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縄味 2 · 第4部

縄味 2 第4部 (4/4)
前の話

わたしの乳房をもてあそんでいます。

「おれたち兄弟は、どうしてもおまえに子どもを産んでほしいんだ。それはわかるだろう? おまえのように美しい遺伝子。悪くないと思う」

もうこうなっては、わたしが子どもなど作れば不幸になるばかりです。

「というわけだからね」

彼がカチャカチャと音を立てて、クスコを見せます。

受精

金男は、わたしと二人だけになったので、あらゆるところを撫で回してきます。

「剃るなってカメラマンから言われたから、そのままにしているけど、それなりに濃くなってきたような気もするな」

陰毛を指で引っ張り、撫でます。

「こんなところまで生えているぞ」

お尻に近いところ。恥ずかしすぎます。

夫はシェリーと寝室に入ってしまい、不能の義兄に愛撫されている妻なのです。わたしが哲次の奥さんなのに、欠陥品扱いです。

彼とのセックスはとても安心できて、ホッとするものでした。

縛られて感じまくる世界とはまったく違うのです。それこそ愛だとわたしは信じていました。

だけど、もう、哲次はわたしに興味がないのです。愛を注いではくれないのです。

金男はとうとう、あそこを舐めはじめました。

「なわみ。感じるか? 亭主の兄に舐められても感じるのか?」

そんなことはない、と思いたい。気持ち悪いだけだと。

「ううう」とボールギャグ越しに文句を言っても、彼にはむしろ感じていると思われるだけです。

「いいぞ、楽しめよ。な。おまえはもう捨てられたんだからさ」

そんなことはないと信じたいですが……。

陰部を舐め回し、指で開き、ぐちゅぐちゅと音を立て、感じすぎたあとで麻痺したようになっているところに、クスコをあてます。

「こういうのでも感じるんだろう?」

「むぐぅ」

とても惨い。

閉じたクスコで性器をえぐるように動かし、責めるのです。

滑らかな表面でも、金属なのです。痛くないわけがありません。逃げたくても逃げられないのに。

「おまえにはもう、弟のペニスを受ける資格はないんだってさ」

深く入れたり、出したり。

「哀れな女だよね。こうして縛られて、友だちに寝取られて。それでいて、孕まされることになるわけだ」

とうとうクスコのネジを動かして、嘴を広げていきます。

「見えるぞ。なわみのスケベな穴がね」

嘴の間の粘膜を、指で触られます。クスコを揺すりながら、クリトリスを指で潰します。

「がぐぅぅぅ」

「感じるのか? 気持ちいいんだろ。おまえ、もう快楽しかないんだよ。なにがなんでも、感じていないと生きていられない体になったんだよ」

寝室から「あん、あん、あん、感じるぅ」とシェリーの切ない声が聞こえてきます。

「おまえはいい友だちを持ったね。哲次は夢中だよ。おまえに出会ったときのような、新鮮なトキメキを感じるんだそうだ。汚れてしまったおまえには、お友だちのような清潔感もないしな」

酷すぎる……。そこまでわたしを追い込むなんて。

「安心しろ。離婚はない。子どもを産んで育てる。おまえの仕事だよ」

金男はペッと、膣の中にツバを吐きました。

なんてことを……。

「ふふふ。おまえのここは

痰

壺

みたいになっちゃったな。もし妊娠しなかったら、本当に痰壺にしてやるよ。撮影会に集まった連中たちに、自由に犯させてもらうんだ。燃えるだろう、え? 感じてしょうがないだろう?」

赤岩はそんなことを許さない。そう信じたいのです。金男の思うようにはさせたくないのです。

ふいに寝室のドアが開きました。

シェリーと哲次。裸でこちらにやってきます。

彼女はしばらく見ないうちに、体全体がふっくらとして、モデルの仕事としてはギリギリの体形になってきていますが、女としてはとても美しく、金男が言うとおり、清潔感が漂っています。

乳房に彼のキスマークがいくつもついています。

股間に手をやりながら、微笑んでいます。

「さあ、受精の時間だ」

「あぐ、あぐ、あぐ」

わたしは泣き叫びます。いやです。こんな形でなんて。大親友だった女は、わたしの上にまたがります。細くて長い足。軽々とソファの背を越えます。

「なわみ。大切なものをあげるわ」

手で大陰唇を開いていくのです。ぬらぬらと光る粘膜。そこから白い粘液がたらりと落ちてきます。

「どうかな。もう力がないかもしれないけど。妊娠するといいわね」

涙が止まりません。

友人の膣に射精した夫。その精液をわたしの中に垂らす友人。

足で彼女はわたしの乳房を踏みました。

「ねえ、感じる? 感じなさいよ」

「うぐぅああ」

喉で叫んだところで、誰の耳にも届かないようです。

「シェリー。舐めてくれるかな」

哲次は彼女にペニスを向けます。

「ステキ。もうこんなになってるのね」

夫はわたしに対するときとは違い、とても積極的です。

シェリーは優雅に上体を倒し、彼のものを口に含んでいきます。

いやらしい音を立てて、これみよがしに吸っています。

「おお、すごいよ。なんて気持ちいいんだ」

そんなこと、一度も言ったことがないのに。

「もう一度、しない?」

「ここでやろう」

終わりのはじまり

哲次は軽いシェリーを持ち上げて抱きつくと、股間を触れあわせたまま、熱烈なキスをはじめたのです。

恋人同士というよりも、快楽に熱中する新婚です。

嫉妬します。心が痛くて、気が遠くなります。

「ここでしてもいいの?」

「いいさ」

わたしの回りを二人はキスしながら移動します。そしてとうとう、ソファに彼女を押しつけます。

「ぐぐぅ」

彼女がわたしの上に乗っかってきたのです。息ができません。

そこに彼も乗ってきて、わたしなどいないかのように、二人はセックスをはじめました。

わたしに背中を押しつけた彼女。彼女の片足を上に持ち上げて挿入する彼。

哲次をこんな風にしてしまったのも、わたしなのでしょう。

まじめで、ユーモアのセンスがあって、知性的だった彼の姿はありません。驚くほど金男に似ています。粗野で淫らで欲望を隠さない男。

それが哲次の本質だったのかもしれません。

彼女が体を反転させます。そのとき、クスコを掴み、体重をかけました。

「がぐぐぐぐ」

「あら、ごめんなさい」

笑っています。

「

把手

かとおもっちゃった」

後背位になって、哲次はさらに激しく動きます。

早く終わってほしい。もう、こんなことはしないでほしい。こうなったら、離婚してくれたほうがいいぐらいです。

「ねえ、最後はお口で受けたいの」

「いいよ」

信じられません。わたしは哲次とは体位をいくつか変えてセックスしたことはありますが、オーラルはほとんどなく、ましてそこでフィニッシュするなんて、一度もありません。彼も要求しませんでした。

シェリーはわたしに抱きつくように体を合わせてきて、頬をくっつけてきました。哲次がこれみよがしに彼女の口の中にペニスを入れていくのです。

そして耳元でいやらしい音をさせます。

彼女がこれほど巧みに、楽しそうにセックスするとは想像できませんでした。奔放な女性と見られがちですが、わたしの知る限り、とてもストイックでマジメな子だったのです。

「いくぞ」

目をつぶりました。

彼がシェリーの口に射精していくのが、精液の香りではっきりわかりました。

彼女はすぐには口を離さず、丁寧にしゃぶりつくしています。

そして、彼と離れて立ち上がると、わたしの頬を軽く叩きました。目を開けろというのです。

見ると、彼女は口をクスコで開かれたわたしの股間に持っていき、笑いながらいま吸い出した精液と唾液をだらだらと、中に注ぎ込んでいました。

「妊娠しますよーに」

クスコを揺すります。

そのまま、彼のもので熱くなっている股間を、顔に押しつけてきました。陰毛をキレイに手入れしていて、柔らかな陰唇がきれいに見えるようになっている彼女が、濡れたその部分をわたしの鼻や目に押しつけてきました。

「あっ、あっ、あっ」

カワイイ声をあげて、シェリーはわたしの顔でオナニーをしています。

「奥さん、かわいそう。縄奴隷なんて……」

そして笑いながら、快楽をむさぼっています。

「そのぐらいでいいだろう」と哲次が言います。

「そうね。なわみさんの鼻が潰れたらいけないわね」

やっとおりてくれました。

顔中に彼女のニオイが残りました。

ボールギャグがようやく外されました。

「なわみ、どう? うれしい? わたし哲次さんと婚約したの!」

「え?」

「離婚はしないんでしょ? でも予約済みなのよ。哲次さんとこうして、一生、あなたを飼い殺しにしてあげるの。わたしは仕事を続けたいし、自由でいたいから、縛られるのは大嫌いだし、子育ても興味ない。哲次さんは子どもが欲しい。あなたは産んであげなさいね。子どものために籍は抜かないでおきましょうね。わたしって寛容でしょう?」

でまかせでしょうか。それとも本当なのでしょうか。

「哲次さん、それって……」とわたしは、なんとか声を出しました。

「金男、それでいいだろう?」と哲次はわたしを無視して、義兄に了解を求めるのです。

「いいさ。おまえだって好きな女性と暮らす自由があるからね。ここまでやってくれて、本当にうれしいよ」

「兄貴の役に立つことなら、なんでもやるよ」

勝手すぎる話です。

「わたしは、わたしは……」どうなるというのでしょう。

「なわみ。おまえはとにかく哲次の子を産むんだよ。それからあとは、避妊手術をしてあげよう。卵管を縛るだけだよ。縛るのは好きだろう?」

金男が恐ろしいことを言うのです。

「一人、子どもを産んでくれればいいんだ。それだけでいいんだよ」

「もし、できなかったら?」

「捨てる」と哲次が言うのです。「そうなったら、ほかにはなんの値打ちもないよ、おまえは」

「そんな……」

「だって、そうじゃないか。自分の好きなことをするのがおまえの流儀なら、普通の夫婦関係はムリだよ。だけど、子どもは欲しいんだ」

「遺伝的にはあんまり差はないからな」と金男が笑います。

「割り切ることにしたんだよ」と哲夫はシェリーとキスをしました。「楽しく暮らそうね」

「ええ」

そんなことが、長く続くわけがないのです。

「そうだ、今日、辞表を出してきたんだ」と哲次が金男とシェリーに言いました。

「えっ」

驚いたのはわたしだけです。

「そうか。引き留められたんだろう?」

「どこかに転職するんだと思われたみたいで、いろいろ聞かれたけど。これからしばらくはずっと暇になるからね。退職金とかもあるので、思い切り遊ぼうと思っているんだ」

仕事のことしか考えたことがなかった哲次が、会社を辞めた?

どういうことなのでしょう。夫はもうわたしの知っている男性ではないのでしょうか。

シェリーとの関係も含めて、ショックなことばかりでした。

檻の中

この日、つまりわたしがショーに出て知っている人たちの前に縄奴隷・なわみとして晒し者となり、哲次がシェリーと公然と浮気をし、自宅にまで引き込んでセックスをし、その哲次は会社に辞表を出したという日。

これを境として、わたしの生活はまったく変わってしまったのでした。

それまでは哲次の妻としての表の顔があったのに、そのような表世界は失われてしまいました。

「いい、なわみ。今日からわたしが哲次さんのパートナーなのよ」

シェリーが宣言しながら、クスコを引き抜いていきます。

「明日、わたしの荷物がここに届くわ」

「そんな……」

「なわみは縄奴隷だものね。普通の人間じゃないし、妻なんてとんでもないわ。ただ子種として必要なだけでしょ」

急にそんなことを言われても……。

「洋服だって、いらないわよね。縄があればいいんだから。クロゼットは全部、使わせてもらうわ」

シェリーにバカにされるのがつらいです。

「おまえは恥をさらして、悦びにひたることだけに専念すればいいんだよ」

金男が意地悪く言うのです。

「縛り方を教えてもらいたいんだよね」と哲次は言うのですが、それは本気らしいのです。

「いいよ。なわみでいくらでも練習すればいいさ」

金男は、いきいきとしています。

「わたしはどうすればいいんですか」と義兄に聞きました。

「奴隷は奴隷らしく」

金男と一緒に哲次は自分の書斎に使っている小さな部屋に入りました。そして、彼らが運んできたものを見て、わたしは愕然としてしまいました。

「まあ、ステキだわ!」

シェリーはスキップするように、彼らのところへ。

ソファに逆さに縛られ、彼らが居間の窓の近くにそれを置くのを眺めていました。気付きませんでした。以前はそこにあった観葉植物が反対側に移されて、フローリングの上にコルクのシートが敷かれていたのです。

男二人でも重いようで、慎重にそれを設置しました。

「キャスターをつけた台も用意するかな」と哲次。

「それはいい」

鋼鉄の棒を組み合わせた檻。

「カッコいいじゃない。奴隷のための檻があるなんて」

「床には少し固めのマットが敷いてあるんだ」と哲次。

「さっそく入れてみましょうよ」

すべての自由が奪われていく。

「これもあるぞ」

銀色の金属の枷。装飾品のようにピカピカに輝いています。そして内側には柔らかな布がはられています。

縛られている手足の縄を解きながら、枷が取り付けられます。細いピンのような鍵でロックします。枷には三つぐらいの環がついています。

その環に縄を通していきます。

「鎖じゃ床が傷だらけになるからね」

枷だけではなく、首輪もステンレスです。その環にも縄を通します。

「縄が面倒なときは、これが使えるよ」

カラビナです。環と環をカラビナで繋げば、それだけでわたしは身動きがとれなくなるのです。

「暴れるといけないから慎重にやろう」と金男。

なにも抵抗していないのに。

「騒ぐなよ。騒いだら、またこれをつけるよ」

ボールギャグを見せつけます。

「あの、鼻に通す縄は?」とシェリー。

「それについても、明日、計画があるんだよ」と金男。

「ふーん」と納得しています。

あの苦しい鼻縄だけは、できるだけ避けたいのですが。

右手と右足、左手と左足というように、枷同士をカラビナでつながれました。その上、環を通した縄によって、首輪とも縄でつながれていて、このままではとうてい、逃げることなどできません。

抱え上げられました。檻の上部は蓋のように開きます。シェリーがそこを開けて待っています。

「おとなしくしろよ」

疲れ果て、なにをしても無駄だと観念し、なされるままに檻の中に入れられました。

ガチャンと上部が閉じられ、南京錠が取り付けられました。

「いざというときに、逃げられないわね」

「その時は、あきらめてもらおうか」

金男は冷笑を浮かべています。

「かわいいわ、なわみ。いいじゃないの、そこ」

ここが、わたしの唯一、許された場所なのでしょうか。

そして居間の電気は消されました。金男は帰らず、哲次の部屋で今後、寝泊まりするのだと言っています。そしてシェリーは当然のように哲次と寝室に。

幅が一・五メートルほどでしょうか。体を伸ばすことはできません。丸めているしかないのです。奥行きも高さも一メートルぐらいしかありません。四つん這いか、横になって丸まっているだけの空間。

悲しいほどの仕打ち。信じていた哲次が率先してやっていることに、絶望的になっていました。

引っ越し

兄弟の会話を聞いていると、哲次がわたしと結婚したのは、兄の金男の好みだからとしか思えません。兄のために結婚し、子どもを作ろうとしていたのです。それは兄のための行為で、わたしを愛しているからではなかったのです。

こうして縄奴隷になろうとなるまいと、そのことはいつか、わたしを苦しめたことでしょう。

おそらく、出産後に哲次はわたしと離婚し、不能の金男と結婚させるに違いありません。生まれてきた子どもは、金男を父として育つのです。

ごく普通の家庭生活など、最初からなかったのです。

すべてまやかし。

たまたま、わたしが縄に魅せられて、勝手な行動を取ったから、表面化するのが早まっただけでしょう。

肉体の苦痛。心の苦痛。なかなか眠れませんでした。頑丈すぎる檻はわたしがぶつかったぐらいではびくともせず、かえってわたしが痛いだけです。少しは学習し、ぶつからない姿勢を取るようになっていました。

朝。紙パックの甘いアイスティーとパンを金男に貰いました。排泄は、檻の中でするのです。洗面器を出し入れできるぐらいの隙間があります。

頭を横に傾けなければしゃがむこともできず、狭い檻の中でおしっこをしていると、シェリーが「なわみも、そういうこと平気でできるようになったのね」と、露骨に嫌な顔をされます。

「どうなの。見られて恥ずかしくないの?」

恥ずかしいにきまっています。なにをされたって、そのたびに、薄紙を剥ぐように、菜緒美としての自分が消えていき、縄奴隷なわみになっていくような気がします。

「そうだ」とシェリーがスマホで写真を撮ります。

「だめ!」

「うるさいわよ。いやなら、しなければいいじゃない」

もう止まりません。それに、逃げ場もないのです。

「むしろ、うれしいはずよね。感謝されてもいいんじゃないの?」

彼女がこれほど底意地悪い子だとは思いませんでした。

「返事は?」

不機嫌なシェリーが足で檻を蹴ります。

「あ、ありがとうございます。でも、恥ずかしいです」

思った以上に消え入りそうな声で、それがまた恥ずかしくなります。

「なに赤くなってんのよ」

彼女は笑います。

「どれ」

金男がスマホの写真を覗き込み、「いいね」と言っています。「ブログに載せよう。ぼくのところに転送しておいてよ」

渡されたペーパーであそこを拭きます。後始末は金男がしてくれます。

「大きいほうはしないでよ、頼むから」とシェリー。

「ああ。大便は浣腸するから、引っ越し荷物が片づいてからだ」

「浣腸! やってみたい!」

「やらせてあげるよ」

哲次も起きてきました。

仕事に行かない彼。久しぶりに朝の彼をゆっくりと観察することができました。太ったのでしょうか。むくんでいるのでしょうか。顔色もあまりいいとは言えません。仕事は辞めたのだから、仕事のせいではないと思います。

全員にとって、環境が大きく変わったのです。

彼らはゆっくり朝食をとります。タマゴの香り、コーヒーの香り、パンの香り。わたしはそうしたものは貰えないのです。

食事が終わり、家事を金男がこなしています。

「もうすぐ荷物が来るわ」

スマホを見ていたシェリーが言います。彼女は、ルームメイトがいるらしく、梱包した荷物の発送の立ち会いはその友だちに任せたようです。それほど遠くもない場所からの引っ越しです。

「檻はまずいな。拘束して隠そう」

南京錠が外され、上部が開かれます。手枷足枷、そして首輪。これ以上、どう拘束するつもりでしょう。狭い檻に中で動くことなんてできないのです。

「妙な音を立てられないようにね」

ボールギャグを噛まされ、その上からキルティングのトートバッグをすっぽり被されてしまいます。ガムテープでぐるぐる巻きに。

「これなら、うなっても聞こえないだろう」

「そうかしら」

シェリーが乳首を指でつまんで、引き伸ばしました。わたしは痛みに叫びます。口からは大した音は出ず、喉が「ぐー」と鳴ります。

「ホントだ。これなら気にならないね」

首輪に縄が通されて檻に縛り付けられます。手枷、足枷の環を使って、縄で檻に縛り付けられました。

わたしは檻の中でお尻を落とし、股間をさらすようにして、足を開いたかっこうで縛り付けられたのです。

その蓋が閉じられて南京錠がかけられ、その上から分厚い毛布をかぶせられました。ゴンと音を立てて、檻の上になにかが重石として置かれました。

部屋の隅に置かれた物体。全身で暴れても、びくともしません。

引っ越し業者がやってきて、それから二時間ほど作業が続きました。

静かになりました。終わったはずなのに哲次たちは来ません。どこかへ行ってしまったようです。

さらに一時間。やっと戻ってきました。

「なわみ、どうしてるかしら」

「見てみよう」

やっと重石が取り除かれ、被されていた毛布が外されました。檻が開き、ガムテープが剥がされ、トートバッグを外してくれました。

バッグに溜まったわたしの涎がドロッと胸に流れ落ちました。

まぶしい光に慣れるまで目をパチパチしていました。

見慣れた部屋ではなくなっていました。壁にはX型の磔台。中央にはパイプを組み合わせた吊し台があります。恐ろしい光景です。

「これでショーのリハーサルもできるし、新しい出し物の練習もできる。もちろん、哲次が緊縛を練習するのにもいいだろう」

引っ越し業者は、ただシェリーの荷物を運んできただけではなかったのです。

三人からは揚げ物の香りが漂っています。引っ越しと装置の組み立てを終えた彼らは、どこかで昼食を食べてきたのでしょう。

「ねえ、さっそく浣腸させて!」とシェリー。油がまだ唇に残ってテカテカしています。近くにある天ぷらのお店でしょう。哲次はそこが好きで、よく連れて行ってくれたのです。

「おまえも好きだなあ。食後にやることか?」と哲次がからかっています。

「平気よ、だって、わたしがするんじゃないもの。なわみはまともな人間じゃないのよ。ショーのための縄奴隷になったの。快楽だけが彼女の報酬でしょ。ただの見世物の道具に過ぎないんだわ」

練習

「おもしろーい」

シェリーは、おもしろがっています。

パイプ式の吊り台に、M字開脚で縛られて吊されました。長い髪にも縄が絡み、顔の皮が引き上げられるほどきつく吊り上げています。乳房の縄は、わたしの体重でぐいっと深く食い込んで、徐々に皮膚の色が紫色へと変わっていきます。

「けっこう、臭くないじゃない」

窓を開け放っているので、街の音が部屋の中に入ってきています。

わたしは脂汗を流しながら、何度も何度も、腸内を洗われるような浣腸を受けて、そのたびにバケツに排泄をさせられました。

「許して。お腹が焼けるようです」

強烈な薬液を使っているのです。苦しむ姿を見たいからです。

「まだ二、三回じゃない。入れて出すだけなんだから、これぐらい何十回だってできなくちゃ、見世物としてお金なんて取れないわよ」

シェリーはすっかりこの作業を気に入って、飽きることなく繰り返していました。一リットルのグリセリン五十%浣腸を、五回もされたのです。

「これだけやれば、もう出ないかしら?」

彼女が手でわたしの体を触ります。全身が汗で光り、べたべたになっています。

彼女の暴虐を拒むことはできません。あらゆるところを、さわり、つねり、叩くことができるのです。

「これを使ってみよう」

金男が銀色のアナルフックをシェリーに見せます。

「これをお尻の中に入れて、吊り上げるの?」

「そうだよ。なわみは、縛られるために生きているんだ。お尻の穴だってどこだって、縛ってやらないとね」

「そうか。だから鼻にも縄を入れたのね」

その話をするとわたしが

怯

えるので、彼女はおもしろがってわざと鼻縄の話をするのです。

「ねえ、いっそのこと、縄を飲ませてみたら?」

「え?」

「体の中を縄が通っていくんじゃない?」

「はぁうぅ、お願い、そんなことはしないでぇ」

聞いただけでも恐ろしいことです。

「なるほど。それを鼻から通せばおもしろいかな?」

「絶対、おもしろいよ」

体の中に縄を通す……。

そんなこと、できるわけがないでしょう。

「話題になるわよ」

「シェリーって、けっこうすごいことを考えるね」

金男は笑いながら、アナルフックを押し込んできました。

敏感になっている粘膜に冷たい金属があたり、えぐるように内部に入り込んできます。貞操器具とは違い、大きいので、その異物感は強烈です。

「これで吊り下げるんだ」

フックには縄が取り付けられ、パイプにひっかけて、力をかけていきます。

「ううっ」

「どうなの、なわみ」

叫び出しそうですが、彼らは猿ぐつわをしません。彼らの理屈は「これは練習なんだから、なわみの感想を聞きながらやらないといけないし、そもそもおまえの快楽のために協力してやってるんだから、わめいたり叫ぶのも自分の責任だよ」と。

窓を開けているから、昼間の外の音が入ってきます。

マンションの一室。泣き叫べば近隣に聞こえてしまうでしょう。

そうするのかどうかは、わたし次第だと言うのです。

「はああ、すごく痛いです。お尻が裂けてしまいそう……」

「痛いって言われてもねえ」

シェリーが金男と一緒になって縄に体重をかけ、お尻が吊り上げられます。

「うっ、だめ、裂けちゃう」

できるだけ声を抑えているつもりですが、この苦しさをうまく伝えることができません。

「裂けやしないよ。大げさだな」

金男はフックが入り込んでいる肛門に指を入れてきました。

「うわ、パックリ開いちゃってる」

背中の方にお尻が持ち上げられ、そのせいで開いたように見えるのです。

「奥様はお尻で感じるのかしら?」

「どうかな。特別にそういう調教はしていないんだよ。これまで、なわみの二つの穴は哲次のものだったからね」

「だけど、あの器具を入れられて、開発されてきたんじゃない?」

「かもしれないな。浣腸もうれしそうだったし」

反論ができません。甘いうずきがあるのは事実です。いまこうされていても、痛くて恥ずかしいのですが、それと同時に奇妙な感触に期待しているのも事実です。

「黙っちゃったわよ。こういうのが欲しかったのね」

彼女は乳首をつまみました。

「ね、そうなんでしょ、なわみ。今度のショーではお尻も責めてほしいんじゃない? だいたい、こっちは妊娠することはないんだし」

「て、哲次さん、助けてください」とわたしはお願いしました。彼だけが、わたしの体を守る理由があるのですから。

「口を不特定多数のやつにやられちゃって、諦めたんだから、そこはまだおれだけのものであって欲しいんだよ」

少しホッとしました。

「だけど、あなたがこいつのケツに入れたものを、わたしはしゃぶりたくないな」

彼女が乳首をひねり潰します。

「あふぅ」

痛いと言ったところで、彼女には伝わらないのです。

「そうか、そうだよね。もうおれたちは体を許しあっているわけだし、なわみはただ妊娠さえすればいいんだから、お尻は関係ないか」

哲次はシェリーを背後から抱きしめました。そして二人は熱いキスをしはじめたのです。

立場

身も心も許しあった者同士だからこそ、嫉妬するほど長く深い口づけ。

そんな情熱的なキスをしてくれたことがあったでしょうか。

目の前にいる哲次は、わたしの知らない彼なのです。

手が届く距離なのに、縛られて吊されているから、けっして届かないのです。

彼は最初から偽ってわたしと付き合い、結婚したのでしょう。前からわたしよりも、わたしの友だちだったシェリーが好きだった……。

「うぎぃぃぃ」

金男がフックについた縄を足元のパイプに縛り付けたので、わたしは体を斜めに突き出すようなかっこうになっています。

そして金男は、歯をくいしばっているわたしの唇を奪いました。

「負けないよな、おまえもさ」

「うううう」

彼の唇は哲次とは比べものになりません。哺乳類と爬虫類ぐらいの差があるのです。

「お次はこっちだよ」

金男は哲次とシェリーのキスを無視するように、秘肉を指で触ってきました。マスターベーションのように、陰唇をいじり、そこから上部のクリトリス周辺を触り、撫で、やさしく愛撫してくれています。

だけど、金男の愛撫ほど恐ろしいものはないのです。彼の優しさは、そのあとに起こる強烈な苦しみのためにあるのです。

とうとうシェリーはわたしから手を離し、哲次と正面から抱き合って、踊るようにキスをしたままソファに移動していきました。

寝室ではなく、わたしの目の前で……。

会話はありません。言葉などいらないのです。二人はお互いの体を服の上からまさぐり、激しく求め合っています。

「ぎっ!」

叫び声を噛み殺しました。

クリトリスを剥き上げられたのです。

「ここを縛ってやるからね」

細い糸を彼は咥えています。そして両手で股間を強く刺激しはじめました。

「あっ」

自分に起きていることより、目の前で繰り広げられる二人のペッティングに心を奪われています。見たくない。だけど、目が離せません。

「どうだ」と金男は、指先で核を弾きます。ビンビンと刺激されて、体が痺れます。動かせるのは手足の指先だけ。体に回った縄がギシギシと音を立て、組み立て式のパイプの吊り台は少し揺れます。

「一応、安全性はかなり配慮しているんだけど、おまえが暴れたら事故になるかもしれないんだからな」

金男の熱い息。

興奮したのでしょう。耳にも唇をつけてきました。少し歯を立てて、囓ってきました。

「なわみ。自分の立場がわかったか?」

シェリーの服はめくれあがり、白い肌が剥き出しになっていて、ソファの背に大胆に足をかけ、彼を受け入れています。セックス……。

「哲次はおれのためにおまえと子をつくる。いまは自分のために子どもをつくろうとしているのかな? 同じ年の兄弟ができたら、ステキだね」

気が遠くなりそうな感じ。いじめられている場所が場所なだけに、思考力はゼロになります。

「旦那を友だちに寝取られてる気分はどうなんだ? 格別だろ?」

どろどろと汁を垂れ流しています。

「はー、はー」

息が荒くなります。発熱しています。

「おっと、やっと少し大きくなったぞ」

ぬるぬるのクリトリスを指でしごきあげて、咥えていた糸を巻き付け、素早く根元を縛り上げるのです。

「はうっ」

「ふふふ。軽くイッたかな?」

ぐいっと糸を引っ張られます。

「ぎゅぇぇぇ」

つい声が高くなります。

「ああーん、哲次さん。もっと……」

シェリーがこっちをチラチラと見ながら、わざとらしく声を出しています。彼が必死に彼女の中でもがいている。悲しいほど一所懸命。わたしのときは、あれほどの熱意はなかった……。

それはわたしのことを尊重しているからだと思っていました。

なんという勘違い。

「健全な男女の営みだ。美しいじゃないか」

金男がからかいます。

「こっちは不健全な男女の営みだ。おれはこんな風にしか、おまえを愛せないんだからな」

糸の先に金属の小さなフックをつけました。彼の指がべとべとになっています。わたしの淫液でしょう。こんな体になってしまい、夫を奪われても、ひたすら間違った快楽に突き進んでしまう……。

こんな自分が悲しく、憎たらしく思えます。

もし縄に魅せられてあのような写真を撮ろうなんて思わなかったら、ただ夫と離婚していただけで終わったはずです。その後、シェリーと再婚したとしても知ったことではない。もちろん傷ついたでしょうが、やり直せたはずです。

それが、いまわたしに残されたのは絶望だけです。ここには、捻れた快楽以外の出口はない……。

だけど、この体を締め付ける厳しい縄が、わたしをわたしとして留めてくれているような気もします。もしこれもなければ、バラバラになってしまったかもしれません。ギュッと強く縛られて、かろうじて保っていられるのかもしれません。

「あああ、それはぁぁぁぁ」

なんというきつい責め。

縛ったクリ。その糸の先に彼は錘をつけたのです。

「五十グラムだ。どうだ?」

「ちぎれそう……」

痛く、切ない感覚にもだえます。

「大丈夫だよ。そんな簡単にちぎれるものか。これぐらいショーで見せてもいいんじゃないかな」

「きつすぎます」

「じゃ、もう五十グラム」

「うああああ」

叫びそうになる声を、歯をくいしばって飲み込みます。

シェリーはケモノのような声を上げて、ときどき笑うような声も出して、大げさに悦んでいます。「もっともっと」と哲次に合わせて腰を突き上げています。

金男が写真を何枚か撮りました。

「ブログにあげておこう。撮影会の客寄せになる」

そしてブツブツと呟くのです。

「今度はケツ穴は自由に犯してもいいことにするかな。ぶっ壊れてもどうってことはないよな」

恐ろしいことを考えているのです。

そして耐えていることをいいことに、またしても唇を重ねてきました。乱暴にしゃぶるように、露骨なキスをしてくるのです。

「楽しいな、なわみ」

赤い舌で、歯や唇、鼻まで舐めてきました。

「もっと楽しめよ。縄奴隷は、こういう楽しみだけしか許されないんだよ。苦痛と快楽。最高の取り合わせだよな。まさに人生そのものじゃないか。おまえは幸せなんだぜ」

顔をつかまれ、目を舐められました。

「感じてきたか? ん?」

錘がゆれてクリトリスを引っ張っているのですが、自分がもだえることで、それはさらに振り子のように動きます。

根こそぎちぎれていきそうな恐怖と苦痛ですが、おしっこを漏らしながら、快楽に浸っていました。

「はははは」と金男が笑います。

「いいぞ、なわみ。それでこそ縄奴隷だな」

終幕

あれから何日経ったのか、覚えていません。わたしは檻で生活し、毎日、縛られ、責められ、写真を撮られ、ショーに出され……。

縄奴隷はキツイ夢を見るのです。

檻に入れられて、眠りの浅い夜を過ごすと、体中が痛いからか、夢とも妄想ともつかないものにすっかりとらわれてしまいます。

どこかわからない暗い地下室のような場所。

プライベートな撮影会が開かれ、金男、赤岩に責められているのです。

「あっ、もう、苦しいぃぃぃ」

両方の鼻の穴から出た縄が天井のパイプに吊されていて、そこに取り付けられたライトがまぶしく降り注いでいます。

その縄はわたしの体の中を通って、お尻の穴から出て、その縄は壁のフックに結びつけられています。自分の中を突き通った縄で、吊られているのです。

お腹がすごく重いのは、もう臨月だから。

ぱっくりと割れてしまいそうなほど、パンパンに張った腹部。乳房も肥大化しています。真っ黒く焼けたようになっている乳首と乳輪。そこにも、何重にも縄が巻き付き、引きちぎれそうになっているのですが、乳首からは間欠泉のようにミルクが飛び出しています。

「なわみ、早く産むんだ!」

金男に脅されますが、ムリなのです。お尻を鞭で叩かれます。赤岩は有刺鉄線が巻き付いたバットを持っています。

「お願い、それは許して!」

「だめだ」

非情にも彼はそれでわたしのお腹を殴りました。

バーンと虚ろな音がして、気を失うのです。

なにがなんだかわからないうちに破水し、あそこからドロドロに溶けた汚物のようなものが噴き出します。

「バカ野郎、こんなに汚しやがって」

「だめ、そこに赤ちゃんがいるの」

彼らが床に落ちたドロドロしたものを踏みつけています。だけど、そこにきっとわたしの赤ちゃんがいる。それなのに、彼らは気付いてません。

「だめ! 踏まないで!」

目が覚めるとカーテンの向こうが明るくなっていました。

もう朝なのです。

ソファに人影があります。ぼんやりと見えています。金男かと思ったのですが、哲次でした。寝ているのでしょうか。酔っ払って、そのまま寝てしまったのでしょうか。

すっと立ち上がりました。カーテンを全開にしました。

外は曇り空のようで、白っぽい光です。

じっと暗い目でわたしを見ています。

なにも言いません。

そしてトイレに行きました。

その後ろ姿は寂しげで、わたしの知っている溌剌とした哲次さんではありません。

本当はわたしともっと違う生活をしたかったのではないでしょうか。

わたしのわがまま。そして義兄の金男の思惑によって、哲次は自分のホンネを話さないまま、シェリーを抱いているのではないでしょうか。

胸が苦しくなります。

すべてはわたしが悪いのです。

哲次もステージでわたしを縛るようになりました。わたしの体への気遣いはありません。生理も不規則で、いったんは妊娠したんじゃないかと思ったものの違っていました。

この状態が続くのなら、とても妊娠なんてできないでしょう。

妊婦を縛りたいという赤岩の願望も、叶えてあげることはできそうにありません。

ぼんやりとしていたのですが、哲次さんはトイレに行ったきりです。こんなことはいままでありませんでした。

胸騒ぎがしてなりません。檻を揺らそうとしてもびくともしません。

「うううううう」

声を出そうにも、猿ぐつわをされたままでした。

切ないまでのゆうべの責め。体がじんわりと覚えています。哲次と金男に責められて、恥ずかしい姿をお客様に見られて……。

何人かの客にお尻の穴をいじられるようになりました。アナルセックスだけはまだ解禁していませんが、それも時間の問題かもしれません。

そんなことを思いながらも、三十分近くトイレから出て来ない哲次さんが心配なのです。トイレで居眠りしているだけならいいのですが、もしそうではなかったら。

どうすればいいのかわかりません。ガタガタさせてみたところで、それでシェリーか金男が気付いてくれるでしょうか。

偶然、目覚まし時計の鳴る音がして、金男が起きてきました。

その歩き方は兄弟だけに、哲次とよく似ています。ただ事故の後遺症で奇妙にねじれた歩き方になりますが……。

彼がトイレに行き「あれ?」と、やっと気付きました。

「入ってるの?」

ノックに反応がないので、ドアを叩きます。

それからやっとわたしに気付き、駆け寄ると猿ぐつわを外してくれました。

「哲次さんが……。トイレから出てこないの」

「わかった」

金男は、手近な場所にあったハンマーを手にしました。わたしを脅すときに使う拷問道具です。直接、なにかをされたことはありませんが、ショーでは、わたしのすぐ近くに振り下ろして、台に釘を打ち付けたり、恐ろしい音を出したりして脅すのです。

それでトイレのドアノブを一発で壊すと、ドアを開けました。

「哲次!」

シェリーが寝ぼけてやってきました。

「なに?」

「大変だ。救急車だ」

「え?」

哲次さんは、脳内出血で倒れていたのです。仕事をやめてストレスのない日常となったはずですが、不規則な生活は彼にはよくなかったのかもしれません。それとも、わたしやシェリーとの生活は、あまりにも異常だったからでしょうか。

幸い、軽い症状で入院も短期ですみ、リハビリをしながら復帰しましたが、正式にはまだ妻であるわたしだけが医者に呼ばれ、「あなたのご主人は脳腫瘍です」と告げられていました。手術のできない場所にあり、もはや手の施しようはない、というのです。

「どうなるんでしょう」

「わかりません。それほど進行しなければ、用心するだけで何年も生きられるかもしれません。ですが、若いですし、進行性ならあっという間でしょう。長くて半年」

病院のトイレで吐きました。なにも吐くものなんてないのに。何度も。

金男に相談すると、さすがに彼もショックを受け、「おれから話す」と言いました。「黙っているわけにはいかないだろう」

それからしばらく哲次さんは少しおかしかったのです。病院と家を往復。妻であるわたしがいつも一緒についていき、夜はシェリーを抱くのです。

金男が入れた仕事はこなさなければならず、そんな状態でも時間をやりくりしては、縛られ、酷い目に遭わされていました。居場所がないので、檻で寝る習慣もそのままですが、鍵をかけたり、猿ぐつわはしなくなりました。自由に出られるようにしてくれました。

万が一ということもあるので、下着もトレーナーも着させてもらいました。ふわっと体が浮いたような感じがしました。

シェリーがすごく暗くて、ときどき帰ってこない日もありました。

仕事のない日の夜。

シェリーは帰ってこないので、わたしが久しぶりに夕食の支度をし、哲次さん、金男と一緒にまともな食事をしたあとのことです。

「おれが死んだら、おまえ、誰かの子を産むのか」と哲次さんが言いました。

「そんな……」

「誰とでもファックして、妊娠するんだろう」

「そんなこと、しません」

「いや。おれの子はできなかったが、よそのやつ、そうだ、たとえば赤岩となら子どもができそうじゃないか?」

瞬間的に顔が赤くなっていたと思います。

「やっぱりな。おまえ、赤岩が好きなんだろう」

「違います。そんなこと……」

赤岩が、わたしの手を取り、紐で指を縛ってくれたとき。あの時から、わたしの中では彼にすべてを許したい、命を預けたいという願望が密かにあったのです。

哲次さんを嫌ったわけではないのです。縄奴隷なわみとして、幻想の中で結ばれるなら、赤岩はぴったりの人でした。彼の人間性などろくに知らないからこそ。

「許さない!」

突然、哲次さんは大きな声を出しました。

「おれ以外の男とセックスするな」

金男が「やめろよ、哲次」と弱々しく言いましたが、余命半年の宣告を受けた哲次に強くは言えないのです。

「これまでだって、していません」とわたしは言いました。「だから、これからもしません」と。

「だめだ。そんな言葉じゃ、信じられない。もうケツでやれるように開発されているんだろう?」

それは哲次が許したからです。彼もそのショーに一緒にいたのに、止めなかったのです。でもアナルセックスはまだしていません。

「あの器具はちゃんと使っていますから……」

「鍵さえあれば、どうにでもなる。そうだ。おまえのまんこ、誰ともセックスできないようにしてやろう」

「そんな……」

「それはやり過ぎだぞ」と金男。

「うるさい。おまえはおれの妻で、縄奴隷なんだ。言うことをなんでも聞け!」

かわいそうな哲次さん。

わたしは金男を制して「はい。その通りです」と返事しました。「どうか、なわみの体を、誰ともセックスができないように壊してください」

それは、自分を縛り付ける意味でも、とても魅力的なことに思えたのです。

「どうしてやろうか。酸で焼いてやろうか。子宮を切り取ってやろうか」

「お願いします。どんなことでも……」

哲次はわたしを見て考えています。奇妙な眼差し。あの朝、檻の中のわたしを見ていたときのような目。その直後、彼はトイレで倒れたのです。

その夜のことは忘れられません。これまでに受けたどんな酷いことよりも激痛に苦しんだのですから。

深川先生の古民家風アトリエ。

プライベートな撮影会で、そこには写真家の吹雪さん、赤岩も来ていました。これは幻想ではないのです。

哲次に身を任せたあの夜から、わたしの体に大きな変化がありました。彼が施したことは、思いが先行した結果であって、現実的にそれほど有効なものではないかもしれません。

だけど、そこには彼の気持ちが含まれているのです。

昼の光を浴びながら、逆さ吊りにされています。足は左右に大きく開かれ、赤岩が好きな鼻縄をされています。乳房の根元をきつく縛った縄とともに、梁につながれて、体が少し引き上げられています。

それだけで強烈な苦しさで、何分もできることではありません。

「すごいな」と赤岩は股間を見て言います。

「痛かっただろう」

「はい、とっても……」

吹雪さんが、「公開はできないが撮影はしておこうね」と言いました。

「お願いします」

「そのままで撮影してみよう」

大陰唇を太い針で何度も貫かれ、丈夫な靴紐で左右の肉を編み上げられ、簡単には開かないようにされているのです。

ピアスではありません。肉の中を紐が通っていて、金男は「いずれリングを入れるとかしないと」と言うのですが、哲次は許さないのです。

「いつまでも治らない方がいい。解けば傷口が開いて血が出る。それだけで、たいがいの男はセックスなんてする気が起きないだろう。案外、男は血に弱いんだ」

だけど、もちろん、それだけなら、赤岩のような男はむしろ喜んで紐をほどいて、わたしを犯すでしょう。

「じゃ、解いてみましょうか」

赤岩が蝶結びの紐を解きました。完全に紐を引き抜くことはせず、肉を拡げながら、紐を緩めていくのです。それだけでも激痛です。

「ふうぅぅぅ、ぎぃぃぃぃ」

縄奴隷になってから、歯がボロボロになってきています。ろくなものを食べさせてもらっていないし、いつも歯を食いしばったり、猿ぐつわを噛みしめてきたからでしょう。

痛みに耐えて顎に力が入ると、歯がきしみ、別の痛みが発生します。

「すごいね」

しだいに性器の奥が見えてきます。

きっと、キラキラと光るものが見えたはずです。

それが哲次の気持ちなのです。

「これは、惨いな」

深川先生がつぶやきました。

吹雪さんが写真を撮ります。

奥までストロボの光が入ります。

「なるほど。これでセックスするやつはいないね」と赤岩。

小陰唇をホッチキスの針のような金属で縫い合わされています。道具がなければ切断できません。普通の針ではないのです。哲次が得意の知り合いを通じて入手した合金で、特殊なグラインダーなどを使わなければ切断することはできません。

もしわたしと、どうしてもセックスをしたいのなら、そこを切除してから、ということになるのですから、簡単なことではないでしょう。

小陰唇を切除するしかないのです。

「これは、なんですか?」

赤岩が金男に聞いています。

「二重の仕掛けになってるんですよ。膣内に釣り針のような針をこちらに向けて埋め込んでいます」

その先端は閉じた小陰唇を突き抜けているのです。

「じゃあ、もし、男が欲望のままに犯そうとして、このホッチキスを強引に引きちぎり、挿入しようとすると……」

「ペニスはズタズタになるでしょうね」

異常なまでの執念。

「専用の器具を使えば膣内の洗浄はできます」

聞かれてもいないのに金男は説明しています。哲次さんは洗浄用の器具も用意していたのです。細い管を閉じた小陰唇の間から差し込み、中に洗浄液を入れるわけです。これで、清潔さを保てるというのですが……。

そのたびに、わたしは気絶するぐらいの痛みを感じるのではないでしょうか。

「がんじがらめ、というわけだな」と深川先生。

「お尻でセックスすることは許可されましたよ」

金男がまたしても聞かれてもいないことを言う。

「彼女とのアナルセックスか」と赤岩が笑う。「なわみとなら、ぜひやってみたいね」

数人の客たち。いずれも最初の野外撮影会以来、付き合ってくれているコアなお客様です。彼らがものすごく喜んでいるのです。わたしを縛るだけではなく、アナルセックスができると聞いて、かなりの金額を金男に払っているようです。

「じゃあ、やりやすいように吊そう」

腕と腹部、腰に新たな縄が追加されて、空中に吊されます。縄を操るだけで、立ったままわたしを犯すことができます。お寺の釣り鐘のように。

淫らな撮影会。そしてお尻で奉仕すること数時間。

悲しいほどの悦虐の時間。まともなセックスはできないからか、熱くたぎる高ぶりは、お尻の穴を擦るペニスの感触に敏感に反応するのです。

「何度も気をやりましたね」

赤岩ももちろん、試してくれました。

「あなたのお尻、よかったですよ」

「恥ずかしい……」

ようやく太陽は傾き、部屋の中は暗くなっていきました。吹雪さんはこういう光線が好きで、何枚も写真を撮っていました。わたしの写真集を出していただけることになっているのです。

「もう一度、味わってみたい」

赤岩はお尻の中に入ってきました。

「うっ」

「なわみ。苦しむんだ。そうすればもっと美しくなる」

彼の手が体を撫で回します。

「いい顔だ」と吹雪さんがシャッターを切ります。

ドンと物音がして、それから、しばらくドタドタと足音がしました。

アトリエの引き戸が乱暴に開きました。

「菜緒美!」

久しぶりに自分の名を呼ばれました。

真っ青な顔をしたシェリーがいました。

わたしも金男も、なにかがあったのだと悟りました。

「哲次が……」

お尻を犯されながら、そんなことを耳にして……。

わかっていたことですが、悲しくて涙が止まりません。

金男が「行こう」と言いました。わたしを置いて、シェリーと金男は行ってしまいました。

赤岩が、顔を撫でてくれました。

「おまえのこと、哲次さんから譲り受けたんだよ」

ボロボロと涙が流れます。

「悲しいのか?」

声がすぐには出ません。

「おまえも行くか?」

「いえ」

わたしはとても、そんなことはできません。

「忘れさせてください。なにもかも」

「いいだろう」

赤岩は、新しい縄を手でぎゅっとしごきました。

「忘れさせてあげよう」

「ありがとうございます」

「うんと厳しい吊り責めをしてあげよう。その上で、また尻を犯してあげるよ」

「はあぁぁぁ、お願いしますぅ。なわみを、ボロボロにしてください」

彼は乳房とアナルフックだけで天井から吊すのです。

「ふうぅぅぅ、ちぎれるぅ」

「まだまだ」

竹刀を手にした赤岩が、赤黒く腫れている乳房を打ち据えました。

「ぎゃっ!」

「忘れるんだ、なわみ。なにもかも」

忘れるための拷問がはじまりました。

わたしは、縄さえ身にまとっていれば、どんなことも受け入れることができます。そこに体を預け、自由を奪われ、苦しみが頂点に達することで、なわみになるのです。どんな苦痛も悦楽になるのです。だって、それが縄奴隷なわみなのですから。

おわり

奥付

お読みいただき

ありがとうございました。

二〇一三年十月刊行

二〇一四年七月二版

著作権 あんぷらぐど

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