二人の叔母・淫の血脈 第六章 標的はもう一人の叔母・知亜希 (4/5)
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第六章 標的はもう一人の叔母・知亜希
美津子という人妻を絶頂に導いたことで、紀彦は女を愛する技巧をかなり正確に把握した。
足どりも軽く北青山の我が家にたどり着いたのは、もう夜の十時をまわる頃だった。いつも持ち歩いているキーで玄関を開けた紀彦は、紺のスエードのハイヒールがあるのを見て目を輝かした。知亜希の靴だ。
実は地下鉄に乗っているとき、電車が赤坂にとまったら知亜希のマンションに行こうかと考えていたのである。明日は休みだし、彩子も家にいないから、思いっきり甘えるのも悪くない。知亜希は甘えられるのがうれしいのだということが、紀彦にもようやく理解できるようになった。
だが、家を一晩無人にすることのほうが気になって、仕方なく帰宅したのだ。そこに思いがけなく知亜希がいたから、うれしさもまたひとしおだった。
ところが、紀彦が帰ってきた音を聞きつけて玄関口まで出てきた知亜希は、酒でも飲んでいたらしく、赤い顔をしたうえに、ひどく機嫌が悪い。和江に電話で連絡した帰宅時間より三時間も遅れたことがご機嫌ななめの原困だとピーンときた紀彦は、「ただいま。部活の相談ごとが多かったんだ」
そう言うなり、外国映画のように、いきなり知亜希に抱きついた。
「叔母さんがいてくれたなんて、まるでぼくの気持ちが通じたみたい。電話もしないで赤坂へ行ったら、お互いが行き違いになったところだね」
外国人と結婚経験のある知亜希に対するこの先制攻撃は、たちまち効を奏した。
「あら……うちへ寄るつもりだったの?」
一人っきりの甥に甘い知亜希は、簡単に紀彦のペースに乗せられた。
「泊まりたかったんだ。一人じゃ淋しいもの……そうだ、叔母さんが泊まっていけばいい。ね。そうしよう。いいね。ぼく、決めたからね」
彩子がいるときなら泊まるのも気にならないが、留守なだけにかえってためらいがある。しかし、紀彦が望んだとなれば別だ。
知亜希がうなずきかけたそのとき、ニューデリーの彩子から国際電話が入った。
電話を最初にとった紀彦が、「知亜希叔母さんに泊まってもらうから、淋しくなんかないよ」としゃべっている。彩子がなんと返事をしているのか聞いてみたい誘惑と、知亜希は闘った。
「大丈夫だったら……ぼくが頼んだんだもの」
紀彦の口調から察するに、彩子は難色を示しているようである。
「ねえ、叔母さん。今夜は泊まっていってくれるよね」
電話でしゃべっていた紀彦が、いきなり知亜希を振りかえって大声をあげた。
「ええ、紀ちゃんがそうしてほしいなら、いいわよ」
わざと電話口に聞こえるように言って、紀彦から受話器を受けとった。
「彩子さん、私です。お仕事、大変ねえ……お聞きの通りなの。紀ちゃんが淋しがってるから泊まっていくわ。マンションに連れてってもいいんだけど、一軒家が無人なのもなんだから、こっちに泊まります。帰りは明後日なんですってねえ。なんなら明日も泊まることにするわ。こっちは心配しないでね」
知亜希はごく自然に、しかも一気に言ってから、また紀彦に電話を渡した。
「ま、そんなわけだからさ……うん……大丈夫だったら……じゃあね」
知亜希は、紀彦があっさりと電話を切ってしまったことがうれしかった。少なくとも紀彦は、現時点では自分と一緒にいるほうがうれしいのだと、知亜希は確信した。
「叔母さん、ブランデーを飲んでいたんだ」
テーブルの上のボトルとグラスを見て、紀彦は知亜希の顔に鼻面を突きつけ、小犬のようにクンクンと匂いを嗅いだ。
「そうよ。心配しているうちに、腹立たしくなったんですもの」
「ごめんね」
紀彦は頬をすり寄せた。そうすることで知亜希が歓ぶということを本能的に知っている。
だがそのとき、知亜希はうれしさとはもっと別のものを感じて激しく動揺した。紀彦から女の匂いが伝わってきたのだ。石鹸の匂いもほのかに混じっている。匂いについてはことのほか敏感な知亜希は、自分の嗅覚に絶対的な自信を持っている。
女と?……まさかそんな……。
「もう一度ごめんなさいと言って、ここにキスしたら許してあげる」
知亜希は目を閉じて、自分の頬を指差した。神経はピリピリしていた。
「ごめんなさい。もう怒らないで」
紀彦の軽いキスを受けながら、知亜希は見知らぬ女の影を鼻腔の粘膜ではっきりと感じとった。
間違いないわ。この子、女を抱いてきたばかりだわ……。
気持ちが乱れたが、顔にも態度にも出さなかった。
この子は私が思っているほど子供じゃない。もう大人の仲間入りをしている……。
それを認めるのはいやだったし、無性に淋しいけれど、認めないわけにはいかない現実だった。
知亜希は、ふっと自分の十代の頃を振りかえった。体育教師に憧れて熱く胸をときめかせたのは学生のときである。その頃、指先で快感を得る秘めやかな行為もおぼえた。二十一歳のとき、好きになった大学生に処女を捧げている。紀彦は今、同じ年代にさしかかっている。女を知っていても少しも不思議ではない。
いいえ、むしろそれが自然なのかもしれないわ……。
「ああ、いやだ……」
心のなかの思いが言葉になって出た。幸いにも紀彦は歯を磨いていて、そのひとりごとは聞かれずにすんだ。
「ねえ、もっと飲んでいいかしら? 泊まるつもりになったら、なんだか飲みたくなってしまったわ」
心のなかに漠然とひろがった暗雲を払いのけたい気持ちと、酔った勢いで紀彦の女関係を問いただしたい両方の気持ちから、知亜希は許可を求めるように紀彦を見つめた。
「もともとは叔母さんの家じゃないか。好きにすればいいよ」
紀彦のさりげない心づかいが、知亜希にはうれしくてならない。
「じゃあ、紀ちゃんもつきあってね」
おもねるように言ってしまうのは、もう紀彦が自分の生活の中心になってしまっているという意識の表われかもしれない。知亜希自身、それでいいと思っている。それに、養子縁組の具体的な話を進める、いいチャンスのような気もした。彩子との関係もあれこれと聞いてみたい。彩子も、自分と同じ後見人という立場から一歩踏みこんで、やはり養子縁組のようなことを考えているかもしれないという危惧を知亜希は抱いていた。
「うん。ぼく、つきあってあげる」
「うれしいわ。じゃあワインね」
「ううん、叔母さんと同じものがいいな」
「だめよ、ブランデーなんか……」
そうは言ってみたものの、ちょっぴり飲ませてみたい気がする。口が軽くなって、案外スラスラとなんでもしゃべるかもしれない。しかし、叔母という監督者の立場にある以上、それは口に出せない。
「だって、叔母さんが飲んでる姿、とてもサマになっているんだもの。ね、いいでしょう、少しだけなら。こう見えても、ぼくって案外大人なんだから」
「…………」
知亜希はそのひとことで胸が締めつけられるような圧迫感を覚えた。
何気なく言った「大人だから」という言葉が、大きな痛みをともないながら叔母の心に突き刺さったことを紀彦は知らない。
「いいわ、お飲みなさい」
何もかも白状させてやるわ……。
知亜希の心は、そう変わっていた。
紀彦はとりたててブランデーを飲みたいと思ったわけではない。遅い時間まで一人でポツンと待っていた知亜希に同情し、叔母と同じようにしたら歓んでくれるだろうと、心のなかで計算していた。それにもうひとつ、美津子というれっきとした人妻を本気にさせ、激しく乱れさせることができた大人の男の歓びを、大人の飲みものであるブランデーで祝いたい気分だった。
紀彦は、知亜希が琥珀色の液体をグラスに注ぐ様子を興味深く見守っていた。美しい指に、冷たい感じのする宝石のような爪。それはかつて異国の男を愛した手である。その美しい手を持つ女性が、自分を養子縁組することを望んでいる。
こんな若い人が母親になってくれるなんて、という思いとともに、美津子のような欲望の対象となり得る存在ではないか、というよこしまな感情が紀彦の心のなかに芽生えていた。彩子というもう一人の若い叔母を自由にすることができた自信が、二十一歳の少年の心を邪悪な方向に向けさせたといってよかった。
紀彦は目の前の知亜希と、さっきの美津子を重ね合わせた。美津子は「半年も夫に抱かれていないから、淋しくてたまらない」と正直に告白し、「ときにはオナニーによって孤閨のつらさをまぎらわす」とも言っていた。
知亜希は結婚の経験がある。しかも相手はアメリカ人だ。紀彦は外人というだけで、セックスも異常に強いのではないかと思ってしまう。独り身の現在、知亜希も美津子と同じように淋しさを感じているのかもしれない。
とすると……。
知亜希がオナニーするシーンを想像した紀彦は、本人を目の前にしてにわかに息苦しさを覚えた。
「どうしたの? 赤い顔して……やっぱりあなたにブランデーは無理なのよ」
知亜希はやさしくたしなめて、グラスを取りあげようとした。
「大丈夫。平気だよ」
紀彦はグラスに残ったブランデーをひと息に胃袋のなかに流しこんだ。喉と胃がカーッと焼けたように熱い。
知亜希は呆れたようにそれを見ていた。
紀彦はすぐにミネラルウォーターを瓶ごと口につけ、ごくごくと音をたてて飲んだ。確かにブランデーはきつかった。紀彦は焼けつくような体の熱さと闘った。
「無茶するからよ」
「そうだね。でも、これでひとつ利口になったよ。アルコールを馬鹿にしちゃいけないということがわかった……うーっ、苦しい……」
「大丈夫?」
「横になりたい」
知亜希は微笑した。こういうところは、やはりまだ子供だと思う。
「そうしたほうがいいわ。寝なさい」
「いやだよ、一人じゃ」
紀彦はそう言ってから、ハッとあわてた。つい本心が口を衝いてでてしまった。
だが、知亜希はとりたてて気にとめる様子もない。
「いいわ。私がついていてあげる」
そう言って紀彦の手をとり、立ちあがった。
紀彦は叔母にもたれかかりながら階段を昇った。甘い匂いが鼻腔をくすぐる。ふんわりと温かいぬくもりが、衣服を通してやさしく伝わってくる。急激に酔いがまわるのを紀彦ははっきりと自覚した。
部屋へ入ると、乱暴に着ているものを脱ぎ捨てた。しかし、ズボンが足もとに絡まって、なかなか思うように脱げない。ドタンとベッドにひっくりかえって両脚をバタバタさせると、知亜希が笑いながらズボンを引き抜いた。
パンツと半袖シャツのまま布団にもぐりこんだ。知亜希がパジャマを枕もとに運んでくれた。
「風邪ひくといけないから、ちゃんと着なさい」
「面倒くさいよ。それよりも、ぼくが眠るまでここにいて」
「まあ、赤ん坊みたいね」
知亜希が勉強机の椅子をベッドサイドに引いて、そこに座った。
「ねえ、叔母さん……」
「なあに?」
知亜希はのぞきこむように顔を近づけた。
「昔、こんなこと、よくあったような気がする」
知亜希は「そうねえ」と大きくうなずいた。
知亜希は兄、つまり紀彦の父が結婚したとき、まだ学生だった。紀彦が生まれ、ものごころがつくようになってから、よく子守役をしたものだ。そう言われれば、紀彦が二、二十一歳の頃、確かにこんなふうにして寝かせつけたことがあった。
「ねえ、ただそこに座ってもつまんないでしょう。ここで飲んだら? ぼく、それを見ながら自然と眠りたいな」
知亜希が出ていくと、紀彦は自分の酔いの深さがどの程度のものか推し測った。ふわっといい気持ちになっている。不快感はなかった。知亜希がかたわらにいてくれるということで、すごく安心した気分でいられる。彩子と一緒のときには感じられない安堵感である。
知亜希は簡単なおつまみとブランデーをお盆にのせて戻ってきた。華やかなネグリジェに着替えている。
「あれ……それ、どうしたの?」
「このネグリジェでしょう。お嫁に行く前に着ていたのを引っぱりだしたの。クリーニングから戻ってきたまま、袋に入れて保管してあったわ。香水かけてきたの、ほら」
知亜希が袖口を紀彦の顔前に突きつけると、そこからプーンと柑橘系の匂いが漂った。
「これ、とても好きなの」
「見たことあるよ。一緒にお風呂へ入ったあとに、よく着てたじゃないか」
「そうよ。よく覚えているわねえ」
「叔母さんは物持ちがいいんだなァ」
「そうよ、ウフフ」
「ねえ、あの部屋で寝るの?」
あの部屋とは、結婚したあとも独身時代そのままに残っている、知亜希のかつての自室である。亡くなった紀彦の父、つまり知亜希の兄の意向で、手をつけずに残されていた。
「そのつもりよ」
「だめ!」
「え
!?
」
「ここで寝てよ」
「ひとつしかベッドがないじゃないの」
「ここだよ」
紀彦は自分の横をパンパンと叩いた。頭のなかは熱い。酔って熱いのではなかった。
「いいけれど……私は寝相が悪いから、落ちてしまうわ」
知亜希はさりげなく受けとめたが、紀彦の真意がわからない。ただ単純に酔った勢いで言っているのか、あるいは何か下心があってのことなのか、判断に迷った。しかし、下心があるなどと考える自分も、どうかしているような気がした。
「だめ。ここに寝て……いいね」
「わかったわ……じゃ、私は失礼して」
知亜希はにこやかに紀彦を見おろしながら、舐めるようにブランデーを口に含んだ。
紀彦が手を伸ばして、知亜希の膝の上に置いた。知亜希はその手に自分の手を重ねた。紀彦の手は女の手ほどやさしくはない。といって、男を感じさせるゴツゴツした手でもない。中性の手のように知亜希には思えた。
しかし……。
知亜希の脳裏に、浴室での大胆な紀彦の行為が甦った。あの行為は、紀彦が男であることを証明する以外の何ものでもない。握りしめたペニスや、白濁した樹液が荒々しく放物線を描いて宙に舞ったのは、男であることのなによりの証拠ではないか。
「叔母さんの手、冷たくて気持ちいいな」
紀彦に手を握りしめられた知亜希は、その手が猛々しいペニスを握りしめていたのだと思うと、全身の血がにわかにざわめくのを感じた。
「さあ、ゆっくり眠りなさい」
片手をゆだねたまま、ブランデーをまた口に含む。
紀彦は目を閉じた。体がフワフワと宙に浮いているようである。あわてて目を開け、部屋のなかをぐるりと見まわした。それがあまりも突然だったので、知亜希がびっくりしたようにのぞきこんだ。
「目がまわるってほどじゃないけど、なんだか体が浮いてるみたいだ」
「変な飲み方するからよ。初めてなんでしょ?」
彩子と二人きりのときもあんな飲み方をするのかどうか、それが知亜希の心の隅に引っかかっていた。
「うん。叔母さんと一緒だから、つい安心しちゃってさ」
そういう甘えた言葉に知亜希は弱い。
「彩子さんと飲んだりすること、あるの?」
「ときどきね」
「だめよ。成人したばかりなんだから」
自分のことを棚にあげていい気なものだと、知亜希は思った。
「ワインだけだよ。それも甘ったるいやつ」
「彩子さんは仕事柄、お酒が強いものねえ」
「そうでもないんだ、ぼくの前でだらしなく寝ちゃうことだってあるもの」
まあ、ネグリジェ姿で?……
そう聞きたいところだが、ぐっとこらえた。
「でも、あの人はそんなにだらしなくはないでしょう?」
つとめてさりげなく質問を重ねる。
「ところが、そうでもないのさ。やっぱり自分の家だと思うと安心するみたい。酔い方も外よりずっと早いって言ってたよ。ベッドに運んだことだってあるんだから」
その先のことを言ったら知亜希はどんなに驚くだろうかと、紀彦は思った。
「彩子さんは、あなたに甘いんじゃない?」
「ううん、そんなことないさ。知亜希叔母さんのほうがずっと甘いよ。彩子さんにこんなことしたら、怒られると思うな……きっと」
紀彦は、握った知亜希の手に頬ずりをした。
「さあ、もう寝なさい。邪魔なら出ていくから」
「だめだったら……」
「でも、こんなふうにしてたら、全然眠れないでしょうに」
「じゃ、ここに入って。すぐ眠るから」
あまりに自然に言われたので、知亜希にこだわっている時間がなかった。
「さあ」
「本当に甘えん坊なんだから……」
知亜希は明かりをフロアスタンドの豆電球に切り換えながら、自分も酔っていると思った。紀彦が体をずらしたベッドに身を横たえると、紀彦の手が抱きかかえるように伸びた。
「なんだかふんわりして、いい気持ち……」
頬をすり寄せるのまでは許せるわ。でも、これからとんでもないことが起きるのではないかしら……。
そんな不安が知亜希の胸のなかをよぎった。
しかし、紀彦はすぐにスヤスヤと軽い寝息をたてはじめた。呆気ないくらい何もない。シングルベッドに二人では窮屈だが、少年の匂いは決して悪いものではなかった。十数年前、むずかる紀彦にこんなふうに添い寝したという記憶が甦る。
紀彦の寝顔はあどけない。以前と少しも変わらない。体が大きくなっただけのような気がする。しかし、それは表面上のことにすぎない。内に秘めた欲望は、すべて大人と変わりない。また、いつかの浴室での紀彦の大胆な行為が思いだされた。湿った曇りガラスの向こうに見たものは、性に悩む少年の生々しい姿であった。
離婚したアメリカ人の夫はきわめてエネルギッシュな男性で、知亜希が生理のときも挑んでくるほどだった。
「若い頃は毎日だったよ」
夫はそう言っていたものだ
もしもそれが本当なら、いま紀彦は性欲のもっとも激しい時期にいることになる。子供を持った経験もないし、まだ充分に若い知亜希には、十代の男の子の性というものがよくわからない。美容院で手にとる週刊誌や毎日のニュースなどで推察するしかない。
こんな可愛い顔をして……。
知亜希は紀彦に同情した。
二人で重なるように寝たことで布団のなかの温度が高くなったのか、紀彦が片足を跳ねあげて掛布団を蹴った。セントラルヒーティング方式なので、部屋のなかは温かい。
しようのない子……。
知亜希は半身を起こし、ずり落ちそうになった掛布団を引きあげようと、紀彦の体の上を乗り越えるようにして手を伸ばした。紀彦の体が目の下にある。何気なく視線を落とした知亜希は、思わず声をあげそうになった。
紀彦は知亜希が用意したパジャマを着ずに、半袖のシャツとパンツだけで布団に入った。掛布団を跳ねのけたので、肌の大部分が露出している。知亜希は、パンツの中心部がとてつもなく盛りあがっているのに気づいて仰天した。
それは完全な勃起現象である。紀彦の寝顔を見た。完全に寝入っている。全身の血が妖しく騒ぎはじめた。
私は叔母じゃないの……。
知亜希は自らを叱咤して、あわてて掛布団を引きあげた。だが、それを紀彦と自分の上にかける前に、まるで恐ろしいものを見るように、再びパンツの上に視線を注がずにはいられなかった。幼児と変わらぬ寝顔をしていながら、突き立ったものの内部には、性に対する苦しみがいっぱいつまっているのだ。
掛布団をそっとかけたものの、知亜希は落ち着かなかった。紀彦の大人の一面を間近に見たことによって、自分の心の奥底に巣食っていた、男に対する強い欲求がのそりと頭をもたげたのは確かだった。
私だってまだ三十一歳だもの……。
知亜希は自分がまだ真の女盛りの入口にいると思っていた。アメリカ人の夫によって教えこまれた肉の悦びの中断が、離婚後一カ月もしないうちに、いかに苦しいものかと知ったとき、知亜希は女学生時代の秘めやかな行為を復活させていた。しかし、一度ならず男と肉体をひとつにする快楽を味わった女に、指との戯れはあまりにも味気ないものだった。ひそかに取り寄せた大人向けの性具も、真の満足を得るには不充分であった。何不自由なく暮らしていながら、ただひとつ他人に言えない悩みは、セックスに関することだけだった。
隣りに肉茎を荒々しく勃起させた甥が深い眠りについている。
これが夫や愛人ならば、誰に遠慮することもなくむしゃぶりついていけるのに……。
紀彦に対する同情と同じように、知亜希は自身に憐れみを覚えた。
女体の中心がゆっくりと濡れだしていた。熱い疼きが、女の構造をそそのかすように湧きあがる。ネグリジェの上から股間を撫でた。肉芽が大きくせりだしているのが、ネグリジェとパンティを通してもはっきりとわかる。自分の体が〝とてもしたがっている〟状態にあるのを意識することほど、つらく苦しいときはない。
知亜希はあわてて割れ目の上から手を遠ざけた。泣きだしてしまいたいほどの苦しみを押し殺して、無理に目を閉じた。なかなか寝つかれない。だが、眠ることでしか今の苦しみから逃避はできない。
またセックスの夢を見るかもしれないわ……。
いや、見る公算が大きいと思いながら、「羊が一匹……羊が二匹……」と数えはじめた。
いっそのこと、夢のなかでもいいから男に抱かれたい!……女だけが知る、あの硬くて太いペニスを実感をしたい!……
知亜希の寝息が聞こえるようになったのは、それから十数分もたってからだった。
知亜希は、その望み通りの夢を見た。ストーリー性のない唐突な夢だった。男に胸を揉みしだかれながら、ディープキスをしている。男が誰なのか、顔が隠れていてわからない。わからなくてもよい状況になっていた。なにしろ、とても素敵な気分なのだ。唇を吸われ、胸の隆起をやさしく揉まれると、下半身の恥ずかしい割れ目に強烈な疼きが走った。相手の男が電気スタンドを手にしてずりさがった。股間へじかに光があてられた。恥ずかしくてたまらなかったが、見られるうれしさもあった。
「すっごく濡れてるね」
男はそう言った。どこかで聞いたことのある声だ。
「それに、とても綺麗なおま×こだ」
女性器の俗称をズバリと言われた知亜希は、愛液を噴きこぼしながら男を見た。男が顔をあげた。紀彦だった。
「ひーっ!」
喉の奥で悲鳴をあげたとき、現実に引き戻された。
ああ、夢だったんだわ……。
頭がまだボーッとしている。瞼を開こうとしたが重い。
変だわ……。
胸も重くて息苦しい。まだ夢のつづきかと思った。
誰かが乳房を揉んでいる。ハッとして目を開けた。髪の毛が目の前で揺れていた。
「誰?」という言葉を呑みこんだ。紀彦以外に考えられない。あわててまた目を閉じた。このまま起きだして、突き離すことは簡単である。だが、それでは紀彦に恥をかかせるのではないかという気がした。これだけで終わるなら、このまま眠ったふりをして、知らぬ顔をしていてもいいと考え直した。
それに、知亜希自身の体にも微妙な変化が起きていた。股間は火照って、夢のなかのように濡れていたし、乳房を吸われたことで体内の血が快く渦を巻いていた。突き離してしまうには、あまりにも惜しい感覚だった。
この子のためだわ………。
そう思うと、気が楽になった。自分のためとは思いたくなかった。知亜希は寝入ったふりをつづけた。
紀彦のタッチはきわめてデリケートだった。知亜希を起こしたくないからだろう、触れるような触れないような曖昧さである。それが、かえって知亜希の血を疼かせた。
ああ……もっと強くして!……
心のなかで叫んでいた。
そのやるせなさが、ともすると体の動きになって表われた。ついつい胸を反りかえらせたり、両脚を踏んばるように力をこめてしまう。
その動きを紀彦に察知されたくない。あくまでも眠ったままでいることにしなくてはならない。もし紀彦に気づいていることを知られてしまえば、叔母として凛とした態度をとらなければならなくなる。それは紀彦に恥をかかせるし、自分との間に埋めることのできない溝を作ってしまう。それだけは絶対に避けたかった。
呼吸ひとつするにも、知亜希は十二分に気配りをした。しかし、それがいつまでつづけられるか、まったく自信がない。紀彦が簡単にあきらめてくれるとは思えない。さりげなく寝がえりを打って、目を覚ます前ぶれだと紀彦に教えてやるのも、ひとつの方法かと思った。
そのとき、乳房をやさしく撫でていた紀彦が知亜希の手を取った。
何をするつもりかしら?……
息をひそめて紀彦の出方を待った。いきなりペニスに押しつけられた。パンツの上からだったが、そんなものはないに等しい。手を引くわけにもいかなかった。そうすれば、起きているということがわかってしまうからである。
胸が張り裂けそうに高鳴った。久しぶりの充実した肉柱の感触は、三十女の生臭い性欲を少なからず刺激した。
仕方がないわ……。
知亜希はあくまでも眠ったふりを通すことにした。
すぐに手はパンツのなかに導かれた。今度こそ、正真正銘の肉棒が手に触れた。紀彦はただ押しつけるだけではなく、知亜希の五本の指をひろげて、肉茎をなんとか握らせようと試みている。
心臓の高鳴りを、紀彦に悟られてしまわないかしら……。
知亜希は必死で動揺を隠そうとした。しかし、それには限界があった。指のほうで勝手にこわばった動きをしてしまう。仕方なしに、「うーん……」と起きだしそうな気配を見せると、紀彦はあわてて手をパンツの外に押し戻した。
ざらついた恥毛や脈打つ肉茎の感覚が、まだはっきりとてのひらに残っていた。どこまでエスカレートするのか、知亜希は心配でたまらない。
息をひそめていた紀彦が、今度はネグリジェの胸もとをそっと開いた。寝るときはいつもブラジャーをはずしているから、乳房はじかに紀彦の視線にさらされているはずである。フロアスタンドの明かりだからいいようなものの、これが煌々とした室内灯なら、知亜希の動揺は甥によって見破られていたかもしれない。
乳房にふんわりと生温かい息がかかったと思ったら、すぐに乳首の先が軽いタッチで掃かれた。それが舌先によるものか、指先なのかよくわからなかったが、チロッと濡れた感じがしたところから判断すると、どうやら舌によって愛撫されたらしい。
感じたら困るわ……。
しかし、体はそんな思惑など無視して、正直に反応した。今度は明らかに舌が乳首をねぶった。そのやり方の巧妙さに、知亜希は大いに驚き、そして動揺した。舌先がチロチロと乳首の頂きを舐めたかと思うと、今度は乳暈に移動する。
ああ、もっと……。
そんなはしたない感覚が芽生えそうになった矢先、いきなり舌の分厚いざらつきの部分で乳首全体がゾロリと舐めあげられた。なんとか声は噛み殺したものの、体がピクンッと跳ねていた。
舌が乳首から遠ざかった。ホッとするとともに、中断された快感を思うと、やるせなさがつのった。紀彦はまた様子をうかがっているらしく、しばらくは何も仕掛けてこない。いっそこのまま終わってくれれば、何事も起こらなかった、知らなかったですむ。知亜希はやはり年上の女だった。このまま、すべてが一夜の夢で終わることを望んだ。
けれどもその望みはすぐに砕かれた。紀彦の唇がやさしく、しかも的確に乳首を挟んだ。音をたてないで吸引する。
乳首が急速に膨らむのを、知亜希は羞恥と混乱のなかではっきりと自覚した。すべての神経は目覚め、それ以上の愛技を求めていたが、かろうじてそれを抑えていた。
紀彦は片方の乳首を唇で、もう一方を指先で膨張させると、ようやくそこから顔をあげて、ひと息ついた。そして、知亜希は「綺麗だなァ」という甥のつぶやきを聞いた。それは、危機に立った女の心をホッとさせる響きを持っていた。
これだけなら、知らない顔をしていようかしら……。
そう決めると、今までの緊張感が消えて、幼児に乳を与える母親のようなやさしい気持ちになっていった。
だが、次に起こったことは、まったく予想もつかない青天の霹靂ともいえるものだった。
紀彦の手がいきなりネグリジェの前を割ったかと思うと、パンティの上から割れ目をサーッと撫でたのだ。
腰から下がブルッと震えた。それはショックからではなく、偶然か故意か、紀彦の中指がパンティ越しに敏感なクリトリスを掃いたからであった。紀彦の愛撫で、女体はひどく感じやすくなっている。女芯は快液によって明らかに潤っていた。クリトリスも、包皮から芽を出すほど感覚が鋭くなっていたとしても不思議ではない。そこが不意討ち同然に撫でられたのだから、平静でいられるわけがなかった。
それでも知亜希は無言で通した。いや、あまりに色々なことが唐突に起こったので、対処する方法を見失ってしまったといったほうが適切だろう。ただ混乱するばかりだった。
とうとう紀彦の指がパンティの縁にかけられた。知亜希は寝がえりを打って、その手から逃れようとした。しかし、手は強引にパンティを引きおろそうとする。
「何してるの
!?
」
ここまできては、狸寝入りを決めこむわけにはいかない。知亜希はたった今目覚めたような声を出して、紀彦の手首をつかんだ。
紀彦は無言のまま力で対抗した。
「やめなさい……どうしたのよ、紀ちゃん……夢でも見てるんじゃないの」
「叔母さん、さっきから起きてたんだろ」
「そんな……」
狼狽して、うまく言葉が出ない。
「もう濡れてるんじゃないの?」
いきなりの追い討ちに、知亜希はますますあわてた。
「やめなさいッ!」
混乱が怒りの声となった。だが紀彦は強引だった。男の子だといっても、もう二十一歳である。本気になれば、知亜希がいくら踏んばっても勝てる相手ではない。何度も哀願するように、「やめて」と訴えた。
しかし、紀彦は黙々と叔母を追いつめていった。パンティが無惨に足首から引き抜かれた。絶望的な知亜希の股間に、強引に少年の手が割りこんだ。きつく閉じた両腿の間に指が押しこまれると、必然的にクリトリスに接触する。火花が飛ぶような疼きが走り、自然と両脚にこめたはずの力がゆるんだ。すかさずてのひら全体がスッポリと女陰をおおい、ふわふわと揉んだ。
「だめ……いけないわ……」
知亜希の声は次第に、はかなくなっていく。
「こんなに濡れてるじゃないか。気分出してたくせに」
「ああ、ひどい……そんな言い方、やめて!」
「ねえ、ぼくのも触って。さっきみたいに握ってよ」
無理やりペニスを握らせたとき、紀彦はすでに自分が目覚めていたのを知っていたのだ、と知亜希は悟った。
「いいわ……してあげる。紀ちゃんのを握ってあげるから、私から手をどけなさい」
紀彦の手は呆気ないくらい素直に後退した。知亜希はそそくさとパンティを身に着けた。紀彦は目を閉じたまま、屹立した肉棒を剥きだしにしている。
この部屋から逃げだすことはできても、それから先となると、捕まってしまうのは目に見えている。
それならいっそ開き直って……。
知亜希はベッドに腰かけて、あらためて怒張を見つめた。いかにも硬そうな肉棒が、下腹と平行するようにそそり立って、ドックンドックンと脈打っている。半分ほど剥けた亀頭が、まとわりついた包皮に締めつけられて、見るからに痛そうだった。
「早く握ってよ」
「え、ええ」
手を差しのべるとき、知亜希の心のなかでもう一人の知亜希が、本当は、紀彦よりあなたのほうがそうしたいくせに……。
そう囁くのを聞いたように思った。
五本の指をひくつく肉茎に絡ませると、そこからたぎるような熱さと、少年の欲望がひしひしと伝わった。自分の動揺を紀彦に悟られまいと、知亜希は何度も心のなかで、「落ち着いて」と言い聞かせた。
紀彦がもどかしそうに腰を振った。
「動かして……手を動かして」
知亜希は、生理中に夫が手淫を強要したことを思いだした。しかし、「どう動かしたらいいの?」と、とぼけた。
「こうやって……」
知亜希の手に紀彦の手が重なり、リズミカルに肉棒をこすりたてた。肉棒を包んだ表皮は、驚くほどよく伸び縮みする。紀彦の手が離れても、知亜希の手はゆるゆると動きつづけた。
「ああっ……」
次第に紀彦の呼吸がせわしなくなった。ペニスが頂点に達したとき何が起こるか、知亜希はよく知っている。胸の動悸が早鐘を打つように速まった。
結婚していた当時、アメリカ人の夫は知亜希がスペルマを飲むことを望み、その通りにするとすごく歓んだものだ。あの独特の強い匂いが口のなかに鮮烈に甦った。
「ああ、気持ちいいよォ……」
紀彦が女の子のように身悶えると、もっとよくしてあげたいという、母性本能にも似た感情が知亜希の内部に湧いた。それは、もうここまできてしまったのだからという、自己弁護の気持ちに通ずるものがあった。
知亜希はあたりに視線を移した。脱ぎ捨てられた紀彦のパンツを手にすると、亀頭の上にかぶせた。ほとんど同時に、握っていたペニスが激しく痙攣した。パンツのなかに衝撃が走り、じんわりと生温かいものがにじんで、栗の花の匂いがツーンと鼻をついた。
思わず包皮を根元にまで押しさげた。肉棒は何度も弾みながら、しゃくりあげるように震動し、その都度、パンツに染みでるヌルヌルの液の量が多くなった。
紀彦の波打つ下腹を見ているうちに、知亜希は女であることを強く意識した。太腿の付け根の部分が熱いもので溢れ、パンティが糊づけされたように股間の割れ目に食いこんでいるのが、見ないでもわかった。
「気持ちよかったよ」
喘ぐように紀彦が言う。
「よかったわね。さあ、おしまいにしましょう」
知亜希はそう言って立ちあがった。おおっていたパンツから解放された肉棒は半立ち状態で、まだ未練げに白い残滓を吐きつづけている。急いでティッシュボックスから紙を取りだしてそこにあてがうと、紀彦が手首を押さえた。決して強い力ではない。
「どうしたの?」
やさしく顔を見ると、そのまま体を引き寄せようとする。知亜希の体は紀彦の上におおいかぶさるように接近した。二人の顔が間近に向き合った。
「気持ちよかったんだ」
上気した紀彦の表情は、こうやって見るとやはりまだまだ子供である。
「もうこんなことはおしまいよ」
たしなめるように言ってはみたものの、知亜希は自分のその言葉に疑念を抱かずにはいられなかった。
これで終わるの?……一度禁断の園に足を踏み入れた者が、果たしてそこから抜けだせるかしら?……
性の果実のおいしさは、当の知亜希がいちばんよく知っていた。アメリカ人の夫とは性格上の行き違いから別れる羽目となったが、彼によって開発された肉体は、あのエネルギッシュでテクニカルな愛撫を忘れてはいなかった。そんな状態で、大人になりかけの甥から刺激的な行為を強要されたのだから、熟れ盛りの肉体が反応しないわけがない。
いけないわ……こんなことはいけないのよ……。
そう思いながらも、知亜希の体は熱く燃えあがり、女肉はあまりにも素直に多量の液を湧出させて蠢いていた。
「叔母さん、ごめんね。変なことさせちゃって」
「いいわよ。もう終わったことだから」
「とてもしたくてたまらなかったんだもの」
「男の子だもの、時には、そういうこともあるわ」
そう答えた知亜希に、すかさず紀彦が言った。
「叔母さんもしたい時、あるの?」
二人の間に、今ほどきわどい会話が交わされたことはなかった。しかもいきなりだったので、知亜希は大いに動揺し、同時に頬がカーッと火照るのを感じた。
「ねえ、どうなの」
澄んだ目で見つめられると、動揺はさらに大きくなった。
「それは……女にそんなことを聞くもんじゃないわ」
事実を言ってしまったら、どんどんエスカレートしていくようで怖い。だから、さりげなくかわした。
「そう……彩子さんは教えてくれたのにな」
あらぬほうを向いて、紀彦は何気なくつぶやいた。そういう言い方が、知亜希にどんな効果をもたらすか、知りすぎるほど知っている紀彦である。
「まさか
!?
……そんなことを、彩子さんが?」
知亜希は後頭部をハンマーで殴られたようなショックを受けた。二人の間で、そんなに淫らな、大人の恋人同士のような会話が交わされているなんて、それはどう考えても正常ではない。
「だって、本当だもの」
「本当に、紀ちゃん、そんなことを聞いたの?」
知亜希は自分のほうからおおいかぶさるように身を乗りだしていた。
「女の人って、ぼくみたいに、したくなることもあるのかなあって思ったからね」
知亜希の喉がゴクリと鳴った。自分が取り乱す寸前であることをよく知っていた。だから、できるだけ冷静になるんだと何度も自分に言い聞かせ、はやる気持ちを必死でコントロールした。
「で?……彩子さんは……その……ちゃんと答えてくれたの?」
汚らわしいと思いつつも、聞かずにはいられなかった。
「笑ってた」
「それだけ? 教えてくれたんでしょう?」
自分から断定していた。
「うん……女も男と同じよって……」
「そう言ったのね」
「健康な人間なら、大人になればセックスに興味を持つのは当然だとも言っていた」
「あなたが聞いたのは……その……したいかどうかってことじゃないの? そのことに彩子さんはなんて答えたの?」
言ったあとで、知亜希は自分がひどく急きこんでいることに気づいて、思わず顔を赤らめた。紀彦がまともに見つめている。何か言うのかと思って紀彦の顔を見かえすと、握っていた知亜希の手がいきなり硬いペニスに押しつけられた。
「また、したくなっちゃった」
回復力の早さに仰天するよりも、むしろ呆然とした。
「だめよ。体によくないわ」
咄嗟に口を衝いてでた言葉は弱々しく、また説得力もなかった。力強い脈動が、何かを急かすように手に伝わってくる。
顔を見られるのが恥ずかしくて、知亜希があらぬほうに視線を向けると、紀彦がのっそりと起きあがった。いきなり抱きすくめられ、少年とも思えぬ力でベッドに押し倒された。
「ぼく、叔母さんとセックスしたい」
硬いペニスが、ネグリジェの上から女の魅力的な丘に力強く押しつけられる。
「ああ、なんてことを!」
思いがけない事態の進展に、知亜希は悲鳴をあげて抗議した。
「彩子さんは……」
紀彦の言葉は、二度目の悲鳴でさえぎられた。
「やめてッ! あの人のことは聞きたくないわ……どきなさい! どいてッ!!」
「いやだ。叔母さんとしたい……彩子さんより知亜希叔母さんのほうがずっと好きだ」
「何を言うの!」
しかし、知亜希の抵抗は、その言葉を耳にした途端に急激に弱まった。日記の文字が頭のなかを飛び交い、彩子の体の上で狂喜する紀彦の姿が浮かんでは消えた。
体を押しつけて知亜希の動きを封じながら、紀彦の手がネグリジェの前をかき分けて、パンティまで侵入した。その手際のよさに、ひょっとすると日記の内容は作り話かもしれないという、はかない希望は無惨に打ち砕かれた。
膝をこじ入れられたとき、太腿に力をこめると、寄り合わさった中心部からトロリとした愛液が絞りだされるように外に溢れ、パンティにじんわりと染みた。
ああ、私ったらなんて恥ずかしい反応を……。
「いやッ……やめなさい
!!
」
その声は半分は紀彦に、半分は知亜希自身に向けられたものだった。
少年の目覚めた欲望は、そんな生半可な叔母の声で萎縮するほどやわなものではなかった。それは知亜希にもわかっていたが、そう叫ぶ以外に自分の現状を正当化する手段はなかった。
「叔母さんだってしたいくせに」
「ああ、ひどい!」
知亜希は自分の嘘に気づいて愕然とした。まさしく紀彦の指摘した通りなのだ。
紀彦の手が、知亜希も望んでいることを如実に示す割れ目をふさいだ。染み通るような快感が、自己の欲望に溺れんとする生臭い三十女の全身に生じた。
「ああっ……あーっ……」
口からもれるのは抗議の声でなく、明らかに快楽に痺れる悦びの声であった。
彩子とはひと味もふた味も違った知亜希の反応は、紀彦にもまた大きな歓びをもたらした。彩子との幾度かの実戦経験で、自分の欲望の放出と同様に、女に快楽を与えることの楽しさを知った紀彦は、ワクワクする気持ちを隠しながら、割れ目の表面をおおった五本の指のうちの一本を思いきって女陰にズブッと差しこんだ。なめらかな愛液の助けを借りて、中指はざらつく膣壁をこすった。
知亜希は、そのときにあげた自分の声の大きさに驚いた。恥ずかしさは、むしろ快感の一部となって、複雑に渦巻く感情を決定的にひとつの方向に向けさせた。
もうここまで来てしまったのだから……。
力では紀彦に勝てるわけがない。それに、体は悦びを得るための万全の準備をすっかり整えていた。
だが、どんな事態に陥っても、紀彦に協力することは許されない立場にあった。知亜希は女の弱さ、はかなさを何倍にも増幅して演じた。
力尽きて倒れる……そういう役柄を演じればいいんだわ……。
「ああ、やめて……いけないことよ……叔母さんをいじめないで……」
自分が被害者であることを必死で強調しているうちに、演技ではなく、本当に被害者となったような気がした。ネグリジェが大きく胸もとまでまくりあげられ、乳房が少年の目にさらされると、本物の涙が頬を伝わった。それなのに、体は女だけが知っているあの金色の世界を求めて震えた。
叔母の涙を見たときには、さすがに紀彦も自分が残酷な征服者となることにためらいを覚えた。だがそれも、すでに極限にまで盛りあがっている性的欲望の前には無力であった。それに中指は熱い女の秘肉に揉まれて、ふやけたようになっていた。
こんなに濡れているんだから、気持ちよくないなんてことはないはずだ……。
確信があった。だから、頬の涙を唇でふき取りながら、試しに中指を何度か抜き差しした。
「あうっ……アーン……ハァ……」
いかにも心地よさそうな叔母の声が耳もとで聞こえたばかりでなく、腰が跳ねていやらしくうねった。もうためらいはそれですべて消えた。
「ごめんね、知亜希叔母さん……ぼくを許してね」
少年は叔母に対する心づかいからそう囁きかけ、中腰になると、勢いよくパンティを剥ぎ取った。
知亜希の内部に萌す抗議の芽を一瞬につぶすこのやり方は、確かに効を奏した。右手で陰茎を支えた紀彦は、美しい獲物を見おろした。
叔母だから許してくれるんだ……。
甘い感傷に浸りながら、紀彦は膨張した肉棒を腫れぼったい粘膜にあてがった。知亜希の歪んだ表情が曖昧に左右に揺れ、髪の毛から明らかに生臭い女の匂いがプーンと立ち昇った。亀頭を押しつけると、迎合するように陰唇が左右に割れ、外側にまくれかえったゴム膜のような裾がペニスを包みこんだ。
「ああ、とうとう……」
知亜希は無意識のうちに体を揺さぶった。紀彦の目には、切なさに耐えきれずに腰を振りたてたように映った。いずれにしても、素敵な眺めに違いなかった。
「ああ、もうたまんないよ」
必要以上に声を震わせながら腰を押し進めると、すぐに幹の半分ほどが埋まり、二人の粘膜の合わせ目から、じんわりと媚液がにじみだした。
知亜希は、ようやく訪れたセクシーな感覚に我れを忘れかけた。危うく甥のしなやかな腰に抱きついてしまいそうになる。ハッとして、突きだした両手を宙に浮かせたが、紀彦がいきなり肉棒を亀頭近くまで引き抜くと、つい反射的に甥の腰を引きつけていた。
紀彦は叔母の仕草を目の当たりに見て、すべてが自分の思惑通りに進んでいると確信した。
「ぼく、気持ちいいっ」
紀彦の言葉は、知亜希の気持ちの代弁でもあった。
「あーっ! あーっ……」
知亜希がいかにもこらえきれずにといった感じでもらす喘ぎ声は、年若い紀彦を十二分に挑発した。深々とペニスを送りこむと膣肉の締めつけがグーンと強くなり、大部分をスーッと引きあげると膣肉の緊張感はそれに合わせてゆるむ。抽送のピッチは、次第に目に見えてスピードを増していった。
知亜希は次々と襲いかかる官能の波に、今やどっぷりと浸っていた。技き差しが速まると、口では「いやいや」と言いながら、紀彦の動きに合わせて腰を揺さぶり、ますますしっかりと腰を引きつけて離そうとしない。
「叔母さん……気持ちいいよっ
!!
」
紀彦の切羽つまった声に、思わず「私もよ」と答えてしまいそうになる。それは、死んでも言えない禁句であった。
「あーっ……また出そう……」
快感がグーンと深まるにつれて、紀彦も落ち着きを失い、本音を吐くようになった。そこはやはり経験の浅い少年である。しかし、そうした切羽つまった紀彦の行為が、深入りした知亜希にも本音を言わしめる結果となった。
「出そう……ああ、どうしよう。叔母さん……出ちゃいそうだ!」
夢中で腰を打ちつけるごとに、ふたつのクルミを包んだ袋もすっかり伸びきって、ペタペタと女の内腿を叩く。そのリズミカルな振動は、知亜希の眠っていた快感をますます掘り起こしていった。
「出ちゃう……出ちゃうよ」
「待って……まだ……」
反射的に知亜希は叫んだ。子宮をうがつあの瞬間の恍惣感は、女であるからこそ味わえる最大の悦びであった。
「だめだ……ぼく、イッちゃう!」
イクという少年の言葉は、知亜希の感度を一挙に高めた。
「私も……イクわッ……イク……あーっ、出してっ! いっぱい出してッ! イク……イクイクイクッ!!」
両脚を紀彦の尻肉の上で絡めて、力いっぱい引きつけたとき、満を持していたかのように力強いほとばしりが子宮口にぶちあたった。同時に知亜希もまた、甥の脈動する肉棒にしたたかに愛の蜜を浴びせ、久しく忘れていた快楽の世界にどっぷりと身を置いて、性の悦びにむせび泣くのだった。


