小説『亜由美』第三部 亜由美シリーズ 第5部 (5/6)
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「ほかの方法はないの? もっとマシなやり方があるはずよ。あいつらバカなんじゃないの。同じことばかりやってるじゃない!」
「あと五分」
「ふざけないでよ」
ボタンをいくら叩いても、男たちはバーナー、電流、水を繰り返す。
ぐったりとした亜由美は、声も出ず、反応しなくなってしまった。
限界を超えたようだ。
「終了。お疲れ様」
教授はボタンを押した。
安里咲も、明日も来ると言う。
映奈の針刺し拷問
四人目の映奈は、遊んで来た帰りだった。
上機嫌で、亜由美を見ても、たいして驚かなかった。
イスに縛り付けられている。ずぶ濡れで、火傷のあとが赤くなっている。乳房の釘は完全に抜き去られていたが、黒い印のような穴が残っている。板は取り払われ、水流でめくれ上がった秘部がはっきり見える。
「だめだめ、脅そうったってだめよ」
「どういう意味かな?」
「すいません。これって、あれでしょ。おばけ屋敷? 手品? インチキですよね。心理実験みたいなものですよね? 先生はこの間、道徳とか社会について講義をしていました。私の道徳を試すんですか? それとも亜由美の道徳?」
「それについて答えるつもりはないんだ。君はこの実験を通して見たり感じたり考えたことをレポートにしてほしい」
「そういうことですか。はっきり言って悪趣味。中世の拷問みたいなもの?」
「さあ。どうだろう。ルールを説明するよ」
末土はキーワードとボーナスの話をする。
「それは、難しいなあ。だってやり方は選べない。だけど、『やれ』と命じることはできる。私の立場は、情報不足の中で緊急事態に対応する指揮官みたいなものね」
「なるほど。そういう捉え方もあるね」
「決断は下さないといけない。その結果の責任も負う。いえ、私は責任はないわ。先生、そうですよね?」
「責任はない。これは私の実験だし、亜由美は君のことは知らない。向こうからこっちは見えないからね。それに亜由美はこの実験に同意している」
「つまり、先生は世間に非難されるようなことはしていない。いまの地位を投げ捨ててまで、こんなことはしない。ということは、亜由美と先生はグルってことですよね。亜由美はキーワードを言うために、あらかじめ先生と打ち合わせをしている。そのきっかけは、私がそのボタンを押すことか、または押さないこと。しかし、このボタンと起こることの間に因果関係がある保証はない。だいたいこのボタンがどこかにつながっているか、怪しいわ」
「なるほどね」
末土は笑みを浮かべる。
「こっちは向こうから見えていないけど、だからといって亜由美がこちらのことをまったく知らないという保証もない。たとえば小さなイヤホンをつけているかもしれない」
「それはどうだろう」
「私には見えないランプの点滅とか?」
「なにも答えられないよ」
「先生。キーワードを言ったらボーナスを出す、という設定からして、ボーナスは出ないと思うわ。つまりキーワードは絶対に口にしない」
末土は肩をすくめる。
「だから、私はボタンは押さない。なにもさせない。なにも起きないと、亜由美はなにか間違いがあったと思う。先生との打ち合わせと違うからよ。そうしたら、彼女は絶対に、先生に向かってなにか言うわ」
「じゃあ、どうするの?」
「このまま待ちます」
五分、十分。静寂が過ぎていく。
男たちはモニターになにかが表示されるのを待って、立っている。四つ目の防水シートはすでにめくられている。
残された器具は少ない。やっとこ。ペンチ。無数の針。
二十分。
「おかしいわね。なにも言わないわ」
「あと十分だ」
「そのこと、向こうはわかっているのかしら?」
「答えられない」
「そうか! こっちの声が聞こえてるのね。だから私が待つといったので、平気でいるんだわ。だったら、私は気が変わったわよ。スイッチを押すことにしたわ」
それでも亜由美も男たちも無反応だった。
「もう時間がないよ」
「しょうがないわ。このままゲームオーバーじゃつまらないから」
映奈はボタンを押した。
「スタートだね」
男たちが動くと、亜由美は激しく咳き込んだ。絶叫を続けたために喉が嗄れてしまった。
「だめ、もう、だめ」
しわがれた声。
「すごい演技力だわ」
映奈は笑う。
男たちは針を持ってきた。
「なにするの? あれ、どうする気?」
イスの前側の錘を外すと、仰向けに倒した。亜由美は床に倒れ、足が上になった。
男たちは、亜由美の足を触っている。
「なに? なに? あれ、なに?」
映奈は身を乗り出す。
「ぎぇぇえー」
カエルを踏み潰したような声がした。
男が亜由美の足の親指を持ち、爪と肉の間へ針を突き立てていた。銀色の細い棒が、ぐいぐいと押し込まれていく。
失禁だろうか。股間から液体があふれた。それが腹部に伝う。
「止めることはできるんですか?」
「止めることはできない。ボタンを押すと次の命令が下されるだけだ」
映奈はボタンを押した。
「次の命令だ」
男たちは倒れている亜由美の乳房をつかんだ。農園で作物を引き抜くように、限界まで引き上げる。そしてその乳首に垂直に針を押し込んでいく。
「うぐぇぇぇ」
「だめだわ、そんなの」
映奈はさらにボタンを押した。
「次」
男たちはヤットコを手にして、股間の繊細な肉をつまみ、引き出していく。その赤黒い粘膜に針を貫通させていく。
「グロすぎる。ダメ!」
映奈はまたボタンを押した。
右手の人差し指を男がつかんだ。
「やめて、たすけて」
ガラガラになった亜由美の声は、聞き取りにくい。
その爪の間に針が突き刺さる。
亜由美は叫び、激しく咳き込んだ。
「次!」
男たちは、ペンチで亜由美の舌をはさんで、引き出す。そこにも垂直に針を打ち込んで貫通させた。
映奈がいくらボタンを押しても、責め方を変えるだけで、結局は針を次々と打ち込んでいくだけなのだ。
陰核、手足のすべての爪の間、両乳首、乳房、まぶたにまで。
亜由美の肉体に、何十もの針が突き刺さり、突き抜けていく。
「時間切れだ。終了」
末土はボタンを押して宣言した。男たちが亜由美から離れた。銀色に光る針が、亜由美から生えている。
「おかしいわ。なんで、言わないのかしら。不思議だわ」
「明日も来てみるかい?」
「ええ。ぜったい仕掛けを暴くわ」
映奈が帰ったのを確認してから、末土教授は隣室へ行き、剛介に終了を告げた。
青ざめた剛介が「すごいですね」と言った。
「拷問とはこういうものだ。どんなものだと思ったかな?これでも彼らは抑えているんだと思う。亜由美を殺したくはないからね」
剛介は答えなかった。
「まあ、ダメージは最小限にしてくれたようだけどね」と宇辻は診察道具を持って立ち上がった。
二人で亜由美のいる部屋に入る。
剛介は片言の現地語で男たちに終了を告げた。
事務的に亜由美から針を抜き、イスを元に戻してやる。ぐったりとした亜由美は朦朧としたままだ。
明日の集合時間を確認すると、男たちは、お互いに手を叩き合ったり拳どうしを当てあうような「ダップ」をして、笑いながら出ていった。
「すごい連中だな」
末土教授がつぶやく。
「いまでも、ああいう人間を育成している国家があるのです」
剛介がボソッと答えた。
剛介と宇辻で、亜由美を鉄のイスからおろす。
背中と尻の皮膚が激しく傷ついている。
宇辻は亜由美の体を診ながら、治療をしていく。
「この傷はひどいね」
ハサミで切られた上に火花で焼かれた乳房の傷。乱暴に針と糸で縫い合わされているのを、宇辻は再び傷口を開いて消毒した。
「うっ」
それまで無言だった亜由美がうめいた。
「ほかのところは大したことはないね。全治三週間と診断してもいいけど。骨は折れていないし」
「保険は使えないんだから、診断書なんていりませんよ」
剛介はそう言って、亜由美の頬を両手ではさんだ。虚ろな目をした亜由美が、剛介の手にすがる。
「ゆっくり休むんだ。先生が点滴してくれる」
「ここから出して……」
「それはダメ」
ポロリと流れた涙を剛介は指先で受け止めた。
「おかしな気持ちをおこさないようにするからね」
手足をあらためて縄で拘束しなおし、細い縄を噛ませて猿ぐつわをする。舌を噛んだりしないようにするためだ。
床にウレタンを敷き、そこに亜由美を横たえる。寝袋の中に亜由美を入れる。
宇辻が点滴をセットする。
「よく眠れるだろう」
亜由美は、ほとんど時間を置かずに眠りについた。
「明日、彼女たち、来ますかね?」
「来るだろう。もし彼女たちがお互いに連絡を取っていたら、なおさらね。取っていなくても来ると思う」
末土教授は自信満々だ。
「拷問って、もっとおもしろいものかと思っていました」
剛介がポロッと言う。
「世の中のたいがいのものが、予想したよりはつまらないものだよ。私の講義もよくそう言われる」
末土の言葉に宇辻だけ笑った。
三人は部屋を閉じてビルを出た。
「これからのことを教えてほしいな」
末土教授が剛介の肩を叩く。
「わかりました。そこにいい店がありますから」
男たちは語り合うためにアイリッシュパブへ消えていった。
拷問許可(拷問実験二日目)
部屋の中に四人もの女子学生がいて、さすがの末土教授も、少し落ち着かない。
登美子。佐智子。安里咲。映奈。一人も欠けることなく、約束した時間にやってきたのだ。
予想通り、彼女たちは昨日の件をお互いに話し合っていた。
末土は彼女たちがどうするかに興味があったので、話し合いを禁止はしなかった。
昨日は一人の決断を試した。今回は、その経験者たち四人による合議制となる。
それによって、なにが変わるのか。もしくは、なにも変わらないのか。
「今日は、昨日みたいなひどいことはしないって約束してください」
登美子が言う。
「そうじゃないと、私たち、協力できません」
「みんなで話し合ったんです。トリックがあるとしても、私たちもああいうものを見せられて、正常ではいられません。こちらの精神的なダメージも考慮してほしいんです」
四人は口々に、実験内容を問題にした。
末土教授は、彼女たちの言う言葉よりも、服装がおもしろかった。昨日はカジュアルでも、ゴールデンウィークということもあり、場所が繁華街だということもあって、遊び着らしいフェミニンが印象の服装だったのに、今日は一変していた。
全員がジーンズで、長袖のシャツを着て、肌の露出を少なくし、体のラインもわかりにくいかっこうをしていた。
「わかった。昨日は暴力的だったね。今日は昨日とは違うんだ」
「でも、彼女は……」
マジックミラー越しに、部屋の中には、全裸の亜由美と、その背後に全裸の黒人六人が立っていた。そのうしろには、金属の台が置かれている。
黒人たちの巨大なペニスだけでも、四人にとっては刺激が強すぎて、まともに見ることができない。
亜由美の体には油が塗り込められている。それは昨日の傷を隠し、新たな皮膚をまとったように輝いていた。
「今日は、彼女から提案がある。君たちはそれを許可するか不許可にする」
「許可、ですか?」
「そうだ」
「私たちの決定に必ず従いますか?」
「もちろんだ。彼女は次々と提案をしてくる。ざっと三十ぐらいはあるだろう。すべて不許可にしてもいいんだよ」
「それでなにがわかるのですか? 試されているのは私たちじゃないでしょうか?」
「そう。それは言えるね。この実験は君たちにかかっている。どういう結末でもかまわない。ぼくからはなにも提示しない。向こうにいる亜由美が提案する。今日はボタンが二つある。昨日は止められないことに不満があると言っていたからね。青は彼女の提案に許可を与える。赤ボタンは不許可。または許可の取り消しだ。いったん許可したが、実行してみたところ、中止したいときに使ってもいい。議論して決めてくれていいけど、提案から三十秒で決断を下さないと、許可されたとみなして実行される」
「迷ったら、とりあえず許可しておいて、あとで赤を押せば取り消せるわけですね?」
「そうだ」
彼女たちは考え込む。昨日と同じルールなら反論したいことを用意してきたのだろう。
ルールが変わったので、どう対抗していいのか、わからないのだ。
「もし、この実験を拒否したら?」
「別にかまわないよ。いますぐ帰っても、昨日の約束はそのままだ。ただし、今日は謝礼も交通費もなしだ」
「私だけ帰ってもいいんですか?」
「もちろん。一人でも残れば実験は継続する」
四人は小声で話し合っている。
「なにか、ボーナスみたいなものはありますか?」
「ある。今日の君たちの謝礼だが、君たちの判断で決まる。亜由美の提案を許可するたびに、亜由美から君たち一人ずつに千円払うそうだ。三十の提案をすべて許可すれば三万円ずつの謝礼になる。交通費も込みだけどね。すべてを不許可にすればゼロってことになる。交通費も自腹だ」
「それはかまいませんけど、許可をしたあと、途中で止めたら?」
「許可を取り消すことができる。ただし取り消しは実行中でなければできない。実行前、準備中のときは取り消せない。許可の取り消しをしたら、一回につき君たち一人ずつ二千円を亜由美に払ってもらう。たとえば十回許可をしたとして、それをすべて途中で取り消したら、一万円の許可手当から、二万円の取り消し費用を差し引きして、君たちから一万円ずつ、亜由美に払うことになるね」
「亜由美に?」
「もちろんだよ。私が受け取るはずがない。この実験に立ち会ってはいるが、観察者に過ぎない。当事者はあそこにいる亜由美だ。三十の提案は彼女が自らしたいことを提案しているのだ。それが不許可、または許可しても途中で取り消されるときに、彼女は不利益を受ける。許可、不許可の権限を持つ君たちが責任を持つのだから、金銭で補填しなければならない」
それは四人には思いもよらなかったことだった。
どうして、途中で取り消す費用を、四人が負担しなければならないのか。亜由美のためを思って許可・不許可を決めてあげるのに。
「三十の提案内容は、事前に教えていただけないんでしょうか?」
「それはムリだ。ぼくも知らないんだから」
末土教授はあからさまなウソをついた。そんなわけがないことを彼女たちも知っている。
四人は昨日、なんだかんだといって、亜由美に対して厳しい拷問を加え続けたのである。だが彼女たちはそれが自分のせいだとは思っていない。教授、亜由美、そしてこの実験の仕組みそのもののせいだと考えていた。
今回も、仕組みのせいで、不本意な決断、間違った決断をさせられるのではないかと警戒している。
「フェアではないと思います」
映奈が言う。
「どこがフェアじゃないのかな?」
「すべてがです」
「フェアな実験ではないかもしれない。でもアンフェアな実験だという証拠もないだろう? その情報は君たちには与えられない。世の中のたいがいのことは、事前にフェアかどうか知らされているわけではないし、十分な情報があるわけでもないし、十分に考慮する時間があるわけでもないんだ」
「一定のルールが必要です」と安里咲が言う。
「ルールはいま話したけどね」
「いえ、向こうにいる亜由美さんのルールです」
「どういうことかな?」
「いまここで話していることを、彼女も聞くべきだと思いますけど。亜由美さんは自分のルールがある。私たちはいま先生からルールを聞きました。そこに矛盾がないか確認したいんです」
「それはこの実験ではできない。いいかね。向こう側には向こう側のルールがある。こっちにはこっちのルールがある。だが、それをお互いに開示しない。摺り合わせたり交渉したりできないんだ。そういう前提でこの実験はスタートする」
四人はまた話し合った。
佐智子が、代表して宣言した。
「わかりました。やってみますが、あまりにもひどい内容なら、即刻、私たち四人は退席させていただきます。それでよろしいでしょうか?」
「もちろん。そこは最初から言っているように、君たちの自由だ。退席した時点で清算するよ。いま君たちが帰ったらなにもしていなので、今日は謝礼も交通費もないよ」
末土は腕時計を見た。彼が思ったよりも三十分も早く、結論が出ていた。
末土は青いボタンを押して「じゃあ、はじめよう」と言った。
四人は知らないのだが、例によってそのボタンは隣室の剛介につながっている。会話を聞いていた剛介は、青ボタンが押されたとき、用意された三十のカードから一枚を出す。そのカードは日本語で書かれている。それを、今日は亜由美が読み上げる。
四人がその内容を判断して、許可、つまり青ボタンを押したら、剛介は男たちの母国語で書かれた指令カードを表示する。そして実行される。
赤ボタンはブザーが鳴る。それは中止であり、決定の取り消しであることを事前に亜由美と男たちに教えてある。
モニターに最初の指令が出る。
「お願いします。どうか、亜由美のお尻の穴をみなさんで犯してください」
四人は「そんな!」と絶句するが、登美子が「でも、それって、ウワサで聞いたやつだわ」と言う。
亜由美が男子にアナルセックスを提供しているのではないか。そんなウワサが拡がっていた。
「そうね、セックスならどうってことないけど……」
「でもお尻なんて……。私は耐えられない。見たくもないし」
「できる人もいるのよ。亜由美はそれをやってるって」
「ウワサだけでしょう? もし間違っていたら?」
「自分で提案しているのよ」
「見てよ、あんなに大きなものがお尻に入る?」
彼女たちは好奇心剥き出しに男たちの性器を見る。勃起していない状態でも、二十センチ以上ある。
「もしあそこが亜由美の自宅だったら、私たちに止める権利なんてないじゃない?」
結論が出ない間に、三十秒が経過して自動的に実行されてしまった。
「許可したね。全員に千円だ」
末土は現金をテーブルに置いていく。四人はそれを見ているだけで、手には取らない。
男たちは亜由美を台にうつ伏せにし、お尻を拡げる。そこにローションを塗り込み、指を入れていく。
その指が彼女たちの思った以上に深く入っていく。
「ホントにできるのね、お尻で」
四人は興味津々だ。
彼女たちが、うすうすこういう展開があるのではないかと、話し合っていたことが、末土には見て取れた。
昨日のような暴力は反対だという。だが、普通の人もすること(もしかしたら自分もするかもしれないこと)なら、許可を出しても問題はないと、四人は事前に打ち合わせていたようだ。
ハレンチなこと、人前ではしないこと、女子大生としてふさわしいかどうかは、この際、大きな問題ではないと四人は考えていた。それは亜由美の問題であって、自分たちの問題ではないのだから。
もし亜由美が自分の家で六人の男を招いてアナルセックスをしたからといって、それを不許可にする権利はない、という理屈は成り立つ。
そもそも、末土教授が道徳と社会をテーマとした講義をしていたこと、そして個人の自由は可能な限り、認められるべきだと四人たちが考えていたことから、この程度のことで不許可にする理由を見つけられないのだ。
亜由美は人に迷惑をかけていない。自分の意思でアナルセックスをする。それだけのことである。
「大きいわ」
たかぶった巨大な腕のようなペニスが、亜由美の中に入っていく。
「あうぅ」
亜由美の苦悶の表情。
「痛そう」
「演技よ。大げさなのよ」
長い抽挿。亜由美がのけぞるが、男は止まらない。根元まで入れようとしている。
肛門を男が開いて、見せつける。亜由美の体に似合わない、大きな穴に、四人は息を飲む。
腰を激しく動かす。亜由美がそれを受け入れる。
「あはっ、はっ、ふぅ」
亜由美の吐息がなまめかしい。昨日のような苦痛とはまったく違うことに、四人は少し安堵しつつ、別の意味で不快でもあった。
やがて男が離れる。
亜由美は演技をしているわけではないので、大げさな反応はしない。
どろりと白い粘液が垂れ下がる。
次の男が、自分で巨大な男根をしごきながら、亜由美に向かっていく。
最初は興味のあった四人も、三人目ぐらいから飽きてくる。
「早く終わればいいのに。まだ提案が二十九もあるのよ」
末土と剛介、宇辻は三十あるカードの順番を後半ほど暴力的になるように並べていた。
はじめの方の軽い要求をパスしてしまって謝礼を減らしていったら、彼女たちはどうするだろうか。それでも許可を取り消すだろうか。
自腹を切って亜由美への暴力を止めるだろうか。または亜由美が望むことならどんなことでも許可をし、すべてのボーナスを手にして帰るだろうか。
好きでやっていることを止める権利なんてない、と言えるだろうか。一人だけならそうした主張をしたかもしれないが、四人となると違うのではないか。
一時間ほどのアナル輪姦が終わると、台から降ろされた亜由美が、男たちにむりやり立たされた。股間から六人分の精液がドロドロと足に伝っていく。
亜由美がモニターの文字を見ている。
「亜由美にみなさんのおしっこを飲ませてください」
「赤よ、赤!」
佐智子がヒステリックに叫び、赤ボタンが押された。
「それぐらいいいじゃない」
登美子が文句を言う。
「ダメに決まってるでしょ。人間として許されないことよ」
「他人の嗜好を私たちが決めることはできないわよ」
「公序良俗に反するじゃない!」
「だけど、好きでやっていることを止める必要はないと思うの。個人の自由に対して、権力は最小限の介入に留めるべきだわ」
「だめよ。道徳的に間違ったことについては、もし停止できるなら停止すべきだわ。それが責任ってものでしょ?」
議論というよりケンカのようになっている。
「とにかく、話し合いをしないで勝手にボタンを押すのはダメよ」
「わかったわ」
四人はボタンから離れた。
「亜由美にビンタを十発ください」
「赤に決まっているわ。暴力はダメ」
それは四人一致だった。この点だけは、事前に打ち合わせていたらしく議論さえなかった。
「亜由美のお尻をバットで十発叩いてください」
「赤よ」
次々と読み上げる亜由美の提案を、四人は全員一致で不許可にしていった。
どれも昨日よりも軽いものの、暴力的な提案だった。暴力性があるというだけで、簡単に結論を出して不許可にしていった。
乳房へのビンタ、乳房へのパンチ、乳房への竹刀打ち、腹部への殴打、背中への回し蹴り、お尻への蹴りをすべて不許可にした。
いまのところ、四人が手にしているのは、一千円だけである。
「亜由美のお尻を鞭で十発叩いてください」
「これぐらい、いいんじゃない?」
「だめよ」
「でも、昨日もやっていたし。たったの十発なのよ。最悪のとき、二千円あれば、一回は、自腹を切らずに取り消しができるし」
「そうね」
許可された。
ただし、男たちの鞭の打ち方は昨日より激しい。台にうつ伏せになり、尻を出した亜由美に、男たちは振りかぶって、長い鞭をうならせ、激しい音を響かせた。
「うぎぃぃぃぃ!」
うめく亜由美に苦悶の表情が浮かぶ。
釘の出た板で叩かれ無数の傷を負っていた。その後、長時間、鋭い先端の埋め込まれたイスに座らされていたので、尻の皮はほとんどズル剥け状態でもあった。
そこに男が全力で振り下ろす鞭が食い込む。
たちまち血しぶきが上がる。
その様子を見ながら、四人は唇を噛み、青い顔をしていた。許可したことを後悔している。
「やっぱり暴力はダメだわ」
「昨日よりキツイんじゃない?」
「ひどいわ、あれ、見て」
十発打ち終わると、血だらけの尻が腫れ上がり、黒いスジが浮かんでいた。
十二番目の提案。
「亜由美におしっこを飲ませて、逆さまに吊って鞭で股間を十発打ってください」
「こんなの採用できるわけないわ」
赤ボタンが全員一致で押された。
「提案内容が複雑になっているわ。一つの提案に一つだけじゃないの?」
「そうよ、いくつも組み合わせて一つにするのはダメよ」
「私たちには亜由美のルールはわからないのよ。向こうは向こうのルールなのよ。もともと、こんなの常識を外れているし、私たちの理解を超えている……」
「ズルイわよ。不許可にしたものを組み合わせる提案なんて……」
「でも、彼女が考えたことなのよ」
十三番目の提案。
「亜由美のお尻とおまんこを同時にみなさんで犯してください」
これぐらいはいいのではないか、いや、そんなことをさせてはいけない、と四人が言っているうちに三十秒が過ぎていき、実行されていく。
男たちは亜由美を天井からのチェーンで手を広げて釣り上げる。足にも鉄棒をつけて開いたままにしておく。
立ったまま、磔にされた亜由美を、男たちは前後から犯していくのである。
「あぅ、きつい……」
亜由美は涙を流している。
「なによ、これ。あいつが悦んでるだけじゃない?」
「バカバカしくなってきたわ」
「私、ここでやめます」
登美子が宣言した。するとほかの三人も「私も」と賛同した。
「先生、この実験は私たちの許容できる限界を超えています。ムリです」
その向こう側の部屋では、亜由美が男たちにサンドウィッチにされ、激しく犯されている。
「あひぃ、壊れちゃう……」
長い男性器を前後から体内深くまで受け入れている。ときに同時に、ときに入れ違いに、入り込み、出ていく。その激しいセックスに、亜由美は強制的に高みへと押し上げられていく。
「あっ、あっ、ううーん」
すっかり嗄れた声ながらも、アルトでなまめかしいあえぎが漏れる。
「いやらしいわ、まったく」
女子大生たちにとっては、腹が立つだけの光景だった。
末土教授は「残念だね。思ったより早く終わっちゃったか。亜由美はがっかりしているだろうけど」
三千円の謝礼がテーブルにあった。
「それは君たちのものだよ」
四人は謝礼を手にした。
男たちは亜由美を前後から犯していく。入れ替わり立ち替わり。
磔のように手足を広げたまま、亜由美の股間から男たちの精液がだらだらと流れ出ている。
帰ろうとしている四人とは無関係に、亜由美の声がする。
「亜由美をブランコにしてみなさんで十分間、お楽しみください」
「もう、帰っていいよ」
末土が冷たく言うが、四人は出口で足を止めて、男たちが亜由美を水平に釣り上げていく様子を見ている。
「なに? どうする気?」
うつ伏せに吊られた亜由美。手足で体を支えているため、弓なりに反っている。その背中に、巨大な男が、ほかの男の手を借りながら、乗っかろうとしていた。
「止めて!」
安里咲が思わず赤ボタンを押した。
しかしブザーは鳴らない。
「実行中でなければ取り消せないんだ。まだ準備段階だよ」
男はとうとう、亜由美の背中に立ち、手足から天井に伸びるチェーンをつかんで、ブランコのようにこぎはじめた。
「ぎゃー、折れちゃう!」
亜由美の絶叫が響く。
安里咲は手の中の千円札を末土に叩きつけ、赤ボタンを押した。ブザーが鳴って、男たちは人間ブランコを中止した。
「さっさと帰っていいのに……」
末土教授はうんざりしたように言う。
「でも、私たちが帰ったら彼女が……」
「さあ、それはどうだろう。そんなこと、君たちに関係がある? もしかしたら、これでもう、なにも起きないかもしれない。または起きるかもしれない」
「亜由美を助けることはできないんですか?」
「助ける? 昨日も言ったように、亜由美はすべてを承知していて、自ら望んでやっている。さっき、みんなが不許可にした提案も、すべて亜由美が望んでのことだ。亜由美が自分で止めたければ止めることもできる。君たちが不許可にすることもできる」
「一歩間違えれば、死んじゃうわ」
すると、登美子が「バカね。死ぬわけないでしょ」と言い放つ。
「昨日、あれだけのことがあったのに、今日も亜由美はあそこにいて、同じようなことをしているのよ。これは仕掛けがあるの。トリックなのよ。私たち、騙されているのよ」
「亜由美と話がしたいわ」
安里咲が粘る。
「話をして、どうするんだ?」
「なにが起きているのか、彼女の口から聞きたいんです」
「君たちには、彼女の要望を不許可にできる権利があったけど、帰るんだろ? 権利を、放棄したわけだ。いまさらなんの話があるというのかな?」
「だって、それが、本当に彼女の望んでいるものか、どうして私たちにわかるっていうんですか?」
「そこだ」
末土教授は言った。
「そのあたりについて深く考えてレポートを書いてほしい。個人の自由、この場合、亜由美は自分の望むことをしたいと言う。それを不許可にできる権力を君たちは得た。そして彼女が望むことを不許可にしていったが、途中でその権力を放棄した。なぜだろうか。それは亜由美が本当に望んでいることかどうかわからないから? それとも亜由美が望んでいることが、権力側、つまり君たちから見て都合の悪いことだから? または道徳とか人間の尊厳などもっと別の観点から、許可すべきではないことを望んでいるからか? 君たちが不愉快だから不許可にしたのか? ほかにもいろいろ考えられるだろうね。そこがレポートのテーマになる」
「いまのお話からすると、亜由美の自由を妨げているのは私たちで、その私たちがそれを止めることをやめてしまったら、彼女はなんでも自由にして、その結果、彼女が死んでしまうかもしれないってことですよね?」
「死ぬかどうか、誰にわかる? 君たちは神か?」
「そんな……。飛躍しすぎです」
「亜由美が死んだら、私たちのせいだっていうの?」
佐智子は気色ばむ。
「自殺しようとしているなら止めるけど、いまみたいなのが、そうなのかどうか、わからないわ」
四人はごちゃごちゃと話を続ける。
「たとえば、マジシャンが美女を箱に入れて、その箱に火を放ったとしよう。君たちは、止めるか?」
「だって、それはマジックだと聞かされていて、お客さんを入れていて、安全でしょう?」
「亜由美の提案は安全じゃないから不許可なのか? 君らの安全基準はどこにある?」
「安全かどうか、本心かどうか、わからないから不許可にするしかないじゃないですか」
「じゃあ、君たちは、彼女が鋭いナイフでリンゴを剥くのも危険だと不許可にするのかな? あまりにも鋭いので、少しでも手元が狂えば指が切断される恐れがある場合は?」
「それとこれとは違うわ」
「リンゴを剥くときに、過って指を切り落とす可能性は、どんなナイフでもゼロではないだろう?」
「先生の話は極端すぎます」
末土は少し余裕を取りもどし、微笑んだ。
「向こうの部屋では君たちが知らないルールがあって、その上で亜由美は自分の欲望を満たそうとしている。安全かどうかも亜由美は考えていて、自己責任でやっている。ただ、君たちは、たまたま不許可にすることでそれを食い止めることのできる立場を得ていた。そういうことなんだけどね。シンプルな実験なんだけどな」
「ですから、それが本当のことなのか、彼女の口から聞きたいんです」
安里咲がまだごねる。
「いいだろう」
末土教授は青ボタンを押した。
「向こうとこっちでやり取りできるかな?」
しばらくして、亜由美が反応した。
「はい」
「聞こえるかな?」
「聞こえます」
吊られたままの亜由美が答える。
「これまで君が提案したことは、君が本当に望んでいたことなのか?」
「はい、そうです」
「いま、どうして、君はそういうことをしているんだ?」
「自分で望んだからです」
「とても苦しそうで、つらそうだけど?」
「いいんです。私が提案しているんですから」
「わかった。ほかに言いたいことはあるか?」
「ありません」
末土教授はもう一度、青ボタンを押した。
「こっちの声は遮断しよう」
徒労感がさらに強くなる。
単なる実験だったとはいえ、四人は、なにもできなかったのだ。権力を持たされたかもしれないが、途中で権力を投げ捨てるしかなかった……。
「どうすれば終わりにできるんですか?」
「亜由美が満足すれば終わる。それに、君たちにはもう関係のないことじゃないのかな?」
「止めるべきじゃないでしょうか? こういうことは、誰にとってもよくないことです。亜由美がたとえ望んだことだとしても」
「それをどうやって証明するのかね。警察に通報する? しかし、ここで犯罪がおこなわれた形跡はないよ。あの黒人たちは外交ルートで日本に入国している。それに、君たちだって当事者なんだからね。公然猥褻ではない。ぼくは亜由美に頼まれて、ここにいる。実験を考えたのはぼくだが、実行をするのは彼女だ」
「ダメなものはダメだと私たちも主張できますよね?」
「主張はできるさ。だけど、さっき君が言った『誰にとってもよくないこと』の意味をよく考えてごらん。具体的に誰と誰によくないのかな?」
四人は黙った。
「こんなの実験じゃないわ。非常識だわ」
登美子が大きな声で言う。
「君たちがどう思ってもかまわないんだ。ただ、すべてが合意の上で行われている。それだけのことだよ。人はどういうときに、人の自発的な行動をやめさせる権利を行使できるのか。よく考えてみてほしいね」
「帰りましょう、話にならないわ」
「もし気が変わったら、ぼくの携帯に連絡をくれ。いつでも戻ってきていいからね」
四人はそれぞれに大きな不満を持ちながら帰っていった。
末土は青いボタンを押し「休憩だ」と告げた。
安里咲の決断
亜由美は宇辻の診察を受け、水分を補給している。黒人たちは控え室でタバコを吸い、食事をした。自分たちで作ったらしいスパイシーな汁のかかったご飯だ。鶏肉が入っている。
剛介も、それをもらい、カレーのようなものを想像していたのに、少し甘い味で驚いていた。
お汁粉を連想させるような豆の甘さが含まれている。あとからピリッと辛さが喉を刺す。まずくはないが、好きにはなれそうにない。
食べ終えると撮影された映像をチェックし、ゲー研の連中と連絡を取り合い、カメラアングルなどの調整をした。
コンビニのサンドイッチを食べ、ペットボトルのお茶を飲んでいた末土が時計を見る。
「そろそろかな」
帰っていった四人に、順番に電話をしていく。
四人が全員一緒にいる可能性は少ないと考えていた。あの四人は、それほど仲がいいわけではない。亜由美との距離感もバラバラだ。この実験についての考え方も違う。
こうした経験をして、四人で一緒にカラオケに行ったり、カフェでこの話を議論するようなことは避けるのではないか。
登美子と佐智子は一緒だった。末土の提案を即座に拒否してきた。
「すみません。これから行くところがあるので」
「私も約束がありますから」
映奈に電話をしてみる。一人らしいが、やはり拒否してきた。
「ほかの人も一緒なら行きますけど、一人では……」
初日には一人で来たのに、もうイヤだという。考えたくないのだろう。
末土は思う。少しの行動で救えることがあるのに、見て見ぬふりをすることもできるなら、行動より無視を選ぶ場合もある。
道徳とか常識をふりかざしていた四人の学生も、自分のそうした側面については議論の対象にはしないのだ。
それが人間なのだ。
安里咲はどうだろう。
最後までとっておいたのは、彼女はほかの三人と少し違うような気がしたからだ。やたらと亜由美との会話を望んでいた。話せばわかりあえると信じているのだろうか。
もしそこまで純真な心を持っているのだとしたら……。
末土の中の意地悪な気持ちがもたげる。
「悪いね。もう一度、チャンスをくれないか?」
「どういうことでしょうか?」
安里咲はどんなときも、相手の言葉を聞く姿勢があるらしい。
「亜由美が私たちとは話をしたくないというんだよ。女性のスタッフを寄こしてくれというんだ」
「なにをするのでしょう?」
「同じことだ。続きをやる。だけど、亜由美は昨日から叫びすぎて声があまり出なくなってしまった。自分の希望を、代わって伝えてくれる人が欲しいらしい。その役は、女性にしてほしいらしい」
「亜由美と話ができるんですね?」
安里咲は力強く反応した。
「そうだね。亜由美のすぐ近くにいなくてはいけない。つまり、君もあの部屋に入らなければいけない。君には指一本触れない。それは保証する。記録されているので、顔を写されたくなければマスクをつけてもいい。協力してくれたら亜由美は謝礼を出すと言っている」
「わかりました。私は亜由美と二人だけで、誰にも邪魔されずに話ができるんですね?」
「そういうことになる」
「行きます」
末土教授は安里咲の姿を思い浮かべていた。
亜由美よりも背は高く、スリムな女性だった。ストレートのロングヘアで、飾りけのない、やや古風な印象を受ける。育ちがいいのだろうか。いまどき、妙に純情な危うさがある。
どういうわけか、以前から末土の講義を履修する女性によく見られるタイプだった。
同じ年代のほかの女性に比べれば、テレビも見ず、アニメも知らず、文学を読み、稽古事に励み、手紙を書き、日記をつける。新聞を一面から読むタイプ……。生真面目、というのだろうか。
美しい容姿を、安易な目的のために使うつもりもないのだろう。
三十分ほどして、安里咲は戻ってきた。
「よく来てくれたね」
「これをやめさせなくてはいけないから……。ほかの三人は?」
「断られたよ。一人でもやるかね?」
「ええ。ほかに誰も止めないなら、なおさらです」
聖女にでもなったつもりなのだろうか。
亜由美を救えるのは自分だけだと思い込んでいるのだろうか。亜由美が陥っている間違いを正そうという気持ちかもしれない。
いずれそれが大変な間違いだとわかるだろう。
末土はまじめな表情を保つのに苦労した。笑い出したくなってしまったのだ。
亜由美は全裸のまま部屋で休んでいた。これからなにが起こるのかわからないが、全身が痛く、微熱が続いている。だるい。眠い……。
休憩が終わったのか、黒人たちが戻って来た。
亜由美はぶるっと震えた。黒人たちから目を背ける。恐ろしいのだ。
そのうしろから、女性が入って来た。
ジーンズ。長袖のシャツ。清潔な服装だが、大きな銀色の蝶を思わせるパーティー用のマスクで目の周りを隠している。
亜由美は誰かわからず、新しい拷問者が登場したのだと思って後じさりした。
「亜由美、大丈夫? 私よ」
聞き覚えのある声だった。
「記録されているから、名前は出さないけど、わかるでしょ?」
安里咲……。
入学して早々に剛介によって生活はメチャクチャになってしまったが、それ以前のわずかな期間、大学での生活を一緒に過ごした友人の一人。
あのときの亜由美には、安里咲たちが大人に見えた。自分は幼く、彼らの感覚や意識についていくのに必死だった。
そしていま。
あまりにもかけ離れたところに亜由美はいた。
安里咲が、この二週間ほどの間に亜由美の身に起きたことをすべて知っているとは思えない。ウワサはいろいろ聞いているだろうが……。
「ムリして声を出さなくてもいいわ」
安里咲は慎重に近づいてきた。
「亜由美と話がしたかったの」
「そう」
よくわからず亜由美は小さな声で答えた。
「みんなは、これがすべてあなたが自分で希望していることだって言っているんだけど、ウソよね? やらされているのよね?」
「違う」
「そんな……」
「あなたのためよ。帰って」
「できないわ。ここで私が帰ったら、あなた、殺されちゃうかもしれないのよ」
「そんなことはないわ」
亜由美は冷たい笑みを浮かべた。
「私は拷問の実験台なのよ。死んでしまったら実験ができなくなる。あの人たちはプロだから……」
亜由美は黒人たちを示す。
「さあ、次だ。どうするかな?」
部屋の中に、末土の声が響く。
安里咲は驚いて逃げ腰になる。
「次は、逆さ吊りにして人間燭台にしてください。ロウソクが完全に消えるまで放置してください」
あまりにも小さな擦れた声。
「聞こえないな。そこにいる女性、代わりに大きな声で言ってくれませんか?」
安里咲は末土教授の声に脅えた。
その声は大きく部屋に響くのだが、姿は見えない。
以前、自分たちが見ていた部屋の方向には鏡の壁があるだけだ。そこがマジックミラーになっており、教授がいるとわかっていても、想像がしにくい。
「できません!」
「やって。お願い。そこにいるなら」
亜由美が言う。
「だって……」
「繰り返してくれればいいの」
亜由美は、もう一度、希望を告げた。
安里咲はツバを飲み込み、はっきりとした言葉で繰り返した。
「逆さ吊りにして、人間
燭
台
にしてほしいそうです。ロウソクが完全に消えるまで、そのままにしてくださいと言ってます」
「わかった」
モニターに見たことのない文字が並ぶ。
安里咲が中に入ることになって、亜由美への日本語の指令は中止になった。亜由美は、黒人たちが持って来た日本語のカードを暗記していた。
自分を責める言葉を、すっかり記憶し、自分の希望だと安里咲に告げること。
苦痛の上にも苦痛だった。
男たちがテキパキを動きはじめる。
「きゃっ」
安里咲は小さく悲鳴をあげて、亜由美から離れた。
天井からの鎖。その先端のフックを、左右の足枷に引っ掛ける。左右、別々の鎖だ。
男たちは乱暴に亜由美の足を左右に大きく開く。
太いロウソクが二本。肛門と膣にねじ込まれていく。
足の指の間に細いロウソクが一本ずつ。さらに足の裏に太短いロウソクが置かれる。
左右の乳房の裏側に針が三本ずつ打ち込まれ、その針にロウソクを刺して立てる。
左右の尻たぶにも同様に三本ずつ。すべて赤いロウソクだった。
そして、男たちは太いロウソクから火をつけていった。股間の二本。尻と乳房。足の裏。最後に足の指。
そして鎖が巻き上げられていくと、亜由美の体が空中に持ち上がっていく。足が、尻が、背中が、乳房が、空中へと浮かぶ。
壮絶な人間燭台だ。
「あー、うー」
擦れた亜由美の悲鳴が低く漏れてくる。
熱い蝋涙が股間に垂れ、敏感な粘膜を焼く。大きな炎は内腿を炙っている。乳房が蝋涙で真っ赤になっていく。傷だらけの尻にも、何本もの蝋涙がしたたる。
「くー、あつぅぅぅ」
ポタポタと垂れていく蝋。やがて溶けていく蝋で股間はすっかり隠れたが、炎はまだ灯っている。
安里咲は「消えるまで」と亜由美が言ったことを思い出して慌てていた。
「亜由美、もう終わりよね。ここで終わりでしょう?」
亜由美がなにを言っているのか聞き取れない。安里咲はおそるおそる亜由美の口元に耳を寄せていく。
男たちが近寄ったら逃げるつもりだったが、誰も止めない。
「ロウソクが消えるまで……」
「だめよ。そんなことしたら、火傷しちゃうわ。もう十分でしょう?」
「自然に消えるまではダメ」
「そんな……」
熱さにもだえている亜由美。
汗と涙があふれているのが安里咲には見える。誰が好んでこのような苦痛に耐えるというのだろう。
「消してください、お願いします」
安里咲が宣言する。
「亜由美がそう言っているのか?」
末土の声がする。
亜由美は首を横に振る。
「だって、これじゃ……」
「ダメだ。君は亜由美の言ったことだけを忠実に伝えてほしい。それができないなら、すぐにそこから出てほしい。邪魔になる」
「邪魔って……」
傷ついた安里咲は思わずドアまで歩いていった。
そこで振り返る。
あっと言う間に短くなったロウソク。
股間の中に炎が入り込んでいく。
ぐっと沈み、ジュッと音を立てたような気がして、消えた。
黒い煙がたちのぼる。
足のロウソクもすっかり溶けてしまい、芯が倒れていく。指を焼いていたが、まだ消えていないものもあった。
乳房と尻も、溶けた蝋の中で、まだ炎が消えずに残っている。乳房そのものがロウソクとなっているようだ。
本気なんだ、亜由美は……。
安里咲はようやく信じる気になった。
だったら、なおさら、ここで帰るわけにはいかない。もしかしたら、まだ間に合うかもしれない。この苦痛によって亜由美の気が変わって、中止にするかもしれない。
中止だと亜由美に言わせなくてはならない。
安里咲は亜由美のところへ戻った。
「続けます。続けさせてください」
「いいだろう」
すっかりロウソクが消えていた。
「次はどうするんだね」
休む間もなく、末土が催促する。
「亜由美、もうやめにするよね?」
「いいえ。焼けた鉄の棒で乳房を持ち上げてください。このままで。そして、あとで逆にして」
「そんなことできないわ」
「してほしいの。いい? 二度と言わない。あなたの意見は聞きたくないの。してほしいことをちゃんとあの人たちに伝えて……。じゃなければ帰って」
安里咲は思わぬ亜由美の言葉に、唖然となってしまった。そして、苦しみながら、大きな声で亜由美の希望を末土に伝える。
「焼けた鉄の棒で乳房を持ち上げてほしいそうです。いまのままで。それからあとで逆さにしてもう一度」
モニターに文字が並ぶ。
「ああ、そんなこと……」
安里咲は説得さえできなかったどころか、さらに過激な要求を亜由美がしてきたことに心を痛めて、部屋の隅に逃げていった。
男たちが七輪を持って来て、ふいごで風を送っている。七輪には六本の鉄棒が突き立っている。
一人が鉄棒を引き抜いた。先端が真っ赤に焼けている。
ほかの男たちは、亜由美の胴体や足を押さえている。
逆さになっている亜由美。その乳房は、まだ若さゆえに、張りがある。逆さだからといって、逆向きに垂れることはない。ピンと水平に突きだしている。
乳房の裏側が表になっている。溶けた蝋が、できそこないのブラのように乳房を覆っている。ロウソクを立てるための針が、突き出ている。
右の乳房の下へ、真っ赤に焼けた鉄棒の先端が接近する。
「あひぃー、あひぃー」
あえぐ亜由美の目の前にある。そしてゆっくりと焼けた乳房に当てられる。
鉄板の上の肉のような音。
「ぐがぁぁぁ」
石を擦りつけたような悲鳴に、安里咲は震えあがった。とても見ることはできない。
男は、焼けた鉄棒で乳房を上に持ち上げてから、ようやく離した。
三センチほどの黒い火傷の傷が残った。
次の男が左の乳房に鉄棒を持っていき、同じように押し当て、乳房を持ち上げた。
「ぎぃぃぃぃ」
暴れる亜由美。鎖が鳴る。
鎖が緩められ、床におろされる。
足枷のフックを手枷につけかえて、再び鎖を巻き上げる。
手を広げるかっこうで亜由美の体が持ち上がる。
完全な宙吊りにはせず、男たちが作業しやすい高さで止める。
両足の枷を金具でとめて一つにして、そこに別の短い鎖を取り付けると、首輪の後ろ側の環とつないだ。
足は膝で折れ曲がるかっこうで、宙吊りになった。
頭が上になった。さきほどつけられた火傷の黒い筋が、乳房の上部にくっきりと見える。
男たちは乳房の下側にある針と蝋涙を乱暴に取り払っていく。
その間、荒い呼吸のような乾いた悲鳴がずっと続いていた。
火傷は深く、激烈な痛みを亜由美に与え続けている。
新たな鉄棒を手にした男が、やってきた。


