすらと開いているのだろうか。彼らの指が難なく入ってくる。
クリトリスを擦られる。
「ふー、うっ」
思わず声が出てしまう。痛みではない。恥ずかしいまでの気持ちよさ。こんな体に、そして脳になってしまったのだ。
「ほらね、もうお汁が出てきたじゃないの」
「条件反射ってわけだな」とマーコフ。
「途中で給油するから十二時間ぐらいかかると思ってね。その間、あなたはしっかり準備しておかないとね」
「つらい……」
「だけど、向こうにはきれいなお城があるのよ。そう、吸血鬼の伝説もあるんだって。ねえ、マーコフ」
「ああ。ドラキュラほど有名じゃないけど、昔からの言い伝えがあるのは事実だね」
「安里咲、みんなに血を吸われちゃうかもよ!」
はしゃいでいる。
飛行機の振動が突然、激しくなってきた。
「おっと、離陸だ」
「その前にこれをつけておかなくちゃ」と夫人は、別の器具をセットした。それは二つの穴とクリトリスを電動で刺激し続けるもの。股間に押しつけて、スイッチを入れると、エンジンの振動に加わって、ランダムな振動が敏感な部分を責める。
「あううぅぅぅぅぅ」
逃れることのできない強制的な快楽に体が反応してしまう。
機体が動きはじめ、振動とガツンという衝撃のあと、斜めに上昇を開始していた。もう空中なのだ。
全員、シートベルトをして座席に座っている中、わたしだけは見世物のように、機械の刺激にもだえていた。
気が遠くなっていく。恐ろしい海外旅行……。
「ああああ、だめえええええ」
怖いと思った瞬間、アクメに頭が真っ白になった。向こうへ着く前に、わたしは燃え尽きて真っ白になってしまうだろう。
飛行機の中では男たちは気が向けばわたしを犯したが、ほとんどは機械でいたぶられ続けた。
「せっかく拡張したんだから」と夫人は、二つの穴にフィストをする練習をした。離陸直後はかなりきつかったのに、数時間後には驚くほどスムーズに夫人の手を受け入れるようになっていた。
「少しずつ、大きくなっていくのよ。急激に広げると、締まりがなくなっちゃうから」
機内では、夫人たちの小水を飲まされ、例のまずい食事も食べさせられた。
「お城じゃ、お客様の排泄物をいただくことになるわよ」
ガクガクと震えてしまう。
「ほっぺたに穴を開けたのは、強制的に食べさせる装置につなげるためでもあるの」
恐ろしいことを考える人もいるものだ。
「この旅行が終わったあと、安里咲はまったくの別人になっているわね」
「そうだ。おれたちの小便もウンコも喜んで食べるようになってるな」
みんなが笑う。
そんなことをなぜ、させるのだろう。なんの意味があるというのか。
「安里咲は、あらゆる人たちの中でも、一番下にあるわけ。だから、生きている間、まともなものなんて、口にできないの。わかる?」
信じられない。
小便と精液を飲まされることには、かなり慣れてきた。だが……。あれはムリだろう。そんなものを口にできるわけがない。
吐き気がする。
「なんでもできなければ、安里咲は生きている値打ちがないのよ」
「どういうことでしょう」
夫人がわたしの中に入れた手を出して、べとべとになって開いている膣の具合を眺めている。
「あなたはあらゆる価値観が逆転していくの。普通の人は死んでもやりたくないようなことが大好きになって、悦びに変換するの。それなしでは生きていけなくなる」
「考えられません……」
「いいのよ、考えなくても。ただ、黙って、従順に、言われたことを喜んでやればいいわ。ほら、練習よ。いまやるわけじゃないけど、言葉に出して言ってごらん」
夫人が囁く言葉を復唱させられる。
「ありがとうございます。安里咲は日本から来た拷問大好きの変態娘です。みなさまのおしっことウンチをいただきたくて、はるばるやってきました。どうか、安里咲にみなさまのおしっことウンチ、そしてときどき精液を恵んでくださいませ」
「もう一度よ」
「ふわああああああ、ありがとうございます。安里咲、日本から来た拷問大好き……」
夫人が激しく捻るように膣の中で手を動かすので、感じないわけにはいかない。同じ言葉を何度も言わされながら、長い長いオーガスムにもだえる。
「恵んでやるよ」
マーコフが男根を頬に押しつけてきた。
口を開くと、放尿をはじめた。
「うぐっ」
ゴクゴクと飲もうと努力する。彼らはシャンパンやビールを飲んでいて、いくらでも小便が出る。
お腹いっぱいになるほど飲まされた。
「ありがとうございます」とお礼を言わされる。
十二時間近く、このような責めを受けながら、わたしはその名前もよく知らない東欧の国に到着した。
痺れたようになっている体。ドロドロの体をウェットティッシュで拭われただけで、通関し、Tシャツとホットパンツ姿のまま、マイクロバスに乗り込んだ。
離れていくにつれて、驚くほど小さな空港だったことがわかった。大型機は使用しない空港だったのだ。
舗装された道路。高速道路。そして山間部に入ると、茶色っぽい山の間に古城が見えてきた。吸血鬼伝説や東欧というイメージ。どこまでが人工的な石垣で、どこからが自然の山なのか、よくわからない。岩、木々と一体化してしまっている。
わたしはそこで人間ではなくなっていく最後の時間を過ごすのだ。どこまでが人で、どこまでが物か。それはわたしが決めるのではなく、相手をしてくれる誰かが決めるのだ。
もし、それがうまくいけば、いま感じている苦痛がすべて快感に変わるのだろうか。
このがまんできないほど、重い苦痛が消えてしまうことなどあるのだろうか。
あの拷問部屋で亜由美はこんな気持ちだったのだろうか。
この一帯が高地であることが実感されてきた。窓から入る空気が冷たく、いまの服装では寒すぎた。
城の中
マイクロバスで街中を抜けると、突然、荒れ地に出た。起伏のある丘陵地帯が続く。かつてはヒツジを飼う者たちがいたのかもしれない。だが、いまはただ見捨てられ、崩れた石作りの教会や家がポツンポツンと見えている。人の姿はない。
「このあたりは、以前、内戦があって、そのまま村人もいなくなったのよ」
夫人の声はエネルギッシュだ。高ぶりを抑えきれないのだろう。
「古代から何度も虐殺が行われてきた土地だ」とマーコフ。
マイクロバスが速度を落とし、雑草の茂る空き地に入った。ブレーキ音が悲鳴のように響く。
「降りなさい」
飛行機の中で不自然な姿勢で責められ続けたせいか、体がだるく、力が入らない。
「逆らうの!」
これまで聞いたことのないような厳しい声を陽子夫人が発した。
そうだ、ここはもう日本ではない。彼女も緊張している。それだけではなく、これだけ遠くまでくれば、わたしのことなど、ごくちっぽけな存在に過ぎない。言葉も通じず、お金も服もない。ここで逃げても、荒野で凍死するだけだ。
頼れるのは彼女だけ。その彼女に逆らうことなどできるはずがない。見捨てられたら、死ぬだけ。
荒野で野垂れ死にすることに、かすかな
憧
れを感じた。
「すみません、体が……」
「降りるの。早く!」
怒鳴られてやっと手に力が入り、座席を押すようにして腰を浮かせた。
恐ろしいほど、自分の体は危険な状態にあるようだ。苦痛と快楽。ただそれだけの時間が長すぎ、不自然な姿勢をとらされ、筋肉も関節も伸びきり、心もズタズタなのだ。
震えながら、壊れた人形のようになんとか立ち上がった。バランスを取りながらバスを降りた。最後の段が高く、飛び降りる。地面に足がついたとき、そのまま倒れてしまった。
「なにやってるの!」
ビシッとホットパンツの上から
笞
を当てられた。
「うっ」
「この程度でへこたれてどうするのよ」
なにを言われても動けない。氷のように冷たく硬い土。枯れ草。石ころ。
男たちもやってきた。
「どうしたんだ」とマーコフの声がする。
「へばったみたいね」
「しょうがないな」
マーコフ。その靴が顔の横に。
「動けないのか?」
返事をしなかった。元気だろうと病気だろうと、酷いことをされるのだ。唇が震えている。悔しい……。なんにもできない……。
靴先が目に向けられる。
「蹴り飛ばしてやろうか? え? メス豚」
ガリッと石を噛む音がして、靴が動きそうになり、「ひっ」と声をあげながら、なんとか手で上体を持ち上げた。それを追うように彼の足も上がってきて、直後に激痛が肩に。
バランスを崩し、斜めに地面に倒れた。彼は踏み込んできて、足でわたしを仰向けにさせた。
「溜まってるんだよ」
無造作にファスナーを下ろした。だらりとしたペニスを向けてきた。冷たく笑っている。
避けようと手を動かそうとしたが、手首を彼は足で踏んだ。
「いやっ」
気付くと、反対側に別の男がいて、ふりあげた左手を掴まれた。力がないので、難なく、手の平は彼の靴の下に押さえ込まれた。足を別の男たちが踏みつけている。
マーコフが勢いよく放尿をはじめた。
温かい液体が顔に激しく当たる。
「うー」
鼻や目に入らないように顔を振るが、彼は場所を変えながら狙ってくる。
「口を開けろよ」
そんなことはしたくない。
「開けなさい!」と夫人が怒鳴る。
その鋭い声に体がすくむ。
口を開けてしまう。
囲んでいた男たちも次々と放尿をはじめた。みんなで顔を狙ってきて、開いた口の中にじょぼじょぼと音を立てて入っていく。
いやおうなく、いくらかは飲んでしまう。鼻にも入ってくる。むせる。それでも彼らはやめない。
運転手も笑いながらおしっこをかけてきた。
全員が終えたと思ったが、最後は陽子夫人だ。男たちがいても平気らしく、コートを運転手に預けると、スカートをたくしあげて下着をひきおろし、わたしの顔の上に腰を下ろした。
「安里咲。飲みなさい!」
恐ろしい声。心に突き刺さり、すべてを放棄してしまう。
彼女のものを飲んだ。
飲んだ分だけ、頭からなにかが蒸発していくような気がした。
「舐めなさい」
彼女の薄汚れた陰唇を舐めた。
夫人は立ち上がり、服の乱れを直した。男たちがわたしから離れた。
マーコフたちがマイクロバスからバッグを持って来て、地面に落とした。ガチャリと重い音がした。
「脱げ」
なにも考えられない。
びしょびしょの頭もそのままに、上体を起こし、Tシャツを脱いだ。凍りそうな風に濡れた体がさらされた。傷は癒えていない。体力もない。眠けさえ感じる。
「立て」
なんとか自力で立つ。そしてホットパンツを脱いだ。
荒野の中では、折れた枝ぐらいの存在感しかない自分。
バッグの中身が地面にぶちまけられた。
「これを身につけるんだ」
涙は出ない。反射的に震えるだけ。
重たく冷たい足枷を自分でつけた。太い鎖で左右の足がつながる。手枷もつける。最後に首にも。
マーコフが鎖を首の枷から手首の枷に通した。
引っ張られる。マイクロバスに連れていってくれるのではない。バスの後部。バンパーの下にあるフックに鎖を引っ掛けたのだ。
「もうすぐだ。おまえは歩くんだ。歩けるよな?」
「はい」
返事をするしかないが、そんな力があるかどうか、わからなかった。
彼らはバスに乗り、子どもたちのように後部座席から見下ろす。臭い排気ガスを浴びながら、ゆっくり走り出したバスを追う。
重い鎖が地面に擦れて音を立てているが、ピンと張ってしまわないように必死で歩く。
ここで倒れたら、引きずられ、体は地面の鋭い小石でズタズタになるだろう。
そうすれば肉体は失われ、骨だけになるだろうか。
その苦痛と、これから待ち受ける未知の苦痛の、どちらが楽だろう。
虐殺された人たちが、わたしをあざ笑っている。
倒れそうになると、誰かが気付くのか、バスのスピードが落ちた。
サンダルだけは残してくれたので、膝はガクガクだったが、なんとかついていくことができた。
歩けることが実感できると、骨になるのは嫌だと思ってしまう。
丘の中腹を横切るようにして一時間ほど。風景はいつまでも変わらなかったが、突然、渓谷が眼下に見えた。
冬の厳しい地域で風を防ぐ高い木々が、道の両側に並んでいた。道幅は広くなり、小石はなくなった。
突然、石畳みの道になった。街になるのではないか。人の姿が気になる。
だが、バスがほどなく停止するまで、誰にも会わなかった。
汗びっしょりになっていた。止まると、風が体温を奪っていく。
みんながバスを降りて、荷物を下ろしはじめた。エンジンはまだ動いていた。
しばらく無視されていた。赤茶色の外壁が高く続いている。入り口はわたしからは見えない。周囲には高い木々が茂り、細い水路から軽やかな水音がしている。山の中腹らしい。ガシャリという音が何度もし、見えないところに扉があるようだ。
みじめすぎる。疲労もあって、へたりこんでしまった。
マーコフが戻ってきた。
「こっちの国では、へたったロバはその場で撃ち殺す」
指を拳銃のかっこうにして、わたしを撃つ真似をした。
少し期待してしまった。
殺してほしかった。限界なのだ。
陽子夫人が戻ってきた。
「なにを休んでるの!」
彼女が怒鳴ると、反射的に立たなくてはいけないと思う。
どこにそんな力が残っていたのだろう。バンパーに手をついて、重い鎖のついた枷を持ち上げた。
「あっちに連れていって」
マーコフが鎖を取り、マイクロバスの向こうへ連れていく。壁は門を兼ねていて、扉が開いていた。
芝の張られた庭。左手に駐車場。見知らぬ男たちが数人。全員、肩にライフル銃をかけている。内戦や虐殺は過去の歴史に埋もれた話ではないのだ。
ガシャガシャと音を立てながら、芝生を迂回する細い道を歩いた。正面には、黒っぽい石作りの玄関。その向こうは中世のお城のように塔がそびえている。屋根はグレー。壁は白っぽい。尖塔は玄関のすぐ上と、奥の二つ。
こぢんまりとしているものの、日本の建物からはあまり感じられない重厚感があった。
「ここは、昔の貴族の城だったところを、この五十年ぐらいの間に改修したものだ。戦争用の城じゃない。別荘のようなものだ」
マーコフが説明する。
玄関には行かず、クルマ回しを横切り、奥の壁に向かう。植栽が随所にあるので壁の横に通用口があるとはすぐにはわからない。
小柄なわたしにはそうでもないが、マーコフは頭を少し下げるぐらいの小さな扉だ。そこを抜けると石の壁に挟まれた狭い空間に出て、真っ黒に塗られた鉄の扉が現れた。マーコフがそれを開けた。中は真っ暗だ。
「入れ」
そうするしかない。
暗さに目が慣れてくると、少し湿った石のニオイがした。この空間は徹底して石なのだ。床も壁も。
サンダルが場違いな音を立てる。鎖の音はむしろよく似合う。
下る階段があり、薄暗い明かりが随所に設置されているが、足元はよく見えない。マーコフはそこに備えられているらしい懐中電灯を持ち、それで照らした。
「おまえが先に行け」
体を斜めにして、段差の高い階段を慎重に下りる。ぐるっと回るように続く階段がようやく終わると、鉄格子の扉があった。
サビが浮いていた。
ゾクッとした。
「わかってるな。ここはおまえのような者にふさわしい場所だよ」
大きな鍵を扉に差し込み、鉄格子をきしませた。下水のニオイがする。水が流れるような音もしていた。
「よかったな。お客様がくるまでしばらく休めるぞ」
カンカンと軽い音がし、振り返ると、懐中電灯が動いているのが見えた。陽子夫人が男を連れてきていた。
「すてきな場所ね」
そのとき、壁に溝のように手すりがあることに気付いた。足元しか照らしてくれなかったので、わからなかったのだ。
夫人はこんなところでも、優雅に手すりを使いながら降りてきた。
狭い廊下を歩くと、右も左も鉄格子の部屋だった。入り口近くは大半が鉄板で覆われている。奥へ行くと鉄格子だけになっていく。部屋も広くなっていった。
もっとも奥に連れていかれ、中へ入れられた。
マットが置かれていた。そして点滴のスタンドがあった。
「これから日本に帰るまで、固形物としての食事は基本的にはないの。点滴で栄養を取ってもらうわ」
マットの横の石壁に鉄環が埋め込まれている。そこに鎖を通されて、立つことはできなくなった。夫人が腕に点滴を刺した。
「定期的に見回りにくるわ。おとなしく休んでいなさいね。早く体力を回復しないと大変だから」
抵抗するどころではなかった。気絶するようにマットに倒れ、眠ってしまった。
亡者たちがざわつきながら迎えてくれる夢を見た。
紳士淑女
まだ夢から醒めていないのではないか。
牢獄から引き出された。
見知らぬ中年の女に狭いシャワールームに押し込められて全身を洗われた。枷はつけたままだ。
ハーブの香りのする液体を塗られ、髪を整えて、そこにはわざとらしく花の飾りをつけられた。
急な階段を重い鎖を引きずりながら上がり、城の横にある小さなドアから内部に入った。
天井の高い広間。
「舞踏会もできるのよ」
そこに夫人が待っていた。あでやかな深紅のドレス。派手めに化粧をして、別人のように輝いていた。
見上げるとシャンデリア。吹き抜けの天井は白く輝き、随所に飾りの模様が浮かび上がっているが、すべて真っ白だった。
大きな窓が並んでいるようだが、黒いカーテンで閉ざされていた。
シャンデリアはよく見れば、LEDのようだった。古い外観だが、内部は時代に合わせて改修されている。
床は板張りで、磨き込まれていた。何百年も、ここでたくさんの男女が踊ったに違いない。ただ、今日はガランとしている。
「こっちに来て」
その向こうには、柱が何本もあり、間がすべてドアになっていて、いまは全開になっていた。
その向こうは食堂だ。広間に比べればこぢんまりとした細長い部屋。
長いテーブルが中央に置かれ、ホンモノのロウソクを立てた燭台と、皿などが並んでいる。お腹がすいてしまう。きっとご馳走が並ぶのだろうが、わたしは食べることは許されない。
「安里咲は、みなさんにご挨拶をかねて、全員に給仕をしてもらいます。粗相をすれば罰を受けることになるわよ」
男の声が天井に響く。足音がして、着飾った男女が腕を組んで入って来た。
「お客様がいらしたわ。お出迎えよ」
引っ張られ、入り口に立たされた。
「安里咲、本当ならおまえのような薄汚れた小娘は、こんな場所には入ることさえできないんだからね」
きついことを言われる。夫人が緊張している。
その男女は中年のようだが、目を隠すマスクをつけていた。そして夫人に挨拶をすると、なにか言葉をかわし、笑っている。
そしていきなりわたしの乳首を男がぎゅっとつまんだ。
「うっ」
怯えたわたしの顔がおもしろいらしい。
女はそけい部に、その長い爪を突きつけた。
「あなたのことを楽しみにしてきたって。お礼をしなさい。頭を下げるの」
夫人に命じられる。
わたしは彼らにお辞儀をした。満足してくれたらしく、係が待っている席に向かう。次々とこうして客がやってくる。若い客はほとんどいない。タキシード、ドレス。香水が部屋にあふれて、花畑のようだ。
みんながわたしの体を触ったり、叩いたり、つねったりしてから席につく。
あっという間に、三十人ほどの客が食卓についた。
マーコフがやってきた。小柄な女性をエスコートしている。白を基調としたドレスはスパンコールでキラキラと輝き、背中は大きくあいていた。盛り上がる髪。濃い化粧。
「安里咲」と彼女は日本語で言った。そしていきなり指をわたしの口に入れてきた。
「会いたかったわ」
珠緒だった。驚くほど大人びて、しばらく会わなかった間にいろいろな経験をしたらしいことがうかがえた。それはわたしとはまったく違う経験だろう。お金と暇にあかせて、マーコフたちと楽しい経験をたくさん作ってきたに違いない。
その代償に、少女の頃にあれほど輝いていたふっくらした頬を失ってしまった。同世代とは思えないほどやつれて見え、鋭い顎ときつい目は猛禽類を思わせた。
ネックレス、イヤリング。きらびやかに着飾り、すっかりレディを気取っている。
「これも運命ね」
珠緒は優雅にマーコフと席についた。
酷い。こんな目に遭わなければならないのか。この部屋で、裸なのはわたしだけ。そして体以外になにも持っていない人間も、わたしだけ。そして、彼らが興味を持っているのも、このわたしだけなのだ。
彼らが露骨に舌なめずりをするのは、漂ってきている動物系のスープの香りのせいばかりではない。
夫人が耳元に囁く。
「よかったわね。みなさん、安里咲に興奮させられているようだわ。がっかりさせないでね」
広間との境が給仕たちによって閉じられた。石作りの城の中にしては、温かみのある食堂。人々の会話は弾んでいる。なにを言っているのかわからないが、珠緒はマーコフを通じて物怖じすることなく、人々と話をしていた。こちらの生活が長いのだろうか。
あのとき、二人の申し出に従っていいようにされていたら、やっぱりここに連れ込まれたのだろうか。それとも、誰か別の哀れな女を迎える側にいただろうか。少なくとも、ここまで酷い目に遭うことはなかったのではないか。
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