正紀が苛立った声をあげた。
「シーッ、人に聞かれたら大変なことになるわ」
「じゃ、どうすりゃいいんだよ!」
尖った声だった。
「じゃあ……」
理恵は強制されるから仕方なくといった顔をしながら、後ろ向きになると、便器のフタに両手をついて、大きくヒップを突きだした。
「
!?
…………」
正紀は声こそ出さなかったが、内心では飛びあがるほどびっくりした。そして我が目を疑った。
「こうするしかないわ。早くすませてね」
理恵はあくまでも自分の責任を回避した。
正紀は真後ろから見る女性器の雄大さに圧倒されて、しばらくの間、痴呆のようにポカーンと口を開けて眺めていた。前から見た限りでは、つつましくて上品に見えるのに、ところを変えて見ると、実のはじけたザクロのように毒々しい。この人だけ、そこの形が特別なのではないかと疑ったほどである。
「人が来ないうちに……」
恥ずかしい姿を見られている屈辱感よりも、少年を歓ばせているといううれしさに包まれて、理恵はヒップをわざとらしく振った。
「入れる……入れるよ」
正紀は肉茎に手を添えると、赤貝のような膣口に亀頭を近づけた。確かに両者の位置どりはピタリと一致している。
まるで路上で繋がっている犬みたいだ……。
正紀は腰を突きだした。理恵は呻きながら、尻をしゃくった。肉茎は熱い蜜壷のなかにズルッとはまった。
「ああっ……」
すぐに歓喜の波が肉棒に伝わった。一度放出しているとはいえ、若いから二度目の放出も実に呆気なかった。
理恵は胎内におさまったものが、膣壁を震わせるように激しく痙攣するのを敏感に感じとった。それが次にどんな結果をもたらすか、理恵はよく知っている。夢中で「私もよっ、私も!」と喚きながら、気張って括約筋を絞った。
その直後に膣内は、少年の放った灼熱の熔岩で満たされた。背後から激しく抱きつかれながら、理恵もまた女の熱水を放っていた。それは決して充分なものではなかったが、ともかく久しぶりの充実した男根の洗礼と、きわめて不条理な状況の下における性体験が、理恵をいとも短時間で高めたことは否めない事実であった。
【第三章 診察室の生贄】
女って、案外もろいものなんだ……。
これは短い間に二人の女性を強姦という形で征服した二十一歳の少年の、偽らざる感想であった。
暗闇で襲った女も、学校のトイレで意に従わせた理恵も、結局最後のほうでは、まるですすんでセックスに協力したようなところがあった。そのために、正紀が女はもろいという信念を抱いても、無理からぬことであった。
口にこそ出さなかったが、正紀は内心大いに得意であった。心も体も浮きうきして、有頂天になっていた。どちらの女も勃起した正紀の肉棒に驚嘆の目を向けただけでなく、大きいとはっきり言った。
朝起きると、いつものことながら分身は膨らみきっている。それを握りしめて、女たちとの甘いひとときを思いだすと、どうしても次の標的が欲しくなる。
父の伸吾は相変わらず多忙だったが、週末以外は帰宅して、いちおうは父親らしく振る舞ったり、一人息子の相談相手にもなってくれる。正紀は父親が自分に対してとても甘いのを、幼少の頃から肌で感じとっていたが、それにつけこむような行動はとったことがない。いつも表面では従順でおとなしくしている。母の病気で苦労しているのを目の当たりに見ていたので、正紀も父に対して寛大なところがあった。
しかし唯一許せないのは、父が自分のまったく知らない女と、どこかで逢引きしているという事実だった。父に対する憎しみではなく、自分に隠れてこそこそ父を独占しようとしている女に対する憎しみである。
正紀は母親っ子だっただけに、母の後釜を狙うような女は、どうしても許しておけなかった。もし父が再婚をひとことでも口にしたならば、徹底的に反抗する腹づもりだった。今のところ父の素振りからはそんな気配が見えないので、知らぬ顔をしているだけだ。
そろそろ次の女が欲しくなった……。
正紀は父よりも早く家を出て、通学途中、そんなことを考えてニヤニヤした。二人の女の、あの最中の表情や感きわまって叫んだ言葉が脳裏に浮かぶと、もういても立ってもいられない気分になった。
混んだ朝の電車に乗ると、どういうわけか正紀のまわりは女子学生やOLばかりである。以前ならばそれを意識した途端、息苦しさで平然としていられなかったが、今では平気な顔で、まわりの女を細かく観察することができた。
どいつもこいつもオツに澄ましているけどさ、みんなでっかいオマ×コを太腿の付け根にくっつけてるくせに……。
正紀は思わずほくそ笑んだ。その表情に気づいた目の前の女子学生が、怪訝そうにチラチラと彼の表情をうかがった。
ちょうどそのとき、電車がガクンッとスピードを落とした。混雑している電車のなかで、人の波が一方に押され、正紀も女子学生にピッタリと押しつけられた。鞄を体の前でかかえていたので、彼の両手の甲が女子学生のスカートの前に当たった。そこからほんのりと温かみが伝わってくる。
その場所は、まぎれもなく女陰の真上であった。正紀は意識的に手の甲をもぞもぞと動かした。ハッとしたように女子学生が顔を伏せた。首筋まで真っ赤に染めている。手の甲だからいいようなものの、てのひらならば完全に痴漢行為だ。正紀はラッシュのせいにして、拳をできるだけ女陰に近いところに押しつけ、電車の揺れにまかせて、少しずつ強く圧迫した。
困惑した女子学生の表情を見ているうちに、正紀は欲情した。しかし、どういうわけか、年上の女に対するような強烈な感覚とは少し違っていた。次の停車駅が来ると、女子学生は逃げだすようにおりてしまった。
そろそろ女が欲しい……。
正紀の頭から、その思いは離れなかった。
校門近くで、市村香澄の姿を見かけた。テレビタレントとしてかなり知られる存在になっている香澄は、生徒たちの間でも評判の美少女である。みんなは香澄を知っていても、香澄のほうはクラス以外の生徒はまず知らない。正紀とはクラスが違うから、当然知っているわけがない。
目の前を楽しそうにクラスメートと談笑していく香澄の脚は、頼りないくらい細くて長い。不思議と欲情を感じなかった。
おれ、お前のお義母さんとセックスしたんだぜ……。
そう言ったら、どんな顔をするだろうと思いながら、正紀は香澄の背中を見送った。理恵を呼びだすことも考えたが、下手に反撃されて、警察にでも訴えられたらと、別のターゲットを探すことにしたのだ。
授業は相も変わらずつまらなかった。放課後、帰りしなに何気なく掲示板を見ると、明日から二日間、学院の嘱託医が来て、健康状態に不安のある生徒の診察と相談に応ずる旨の貼り紙がしてあった。
ぶらぶら帰途につきながら、正紀は嘱託医・鈴川律子の容姿を思い浮かべていた。去年の夏、正紀は都内の有名ホテルにある会員制プールで、水着姿の律子を見たことがある。そのとき律子は、地中海カラーのまばゆいばかりのワンピース型を身に着けていた。正紀はそのスタイルのよさに、しばし見とれたほどだった。
律子は時折り眼鏡をかける。正紀はそのときの理知的な顔も好きだった。
三十五、二十一歳だろうか。学院中等部に娘が在学中で、いってみれば律子もまたPTAの一員でもあった。嘱託医をやるくらいだから、家は学校から近い。個人医院であるが、夫も医者で、なかなか繁盛している医院と評判だった。
正紀は家へ帰りつくまでに、次のターゲットを美しい女医に決めていた。
正紀の父も医者であると同時に、総合病院の経営者でもある。正紀は小さい頃、よく母に連れられて病院に行ったものだが、白衣に身を包んだ女医たちを、ひどく眩しく思った記憶がある。
正紀は自室にこもり、律子をどのようにしてモノにするかを考えた。最初の女のように、夜道で襲うというわけにはいかない。市村理恵のように、一人でトイレに入ったところを襲うといった都合のいい展開は望めそうもない。
あれこれと考えたが、何も思いつかないまま、翌日家を出た。学校へ行く途中、鈴川医院の前に立ち寄った。
医院の玄関ドアに『休診』の掛け札がぶらさがっていた。脇に貼り紙がしてあり、『医師会出席のため、今日、明日の二日間、臨時休診いたします』と達筆で書かれている。
正紀は考えた。今日から二日間、鈴川律子先生は学校に来て健康相談を行なう。ということは、医師会に出席するのは夫のほうだ。
授業中も休み時間も、正紀はいかにして律子を襲うか、そればかり考えていた。この前のように、トイレに立ったときはどうだろう。しかし、それは授業の合間だから、他の人も大勢いる。先日のように授業がなくて、ほとんど無人というわけではない。それでは、健康相談に行って、医務室で襲うのは?……だが、医務室には看護資格を持った中年の校内看護婦が常にいるから、とても無理である。
そうだ! 何も学校でなくてもいいじゃないか……。
正紀は医院に律子を訪問しようと思いたった。夫が不在で、しかも医院が休みだから、看護婦もいないだろう。
よし、決めた!……
いったん家に帰った正紀は、暗くなるのを待った。都合のいいことに、父から電話があり、帰りが遅くなると言ってきた。おあつらえ向きだった。流れが自分のほうに向いている。すべてがうまくいきそうな気がした。
風呂に入って体を洗った。初陣におもむく若武者のような気分だった。昨年見た律子の水着姿を思いだし、その下に隠された裸を想像した。
市村香澄の義母のように、オマ×コの毛は薄いかもしれないな……最初は前から、二発目は後ろからペニスをオマ×コに突っこんでやろう……。
よこしまな妄想が果てしなくひろがっていくうちに、ペニスはものの見事に勃起した。それを眺めて、律子がその大きさにびっくりするところを想像した。暴発しないように、事務的に自らの手で欲望を処理した。気持ちが落ち着き、気分が爽快になった。ますますうまくいく予感がした。
午後七時になると、正紀は家を出た。タクシーを利用すれば学校の近くまでは三十分もかからない。鈴川医院は学校に近いから、正紀の計算通りに着いた。
しかし、いざ医院の前に立つと、当初考えていたように冷静ではいられなくなった。夜の暗がりのなかで、心臓の音が聞こえてくるようだった。診察室とおぼしきあたりの窓は暗かった。住居のほうの玄関は、医院の右手の奥にあるらしい。
正紀は迷った末に、医院のドアのベルを押した。なかなか人が出てこない。次第に心細くなってくるにつれて、意気ごみも萎えてくる。
あたりはシーンとしている。弱気になって、よっぽど引きかえそうかと思ったとき、なかで明かりが灯った。ドアの覗き穴から見られているなと思った。
「どなた?」
女の声がした。正紀はこれまで律子と口をきいたことがなく、互いに面識がない。
「あの、どなたでしょう?」
もう一度、警戒しているような声が聞こえた。
「はい……学院高等部の生徒です……近くを通りかかったら、急にお腹が痛くなったので診てもらえないかと……あっ、痛っ……」
正紀は玄関灯の下にわざと顔をさらして、顔をしかめてみせた。なかで内鍵をはずす音がして、すぐに女医が顔を出した。生徒と聞いて安心したのだろう。
「お風呂に入っていたものだから……ずいぶんベルを鳴らした?」
「はい……」
「さ、入って。すぐ診るわ」
女医はネグリジェの上に、薄もののガウンを羽織っている。相手が生徒なので、そんな格好でも気さくにドアを開けたとみえる。
正紀は靴を脱ぎながら、さりげなくあたりを見まわした。女物の靴が一足、きちんと揃えてある。他に靴はない。
休診中の医院だから当然だが、住居のほうの人が気になった。誰もいないにこしたことはないが、それを願うのはあまりにも手前勝手にすぎる。中等部に通っている娘がいるかもしれない。
「すいません、こんな時間に……」
「いいのよ。娘は塾に行ってるから、十時近くにならないと戻ってこないの」
何気なくもらした律子のひとことで、正紀は急にやる気を起こした。夫はいない。娘もいない。しかも、めざす相手は、おあつらえ向きの格好をして、すっかり気を許している。
診察室に通された。少しむしむしする。
「クーラー入れましょうか?」
「大丈夫です」
「じゃ、お腹を出して」
馴れた感じで、律子は聴診器をかけ、ゆったりとした肘掛椅子に座った。
丸椅子に腰をおろした正紀は、ポケットのなかのハンカチとガムテープをさりげなく確かめた。念のために、切りだしナイフも持ってきたが、できるならこれは使いたくないし、見せたくもない。
「何か悪いものでも食べたのかしら?」
律子が問いかけた。
「お昼に食べた弁当のサバが悪かったと思うんですが……」
正紀は背中を向けて、ズボンのベルトをゆるめ、ポロシャツとTシャツの裾を出した。そして、くるりと女医のほうへ向き直ってから、いきなりズボンとパンツをずりさげた。
「
!?
…………」
律子の表情が一変した。目を見張り、口をパクパクさせた。うまく言葉が出ない。何か言いたかったが、あまりにもショックが大きく、全身がガタガタと震えた。
律子が見たものは、信じられないほど雄大な肉の塊りであった。律子にとって、これほど衝撃的なことはかつてなかった。平和な家庭、やさしい夫、幸せそのものの人生……。それが今まさに崩れ去ろうとしていた。
律子は気を取り直し、窓に向かって大声をあげようとした。
だが一瞬、正紀の手が早かった。丸めたハンカチを素早く律子の口に押しこんで、首に手をかけた。
「グェッ……」
律子の喉の奥で、ひしゃげた声がした。
正紀は決して落ち着いていたわけではない。かなり荒っぽいやり方であった。それが律子の恐怖を駆りたてるのに、大いに役立った。
殺される!……
律子は反撃する気分をたちどころに喪失した。
「殺さないで……」
律子は絞りだすような声で哀願したが、口のなかのハンカチのために、くぐもった呻き声にしか聞こえなかった。
正紀は何も言わなかった。そのほうが下手にしゃべるよりも、ずっと効果的な気がしたからである。すぐにガムテープを何重にも口の上から貼りつけた。
隣りに、診察台がある。正紀は律子の腕を引っぱって、その台の上に押し倒した。律子の表情は絶望で歪み、蒼白になっていた。
「正直に答えてよ。男の先生は学会に出ているから留守のはずだね」
即座に律子はうなずく。
「娘さんは塾だそうだけど、他に誰かいるの? 嘘をついたら……」
正紀はひと区切りつけて、「ただじゃおかないよ」
と、怖い顔をしてみせた。
律子は複雑な表情をしたまま何も言わない。娘が戻ったら、毒牙はそちらにも伸びるのではないかと恐れたのだ。正紀はすぐそれに気づいた。
「約束する。先生が静かにさえしていれば、他の人には手を出さない。だけど、嘘をついたり、裏切って大声を出したり、逃げだしたりすれば、何をしでかすかわからないからね。さあ、どうなんだ。誰かいるのか?」
女医はかすかに頭を横に振った。
正紀は満足げにうなずいた。
律子はできるだけ目を合わさないようにした。しかし、そうすれば、かえって少年の異常なほど大きい肉棒が意識された。あわてて視線をそらそうとすると、「これから目を離すな」という少年の叱責が飛んだ。目の前で、ブランブランと肉棒を振ってニヤニヤしている。
まだ少年の顔と巨根のアンバランスさが、律子の恐怖心をいっそう強いものにした。見覚えのない顔だが、決して凶暴な感じはない。むしろ、どこか品のよささえ漂っている。それなのに平然と卑劣なことをやってのけるから、かえって無気味であった。
律子は審判をくだされる前の犯罪者のように、ただ震えつつ相手の次の行為を待つしかなかった。
「握ってみろよ」
見おろしながら少年が命じたが、律子は幾分残っている理性によって、簡単には言いなりにならなかった。
「みんな、これが立派だと言うけど、先生はどう思う? しゃべれないんだから、頭を振って肯定するか否定するか、ちゃんと返事をするんだ。さあ、大きいか、それとも……」
そこまで言ったとき、律子は大きく頭を上下させてうなずいた。正紀にとって、気分のいい一瞬だった。
本当に信じられないくらい大きいわ……。
律子は自分の屈辱的な立場を忘れて、心のなかで感嘆の声を放った。表情や体つきが大人の男には遠いだけに、下半身から突きでたものはいっそう雄大に見えた。
正紀は律子の気持ちを察すると、手を取ってペニスに押しつけた。そのまま手を重ねて、ゆるゆると表皮を擦りたてた。そうしながら正紀は律子の顔を見た。無表情を装ってはいるが、明らかに動揺しているのがわかる。
「つづけてくれよ」
正紀が手を離すと、律子は困惑したようにいったん手の動きをとめたが、見おろした正紀が表情をキッと引きしめると、仕方なさそうに擦りだした。
いい手つき、してるじゃないか……。
正紀は、いきなり射出して、律子をびっくりさせてやろうと決めていた。だから、快感が急激に上昇しても、抑えようとはまったくせず、発射の瞬間を待っていた。
束の間の穏やかな時間が、静かに流れていった。
そのときである。律子が突然、空いているもう一方の手で、揺れ動く正紀の袋をムンズと力いっぱい掴んだ。
「うわっ……」
正紀にとってその反撃は、まさに青天の霹靂だった。一瞬、激痛で目の前が真っ暗になった。極楽から地獄に蹴落とされたようなものである。正紀は必死で律子の手を振り払おうとした。
しかし、律子はここで一気にけりをつけなければ、これから先どんな目にあうかわからないという恐怖感を抱いていた。ここが正念場とばかりに、ますます力をこめる。
正紀がフロアに倒れこんだ。律子も診察台から転げ落ちたが、決して離すものかと、少年の玉袋を握りしめたままだった。
正紀の目の前に、脱ぎ捨てたズボンがあった。両脚をバタつかせながら、ポケットをさぐった。
もうひと息……。
律子は掴んでいるだけでなく、力いっぱい引っぱった。
少年の悲鳴が聞こえた。
勝ったと思った。
だが、次の瞬間、律子は目の先にキラッと光るものを見た。刃物だった。正紀は女医の口からガムテープを剥がしてハンカチを抜きとると、代わりにナイフの先端をスーッと口のなかに押しこんだ。そのまま左右いずれかに引けば、唇は頬まで裂けてしまうかもしれない。ピリッと痛みを感じたとき、律子の全身から力が抜けてしまった。
「よくも……」
正紀は息をはずませながら、女医のガウンからネグリジェまで跡形もなく切り刻んだ。ボロボロになった布切れの下から、真っ白なパンティが見える。
正紀の持ったナイフの先端は、パンティの中心にすべりこんで、難なくそれを切り開き、一枚の布切れにしてしまった。ふさふさした恥毛の上をナイフの刃がペタペタと叩いた。
「お願い……殺さないで」
みじめな敗北感に打ちひしがれながら、律子は腰を引いた。
正紀の表情は殺意を感じさせるほど、憎悪で膨れあがっていた。律子の哀れな姿を見ているうちに、正紀の内部にサディスチックな感情がふつふつと湧いてきた。いじめっ子が、逃げまわる相手をとことん追いつめていく状況によく似ていた。
「はじめに言っておいたじゃないか……裏切ったら何をするかわからないって」
「許して……ください。もう二度としませんから」
律子は半泣きになって震えだした。
「脚を開け……開くんだよ」
ナイフの切っ先で黒々とした恥毛をそぐようにすると、律子は従順そのものの様子で、すぐに閉じていた両脚を開いた。しかし、肝心な部分はぽってりした肉に覆われていて、一条の溝が垣間見えるだけである。
正紀は指先を近づけて押しひろげようとしたが、すぐに別のやり方を思いついて手を引っこめた。代わりにナイフの刃先を裏がえしにして、今にもそれで淫裂をこじ開ける素振りを示した。
「あ……いやっ……切らないで……」
正紀はその言葉におかしさを感じたが、表情は崩さなかった。力いっぱい突き刺すゼスチャーをしてみせた。
律子の顔が歪み、凍てついた。そして、まったく思いがけない現象が、正紀を驚かせた。女陰の狭間から小水が勢いよく流れだしたのである。フロアに尻をつけて座りこんだ体勢なので、小水はだらしなくも両腿の間にまつわりついて、ジョウジョウと音をたてながらフロアに染みをひろげていく。
正紀は呆気にとられて、どんどんひろがっていく地図を眺めた。
律子が泣きだした。屈辱と羞恥に耐えられなかった。しかし、いったん解放された括約筋は、すべてを排泄しない限り元に戻らない。男と違い、女体の仕組みはそうなっている。当然、匂いも漂った。
「くさいな……」
正紀は大袈裟に顔をしかめた。律子は悪戯を指摘された子供のように、真っ赤になってうつ向いている。正紀はチラッと壁掛時計を見た。すでにここへ来て三十分近くがすぎていた。しかし、まだ塾から律子の娘が帰ってくる時間ではない。
「おい、風呂場はどこだよ。くさくてたまらないや」
わざと侮蔑の言葉を浴びせると、律子はまたしてもシクシクと泣きだした。まるで年下の女の子をからかっているような、一種の奇妙な快感に正紀は取りつかれていた。
「立てよ」
のろのろと律子が従う。ボロ布のようになったネグリジェから、ポタポタと小水が垂れている。
「全部脱いでしまえ」
律子の足もとにボロ布の山ができた。豊満なヒップの半分が濡れている。
「本当に誰もいないんだな」
正紀の念押しに、律子は素直にうなずき、よろけるように前に立って歩きだした。正紀は律子に恐怖心を与えつづけるために、ヒップの割れ目に冷たいナイフの先を押し当てながら、用心深く従った。
医院と住居は渡り廊下で繋がっている。浴室は廊下のすぐ脇にあった。正紀も衣服を脱いだが、そのときには、格闘のために縮んでいたペニスも隆々と復活して、律子に対する怒りと欲望の深さを具体的な形に表わしていた。
正紀に背中を向けて、律子は早々にシャワーで股間を洗い流した。やっと人心地がついたとき、背中から声がかかった。
「こっちを向けよ」
もはや律子は反抗する気力もなく、弄ばれる覚悟はできていた。できるだけ早く無法の侵入者を退散させるには、体を開くしかなかった。学生の娘が戻ってきたなら、娘には手を出さないという約束など、簡単にほごにされてしまうかもしれない。いつもは母親として、早く帰ってくるよう願う律子も、この夜ばかりは、できるだけ遅く帰宅することを祈るばかりだった。
正紀のほうに向きを変えた律子は、正紀が手にしたものを見ていやな予感がした。夫が使うシェービングクリームとカミソリを持った正紀は、少年らしからぬ淫蕩な笑いを浮かべている。
「股を開けよ」
歪んだ笑いを見たとき、律子は少年の意図を察して、すくみあがった。しかし、それがどんなにおぞましく、悪意に満ちた弄虐かわかっていながら、律子は拒む立場にはなかった。夫にはなんと弁明しようと思ったが、今はそれを考えている余裕すらない。恐るおそる両脚を開いた。
「剃りにくいな……後ろに手をついて体を支えるんだ」
正紀は声をはずませた。さっき、診察室でナイフを恥毛に突きつけたときに浮かんだアイデアを、今まさに実行しようとしているのだ。
女医が羞恥の表情であらぬほうを見つめている。その風情も、正紀にはたまらなく官能的でチャーミングだった。シェービングクリームを噴きつけた。律子の体がピクッと跳ねた。黒い茂みは、たちまち白い泡のなかに消えた。
律子は冷んやりした股間に、スーッと風が通るのを感じた。その感覚は次第にひろがっていく。
「……できた。綺麗になったよ」
はしゃぐ少年の声にうながされて目を開けると、ところどころに白い泡を残して、生々しい肉色のふくらみが完全に露出していた。そこにシャワーがかけられ、剃り落とされた恥毛は水流に押されてくるくると回転しながら排水口に吸いこまれてしまった。
「後ろを向きな。バックでしよう」
律子は恐ろしいものを見るように少年の口もとを見つめた。時折り夫にバックスタイルを要求されると、犬のような恥ずかしい体位に耐えきれないものを感じたが、また逆に恥ずかしい姿を男の前にさらす歓びも味わう。その獣のセックスを今、目の前の子供といっていい大学生が平然と要求していた。
「さあ、待ちきれないと言ってるよ」
正紀は肉棒を握って、二度、三度と振った。
律子はその先端から透明の水玉が鮮やかな弧を描いて飛ぶのを見たとき、それまで感じなかった性的な欲望を初めて意識した。
信じられない!……
自らの女体の反応に戸惑いつつ、のろのろと後ろ向きになると、バスタブの縁に肘をつけろと命じられた。
正紀の目の前にヒップの合わせ目が露出した。剃毛されたとはいえ、割れ目に近い陰唇の端々には、短い毛がチリチリとへばりつくように剃り残されている。卑猥な構図は、少年の目を楽しませるに充分だった。
「こんなスタイルでやったことあるんだろう? どうなんだよ」
律子は小さくうなずいた。
「どっちが要求するの? 先生かい? それとも先生の夫かい?」
さすがに返事ができない。
「どっちだ!」
いきなり雷が落ちた。
「うちの人……主人です……」
「そう……こんなスケベな格好でやるわけだ」
いきなり逞しいものが粘膜を割った。突然の侵入のせいか、亀裂から軌み音が生じた。
「あ……」
律子は恥ずかしさで身を縮こませた。それが割れ目を締める結果となった。
正紀は自分のヌレヌレのこわばりが、膣口を出たり入ったりするさまを眺めた。女陰の粘膜がこわばりの動きにともなって、胎内に潜りこんだり、外にめくれかえったりする。律子の背中が赤く染まって、美しくしなった。
「気持ちいいかい? 言うんだ!」
抽送をつづけながら正紀は聞いた。聞くことによって、性的な歓びが増大する。
「言えったら!」
苛立たしげに、太いものを根元まで送りこんだ。そのとき、自分自身の陰毛が、律子の肛門に密着していることに気づいた。まるで律子のアヌスに毛が生えているようで、実に卑猥だった。
ペニスを送りこんだままの状態で律子の腰をグッと引きつけ、毛をぐりぐりと肛門に押しつけた。当然、肉棒も膣奥深くえぐる。
律子は初めてよがり声を放った。声だけでなく、全身が悩ましく揺れた。正紀は律子がどんな状態か理解した。レイプされて、悦んでいるのだ。だからなおも力をこめて、腰を揺さぶった。
「どう? いいのかい?……ね、言えよ!」
律子が腰全体で押しかえした。二人の性器は寸分の隙もなく密着した。
「あっ、あああーん……」
「いいの? ねっ?」
「いいの……気持ちいいっ……どうしよう……ああン……」
そこまでだった。年若く経験の浅い正紀が耐えられる限界はこえていた。
「ああっ、出るゥ!」
強烈な快感が肉棒を揺さぶった。
律子は胎内でグーンと膨張した怒張を感じると、思いっきり力んで括約筋を締めた。膣が激しく痙攣したとき、熱いほとばしりが子宮に降り注いだ。
充分にまだ高まっていたわけではなかったが、その勢いに触発された律子は、ヴァギナを強烈に収縮させて、生温かい女の熱水を肉棒に浴びせるのだった。
【第四章 垣間見た熟女の本性】
女は脅しや暴力に弱い……。
正紀はそんな確信を、いつしか抱くようになっていた。そして、これまで神と同じくらい遠い距離にあった女性の存在が、にわかに身近なものとして感じられた。
どうってことないや……。
まわりにいる男友だちより、むしろ扱いやすい気さえする。
脅しをかければ一発なんだからな……。
それに、女は決して美的で神秘的なものでないということも知った。街を行く女たちを見ていて、思わずニヤついてしまうことがある。誰もが澄ました顔をしているが、股倉にはグロテスクなものをくっつけているのだから、というわけである。澄まし顔が嘘っぽくてならない。
そのくせ、その醜悪なものに憧れて夢にまで見たりするのだから、男は単純で可愛らしい動物だと思った。
女はどこか油断ならない気がする。やはり男の武器、つまり力ずくで自在に操るのが、一番手っ取り早い方法だという確信を持った。
その後、市村理恵も鈴川律子も何とも言ってこない。正紀とは知らないにしても、M学院の生徒という見当はついているわけだから、本気で探すならば、すぐに犯人である正紀を割りだせるはずだ。それなのに、その気配すらなかったので、正紀はますます怖いもの知らずとなった。
それに、女は自分のプライドを守るためには、恥ずかしい強姦事件など、絶対に自分から口に出したりしないのだということがわかったから、しばらくの間、おとなしく鳴りをひそめていた正紀も、そろそろ次のターゲットを、という気持ちになった。
いったんその気になると、体がカーッと火照るし、ちょっと女の裸を想像しただけで、すぐに下腹部が膨らんでしまう。
待て待て、今にいい思いをさせてあげるからさ……。
正紀は勃起したペニスをなだめながら、学校から各家庭に配付されたPTA名簿をめくった。生徒名と保護者名、それに住所や電話番号まで詳しく記載されている。保護者名は大抵が男名前であるが、なかには女の名前もちらほらとある。正紀はそこに狙いをつけた。つまり父親がなんらかの理由で、その家庭にはいないということになる。保護者名が女名前のところは、離婚か、死別しているに違いない。名簿から母子家庭のみをピックアップし、ターゲットとなる数人の候補者を絞りこんだ。
そのなかに、中等部三年生の長谷部真弓と、その母親である貴美子の名前があった。真弓は美しい容姿をしたバトンガールの一員で、正紀もバトンを華麗に操っている彼女を何度か見たことがある。真弓に興味を抱いているクラスメートの話では、彼女の父親は都内に幾つもの高級スポーツクラブを所有するオーナーの御曹子だったが、二年前に、外国旅行中に飛行機事故で亡くなったのだという。
貴美子の顔を見たことはなかったが、真弓ほどの美少女の母親なのだから、かなりの美人であるはずだ。しかし、近づく手だてがない。
日曜日の昼近くに目覚めた正紀は、ベッドのなかで、いかに近づき、どのように犯すかをあれこれと考えた。なかなかいいアイデアが浮かばない。
そのとき、ドアが軽くノックされ、父の伸吾が顔を出した。外出の支度をしている。
「ちょっとゴルフの練習場へ行くが、お前もどうかと思って」
正紀は、明日はテストがあるからと嘘を言った。
伸吾が出かけると、正紀はようやく起きだして、シャワーを使った。気のせいか、ペニスが以前よりも大きくなったように思われた。色素も濃くなっている。
男が女を欲しがる気持ちはよく理解できるが、女も同様に男の体を求めているとは、女を知るまで想像もしていなかった。襲われた女だって、結局はそうなるのだから、愛し合っている仲なら、女はいったいどんなふうにして男を求めるのだろう? その激しさを空想するだけで、正紀は胸が痛くなるような興奮を覚えた。
正紀は伸吾の寝室に入ってみた。
柑橘系のオーデコロンの匂いが、ほんのりと漂っている。父は以前からお洒落であったが、一人身になってからは余計に見だしなみに気をつかっているようなところがある。中堅どころの個人総合病院の院長である身としては、当然すぎるほど当然だが、正紀の勘では、特定の女がいるような気がしてならない。
病弱で、あまり楽しみも知らないまま亡くなった母を思うと、その後釜に入りこもうとする女を正紀は許すことができない。さいわい、父は再婚については、これまで何も言ってはいないが、もしそんなことがあれば、正紀は一蹴するつもりである。一人っ子の正紀の言うことを、父は無視したりはしないだろう。
正紀は、父に女がいてもいっこうにかまわないと思った。特に最近は女を知り、性に理解を示すようになっていたからなおさらである。
しかし、女はあくまでも影の存在に徹してほしいのだ。しゃしゃり出て、小牧家の後妻におさまろうとする女には、容赦なく鉄槌をくだすつもりであった。
ふと、サイドテーブルの上の、父専用の電話に目がいった。留守番電話が入っていることを示すランプが点滅している。
再生のボタンを押した。女の声がした。明るくてやさしい声だった。
「時間がちょっとずれこみそうなので、十分ほど遅れます。でも、あなたはもうおでかけだから……」
どこかで聞いたことがあるような気がしたが、思いだせなかった。あるいは、気のせいでそう思うのかもしれないと考えた。
それにしても、かなり親しい間柄のようである。父のことをあなたと呼ぶ女性を、正紀は亡くなった母以外に知らない。やさしい声をしているけど、すみには置けない女かもしれないと思った。
ゴルフ練習場で、父はその女と落ち合う約束でもしたのだろう。ひょっとしたら、ゴルフの練習は単なる口実で、どこかのホテルにでも入ったのではないだろうか?
正紀は大急ぎで外出の支度をした。近くのゴルフ練習場は、正紀も何度か足を運んだので知っている。しかし、父はそこへは行かないのではないかと考えた。女連れでは他人の目があるからだ。それに車を使うほど遠くはない。父が車で出かけたのは、エンジン音がしたことからも明らかである。念のため、車庫をのぞいた。二台あるベンツのうち、フルオープン型の500SLがない。
正紀はタクシーを拾って、ゴルフ練習場へ行った。一階から三階まである、打ちっ放しの練習場には人が溢れていた。
かねがね父は、正確な方向性と距離感を知るためには、一階が一番適していると言っていたので、正紀は用心深く木立の陰に隠れて金網の向こうを見た。驚くほど近くに父はいた。やはり女連れである。
どこかで確かに見た顔だぞ……。
そう思ったが、思いだせなかった。三十代半ばに見える美しい女が、父に手とり足とりして教えてもらっている。力強さはないが、美しくまとまったフォームをしているところから察して、まるっきり初心者というわけではなさそうである。
美しい女だから油断はならないと思った。正紀は女の顔を脳裏にしっかりと刻みつけた。
その足で銀座に出た。なんの当てもなく歩いているうちに、日比谷に来てしまった。久しぶりに映画でも見るかという気になって映画館の前に立ち、時刻表を見ているとき、不意に背後で華やかな声がした。
「ママ、ちょうどいい時間だわ。これにしましょうよ」
振り向くまでもなく、二人の女が正紀の目の前の窓口でチケットを買った。正紀は驚かずにいられなかった。娘のほうは中等部の長谷部真弓だった。とすれば、連れの美しい大人の女は、正紀が次のレイプの標的と決めた母親の貴美子に違いない。母と娘というより、姉と妹といっても通じるほど、貴美子は若々しかった。これはまさしく天の配剤に相違ないと、正紀は思った。
彼もすぐにつづいて入った。ちょうど予告篇を上映している最中だった。正紀は母娘の真後ろに座った。かすかないい匂いが鼻腔をくすぐる。
二時間後、正紀は母娘につづいて映画館を出た。
「あまり遅くならないでね」
貴美子がそう言っているところをみると、母娘は別々になるらしい。
「ママは何時頃になる?」
「そうね……八時までには帰るつもり」
「じゃ、私は七時頃」
「戻る前におうちに電話をして、トシコさんにお夕飯を作ってもらいなさい。私はいらないわ」
「わかったわ」
母娘は別れた。
正紀は貴美子の後をつけた。会話のなかに出てきたトシコさんというのは、どうやらお手伝いさんのようである。長谷部家には少なくとも女が三人いるということを、正紀は知ったわけだ。
貴美子は年齢からみて、真弓より年上の子供がいるとは思われない。長谷部家には、自分より腕力に優る者はいないと、正紀は結論づけた。
貴美子は日比谷公園の前でタクシーに乗った。日曜なのでタクシーはすぐに拾える。
正紀もタクシーで追った。運転手は、あまりに若い正紀が「尾行」などという言葉を使ったので、興味津々といった表情で追跡を開始した。貴美子の乗ったタクシーがとまったのは、正紀にとって初めての街だった。電柱の番地標示を見ると、湯島三丁目となっている。
ああ、ここが学問の神様で有名な湯島天神のある町だ……。
貴美子を尾行しながら、正紀はそんなことを考えていた。
貴美子はゆっくりとした足取りで、なだらかな坂をのぼっていく。あたりに人影はほとんどない。正紀は反対側の歩道に移って、つかず離れず尾行した。
貴美子は用心した様子もなく、坂の途中にある建物のなかにスーッと消えた。正紀はその建物を見あげながら近づいた。それはまぎれもなく、男女の密会の場所を提供するホテルだった。貴美子のとった大胆な行動に呆れながら、相手はどんな男だろうかと想像した。ひょっとしたら、後からやってくるかもしれないと思い、少し離れたところをうろうろしたが、男が来る気配はない。一組の若いアベックが、肩を組んで入っただけだった。
あたりはまだ薄明るい。正紀は、すぐには貴美子が出てくることはないと考え、坂をくだって、タクシーをおりた場所に戻った。天神下の交差点を右に曲がると、けっこう人出が多い。そのまま二、三百メートル行くと、次の大きな交差点に出た。
大きな建物は上野松坂屋で、その周辺はホテル街の静寂が嘘のように、人で溢れかえっていた。知らない街というのも、歩いてみると、けっこう面白いものである。アメ横の賑わいに目を見張り、人混みに揉まれて歩くうちに、ひどく空腹であることに気づいた。立喰ソバで腹を満たして店を出ると、あたりはすっかり暗くなっていた。
正紀はまたホテルの近くに戻った。暗いので監視するのには好都合である。三十分ほどして、貴美子が出てきた。一人である。坂をおりきったところで、ぼんやり立っている。一人でホテルに入るなどありえない。正紀は用心深くあたりを見まわして、貴美子から少し離れたところに立っていた。
しばらくすると、坂をおりてきた中年の男が貴美子の横にさりげなく並んだ。すぐに貴美子が通りかかったタクシーをとめ、二人は乗りこんだ。
まさか
!?
……
正紀は遠ざかるテールランプを見ながら、何度も同じ言葉をつぶやいた。貴美子と同乗して消えた中年男は、間違いなく社会科主任教師の矢崎であった。矢崎はPTAの連絡係をしているから、いろいろな形で父兄とは繋がりがある。
正紀は、こん畜生と思う反面、二人の特別な秘密を握ったことで、貴美子を手中のものにするには、さして時間がかからないという自信も深めた。
それにしてもあの二人……どんなふうにして抱き合ったのだろう……。
そう思い、欲情が切ないまでに膨らんだ。
家に戻ると、父はもう戻っていて、のんびりとテレビを見ている。さっきのゴルフ場の女を抱いてきたのだろうか? 横顔には、充分に満足しきった色が滲みでていた。
正紀は最近になって、少しはわかってきたことがある。それは人間が生きていくために、いろいろな意味でセックスが重要な役割りを占めているということ。そして多くの人々は、性によって生活を支配されているのではないか、ということだ。
貴美子についての知識はないが、社会科主任教師の矢崎はどちらかといえば謹厳実直というタイプで、教育熱心である。二人の子供の父親でもある。それが、生徒の母親と密通しているのだ。
正紀は最初に暗がりで襲った女のことを思いだした。襲われる立場にある女が、最後には自ら体を開き、正紀を導き入れた。理恵も律子も結局は抱かれてよがり声をあげた。女は、扱い方ひとつでどうにでもなる可愛い動物であり、オモチャである、と正紀は思う。
土曜日の朝、登校前に正紀はPTA名簿を開いて長谷部家に電話をした。父は庭に出て、ゴルフクラブを振りまわしていた。電話に誰が出るか、正紀は心配だった。貴美子本人が出るのが一番望ましい。
「はい、長谷部でございます」
落ち着いた声。どうやら貴美子のようだ。
「長谷部貴美子さんですね」
正紀は送話口にハンカチをかぶせ、できるだけ声のトーンを落として言った。
「はい、そうですが……どちら様でしょう?」
「M学院の矢崎先生とあなたのことについて、いろいろお話したいのですが……会ってくれますね」
正紀は押しつけがましく言った。貴美子の息を呑む様子が、一本の電話線からひしひしと伝わってくる。
「ただし、この件に関して矢崎先生には絶対に連絡しないように。もし連絡したら、こちらは会いません。その代わりに、すぐに二人のスキャンダルを印刷したビラを近所に配ります」
「あのう……先生の奥様の関係の方でしょうか?」
心配そうな声がかえってきた。
「いえ、違います。それに、こちらはあなたが約束を守ってくれれば、特に面倒なことを要求したりしません。言っておきますが、脅迫ではないから、怖がる必要はありません。念を押しますが、矢崎先生はもちろん、警察とか第三者には絶対にしゃべらないように。そんなことをすれば、奥さんだけではなく、お嬢さんだって、恥ずかしくて外を歩けなくなります」
貴美子は息をひそめて沈黙している。どう対処するべきか、必死で模索しているのだろう。正紀は、あらかじめ紙に書いておいた通りのことを淡々としゃべった。
「今夜七時に、湯島天神下近くにあるFホテルの坂下の通りの角で待っていてください。知っているはずですね。来たくなければそれでけっこうです。さっきのビラの件を必ず実行するだけですから。それでは」
さすがに電話を切ったときには、腋の下から背中にびっしょり汗をかいていた。
登校した正紀は、それとなく矢崎の動向をうかがった。二時間目には、ちょうど正紀のクラスへやってきたので細かく観察したが、普段と少しも変わりがない。時折り下手な冗談を言ったりして生徒を笑わせたりするのも、いつもと同じだった。
この分だと、貴美子は何もしゃべっていないぞ……。
正紀は確信を抱いたが、七時まで時間があるから、それまでに相談することは充分考えられる。何より恐ろしいのは、警察に通報されることだった。
だから、正紀は慎重のうえにも慎重を期した。前回尾行したときに目星をつけておいた坂下の中華料理店に六時半に入って食事を注文し、窓の隙間から外をうかがった。やはり冷静ではいられない。頼んだ食事も、ほとんど口にしなかった。
腕時計の針が七時を指したとき、貴美子は姿を現わした。ひどく緊張している様子が、正紀にもよくわかる。
すぐ外に出て声をかけるような愚は避けた。十分ほど観察していたが、貴美子はその場所にずっとたたずんでいる。うっかり出ていって声をかけたりできないと正紀は思った。どこかで監視している警察官がいないとも限らない。
二十分も経過すると、貴美子は諦めたようにふらふらと天神下交差点のほうへ歩きはじめた。正紀はすぐに店を出た。貴美子が歩く歩道の向かい側を、貴美子と並行して同じ速度で歩いた。
貴美子はそのまま交差点を直進して、上野池の端に出た。そうしてまた来たばかりの道を戻り、再びさっきまで立っていた場所に戻った。
ようやく貴美子一人のようだと見当をつけた正紀は、普通の速さで近づいた。正紀を見ても、貴美子はすぐに視線を別のほうへ移してしまった。まさか正紀のような少年が呼びだしをかけたとは、夢にも思っていないのだろう。
正紀は声をかけた。
「あのう……」
振り向いた貴美子は、怪訝そうに正紀を見た。正紀は、あらかじめメモしておいた紙きれを取りだして、それを見ながら、「もしかして、長谷部さんじゃないでしょうか?」
と、いかにもおどおどした感じで尋ねた。もしどこからか、警察か彼女の関係者が飛びだしてきたから、『わけのわからない人から、電話で頼まれた』と言いわけをするつもりだった。
貴美子は信じられないといった表情をしてうなずき、なんとなく安心したような顔つきになった。
「男の人に頼まれたんですが……」
正紀は用心深くあたりを見まわして言った。
「あなたが?」
「はい……そこまで来てくれませんか。その人が待ってるんです」
貴美子がまた不安そうな顔をした。正紀は思いきって、貴美子が密会に使ったホテルのほうへゆっくりと歩いた。背後に神経を集中させていると、足音がついてくる。
ホテルの前で正紀は振り向き、貴美子を見ながら周囲にも鋭い視線を配った。誰もいない、という確信を抱いた正紀は、スーッと貴美子に近づき、手を取った。
「さあ、どうぞ」
うながしてホテルに入った。
玄関ドアを入ったところで、貴美子は聞いた。
「誰がここにいるんですか?」
「部屋へ来ればわかります」
正紀はこんな場所へ来たのは初めてだ。目の前の壁面に、各部屋の写真パネルがある。どうやら明かりのついているパネルが空部屋らしい。そのなかの一つのスイッチを押すと、パネルの明かりが消えた。
「さあ」
強い調子で手を引っぱると、貴美子はおとなしく従った。相手の顔の見えない窓口から、キーだけが差しだされたのでそれを受け取り、三階にあるその部屋へ行った。エレベーターのなかで、貴美子はチラチラと正紀を見た。どうにも解せないらしい。
部屋へ入ると、正紀はともかくホッとした。
「誰が私を呼んだんです?」
貴美子は正紀につめ寄った。
「目の前にいるじゃないか」
「え
!?
」
正紀は内心まだドキドキしていたが、そんなことは素振りに見せず、平然として貴美子を見た。貴美子はまだ事情がよく呑みこめていないとみえ、不可解そうな顔をしている。その視線に耐えられなくなった正紀は、浴室に入って、バスタブに湯を溜めた。
貴美子に風呂を使うようすすめると、「まさか、あなたが!?
」
と信じられないように見る。
正紀は返事をする代わりに、貴美子の後ろにまわって、ワンピースのファスナーをおろした。背中から白いブラジャーの一部が見えると、それまで体の内に潜んでいた欲望が、いっぺんに前面に押しだされた。正紀は乱暴に肩からワンピースを脱がせようとした。
「本当にあなたなの?」
貴美子の声には、あまり恐れているような響きはなかった。正紀の若さに、呆れているようなところが感じられる。
「さ、風呂に入りなよ」
体を押しやると、貴美子は素直に浴室に入った。
正紀は素早く裸になった。そして頃合いを見て、浴室のドアを開けた。貴美子が前を隠しながら、振りかえった。口のなかで「あっ」と言ったが、声にはならなかった。
子供っぽい表情に不似合いな肉棒が、自分のほうを向いて震えている。貴美子は息を呑むほどに圧倒された。
まだ子供なのに、こんなに大きいなんて……。
貴美子の三十五年の人生で、これほど逞しく、またフレッシュなものを見たのは初めてであった。あわてて視線をそらせた。正紀がスーッと近寄ってきて、体を両腕のなかに包みこんだ。硬いものが下腹に押しつけられて、貴美子の腰は本能的に逃げようとした。
少年が耳たぶを舐めた。
「握ってよ……」
唐突だが、直截的な言い方に、貴美子の内部で何かがはじけ飛んだ。
いけない!……
心の内の警告の声にもかかわらず、貴美子の美しくしなやかな指は、力強く脈動する少年のペニスをしっかりと掴んでいた。
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