ゆっくり体が下げられていきます。頭がステージにつきました。金男が見下ろしています。笑っています。つま先で顔を突っつかれました。
「意識はあるようですね」
赤岩も覗き込んでいます。
二人ともわたしを心配しているわけではないのです。ショーが続けられるかどうか。それだけを考えているのでしょう。
赤岩が、ペットボトルの水を顔にかけてくれました。頭をふると、二人は少し安心したようです。
自分では意識があって、いろいろ考えたり、苦しんだりしているつもりでしたが、気絶しているように見えたようです。
「なにがあっても、動け。動き続けるんだ。反応がないとみんな、心配しちゃってショーどころじゃなくなる」
金男に言われて「はい」と返事しました。
「そうだよ。お人形じゃないんだよ、縄奴隷ってのはさ」
赤岩は縄を解きながら言います。
動き続けろ。過酷な命令です。動けないように縛られていて、それでいて動かなければ死んだようになっていてつまらない。お客さんがいる以上は、みんなが期待するような反応をしなければならないのです。
「それとも、また、これが欲しいのかな?」
赤岩は、わたしから縄を外しながら、股間に手をやりました。
「あっ」
褌
の上からでも、相変わらず、貞操器具を埋め込まれたわたしの穴は、めちゃくちゃに熱くなっているのです。
「ゆうべ、旦那さんにやられたのか? この中にたっぷり精子が入ったのかな?」
赤岩の言葉に返事なんてできません。
客席はガヤガヤしていて、席を立つ客もいれば、いまから入ってくるお客さんもいるようです。
「ステージは三回あるんだ」
羽織るものさえかけてもらうことなく、スポットライトの消えた舞台から、金男に抱えられるようにして袖におりました。
すぐ裏がいわゆる楽屋。
「なかなかおもしろかったですよ」とお店の関係者たちがニコニコしています。
殺風景だったその部屋に、たくさんの花束がありました。
「ファンがいらっしゃるようですね」
カードがついていて、記憶にない名前ばかりですが、最初の野外撮影会から常連になっている人たちだと赤岩が教えてくれました。
あんなに酷い目にあって、その人たちが今日は花束を贈ってくれる……。
腰が抜けたようにイスに座り込みました。
「なわみさん江」と書かれた木札のついたものもあります。そして赤岩にもファンがいるらしく、彼も花を贈られていました。
かすかに、嫉妬してしまいます。
しかし、それ以上に、こんなどん底に落ち込んで、恥ずかしいことをしている自分に花を贈ってくれる人がいることにとまどい、そして、うれしくなって涙があふれてきました。
花をそっと抱きしめました。
「よかったじゃないか」と金男。
「はい」
じんわりとうれしさがこみあげてきます。
「ちょっと、おトイレに行きます」
「それはダメだよ」
「え?」
「次のステージはもう少し過激な演出だからさ」
「い、いやです、そんなことは……」
「ふふふ。あの程度ですむと思ったの? なわみのファンがあれで満足するの? ここはお店だから、やれることは限られているけど、縄奴隷って言葉から連想することをどれだけ見せられるか、それがおまえのファンへの感謝の気持ちじゃないの?」
金男の言葉は厳しいものです。
「やれることはなんでもしないとね」と赤岩も。
そこに、「おはようございまーす」と明るい声がして、絵夢奴がやってきました。
「盛況じゃないの、なわみさん」
悦びは一転して、再び地獄のはじまりです。
「次のステージのゲストだよ。絵夢奴ちゃん、Mだったのに、なわみのおかげでSに目覚めちゃったんだよね」
「そうなの。いじめる役も楽しい!」
「お手柔らかに頼むよ。今日のお客さんたちはなわみの知り合いが多い」
「あらそうなの? だったら、はりきって、なわみさんをいじめて差し上げますわ。ホホホホ」
わざとらしい笑い。相変わらず下品です。まだしも落ち着きがあって地味な喜美江さんのほうが、同じ下品でも許せる気がします。そもそも絵夢奴がわたしの顔の入った写真を流出させたことが転落の引き金になったのです。こうなった原因のひとつなのに。
「まあ、なわみったら。そんな悲劇のヒロインみたいな顔しないでよ。スケベなんだって聞いてるわよ。何度もいっちゃうんでしょ? ポルチオでしょ? おかしな器具をあそこに年中突っ込んでるんだって?」
貞操具。それは夫との約束です。ですが、それによって予想外の快楽を得られているのも事実で、それはわたしが縛られることで望んだ快感とはまったく違う次元の話なのですが、結果的にその衝撃の虜になっているのは事実です。
「じゃ、二部は、別の趣向でいきましょうね」と赤岩が、わたしに立てと合図します。
重い体。思った以上に疲れています。
「これを外しましょう」
赤い
褌
を外されました。
「うわ、なにか出てるわ」
貞操具の先端があそこから出ているのです。
縄をぐいっとしごいて、赤岩は腰に回しました。
「今度は縄褌だ」
「それは……」
細い腰に縄が食い込みます。そしてお尻から股間を通って前に。彼が強い力で引き上げました。
「あふっ」
つま先立ちになってしまいます。ただでさえ股縄は感じてしまうのに、わたしの場合は二つの貞操具を直接刺激してくるのです。
「どうだ、うれしいか」
赤岩は思いきり引き上げて、わたしの体を抱くように支えながら、唇を奪います。
「ううう」
そうしながら腰の縄に通して、今度は下に引っ張ります。
「あぐっ」
腰縄が斜めに下がり、股間はこれ以上ないというほど締め上げられました。そこでいったん結び目が作られ、ちょっとやそっとでは緩まなくなりました。
「きついか?」
「はい……」
「目が潤んでる。気に入ってくれた証拠だな。きれいだよ」
キスの意味はなんでしょうか。赤岩に聞いてみたいのですが、金男の前ではちゃんと答えてくれないかもしれません。
「いやらしくて、いいわあ」
絵夢奴が縄尻を受け取ります。
赤岩はわたしの腕を後ろに回し、まっすぐ伸ばしたまま両腕を縛っていきます。手首をぎっちりと縛ったあと、両腕を編むように縄をかけていき、肘の上まで固定しました。
乳房を優しく揉んでくれます。さきほど根元をきつく縛られて、引っ張られたので赤く跡がついています。
「ここはあとのお楽しみにしよう。そのかわり」
極細の縄。
「ああ、それは……」
「なんだ。いやなのか?」
まだシェリーたちがいるのではないでしょうか。鼻に縄を通された姿を見られたら……。それに、それはとても痛くてつらいのです。
「今日は特別な仕掛けをしてあげようと思うんだよ」
彼は木の玉を手にしていました。それには溝が掘られています。
「さあ、覚悟するんだ」
「ううううう」
縄が鼻を通り抜けるとき、家畜になるような、おぞましいほどの被虐感に包まれます。わたしの体は縄を受けるためにあるのです。あらゆる部位が、縛られ、くびられ、痛めつけられるのです。
「はうぅぅぅ」
涙がポロポロこぼれ落ちます。
赤岩は手際がすっかりよくなり、あっという間に左の鼻から入った縄が口の奥に出てきます。わたしがそれを吐き出すようにすると、口から彼が引っ張り出します。
「あううぅぅぅう」
右の鼻にも縄を入れます。それも口から出します。
彼は木の玉に口から出た縄尻を結びつけていきます。いやな予感しかしません。
「口を開けてごらん」
大きく口を開くと、彼が鼻側の縄を引っ張りました。縄尻に結ばれた木玉が口の中に入ってきました。
「ぴったりだな」
大きすぎるぐらいだと思いますが、なんとか口の中に収まりました。
ぐっと縄を引っ張られると、口の中の玉が引っ張られ、がっちりと押し込まれた形になります。
「まあ、すごいわ」
絵夢奴が鼻の縄も受け取り、うれしそうです。
「じゃ、行くわよ、なわみちゃん」
股縄と鼻縄を持たれ、わたしは彼女に引っ張られるままに再びステージに上がらされました。
客席はさきほどよりも人が多く、賑やかです。飲み物や食べ物が運ばれ、ニンニクの香りが漂っています。
シェリーたちが、やはりまだ残っています。ですが、わたしが驚いたのは彼女の席、それも彼女のすぐ横に哲次が座っていたことです。
どうして……。なぜ、夫はここに?
膝がガクガクしてきましたが、絵夢奴は得意げにわたしを引っ張り、舞台の中央へ進んで行きます。スポットライトがわたしをとらえました。
電流の快楽
突然、拍手が起きました。
「ええぞ、えむちゃん!」
絵夢奴のファンがいるらしく、拍手をことさら大きくあおっているようです。
ざわついていた客がわたしに注目します。
ひどすぎる鼻縄のせいか、シェリーが露骨に嫌な顔をしました。その横の夫はわたしを見ないようにしているのか、うつむき加減で彼女になにかを言っています。
そのとき、なにげなくシェリーの手が、夫の
腿
に置かれていることに気づきました。
うそでしょ。
それは、よくホステスが客をもてなすときの軽いボディタッチのようにも見えます。ここがキャバクラならわかりますが、そうではありません。それに、シェリーは水商売をしているわけではないのです。
「ほら、ちゃんと歩きな」
絵夢奴は乱暴に鼻縄を引きます。
「ぐっ」
木玉を押し込まれた口では文句も言えません。
そして股縄を乱暴に引きます。
「がっ」
股間に強烈な衝撃が走ります。崩れ落ちそうになります。でも、これで思い切り感じていることをシェリーや夫に知られたくありません。
「なわみ、あんた縛られて感じるんでしょ。もうたまらないんでしょ」
人の心を見透かしたように絵夢奴が大きな声で言うのです。
反論ができないとわかっていて、言葉責め。
「こうしたら、どう?」
ぐいぐいと股間の縄を上に向けて引き上げます。
「あぐ!」
「みなさんに、おまえの正体を見ていただこうね」
赤岩が手伝い、上からおりてきたパイプに鼻縄を結びました。そして袖にいる金男がパイプを少しずつ上げていくのです。
「がっ」
鼻が引き上げられて、とてもつらいので顔を上げますが、それでも足りず、つま先立ちになります。
「新巻鮭でございます」
見世物のように絵夢奴が言うと、客席に笑いが起こります。体が真っ赤になっていると思います。あまりにも恥ずかしいのです。
「この鮭はメスですわね。タマゴがありそうだわ」
下腹を撫で回されます。
この間に、赤岩が腕と胸に新たな縄を巻き付けています。なにをするのかわかりませんが、抵抗できません。
縄尻を天井から下がるパイプに放り投げてかけると、上体を引っ張りあげます。あっという間に足が床につかなくなりました。鼻の負担は減りましたが、上体だけで吊られ息が苦しくなります。胸に深く食い込む縄が厳しいのです。
横を向くような不自然なかっこうで宙に浮きます。
鼻縄も調整されて、たるみがなくなります。そのため、気を抜いて重い頭を下げると鼻縄に力がかかってしまいます。長い時間は、もたないと思います。もし、いま気絶したら、がくりと頭が落ちた瞬間に、鼻が裂けてしまうかもしれません。
恐ろしい光景が繰り広げられるでしょう。鼻の肉がもがれてしまう……。いくらなんでも、そこまで楽しむ人はいないと思いますが……。
「なわみが一番、やってほしいのはここでしょ」
絵夢奴がそう言って、股間からの縄もパイプに投げ上げました。
その縄尻を飛び上がってつかんだ絵夢奴は、たぐり寄せていきます。
「あががが」
そんなことをされたら……。なにも言えませんし、無駄です。
股間が引っ張り上げられました。ガーンと強烈な衝撃。下半身がわたしの意思と関係なく悶絶しているのです。自分の体重がかかり、縄が食い込み、股間の貞操具が子宮とその裏側の腸に突き刺さってきました。
どういう力配分をしても、刺激にしかなりません。
ぶらぶらしている足を、絵夢奴が持ちます。
「なわみさん、大丈夫?」
大丈夫なわけがなく、できるだけじっとしていたいのに、彼女が足首を持ってゆさぶるのです。
「みなさま、ご覧になって。なわみはいま快楽の中におりますのよ。信じられないと思われるでしょうけど、いまにわかります。しばし、このオブジェをご鑑賞ください」
だめです。このかっこうのまま、そんなに長くは耐えられません。ぴくりと動くだけで、ズキンと体の芯をえぐるような強烈な感覚。まるで熱した火箸を体の中に押し込まれたように。
「ご覧になれます? 汗がじわじわ出ておりますわ。苦しいだけじゃないのね。感じてらっしゃるんでしょ、縄奴隷のなわみさん」
絵夢奴は自分自身が日頃から被虐的な快楽に浸っているからでしょう。こちらの気持ちがわかりすぎるほどわかるのです。
「かわいいわ、奥様って」
「ぐぐがぁぁ」
彼女の手がわたしの頬を撫でるので、腰がビクンと反応してしまい、叫びたいほどの快感に貫かれました。
彼女は笑いながら、手を止めず、鼻の具合をたしかめて、わざと呼吸ができないように指先で鼻をつまみました。
「んんんんん」
口の木球の隙間でかろうじて息ができます。でもそれでは足りません。数秒でガマンができなくなり、苦しくなっていくと体を捻ってしまう。そしてまた縄が深く体に食い込んで、熱い刺激になっていくのです。
死にそうになっているのに、彼女は片手で伸びきった首のあたりを触り、肩、鎖骨を縄の間に指を入れるようにして触ってきます。
くびれた体。縄と縄の間の皮膚は感覚がおかしくなっています。でも、絵夢奴はいやらしく、そこを刺激して痛みを思い出させるのです。
一分ぐらい、ろくに呼吸ができなかったと思いますが、ようやく鼻を開かせてくれました。
「目がとろんとなっちゃって」
もう、どうなってもいい。このままここで夫の前で殺されてもいい。この切ないまでの快楽の中で、苦しみながら死ぬのが、なわみとしては一番いいように思えてきました。
殺して、なわみを殺してください。
声が出たらそう叫んでいたと思います。
乳房を執拗に揉みはじめました。余計なことをすると思っていました。縄の間にはさまれた乳房は、鈍感になっていて、脳内の快楽装置にはあまりきちんと接続できていないようです。
それなのに、絵夢奴のしつこさが、そこをつなぎ直していきます。
見ると、乳房を指で捻り、ちぎってしまいそうなほど変形させていました。
「ぐぐぐぐぐ」
「奥様、おっぱいがちょっとかわいすぎません? ドスケベで淫乱なくせに、慎み深いフリをなさってるなんていけませんわね」
憎しみのようなものでしょうか。絵夢奴は縄奴隷としての日が浅いわたしが、まだ全体としては体が崩れていないことに嫉妬しているのです。
だけど、金男がこのような仕事を取り続ける限り、わたしもわずかな期間でボロボロになっていくに違いありません。
「乳首はどうなの?」
さんざん、乳房の感覚を呼び覚ましておきながら、ただでさえ感じやすい乳首をなぶろうというのです。
「赤ちゃんが欲しいんでしょう? もっと立派な乳首にしないと」
絵夢奴が吸い付きました。
気持ち悪いことをすると思っていたのに、舌と歯でじわじわと刺激してきます。
欲望の捌け口が男とは違うのです。自分がしてほしいことをわたしにして、反応を見る。意地悪なのです。
「感じてきたんじゃないの?」
かなり前から、長いエクスタシーの中にいました。思えば、このショーのために赤岩に縄をかけられたときから、興奮し続けているのです。どこがピークなのか、自分でもわかりません。ただ、これ以上のことがあったら、失神するか死ぬか。どちらかではないかと恐れているだけです。
どっちにせよ、夫はわたしが快楽に溺れていることをはっきり確認し、軽蔑するでしょう。
「これをつけてあげましょうね」
右の乳首に細い紐を縛り付けます。その紐で左の乳首も縛って、二つの乳首を一つにまとめてしまいます。ちぎれそうな痛み。その紐にフックをとりつけると、錘を取り付けたのです。
「ちぎれちゃうかなあ? 赤ちゃんが生まれてきても、おっぱいが吸えないかも。かわいそうな赤ちゃん」
絵夢奴の言葉が常軌を逸しています。憎悪でしょうか。
そして乳房、腹部と撫で回します。汗でベタベタになっています。そこから下にはいかないでほしい……。もう充分すぎるほど感じさせられているのです。
「すてきなお尻をしているわね。少し小尻じゃない? 安産型とは言えないわ。骨盤矯正しなくちゃいけないかも」
わけのわからないことを彼女は言い、お尻を撫で回します。
股間の縄が新たな痛みを呼び覚まします。じっとしていれば、先ほどよりは耐えられるのですが、もし、なにかをされたら、またしても熱を帯びてくるのは間違いありません。
「そうだ。今日はなわみにプレゼントがあるの。いいものを持ってきたわ」
彼女は、小さなひげそりのような器具を持っています。わたしにそれを見せつけます。黒い嫌な感じの器具。先端に銀色の金属が突出しています。
「みなさま、ご安心くださいませ。これは通常のスタンガンではございませんの。改造して、かなり電流を下げてあります。そうねえ、ちょっとピリッとするぐらい。証拠として自分で試してみますね」
会場の人たちを安心させるためなのか、絵夢奴は自分の手にそれを当てて、スイッチを入れました。ビシッと音がして、彼女は舞台にうずくまったのです。
すぐに立ち上がり、「この程度のものですのよ」と言って笑っています。
彼女は自由なのです。だからその程度のことですみます。だけど、わたしは縛られて宙に浮いていて、股間に縄が食い込んでいるのです。逃げられないのです。
「なわみちゃんは、痛いの大好き。このショーではきっと、これがお似合いだと思うのですが、みなさん、いかがですか?」
拍手。
見れば、哲次も拍手しています。隣のシェリーと肩が当たっていて、二人でノリノリなのです。
いつからなの。どうして……。
わたしは混乱しています。疑心暗鬼でそう見えてしまうのか。幻想なのか。幻覚なのか。
「では、やってみましょうね」
器具の先端がお尻にあたります。
ビクンと体が跳ねます。それだけであの熱いものがこみあげてきます。
「あら、なわみ。まだスイッチ入れてないのよ。大げさね」
涙があふれてきて、もうなにも見たくない。目をつぶってしまいます。
そのとき、全身の筋肉がギュッと縮まりました。自分の意思と関係なく。体が細切れになるような感覚。これ以上は耐えられないと思った瞬間、ガクンと衝撃を残して電流が止まりました。
「ご覧になりました? すごいでしょう」
なにがすごいのか、わたしにはわかりません。なにも考えられなくなりました。恐怖と苦痛。これ以上はないほどのボルテージ。
再び電流が体に。
「電流を弱くしているので、何度でもできますのよ」
絵夢奴の声。
「ぐぎぎぎぎぎぎぎ」
木玉を噛みしめています。
もしキングコングのような巨大な手で握り潰されるとしたら、こんな感じなのではないでしょうか。
「ほらあ、またー。ご覧になりました? すごいわ、なわみ」
客席が盛り上がっているようですが、理由がわかりません。強烈な刺激の中で、意識が遠くなっていくだけ。絶対に勝てない相手と戦っているようなもの。
徹底した敗北の中で、どうしてこんなに体が熱いのでしょう。
「うわあ、いやらしい。ホントになわみって変態大好きっ子なのねえ」
絵夢奴があきれています。
どうしてそう言われるのか、やっとわかりました。
股間からおしっこのように体液を噴き出していたのです。
最後の方の噴射だけは、はっきりと自覚していました。あそこが痺れ、燃えるようになって、ぎゅっと絞り出すように収縮したのです。
「あなたみたいな女、はじめて見るわ。恥ずかしいわねえ。こんなに感じちゃって」
わかりません。正直、そのかなり前にあったエクスタシーに比べると、いま起きたことはわたしにも理解できません。電流による誤作動ではないでしょうか。
だけど、会場の人たち、そして夫は、そうは思わないでしょう。
なわみは、縛られて吊されて電気ショックを受けながら潮吹きをする女……。快楽のためなら、なんでもする女……。
誰の目にもそう見えたに違いないのです。
熱湯責め
「では、続いて三回目のステージを始めます。休憩なしよ」
拍手が店内に起こります。
悲鳴を上げることもできません。全身に電流が残っているような苦痛。それでいて、恥ずかしいほど感じてしまっています。
「みっともないわね、なわみ。こんなことで感じてばかり。これは罰を与えないといけないわね」
絵夢奴が笑います。
客席から拍手が起こります。
赤岩と金男が舞台にビニールシートを敷きました。そして、大きな透明のバスタブが運び込まれてきました。半分ほどお湯が入っています。
「きれいにしましょうね。なわみの汚い体を洗ってあげましょう」
ボディブラシを手にして、錘で引き伸ばされた乳首や乳房を擦ります。そして股縄が食い込んでいる部分も擦るのです。
「ぐがぁあぁ」
「べたべたで汚らしいったらないわよ、なわみ」
彼女は温度計を風呂に入れ、ブラシでお湯をかき混ぜています。
「あら、四十八度しかないわ」
金男が大きなヤカンを持って来て、熱湯を注ぎました。それをゆっくりかき混ぜながら、「はい、五十度。これだけ熱ければ、汚れも取れるわね」と言う。
熱すぎる。火傷をしてしまうのではないでしょうか。
赤岩がパイプを下げ、そしてロープを緩めていく。
体が斜めのまま、上体から湯船に向かっていくのです。
熱さが感じられます。髪がお湯に浸かります。逃げたいのですが、ブラシでのど元を押さえられています。
電流といい、熱湯といい、緊縛ショーからはかけ離れた拷問です。
こんなことが許されていいのでしょうか。
髪が熱湯につかり、頭皮がとても熱いのですが、そこで縄がふいに緩み、肩までいっきに突っ込んでしまいました。
「がああああっ」
もがき、逃れようとするのに、絵夢奴や金男が腕でおさえつけていて、わたしは息もできず、もがき苦しむのです。皮膚が焼けるほどの熱さです。顔が、ダメになっていく……。
「ふふふ」
引き上げられました。鼻でなんとか息をしています。絵夢奴たちは笑っています。
「悔しいけど、なわみはきれいだわ。ゆっくりお湯に入るといいわ」
許して。もう死んでしまう……。
二度目は錘のついた乳房まで沈められました。顔がバスタブの底につきます。
長い……。出してもらえない。このまま殺される……。
パイプが引き上げられて、一緒にわたしの体も水面に出ました。
熱い湯を鼻からけっこう飲んでしまっています。激しくむせて苦しんでいるのを見て、鼻縄を緩め、木玉をようやく吐き出させてくれました。
ゲホゲホとみっともないほど苦しんでいます。乳房から上だけが猛烈に熱いのですが、息がつけるだけまだましです。
「おおげさね。もっと上手にお風呂に入らないとね」
金男がまた風呂に熱湯をヤカンで足しています。まだ続けるのです。
「お尻を洗ってあげましょうね」
「いやっ、お願い、助けて」
鼻縄は緩めてはくれましたが、完全には外してくれていません。みっともない顔をしていると思います。
「だめよ、奥様」
なぜか、絵夢奴はことさら人妻であることを強調します。シェリーと哲次はわたしを見もせずに、なにか楽しげに話をしながらお酒を飲んでいます。
びしょびしょの体を床におろされました。ビニールの冷たさがありがたいと思うほどです。
赤岩が足を縛り直します。お湯につけると聞いていて、そんな縛り方にするとはわたしは怖くてしょうがないのですが、もう力が入りません。
見上げると絵夢奴はボディブラシとスタンガンを持って構えています。わたしが反抗したら、それを使うつもりでしょう。
両足を畳んで体の左右にそれぞれ縛り付けたので、深くしゃがみこんだようなかっこうになりました。極端なM字開脚。そのまま、胴体と足からの縄をそれぞれパイプにかけていきます。
吊り上げられると、股間が剥き出しのかっこうになりました。
鼻縄は引き抜かれることなく、木玉を外しました。そして乳首を縛っている紐と結びつけたのです。鼻、口で乳首を上に引っ張り、錘が下に引っ張るのです。そこにさらに絵夢奴が錘を足していきます。
「ちゃんと肩までつかりましょうね」
「ううう、許して……」
熱湯がさらに足されていき、五十度を維持しているようです。
「だめ、だめ、死んじゃう」
わたしは叫びますが、声はそれほど大きくありません。音楽が激しく鳴らされ、客席もガヤガヤと騒がしいのです。
絵夢奴はマイクを使っています。
「はい、準備いいですか? それでは、なわみの熱湯風呂をお楽しみください」
少しずつ下げられていくのですが、ギチギチに縛られて、逃げることはムリです。
最初に敏感な股間が熱湯に触れます。そこでストップします。
「あー、ぎぃぃぃ、熱い!」
「汚れてるわよー、なわみ」
絵夢奴がブラシで擦ります。
「あああ、だめぇぇぇ」
わたしが泣いていると、その声をマイクで拾って増幅させるのです。まるで、わたしが悦んでいるようにしか聞こえません。
「どう、湯加減は」
「やめてぇぇぇ、お願いぃぃぃ」
ブラシでお湯をかけます。その熱さ……。
体をよじるしかないのですが、それも大して効果はありません。
一センチずつ下がっていきます。
「あ、熱いぃぃぃ。熱すぎます、焼けちゃうぅぅぅ」
悲鳴は無視されます。
「大げさね。あんたが入るだけで温度は下がってるのよ」
徐々に降ろされて、下半身が燃えるような熱さの中に溶け込みます。失神してもおかしくないはずですが、体が焼けていくのを感じ続けるしかないのです。
股間は痺れています。
「やめてぇぇぇ、お願いだからぁ」
気付くとヘソを越えています。
「もう少しよ」
股間から底につきました。肩まではムリですが、乳房は熱湯の中にあります。
「さあ、洗ってあげましょうね」
ブラシで擦られます。
「あー、死んじゃうぅぅぅ」
ただひたすら嘆くばかりです。こんなわたしの姿が楽しいのでしょうか。
かなり長い時間、浸けられていました。
やっと上昇してくれて、お湯をしたたらせながら、ぐったりと宙に浮かびます。
「みなさん、なわみがきれいに茹で上がりましたわよ」
お湯に入っていた部分だけが真っ赤になっています。乳房の上あたりから顔にかけては、さきほどの熱さが落ち着いていますが、そこから下は真っ赤なのです。
火傷をしているのではないでしょうか。全身が、切り刻まれているような痛みです。
気付くとバスタブがもうひとつ、運び込まれていました。
「じゃあ、ビシッとしめてあげましょう」
再びおろされると、今度はとてつもなく冷たい水なのです。
「ひぃぃぃぃ」
最初は心地よかったのですが、お尻が底につく頃には、あまりの冷たさに歯がガタガタと鳴るほどでした。
「こちらの水はよーく冷えてるでしょ」
温度計を入れた絵夢奴が「五度」と言いました。
「奥様は心臓がお強いから、これぐらい平気ですわよね」
マイクを使って絵夢奴が店内に声を響かせています。
「奥様、ご気分はいかが?」
わたしにマイクを向けるのです。
「寒いです」
「さっきは熱くて今度は寒いの?」
なかなか出してくれません。
「はい。死にそうに冷たい」
「わがままな奥様。ご主人が大変ですわね、同情しますわ」
笑い声がおこります。
「さあ、今日のショーで感じまくったことを、少しは反省なさいましたの?」
妙な言い方をする絵夢奴。
「許してください。なわみは、ショーの間に恥ずかしいほど感じてしまいました。反省しています」
「じゃ、許してあげてもいいわ」
やっと水から引き上げられましたが、宙に浮いたままです。
「お楽しみいただきましたショーもこれで終わりとなりますが、せっかく濡れている体ですので、終わりもなわみの悲鳴で締めようと思いますが、いかがでしょう」
拍手の中、絵夢奴がまたスタンガンを手にしているのが見えました。
「じゃ、奥様。盛大に悲鳴をあげてくださいませ」
お尻に押しつけられて、「ぎゃー」と叫びました。
濡れているからか、以前よりも倍も強く感じるのです。
「いかがです?」
絵夢奴が客席に聞きます。
「もう一回!、もう一回」とはやしたてる人たち。
「そうですね、声が小さかったかな?」
またしても強烈な電流。
「ぎひぃぃぃ」
そんなに叫ぶ気はなくても、思わず声を上げてしまうのです。
「まあ、いい声。それでは、みなさま、ごきげんよう」
最後にもう一発。
「ぎゃん!」
体が硬直したままになります。
緞帳はないので、店内が明るくなっても、わたしを片付ける様子が丸見えです。
客達はそれもショーのように楽しんでいるようです。
床におろされ、縄を解かれても、すべての筋肉が硬くなって、神経が痺れたようになっています。
「大丈夫、じゃ、なさそうだな」
その声にびっくりします。
ステージに哲次がいます。彼にしなだれかかっているのはシェリー。わざとらしく哲次の胸板を撫でています。
「すごかったよ。菜緒美はホントにプロなんだな」
なんのことを言っているのか、わかりません。
「なかなかのものだろ」と金男。
「驚いたよ。これほど過激だとはね」
「縛るだけでも十分に美しいけどね。菜緒美さんがそれだけじゃ、足りないっていうから」
わたしが考えたこと?
痺れて口もきけないのです。
「菜緒美さん。いえ、なわみ。もうわたしたち、友だちでもなんでもないわね」
シェリーが言います。
「哲次さんがかわいそう」
それはあまりにもひどい仕打ちです。
「もうちょっとしたら、一緒に帰ろう」と金男が哲次に言います。
「ああ」
哲次は満足しているようです。彼がうれしそうにしているのは、わたしにだってわかります。それがわたしのパフォーマンスによるものではないことは確かでしょう。
離婚。
彼からそれを告げられるのではないか。こんなみっともない姿を世間に晒している女を、いつまでも妻にしておきたいとは思わないでしょう。
夫婦
終電間際の電車は混雑していました。くたくたの体をコートに包み、立っているのもつらいのです。右にシェリーがいて、左に夫の哲次、背後に金男がいます。
「菜緒美って、やっと自分にぴったりの仕事を見つけたわけね」
シェリーがスマホでなにかをチェックしながら言います。
「え?」
「あなたは充実しているわけでしょ?」
そんなことを聞かれるとは思いませんでした。疲れた体。ぼんやりした頭。これからどうなるのかまったくわからない不安。それしかありません。
「楽しい?」
つらい。正直、このまま金男と赤岩の言いなりになっていけば、とんでもないことになっていくと思っています。それに、わたしは隣の哲次が気になって仕方がありません。
彼はわたしの腰に手を回しているのですが、それはいままでと同じように優しいけれども、シェリーと仲良くしているところを見たせいで、素直には受け止められなくなっています。
だいたい、なぜシェリーがわたしたちについてくるのでしょう。
「すごいことをやってるわよね、菜緒美って。ホラ」
彼女はスマホをわたしに見せます。
「あっ」
野外撮影会の写真。顔もはっきり写っています。なんて浅ましい姿でしょう。
「ちゃんと見なさいよ」
シェリーがきつく言います。腰の哲次の手に力が入ります。彼も覗き込んでいます。ほかの乗客たちも覗き込んでいるのではないでしょうか。
全裸で縛られている女。
ぎゅっとお尻を掴まれました。
「ひっ」
金男でしょう。
「すごいわねえ」
誰がアップしたのかわかりませんが、シェリーが画面を指でなぞると、次から次へとあのときの写真が……。股間からわき起こる強烈な刺激に失神寸前の表情。男たちのものを口で処理させられている姿……。
「これを家裁に出せば、即離婚よね」
シェリーが笑いながら軽く言います。
金男がコートの裾をまくりあげていくのです。それどころではないのに。
「離婚か」と哲次が耳元で言います。
見ると、彼も笑っています。
金男の手が剥き出しのお尻を撫でて、指が股間に入り込みます。
「しっかり吊革につかまっていないとだめよ」
シェリーに言われて、両手で吊革につかまります。
金男の指はお尻の中の器具をつまんで、ゆさぶりはじめました。電車の振動、揺れと彼の刺激で、わたしはまたしても、熱くなっています。
「ただの色狂いってことになるわね」
周囲の乗客たちが聞き耳を立てているのは明らかです。
「この写真、なわみで検索するとすぐ見つかるのよ」
言葉も出ません。
もう引き返せない……。
「はぁぁぁ」とまたしても、切ない声が出てしまいます。
「恥ずかしいわよ、電車の中で」
「でも、でも……」
金男の指が激しく股間から突き出ている貞操具を揺すっているのです。
立っているのも困難で、なんとか吊革にしがみついている感じ。
前の席に座っていた男性が、嫌悪の表情で立ち上がりました。
「ほら、怒られたわよ」とシェリーがそこに座ります。
そして、コートの上から乳房を掴みました。
「少し大きくなったんじゃないの? モデルの頃よりは。きっと、大勢の人に揉まれて大きくなってるんだわ」
露骨な言葉に、周囲にどんどん空間ができています。
「はああああんんん」
身をよじりながら、恥ずかしさと悔しさの中で、快楽に浸っているのですから、たしかに浅ましい限りです。
やっと自宅近くの駅に到着して、改札を抜けたのですが、シェリーと哲次はわたしをピッタリと挟むようにして歩きます。
「ねえ、シェリー、どうして一緒に来るの?」
「あら、哲次さんに招待されたのよ。そうよね、哲次さん」
馴れ馴れしいシェリー。わたしの記憶をどうひっくり返しても、哲次とシェリーの接点はありません。わたしと出会った頃の哲次は、仕事柄、多数のモデルやコンパニオンと接点があったと思います。でも、そこにシェリーはいません。
もし接点があるとすれば、結婚式ぐらいでしょうか。シェリーはわたしたちの結婚式に読者モデル時代の友人たちと一緒に来てくれました。
深夜の住宅地。マンションにようやく着きました。
エレベーターで四人。それはわたしにとっては、とても異様な感じです。
「電車の中で感じまくりやがって」と金男が言います。
「あら、奥様、恥ずかしいわ」とシェリー。
「こいつに恥ずかしさなんてないんだよ」
夫の言葉は厳しいものでした。
人前で「こいつ」と照れて言うことはあったと思います。だけど、今日はそうではなく、本気で蔑んでいる響きがありました。
「でも、いい宣伝になったぜ。これでなわみの会員が増えてくれればいいわけだ。近くにいた野郎とか、顔じゃ嫌そうにしていたけど、ズボンがパンパンに突っ張ってたからな」
金男が下品に笑います。
部屋につくと、力が抜けてしまいました。
クタクタで、このまま寝たい……。
「コートを脱げ」
夫に言われ、裸になりました。
「シャワーを浴びてこい。ただし十分以内だぞ」
そんな厳しい言い方ははじめてです。わたしは黙ってその通りにしました。わたしが出ると、みんなは勝手に缶ビールとつまみを出して談笑しています。
「じゃ、次はおれが」
金男、夫、そしてシェリーも。みんなが順番にシャワーを浴びますが、それはとてもわたしには受け入れられない行為でした。
ここはわたしと夫の部屋だったはず。
わたしは着衣を許されず、ソファに座らされています。体が冷えていくにつれ、なわみは去り、菜緒美になっていきます。いまの自分が菜緒美だとすれば全裸でソファに座るなんてありえないことです。
シェリーはわたしのバスローブを身につけています。図々しすぎますが、夫が許しているのです。
「さて、さっぱりしたところで、縛りを教えてもらおうかな」
夫が言い出すと、金男が縄を用意しています。
「これからは、菜緒美でいる時間より、なわみでいる時間のほうがずっと長くなるわけだな」
金男はうれしそうです。
「そのままでいいぞ」と金男に言われます。
夫に教えながら金男はわたしに縄をかけていきます。足首にかけて、その縄をソファの下に通して縛ります。それを夫も真似します。
わたしはソファの上で膝を立て、足を開いたかっこうになっています。
手首を足首に縛りつけます。
シェリーの冷たい目が怖いです。
「ねえ、もう疲れているの。休ませてほしい」
誰もわたしの言葉は聞いてくれないようです。
「うるさいようなら、口を塞ぐよ。近所迷惑になるからね」
「そうよ。そのほうがいいわ」
夫がわたしの顎をつかみます。金男たちがわたしをどう扱うか見ていたからでしょうか。とても乱暴になっています。
急にこれまでになく怖くなってきました。
ここは密室です。夫と金男だけならまだしもシェリーが加わっているのも、恐ろしいのです。彼女はモデルのタマゴだった頃に知り合って、わたしを先輩として慕ってくれていた頃があり、友人であり姉妹のようでもあったのです。その信頼を、写真の流出によって完全に失っています。そして、さきほどの緊縛ショーでわたしの立場は決定的になっているだけではなく、スマホで野外撮影会の淫らな行為を見られたので、もはや取り返しのつかないことになっていると思います。
シェリーがいままでになく大人びて見えます。
顎にかかる力が強くなり、わたしは口を開けてしまいます。そこにシェリーがすかさずボールギャグを押し込んできました。金男が素早く、そしてぎゅっとストラップを強く引っ張って止めました。
「いい眺め」とシェリーはスマホでわたしを撮影します。
「まったくだ」と哲次は、わたしの顔を優しく撫でます。不思議な優しさ。だけど、泣けてきます。それは自分の愛すべき妻に対する愛撫とは違うのです。気持ちはもう結婚以来、これほど離れたことはないというところまで離れているのです。
「見せてあげるよ」
哲次はシェリーに告げます。
「うわー、ホント? 見たい見たい」
ショーの間、二人が仲良く会話していましたが、その話題の一つは、わたしの体の中に埋め込まれた器具のことだったのです。
それを見たいがために、シェリーはここまでついてきたようです。
「尊敬すべきお姉様の、とんでもない恥ずかしい姿はどう?」と金男が言います。
「最初はショックなんてもんじゃなかったし、こっちまで恥ずかしくなってしまったけど……。今日、見せてもらったら、なんか、ある意味おもしろいって思ったの」
「へえ。どういう風に?」
「なわみって、いじめられキャラってわけでしょ? なんか、こっちのモヤモヤしたものをぶつける対象としては、いい感じに見えるなあって思っちゃった」
「あ、そうか。そうだよね」
金男も親しげにシェリーと話をしています。
わたしの知らない間に、この三人の間にはなにかしら親密になる時間があったようです。
「憎たらしいって感じかな?」
「そうね。かわいさ余って憎さ百倍、みたいな」
古い言い回しを使うので金男も哲次も笑っています。
ですが、わたしとしては震え上がるほど怖いのです。憎い、とシェリーが言ったからです。
「じゃ、見せてあげるよ」
哲次はわたしの股間に手をやります。自分の物のように下腹を撫でます。
「こんな風になっている」
指でその唇を開きます。
わたしはまったく無力です。
「あらー」とシェリーが言いながら、また写真を撮ります。
「すごく深く突き刺さってるのね」
「子宮まで届いている。子宮口に貼り付いてるんだよ」
「それでなわみは、すぐ感じちゃうわけ?」
「そう」
哲次はそう言って器具の先端部分を指で揺するのです。
「んぐぅぅぅ」
喉を鳴らしてしまいます。
「ずっと入れたままなの?」
「仕事のときはね。ぼく以外のやつにここを使われたくないんだよ」
「口はいいの?」
「しょうがないよね。そこはあきらめたよ」
あきらめた……。
愛情の深い哲次がわたしのことを、妻としてはあきらめた、ということでしょうか。
「だけど妊娠してほしいからね。子どもは産んでほしいんだ。もう、それだけしか期待していないんだ」
シェリー
ソファに縛られて、足を開かされて。夫、義兄の金男、シェリーにすべてを見られて。
ショーで大勢の人に見られる以上に、心が潰れそうです。
はじめての野外撮影会も怖かったのですが、舞台はある程度の管理された世界。見せる側、見る側で一定のラインが引かれていて、わたしはかなり厳しいことをされましたが、それでも、限度があると信じていました。
でも、このマンションの部屋は、密室なのです。なにをされても、どこまでされても、誰も止める人はいません。
おまけに、三対一。
もっとも頼りになるはずの夫さえも、味方ではないのです。
「じゃ、抜いてみようか」
「この姿勢じゃ、よく見えないわ。逆さになってもらいましょうよ」
「そうだね」
ボールギャグのせいで、言葉を発することはできません。
縛られた手足を夫と金男にがっちりと握られて、いったんはソファから自由になったようですが、夫が右、金男が左の手足を縛る縄を引っ張ったまま、ソファをぐるりと回りました。
そしてわたしが落ちないようにシェリーが頭を支えます。
こうして、逆さにされました。
背もたれに背中をつけ、お尻を上に。頭を下にして、手足は引き伸ばされて。
手首と足首を縛られているのですが、上下が逆さになると、さらに股間を大きく開くかっこうになってしまいます。
「奥様、恥ずかしいわ」
シェリーはずっと、わたしのことを「奥様」と呼んでからかうのです。
「あら」
彼女はわざとバスローブを顔に押しつけてきました。
ソファの席の部分から、頭だけ落ちてしまっています。わざと膝頭で顔をぐっと押すのです。
「すごいわね、なわみさん」
股間を覗き込んでいます。
「このままじゃ、抜きにくいから、もう少し湿らせよう」と金男が大型の電動マッサージ器をコンセントにつなぎました。シェリーの足の横からそれを見てしまいます。
「わたしにやらせて!」
シェリーがそれを受け取ってスイッチを入れました。
「うぐぐぐぐぐ」
される前から体が拒絶しますが、彼女は「奥様、待ちきれないの?」と言いながら、振動する拳大の先端をそけい部にあてました。
「ががががあ」
中心から外れているのに、強烈すぎる振動。もっと振動を低くしてくれなければ、痛いだけです。でもシェリーはそういうことをあまり知らないらしく、金男が渡したまま、それを押しつけてきます。
「すごい! 波打ってるわよ」
削岩機で体を削られているような衝撃。
夫も金男も黙っています。注意してくれればいいのに。
シェリーは先端部分で太ももの付け根あたりを前後に動かし、それからおもむろにお尻の間に。肉を分けるようにしながら、わずかに飛び出しているアヌスの貞操器具に向けていくのです。
「奥様はお尻でも感じるのかしら?」
腸が裂けるのではないか。その恐怖。
そしてついに押しつけてきたのです。ドドドドドと体の中から起こる重い振動。それが、腸から子宮から、そして全身へと響きます。
「見ろよ。汁が出てきたぜ」と金男がおもしろがっています。
苦痛なだけです。
「あっ、ホントだ」
シェリーはいったん、電マを離しました。
呼吸をやっとできるようになりましたが、彼女はわたしの顔の上にまたがり、バスローブの裾でなにも見えなくなりました。
そして、今度はとうとう、陰部の貞操器具に、電マを軽く当てたのです。ガツンという衝撃。ほんの一瞬でしたが、下半身を刃物でえぐられるような感覚です。
「さすがにこれは、きつくないかしら?」
シェリーもようやく振動の強さに気付いたようです。
「大丈夫だよ、それぐらい」
金男が軽く言います。
「ちょっとずつ、当てていけばいいさ」
そんなことはありません。一撃ごとに、内臓が壊れていくような気がするのです。快楽とはほど遠いものです。
「むんんんぐぅ」
喉を激しく鳴らして抗議しても、シェリーは膝頭で顔をはさんでくるだけ。
「ちょっとずつね?」
バシン、バシンと、器具の先端に押しつけては離す。
何度も何度も。
それは絵夢奴のスタンガンよりも暴力的でした。腸や子宮に穴があいてしまうのではないでしょうか。器具が突き刺さっていくような痛みを感じているのです。
「うわあ、すごくあふれてきたわ」
感じて濡れているのではありません。苦しさのあまりの反応です。
「おもしろーい」
無邪気に続けているシェリー。
そのとき、わたしの顔にポタリ、ポタリと液体が落ちてきました。
シャワーを浴びて裸の上にバスローブを羽織っているだけの彼女。その股間から、なにかがしたたり落ちているのです。
彼女はわたしをいじめて感じている……。
予想もしていなかった出来事でした。
妻失格
「いけー」
シェリーは興奮しているのでしょう。電マをとうとう器具に押しつけてきました。
「がああああ」
気が遠くなります。
目や鼻にべちゃ、べちゃっと彼女のものが落ちてきます。
「すごいね、女は」と金男が喜んでいます。
「このぐらい大丈夫よ、きっと」とシェリーのうわずった声。
とうとう、シェリーは膝を床について、股間をわたしの顔に押しつけてきました。そこはムンムンとした女のニオイに満ちています。そして柔らかく赤ちゃんのような肌です。
「もっと感じなさいよ!」
シェリーは言いながら、自分が感じているのです。きっとショーを見ながらかなりたかぶっていたのです。その気持ちがいっきに噴き出してきているのでしょう。
苦しく、つらく、そして強烈な快楽に襲われる予感に、静かにはしていられなくて、体を動かそうとくねってしまいます。そうすればするほど、手足の縄がぎゅっと食い込んできます。
そこだけは揺るぎないのです。
なんて、強いのでしょう。
わたしを虜にする縄の感触。それだけが救いです。
「イッたんじゃない?」
わかりません。そんな気もしますが、満足感はありません。
「それぐらいでいいだろう」
金男がやっとシェリーから電マを取り上げました。
「ぐちゃぐちゃね」
「外してみよう」と哲次が、やっと鍵を膣から突き出ている器具に差し込んでくれました。
すーっと中の空気が抜けていきます。
圧迫されていた腹部が楽になっていきます。お尻の器具からも空気が抜かれていきます。
「一緒に引き抜いてみようか」
夫の言葉に驚きます。見ると、シェリーが性器側の器具を、夫がお尻の器具をつまみ上げています。
「ゆっくりやるんだ、こんな風に」
器具そのものを大きく回すように動かしながら、からみついた粘膜との間に隙間を作っていくのです。
「うわ、いやらしい!」
シェリーがうれしそうにいじっています。
この異常な状況に、突然、わたしは殴られたような衝撃を受けて、気が遠くなっていきました。
「あ、なわみが感じてる!」
彼女の声が遠くなっていきます。
「ホントだ。これはすごいな」
なにがどうすごいのかはわかりません。ほとんど気を失っている状態で、なにがなんだかわからないのです。
死ぬんじゃないか。
またしても、そんな強烈な快感。
こんなことをしていたら、わたしは確実に体も脳も蝕まれていくのではないでしょうか。
「タオルを持ってきたよ」
金男の声。
彼らがわたしの体を拭いています。
「世話がやけるわね」
「よっぽど気持ちがよかったんだよ」と金男。「もっとも、普通の人はここまで快楽を求めたりしないと思うけどね」
「なわみは度外れた淫乱なのね」
なにかをいっぱい出してしまったらしいのです。
ですが、体がホッとしてるということは、器具はすでに抜き取られたようです。
「ねえ、哲次さん。なわみの前でわたしを抱ける?」
シェリーの言葉に耳を疑いました。
「どうして?」
夫の声が弱々しく聞こえます。
「だって、こんな風になっちゃったら、もう奥さんとして失格でしょ?」
金男が「もちろん、なわみはもう妻としては考えられない。だけど、おれたちは子どもが欲しいんだよ」と言います。
「生ませるだけ? だったら、セックスなんていらないわよ。これほど不潔ななわみと哲次さんがセックスなんてしても、楽しくないでしょ?」
「だけど、シェリーは子どもは作りたくないんだろう?」
「そう。わたしは当分、出産はしたくないし、もしかすると子どもにはあんまり興味がないかもしれないなー」
二人がわたしから見えない場所へ移動していくようで、声が遠ざかっていきます。
「じゃあ、こうすればいいだろう」と金男がなにかを彼らに言っています。
「それがいいわ!」
シェリーがうれしそうに言います。それから鼻にかかったように「ねえ、哲次さん。そうしない?」と甘えています。
「いいだろう」
バタンとドアが閉じました。寝室のドアです。
そんな。
夫とシェリーはわたしたちの寝室に消えたのです。そこで起こることは……。
いくらなんでも酷い罰です。
金男が戻ってきました。
「どうだ、なわみ。つらいか?」
ボールギャグを外してくれる気はないようですし、戒めも解くつもりはないようです。ただ、頭が下がりすぎないようにと、低い台を頭にあててくれました。
逆さになっているから、先ほどのように意識が途切れ途切れになるのかもしれません。
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