ボンデージ・スーツ、通称ギンプ・スーツは、手も足も含めて全身を覆い、肌に密着するよう作られた衣服である。BDSMの場では、着用者の顔と肌の質感を隠し、「人」としての輪郭を消す。パートナーではなく、「モノ」あるいは不具者、性具の立場へ落とす。視覚の閉鎖だけでなく、衣服そのものが拘束具になって、動きも言葉も主体性を奪う。スーツの効きは、そこに尽きる。
伸びない黒と、内側の金具
典型的なスーツは黒く、密着してほとんど伸びない。素材はなめし革、ポリ塩化ビニル、生ゴム、ポリウレタン、ダーレックスなどが使われる。なめし革は他より密着が弱く、ゴムやPVC、ダーレックスのほうが肌に張り付く。内側には金属のリング、ベルト、バックル、モールが付き、ロープやチェーンでもさらに縛る。天板から吊り上げ、締め上げるための金具が背にあることも多く、伸びる余地がほとんどない。衣服が、硬い拘束具になる。
吊りと覆い
頭部まで被せる型が多く、そうでない場合はボンデージ・フードを重ねる。ファスナーの位置によっては、着ている限り胸部や生殖器は覆われたままになる。覆ったままで愛撫したり、プレイを続けたりする。ジャンプスーツや全身タイツより見栄えが良いこともある。人間の輪郭は残っても、顔と肌は消える。伸びない素材と吊りの金具が揃うと、血液の流れや呼吸が滞る危険がある。吊っているあいだは監視が要る。放置は事故になる。
映画とゲームのシルエット
映画『パルプ・フィクション』や『壁の中に誰かがいる』、ゲーム『Grand Theft Auto: San Andreas』や『Postal 2』では、ギンプ・スーツが視覚の記号として出る。大衆作品がこの衣服を出すとき、中身の人間より、覆われた「モノ」のシルエットが先に立つ。BDSMの現場でも同じだ。黒を着て、ベルトと金属環で固定され、動けず喋れないとき、誰であるかは消え、何として使うかだけが残る。ギンプという言葉が指すのは、その物扱いの立場そのものだ。



